細い糸のその先に
第5話
帰宅してすぐ、私は頭を抱えていた。
目の前には、私のものではないワイヤレスイヤホンが一つ。
成瀬さんから借りた後、慌ててとびだしたものだから、返し忘れていたのだ。
今更後悔したところでイヤホンが勝手に持ち主のところに戻っていくわけもないので、返す方法を考えなくてはいけない。そうして悩み始めて早20分。良い方法が浮かばず一人で唸っているのだった。
メガネをかけるだけで推理力が上がったりしないかな、なんてバカなことを考えていると、部屋にノックの音が響く。
「何?」
「ご飯できたから、出てきなさい」
「わかった。すぐ行く」
とりあえずご飯を食べてから改めて考えることにして、リビングに向かった。
「ごちそうさま」
ご飯とおろしハンバーグ、サラダを平らげて手を合わせる。
「あら?今日は食べるの早いのね。いつもはもっとのんびり食べるのに。」
「ちょっとね」
「ふーん」
「なに」
「別に?」
詮索されると面倒だ。会話を打ち切ってそそくさと自分の部屋へ戻った。
部屋に戻った後、ベッドに寝転がりながらぼんやりと考える。連絡先、住所は知らない。おそらく学生だと思うけど、どこの学校なのかわからない。わかるのは名前と馴れ馴れしい性格、あと、綺麗な黒髪だったということくらいだった。
諦めて寝るか、とベッドに潜り目を閉じた時、走馬灯のようにゲームセンターの風景が頭を駆け巡る。
「あ....」
あった。たった一つだけ。釣り糸のような、か細い繋がりが。
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