18話

 電車に揺られること約1時間。カフェを出てから随分と経つけど、成瀬さんの手と私の手は繋がったままだった。

 電車の揺れに合わせてゆらゆらと揺れる。

 不思議な感覚だ。ついこの間まで赤の他人だった成瀬さんとこんなふうに手を繋いでいるなんて。


 そのまま一人で過去の回想に耽っていると、急に電車が大きく揺れる。

 慌てて吊り革を掴もうとして失敗した成瀬さんが私の方にもたれかかってくる。


「うわっ!ごめっ」

「いい匂い......」

「ん!......え?」


 やばい。思ったことがそのまま口に出てしまっていた。

 慌てて成瀬さんの手を離し、顔を逸らす。

 恥ずかしい。顔から火が出そうだ。

 追求されたくなかったので、強引に話を逸らすことにした。


「そ、そうだ。あのさ。なんで自分を変えようって思ったの?」


 成瀬さんは首を傾げつつも特に突っ込まずに質問に答えてくれた。

 

「たいしたことじゃないんだけど、ある女の子に元気付けられたんだよね。というか、勝手に元気をもらったというか」

「同じ学校の子?」

「ううん。わたしとはなんの関わりもなくて、名前すら知らない子」

「ええ?じゃあどうやって出会ったの?私と同じようにゲームセンターとか?」

「んー、出会ってすらないんだよね。画面の向こう側だったし」 

「アニメのキャラクターとか?」

「ぶっぶー。違いまーす」


 私に向かって腕でばつを作る。かわいい。

 あ、でもそうか。キャラクターなら名前知ってるか。じゃあなんだろう。

 脳をフル回転させて考えても答えは出てこず、ギブアップした。


「まあとにかく、その子に勇気づけられて頑張ってみようかなって思えたんだ。」

「そっか」


 成瀬さんに勇気を与えた人。少し気になるけど、今はそれ以上に優先すべきことがあるからとりあえず良しとしよう。

 成瀬さんを問い詰めることを諦め、ディスプレイ表示されている見知らぬ駅名をぼーっと眺めていると、同じようにディスプレイを眺めていた成瀬さんが私の手をにぎる。


 心臓がドクン、と音を立てた。


「次で降りるよ」

「う、うん」


 しばらくすると電車が止まって、私たちの他にも大勢の人が降りていった。

 私たちが乗ってきた路線以外には線路が通っていないようなので、そこまで栄えているわけではなさそうだ。家賃が安いとか周りが静かとか、そういった理由で栄えている駅といった感じだろうか。


 そんなことを考えてながら歩くこと約5分。

 成瀬さんが大きなマンションの前で立ち止まる。


「ここだよ。ここがわたしの家」


 成瀬さんに促されるまま見上げると、空高く聳え立つ高層マンションが目に入る。

 天は人に二物を与えず、なんて言うけれど、陽キャで美人でスタイルも良くて、おまけにこんな大きなマンションに住んでいて、一体何に悩むことがあるんだろう。そんなことを考えていた。


 ――成瀬さんの話を聞くまでは。

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