21話

 抱きしめたまま結構経ったけど、成瀬さんがなかなかな泣き止まない。

 あれ、何かミスったかな......調子に乗って無責任なこと言いすぎた......?と焦り始めた頃、成瀬さんの口からぽろぽろと言葉が溢れ始めた。


「わたしさ、こんなだから親ともうまくいかなくてさ」

「うん」

「中学でもうまくいかなくて、高校でやっと解放された、と思ったらさ」

「うん」

「あんなことになって。あぁ、いつになったら解放されるのかな、もう疲れたなって思っちゃったんだ」

「そっか」


 私からしたら急に爆発したように見えたけれど、成瀬さんにとってはそうじゃなくて、蓋をし続けていた感情が限界を迎えた、みたいな感じだったんだと思う。

 それに、一番の味方であるはずの両親ともうまくいっていないとなると、これまで一人ぼっちで戦ってきたのかもしれない。

 それがどれほど辛いことなのか。私には想像することすらできなかった。


「さっき電車の中である女の子に元気付けられたって話したじゃん?」

「してたね。全然知らない子って」

「うん。その子もね。星乃さんと同じことを言ってたんだ」

「え、一番の友達になるって言ったの?」

「違うよ」


 ふふっと成瀬さんが笑う。

 やっぱり、成瀬さんには笑顔が似合うな。

 泣いているところなんて見たくない。


「性別なんて、くだらないって」

「あー......」


 改めて聞くとなんかすごく恥ずかしくなってきた。

 顔が熱い。


「ごめん。それはなかったことにしてもらえないかな......。ちょっと、というかかなり恥ずかしいこと言ったかも」

「なんで?わたしを救ってくれた、最高の言葉だよ」

「うう、ならいいや....」

「ふふふ。自分で言った言葉には責任を持たないとね!」


 急に勢いづいてきた成瀬さん。

 そんな彼女をみて少しホッとした途端、グーとお腹が鳴る。


「あっ」

「ふふっ」

「わ、笑わないでよ....」

「ごめんごめん......。なんか食べに行こっか!出かける準備してくるね!」


 そう言って成瀬さんが洗面台に向かう。

 その後ろ姿を見ながら。私は心の中で誓う。


 成瀬さんはもう大丈夫。私が一人にしないから。

 恥ずかしくて本人には絶対に言えないから、心の中でこっそりと、そう誓った。

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