第8話
朦朧としていた意識が終了のチャイムによって強引に引き戻される。同時にそれまで静まり買っていた教室がすぐさま喧騒に包まれた。
今日は金曜日。いつも放課後になると騒がしいが、明日から休みということもあり、より一層賑やかだった。
「あのカフェにいる店員さんが――」
「一緒に帰ろ!」
「もう少しで寝そうだったわ。あいつの授業ほんとにつまんねえ」
「わかるわー。あ、そうだ。今日の帰りにさ――」
さまざまな会話が飛び交う。だけど、私はその賑やかさの中に混ざる気は無かった。誰かと関わることで得られる楽しさと、それに伴って発生する気苦労を秤にかけた結果、一人で過ごすのが良いと判断したのであって、決して友達がいないわけではない。
心の中で誰に対してかわからない言い訳をしていると、別のクラスメイトの話が耳に入ってくる。
「明日さ、ここ行こうよ。確か駅近にいい店があったんだよね」
「へー、いいじゃん。行こ行こ」
クラスメイトの中でも一際目立つ容姿をした子が友達と明日の予定を相談しているようだった。名前は、なんだっけな。忘れた。まあ、どうでもいいか。
そういえば、私も明日の準備をしないと。成瀬さんに遊びに行く場所の提案をしたのは私なのだから、どの店を見るかぐらい決めておかないと。そう思い教室を後にする。
家に帰った後、成瀬さんと遊びに行く予定の駅周辺を検索してみたところ、洋服専門店が複数表示された。
これくらいの店舗数があれば、見る店が無くて暇になるということはなさそうだ。
表示された店の名前と場所をメモしながら、回る順番を考えていると、壁に掛けている時計から、午後11時を知らせる音楽が流れる。
寝坊して遅刻、なんてことになったらせっかく立てた計画が無駄になってしまう。
寝る準備をした後、最後に持ち物の確認だけ済ませて、ベッドに潜る。
「明日は頑張ろう」
友達と遊ぶだけなのに、気合いを入れるのも変かもしれない。まあ、やる気がないよりはいいかな、なんてことをぼんやりと考えながら目を閉じていると、いつのまにか眠りに落ちていた。
――もし、私がもっとクラスに馴染めていたなら。あの時、気がついていたなら、何かが変わったかもしれない。だけど、過去をやり直すことなんてできなくて。
進んでしまった針は、もう戻らない。
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