男に間違われる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される
山口三
第1話 ドライブスルーウエディング
「病める時も、健やかなるときも、死がふたりを分かつまで愛し慈しみ貞節を守る事を誓いますか?」
白いチャペルの小窓から上半身だけが見える初老の牧師は車に乗ったままの私達に尋ねた。
「誓います」「・・誓います」私は彼の後に誓いを述べた。
「ではこちらにサインをして下さい」
必要な書類にサインを済ませるともう終了。窓口に来た時と同じようにゆっくりと車は前進して出口へ向かった。
これで結婚式は終了。噂にたがわず簡素でスピーディーなドライブスルー結婚式だった。
あれよあれよという間に私は結婚してしまった・・。まだこの人と出会ってから1日も経っていないのに。
________
「
また始まった・・。景子の要求はいつだって無謀な事ばかり。
私達は景子の仕事でラスベガスに来ていた。今日は仕事がオフ。少しなら観光が出来るかと思っていたけど、朝から景子のお使いを頼まれてしまった。
「でもせっかくだから景子も一緒にショッピングに行かない? カジノに行ってみるのも楽しい・・」
「何言ってるのよ、外は日差しが強くて日焼けしちゃうじゃない。それに私の正体がバレてサインとかねだられたら面倒でしょ。そんな事も分からないの?」
そう、彼女は高野景子。今や若手女優の中で3本指に入るほどの売れっ子だ。
「あ・・そうね。ごめんね、私が行ってくるわ」
「BasinWhiteのバスグッズでゆっくりお風呂にしたいんだから昼までには戻って来てよ。流石にルームサービスは飽きたから昼はレストランへ行くわ」
景子のお使いリスト…えーと、日本へのお土産多数とBasinWhiteのバスボムとボディーバター、ボディーソープとヘアソープ一式。これは向かい側のホテルのショッピングモールへ行かないとだめね。
それとジャンフィリップパティスリーのチョコレート。これはベラージオで買えるから最後でいいわね。
私達が宿泊しているホテル、ベラージオには噴水ショーが行われる巨大な人造のコモ湖がホテルの前にあるため、ストリップと呼ばれる大通りへ出るのも結構な時間がかかる。
おまけに今日は快晴で、日本とは違って湿度は低めだが気温が38度もある。
汗で鼻からずれる眼鏡を直し、直し、やっと向かい側のホテルで目的の物を買うことが出来た。
山の様なお土産とBasinWhiteの品を両手にぶら下げてベラージオに戻ってきた私はチョコレートショップへ向かった。
「えええっ、もうここはジャンフィリップパティスリーじゃないんですか?」
つい何年か前からジャンフィリップはこのお店から手を引いたようだった。今はホテル直営のチョコレートショップになってしまっている。
どうしよう・・景子が食べたいって言ってたのに。残念がるわ・・。
私はフロントでお勧めのチョコレートショップを教えてもらい、また外へ出た。
今度はシーザーズパレスの方に向かわなきゃ。
ギラギラと容赦なく太陽が照り付ける外へ出てから私は後悔した・・荷物を一旦部屋に置いてくるべきだった。荷物で両腕は重いし、暑さと疲れで意識が
「Wach Out!」
鋭い声がしたと思うと、私は強い力で腕と服を後ろから引っ張られた。
耳障りなクラクションを鳴らしながら目の前を大きなピックアップトラックが通り過ぎて行った。・・・あれに巻き込まれていたらただでは済まなかっただろう。背中に冷や汗が流れるのを感じた。と、同時に私は振り返り、私の命を救ってくれた人の顔を見た。
「Thank you so・・・あ、ありがとうございました。ほんとに助かりました」
私は身長が171センチある。その私が見上げる程背が高いその人は日本人だった。
サングラスをかけていたから初めは気づかなかったが、後ろにいた彼の連れが「よいしょ」と私がバラまいたショッピングバッグの中身を拾い上げている声で分かったのだ。
「君も日本人だったか。全く・・こんな大通りでぼーっとしてるなんて」
「す、すみません。あ、お土産が・・」
慌てて私もお土産やらボディーバターの箱を拾い集めた。だが道路側に転がった品物は後続の車やトラックに轢かれてただのプラスティックの塊と化していた。
「あああ、また買いに戻らなくちゃ。もうお昼には絶対に間に合わないわ・・」
半泣き状態の私をその背の高い男はじぃっと見降ろしていた。サングラスの横から見える無表情で冷たい視線。口調もあからさまな蔑みの音色を含んでいた。
「昼までにその買い物を済ませないといけなかったのか?」
「はい、頼まれたものなんです。それにチョコレートも探さないと・・」
「チョコレート?」後ろに居たもう一人の日本人が口を開いた。
「はい。ジャンフィリップパティスリーが撤退していたって知らなくて。そこのチョコレートも頼まれていたので代わりのお店を探さないと」
「君一人ではそれだけの買い物を持ちきれないんじゃないか?」
「えっ、そう・・かもしれないですけど・・」
「俺たちがその買い物に付き合おう。買い物はそこの池田が持ってくれる」
池田と呼ばれたその男性はちょっと驚いた表情をしてみせた。「まあ、構いませんが」
「よし、それじゃあどこの店から行くんだ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます