第1話(3)兼六園付近にて

「ゲート開放反応があった地点に到着しました」


「運転ご苦労さん♪」


「ご武運を!」


 夜塚たちを下ろすと隊員が車を後退させる。


「わざわざ兼六園付近に来るとは……よっぽど観光したいのかね?」


「……」


 夜塚の問いに対し、大海は反応しない。


「あれ? 面白くなかった?」


「え? 冗談だったのですか?」


「まあ、ほんの軽口だったんだけど……」


「イレギュラーの気持ちは分かりませんので……」


「……疾風隊員」


「はい」


「君はアレだな、真面目過ぎるんだな」


「だ、駄目でしょうか?」


「いや、駄目ってことはないけどさ……」


 夜塚が頭を軽く抑える。そこに通信が入る。


「ゲート開きます……」


「来たか……」


「……ポワアン」


 かなり大きい綿毛の塊がいくつもゲートから飛び出してくる。


「……パターン赤、『妖魔ようま』です」


「ふむ、この金沢市を中心とした石川県エリアっていうのはどうにもあの種のイレギュラーが多いよね……何故だろうか?」


 夜塚が首を傾げる。


「古都金沢の雰囲気が引き寄せるんじゃあないでしょうか」


「古前田隊員、もっともらしいことを言うね」


「いや、適当に言ってみただけですが……」


「案外、そういうのが当たっているんだよ」


「そういうものですかね」


「そういうものだよ」


「……夜塚隊長、よろしいでしょうか?」


 通信手が尋ねる。


「ああ、すみません、どうぞ」


「危険度ですが……Cです」


「Cね……見るからに害は少なそうだ……」


「ご健闘を祈ります……」


 通信が切れる。夜塚が腕を組む。


「まあ、放っておいてもいいか……」


「ええ?」


 大海が驚く。


「冗談だよ」


「では、討伐しますか」


「まずは出方を伺ってみよう……」


「! ぽわああん!」


 綿毛が急に膨らむ。


「おっ!」


「ぽわ、ぽわ、ぽわあん!」


 綿毛が膨らみながらこちらに向かってくる。


「こちらの存在に気がついたか……共存はやはり無理なようだね」


「どうしますか⁉」


 大海が問う。


「古前田隊員!」


「おっしゃあ!」


 古前田が長い槍を取り出す。


「君の好きなように討伐してみてくれ」


「よっしゃあ!」


「!」


 古前田が飛びかかって、槍の柄で綿毛を殴る。大海と月が驚く。


「な、殴った⁉」


「突かないの⁉」


「突くのではなく、叩くとは……これは意表を突かれたね」


 夜塚が頷く。月が声を上げる。


「何をちょっと上手いこと言っているんですか!」


「いやあ……」


 夜塚が後頭部を抑える。


「褒めてないですよ!」


「あ、そう……」


「ぽわあん!」


「おっ⁉」


「ぶ、分裂した⁉」


 綿毛がいくつかに分裂する。古前田が舌打ちする。


「ちっ、マズったか!」


「打撃を選択したのは決して悪い判断ではないよ」


「隊長……」


「槍だからといって、刺突にこだわらないひねくれぶり……もとい、柔軟性は良いと思う」


「はい……」


「まあここは選手交代といこうか……星野隊員!」


「はい!」


「任せたよ!」


「ええ!」


「ぽわっ⁉」


 月が高く舞い上がる。それを見て夜塚が淡々と呟く。


「彼女の特殊な能力……というか、その卓越した身体能力は時にイレギュラーたちをも圧倒することが出来る……」


「はっ!」


「‼」


 高い位置から月が弓矢を次々と射る。矢は分裂した綿毛を正確に射抜いていく。


「思った以上に精度の高い射撃だ……」


 夜塚が満足気に頷く。


「よっと! ……とっとっと……あららっ⁉」


 月が着地をミスして転がる。


「ドジっ子気質はなんとかしていかないといけないけどね……」


 夜塚が苦笑する。古前田が声を上げる。


「隊長!」


「うん?」


「ぽ~わ~!」


 残っていた綿毛が集まり、一つの大きな綿毛と化す。


「ほう、合体か……集合と言った方が良いのかな?」


 夜塚が首を傾げながら大きくなった綿毛を見上げる。古前田が槍を構える。


「もう一度オイラが行きます! 今度は地面ごと叩き割るつもりでいきます!」


「突くという選択肢の優先度は低いのかな? 君のフルパワーも見てみたいけど、それはまたの機会にしよう……疾風隊員!」


「はい!」


「君のお手並み拝見といこう……」


「はい……!」


 大海が刀を構える。

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