19話

 マンションの中に入ると、外とは隔離され静まり返った独特な雰囲気に包まれる。

 緊張して唾を飲み込むと、ごくりという音がやけに大きく聞こえる。

 一人で不安になりながら成瀬さんに付いていくと、ザ・高層マンションという感じのエレベーターが見えてくる。

 対面で2基、計4基のエレベーターだ。


「すごいマンションに住んでるんだね」

「......まあね」


 私が率直かつ平凡な感想を告げると、成瀬さんは苦い表情を浮かべながらエレベーターのボタンを押すと、13階に止まっていたエレベーターが動き出す。

 

 何か素直に喜べない事情があるんだろうことは察しがついたけど、それがなんなのかはわからない。もしかしたら、これから話すことと関係があるのだろうか。

 

 12....11....10......8......5........1。


 ポーンという音と共にエレベーターのドアが開く。

 エレベーターの中に入って壁を見ると、ボタンがずらっと並んでいた。

 すごい、これが高層マンションか。

 感慨に浸っていると、慣れた手つきで成瀬さんがボタンを押し、スーッとドアが閉まる。

 音も無くエレベーターが動き出し、目的の階に到着する。


「着いたよ」


 成瀬さんの声と共にドアが開くと、目の前の景色が一変する。


「景色、すごく綺麗だね」

「でしょ?このマンションの唯一いいところだよ」 


 成瀬さんにしては自虐的な冗談だなと思いチラッと表情を伺うと、少し緊張したような硬い表情を浮かべていた。

 もしかして、成瀬さんは自分の家があまり好きではないのだろうか。

 何か事情があるのはわかっているけれど、先ほどからの様子を見ているとだんだんと不安になってきた。


 私が不安になってどうするんだ。しっかりしろ私。

 自分を宥めながら廊下を進んでいく。


 成瀬さんが立ち止まり、鍵を玄関の扉に差し込む。

 ガチャリという音を立てながらドアが開くと、ふわっといい香りがする。


「どうぞ。親はいないから遠慮せず上がって」

「お、おじゃましまーす」

「先に部屋で待ってて。左側の、あ、そっちの部屋ね」

「う、うん。わかった」


 成瀬さんに言われるままに部屋に入ると、シンプルな家具がいくつか置かれただけの殺風景な部屋が目に飛び込んでくる。

 もっとキラキラした部屋をイメージしていたから少し意外だった。

 あまり人の部屋をジロジロと見てはいけないと思いつつも好奇心を抑えきれずキョロキョロと見回していると、コンコンと言うノックが聞こえる


「入るねー」

「あ、はーい!」


 慌ててドアの方に向き直り正座をする。

 それを見た成瀬さんがテーブルにお茶を置きながら「なんで正座?」と首を傾げている。


「まあいいや。それじゃあ改めて」


 成瀬さんがこちらに向き直る。


「今日は家まで来てくれてありがとう」

「気にしないで。私がしたくてしてるだけだから」

「うん。ありがとう......ちょっと待ってね」


 そう言うと、ふぅーっと大きく息を吐き、深呼吸をする。


「星乃さん、カフェで言ってくれたよね。話を聞くって決めたって」

「うん。言った」

「何を聞いても後悔しない?」

「うん。しない」

「......あのね。私」


 相槌を打つ私に成瀬さんの口から驚愕の言葉が飛び出す。


「――私ね、女の子が好きなんだ」

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