わたしの告白

17話

 気まずい。目の前の成瀬さんを盗み見ながらコーヒーを飲む。


 鼻を啜る成瀬さんの手を引きながらとりあえずカフェに来たものの、どう話を切り出せば良いかわからずにいた。こういう場合、普通はどうするんだろう。私はお世辞にも友達が多いとは言えないから、こういう経験は無いに等しい。


 うーん、と頭を悩ませていると向かい側から「ふふっ」と笑い声が聞こえてくる......笑い声?

 顔を上げると目元が赤くなっている成瀬さんが笑っていた。


「成瀬さん?」

「わたしより悩んでいそうな顔してたから、つい」

「そんなに難しい顔してたかな......」


 まあ、悩んでいるのは事実だけど。


「してたしてた。ごめんね。きちんと話さないとね」


 そう言うと、何かを決心したかのように深呼吸をするものだからこっちが緊張してしまう。


「――昔、根暗だったんだ、わたし」

「へ?」


 あまりに拍子抜けなことを言うものだから、変な声が出てしまった。


「それだけ?」

「え、うん」

「実は財閥の社長令嬢でそれが原因でトラブルに巻き込まれていたとか、芸能人の隠し子だったとか......」

「いやいや、漫画の読みすぎじゃない?」

「え、いや、だって、成瀬さんすごく取り乱してたから。何かそれくらいとんでもないことなのかと思って」

「違うよ。それにわたしは......」


 何かを言おうとして言い淀む。


「まあ、そういうこと!根暗が高校デビューするために遠い学校に行きましたっていうよくあるやつ。取り乱しちゃってごめんね!」


 ごめん!と顔の前で手を合わせる成瀬さんを見ながら、何か腑に落ちない感覚を味わっていた。

 本当に?本当にそれだけなんだろうか。


 あの時の成瀬さんの表情が頭をよぎる。


「――本当に、本当にそれが理由?」

「え?」


 きっと、成瀬さんは一戦引いたんだ。話せるのはここまでだよって。これで納得してって。多分、成瀬さんなりの優しさだ。だけど今、私は一歩先に踏み込もうとしている。

 正解か不正解かなんてことはわからないけど、私は。


「何か悩んでいるなら話して。私たち、友達なんだから......」


 顔が熱い。

 言ってる途中に恥ずかしくなってきて、最後は小声になってしまった。

 こんな歯の浮くようなセリフを自分が口にする日が来るとは思わなかったけど、今言わないと、今伝えないと何かが終わってしまう。そんな気がしたから。


「――後悔しない?」


 いつもの元気な声とは打って変わって不安そうな声。

 そんな声が聴きたくてここまで来たわけじゃない。


「うん。話を聞くって決めたから。だから、迎えに来たんだよ」


 安心させるために成瀬さんの震える手をぎゅっと握る。


「そっか。それじゃあ......」


 長い沈黙の後、成瀬さんが何かを確かめるかのようにゆっくりと私の手を握り返してくる。


「——わたしの家に来て」

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