第9話(2)小松にて
♢
数日後……。石川県の小松市の某所には、夜塚率いる石川隊と、深海率いる富山隊がいた。
「いやいや、わざわざ足を運んでもらって悪いね♪」
「それは構いません。先日はこちらに来てもらったのですから……」
夜塚の言葉に深海が首を左右に振る。
「ああ、立山連峰ね」
「そうです」
「今度またゆっくりと登山を楽しみたいものだけどね~」
「色々と落ち着いてからですね」
「ふふっ、色々とね……」
「それで今回なのですが……?」
「ああ、両隊でまだ試していないツインアタックの訓練を中心にやろうかと思ってね」
深海の確認に夜塚が答える。
「本当は福井隊も含めての三隊合同が望ましかったですが……」
「地元の基地のスケジュールの都合もあるから、こればかりはしょうがない。出来ることをやっていくとしよう。両隊での連携確認なども出来るはずだ」
「ええ、そうですね」
「じゃあ、始めるとしようか……」
「……では、宙山隊員! 星野隊員!」
「「はっ!」」
「まずは両者でツインアタックを行ってください! 仮想イレギュラーは夜塚隊長です!」
「ね~ボクがやらなきゃダメ~?」
「遠慮はいりません。それでは始め!」
夜塚の声を無視して、深海が指示をする。月と雪が片手を繋ぐ。
「いきます!」
「どうぞ!」
月と雪が空高く飛び上がる。月が恐る恐る手を離す。
「! 手を離しても、宙山隊員が飛んでいる!」
「魔法によってある程度滞空時間を伸ばせます! 星野隊員の両手が自由になれば……」
「ええ、射撃が可能!」
月が夜塚に向かって正確な矢を放つ。夜塚はそれをぎりぎりの所でかわす。
「『魔法跳躍』……星野隊員の放つ矢に、宙山隊員の魔力を込めて、回復の手段とする方法も取れる。極めて緊急的かつエキセントリックな手段ではあるが……」
「俺も月ちゃんの愛の矢に射抜かれたいね~」
「……バカが」
左胸を抑えておどける慶に葉が冷めに冷めた視線を送る。
「続いては、佐々美隊員! 星野隊員!」
「「はっ‼」」
「それでは、お願いします」
月が葉を背負うような形をとる。両者はベルトで固く結ばれている。
「……よろしいでしょうか?」
「問題ない」
「では、飛びます……3、2、1、GO!」
「!」
月が高く飛び上がる。
「なるほど! アタシも両手の自由が利くから、弓矢を射ることが出来る!」
「そういうことだ……掛けまくも畏き……恐み恐み申す!」
葉が右手を振る。夜塚の周辺が壁のようなものに囲まれる。夜塚が少し慌てる。
「あ、あれは⁉」
「結界を張った。ああやってイレギュラーを閉じ込めることなども出来る……」
「『神力降下』……空中から攻撃的な手段だけでなく、回復や支援の手段も取れる。補充物資を配ったり……さながらサンタクロース?」
「宗派違いでしょ。ああいうサンタさんはごめんだね……」
雪の淡々とした呟きに慶は苦笑する。
「続いては、雷電隊員! 古前田隊員!」
「は~い♪」
「うっす!」
「……ではお願いします」
「オイラのタイミングに合わせろ!」
「OKで~す」
「おらおらっ!」
「そらそらっ!」
慶の槍の突きに合わせるように、天空がパンチやキックを繰り出す。
「なかなかやるじゃねえか!」
「それほどでも~」
「……」
「しかし、ムカつくのは夜塚隊長さんだ! 涼しい顔で避けやがって!」
「激しく同意で~す」
「『一槍一蹴』……古前田隊員の鋭い槍で怯んだところを間髪入れず、雷電隊員が強烈な攻撃を叩き込む……」
「対多数イレギュラー戦に適しているな」
大海の呟きに葉が反応する。
「続いては、宙山隊員! 古前田隊員!」
「はっ!」
「う~っす」
「お願いします」
「~~♪」
「夜塚隊長さん、口笛なんか吹いてやがるぜ……完全に舐めてるな……」
「わたしの魔法で補助させていただく形になります」
「槍のリーチを伸ばしてくれるのかい?」
「いえ、逆転の発想です……」
「ん?」
「……行きますよ……はい!」
「おっしゃあ!」
「‼」
夜塚との離れていた距離を一瞬で詰める。
「ははっ! リーチを伸ばすじゃなくて、距離を詰めるか! こりゃあ逆転の発想だ!」
「『魔槍突撃』……スピードを上げることに魔力を注いだか……」
「古前田隊員にあの速さで動かれたら厄介です。色々な意味で……」
訓練を見つめる葉の横で月が呟く。
「続いては、佐々美隊員! 疾風隊員!」
「はっ!」
「はい!」
「よろしくお願いします」
「魔法では斬撃を飛ばしていたな……同じことをしても芸がない……」
「はあ……」
「掛けまくも畏き……恐み恐み申す!」
「こ、これは……はあっ!」
「⁉」
大海の振るった剣から炎が噴き出る。夜塚が少し驚きながらかわす。
「おおっ……」
「『神力剣士』……他にも様々な属性を持たせられるぞ」
「もうちょっと試してみたいです! あ……」
「あ~目標がいなくて悪いんだけど、そのまま続けていて」
夜塚が深海の下に歩み寄る。深海が首を傾げる。
「? まだ組み合わせが残っていますが……」
「……温存しておこう。あの二人ならぶっつけでも合わせられるさ」
夜塚は真面目な表情で告げる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます