第3話

「やっぱりバンダライズは最高だね〜」

「......」


 わけがわからない。なぜか、先程別れの挨拶をしたはずの少女が隣を歩いている。


「なんでついてくるわけ?」

「わたしの周りってバンダライズのファンがいないんだよね。だから」

「意味わかんないんだけど」

「お礼もしたいしさ。だめかな?」

「はあ。好きにすれば」


 関わらなければ良かった。今更後悔しても、もう遅いが。


 数分歩き、とあるカフェに着く。


「わたしはコーヒーにしようかな。あなたは何にする?」

「じゃあ同じやつで」

「りょーかい」

「先に席取っとくから」

「はーい」


 座席を探して辺りを見回すと、ちょうど窓際の席が空いていた。


「あそこでいいか」


 誰かに取られる前に席を確保してから、注文待ちの列に並んでいる黒髪の少女を眺める。ぬいぐるみを取って、譲って、なぜか一緒にカフェにいる。改めて考えても、なんでこんなことになっているのか、理解ができない。


「なに難しい顔してんの?」


 気がつくと二人分のコーヒーを持った彼女が座席まで来ていた。


「別に、なんでもないよ」

「そう?ならいいや。はい、これあなたのコーヒーね。使うかわからないけど、シロップとミルクもどうぞ」

「あ、ありがとう」


 コーヒーを受け取りシロップとミルクを入れる。そんな私を横目に、彼女は何も入れずにそのままコーヒーを飲み始めた。


「ブラックコーヒーっておいしい?」

「ん?おいしいよ?あなたは....ってあれだな」


 コーヒーをテーブルに置き、こほん、とわざとらしく咳払いをする。


「わたしの名前は、成瀬 識音なるせ しおん


 自己紹介の後、少し自信なさげにこちらを見つめてくる。流石の私でも何を求められているのか察することができた。


「私は、....星乃 詩ほしの ゆき

「星乃さんか。よろしくね!」


 よろしく、か。どうせすぐ他人になるのに。


 彼女の眩しい笑顔と相反する考えを抱きながら、コーヒーを勢いよく喉に流し込んだ。

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