13話

 休み明けの月曜日。昼休みを迎えた教室は、相変わらず賑やかだった。

 

 いつもなら購買へお昼ごはんを買いに行くところだけど、今日はそれどころではなかった。

 辺りを見回して、目的の少女を見つける。


「桜井さん。ちょっと話があるんだけど」


 私が声をかけると、桜井さんの背中が一瞬強張る。だけど、逃げるわけでもなく、恐る恐ると言った感じで、こちらを向く。


「うげ、星乃......」

「今、少しを時間もらってもいい?」

「いいけど、多分、ここじゃ話しにくいよね?場所変えていい?」


 確かに、教室のど真ん中で話すことじゃないな。


 私が頷くと、桜井さんはこちらに背を向け、廊下に向かって歩き始めたから、その後ろに付いて行った。


 階段の踊り場まで来ると、桜井さんが歩みを止め、こちらへ振り向く。


「で、何が聞きたいの?先に言っとくけど、成瀬が何も話していないなら、私から話せることは何もないよ?」


 いきなり先手を打たれてしまい、出鼻を挫かれる。だけど、素直に諦めるつもりはなかったから、成瀬さんからもらったメッセージを見せながら事情を話すことにした。


「あの後、このメッセージが送られてきたんだよ。なんでかわかんないけど、成瀬さんにメッセージが送れなくなってるし。わけわかんないじゃん」

「あー、ブロックされてるね......。もしかしなくても、私の所為か」

「ブロック......。その所為でメッセージが送れないってこと?」

「そうだけど。もしかして、星乃ってSNSやったことないの?」

「うん」

「だから知らないのか。えーっと、簡単に説明すると......」


 桜井さんがSNS音痴の私のために説明してくれた。

 要約すると、今の状態の私と成瀬さんの間では、メッセージを送れないどころか、相手の投稿を見ることすらできないとのこと。


 完全な拒絶だった。普通ならこれ以上関わるべきじゃない。

 

 だけど、でも——


「......納得いかない」


 最初に話しかけてきたのは、成瀬さんだ。私じゃない。それなのに、都合が悪くなったから、さようならなんて。美人だからって何をしても許されるわけじゃない。そんなことを考えていると、だんだん腹が立ってきた。


「星乃?星乃さん?顔が怖いんですけど......」

「......」

「何か言ってもらえないでしょうか......」

「成瀬さんの高校」

「え?」

「成瀬さんの高校がどこなのか教えて。あと、今日早退するから先生に伝えといて」

「......まさかとは思うけど」

「何か問題でもある?」

「ないです......」


 桜井さんが教えてくれた成瀬さんの高校の場所を検索してルートを確認する。

 私の高校からそこまで離れていないから、15分もあれば余裕で着くだろう。


 半分泣き出しそうな顔をしていた桜井さんを放置して教室に戻る。

 自分の荷物を鞄にまとめていると、クラスメイトにジロジロと見られた気もするが、そんなことに構っている余裕はなかった。


 教室を飛び出して、階段を駆け降りる。

 目指すは、成瀬さんの高校だ。

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