ばんだらいず!(仮)

夜半よわ

プロローグ

 街の喧騒けんそうの中、ヘッドフォンの音量を上げながら、目的地であるCDショップに向かう。


 今日は、私、星乃ほしの ゆきが密かに推しているバンドグループ「バンダライズ」のCD発売日だ。


 新曲に思いをめぐらせていると、視界の端に男の姿らしきものが映り込んだ。こちらをのぞき込むようにして何かを話しかけてくる。まあ、私は今、ヘッドフォンをしているから何も聞こえないんだけど。男の容姿ようしや仕草から察するに、ナンパではないかと思う。他にも女性はいるだろうに。なぜ私を選んだんだろう。少し気にはなったけれど、聞くつもりはない。周りの喧騒に負けじとヘッドフォンの音量を更に上げて、深く、深く、音楽の世界に潜り込んだ。


 数分後、ふと気がつくと、男はいなくなっていた。無視し続けたのは正解だったらしい。


「ここどこだろう。適当に歩きすぎたな....」


 一人呟きながらスマホを開く。マップを確認すると、思いのほか遠くまで歩いてしまっていたようだった。


「店の反対側に来ちゃってるじゃん....」


 あのナンパ野郎に文句を言ってやりたい気分だったが、すでにここにはいない。仮にいたとしても、面と向かって文句を言う度胸は無いが。


「仕方ない。とりあえず駅まで戻るか」


 気持ちを切り替え、再び街の中を歩く。

そんな中、ふと視界に入った『バンダライズCDリリース記念コラボ実施中!』の文字に目が吸い寄せられる。文字通り、ゲームセンターがバンダライズがとのコラボを行っているようで、限定のプライズが販売されているらしい。


「たまにはいいか。CDは逃げないし」


 時計を見て、時間にまだ余裕があることを確認しつつ、街中よりも賑やかなゲームセンターの店内へ足を踏み入れた。

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