第2話

「まあ、仕方ないよ。どんまい!」

 なぜか私が、名前も知らない女の子に慰められている。

 結果からいうと惨敗だった。むしろ、なぜ取れたのか疑問に思うほどだ。


「ごめん。結局六百円使わせちゃったし。三百円返すよ」

「いいって!なんだかんだ楽しかったし、思い出代ってことで」

「そうは言っても...」


このまま引き下がるのは嫌だった。何かないものかと考えた時、一つの案を思いつく。


「そうだ。これ、あげるよ」


私は、バンダベア(らしい)を少女に差し出す。


「気持ちは嬉しいけど、遠慮しとくよ。バンダベア、好きだから取ったんでしょ?」

「いや、別に」

「え?」

「名前すら知らなかったし。私はバンダライズのファンってだけ。そのぬいぐるみはコラボグッズだから取っただけで、別に欲しかったわけじゃないんだ」

「....そう言えば、バンダベアの名前、知らなかったもんね」


彼女はそう言った後、バンダベアを見つめながら考え込む。


「....本当にいいの?」

「うん。いいよ」


そんな簡素なやりとりのあと、バンダベアは私の手から彼女の手へと渡っていった。


「ありがとう。大事にするね」

「そうしてあげて。それじゃあ」

「あっ、待っ....」

「ごめんね。これから用事があるから、もう行かないと」


それだけ伝えて、出口へ向かった。

これ以上話す必要はない。どうせ、二度と会うことはないのだから。

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