第37話 目撃者の兄弟(閑話)
今日はバイトも休みだし、早く帰ってゲームだな。
高校の門を出て足早に歩いていると制服を着た警官とスーツを着た男二人が話しかけてきた。
「小林優斗君だね? 僕を覚えているかな」
「ああ、あの女の人が倒れていた時の・・警察の人ですね」
「うん、良かった覚えててくれて。今日はまた話を聞かせて欲しいんだけど大丈夫かな? 今日はバイトの日?」
「いえ、休みです。だけどテストが近いから少しだけなら」
「そうか。じゃあまた同じ質問をするかもしれないけど、ちょっと時間を貰うね」
スーツの人は吉田さん、制服の人は坂本さんと言っていた。俺ら3人は近くの喫茶店の奥まった場所で話をした。
大体は同じような質問だった。あの土手で誰かとすれ違わなかったか・・等々。
あの日俺はバイト帰りでいつもの土手を自転車で走っていた。
寒かったからコンビニで買った肉まんを食べながら走っていたんだけど、食べ終わって包み紙をズボンのポケットにねじ込もうと視線を下げた時に視界の端に白っぽい物が映ったんだ。
橋の下に白っぽい物・・。
なんとなく気になって自転車を止めて降りて行ってみたら女の人が倒れている。ホームレスとかじゃなさそうだし、声を掛けてみたが反応がない。スマホの明かりで照らしてみたら額に血が流れていた。俺はびっくりして1歩下がったけど、こういう時は救急車だよな。そう思って119番に電話した。
10分位で救急車とパトカーが来て、その後親が呼ばれた。父さんと母さんと一緒に警察の人に詳しい話をして、やっと僕は開放された。
あの女の人は生きてたみたいだ。声をかけても動かなかったから、もしかして死んでるのかもって思ったけど・・。きっと土手から転んで下に落ちたんだろうな。
____
「ただいま~腹減ったあ」
「兄ちゃんお帰り」
「優斗、もうすぐご飯だから着替えて来て。陸斗もゲームはもうしまって」
「お父さんは?」
「今日は遅くなるんですって。だから早く食べちゃいましょ」
俺と陸斗の部屋は一緒。俺たちは小さなアパートの2階に住んでるから子供部屋はひとつしかない。
「陸斗、ゲームどこまで進んだ?」
「まだ全然だよ、でもすぐ兄ちゃんに追いつくかな」
「ちぇっ、もう少し早く帰ってこれたらなあ、俺もご飯前に少しやる時間あったのに」
「どうしたのさ?」
「警察の人がまた話を聞かせてくれって、喫茶店に連れて行かれた」
「・・・・」
陸斗は10歳。俺の6個下だ。いつもなら喫茶店で何飲んだの、とかうるさく聞いてくるのに今日は無口だ。
「どうしたんだよ?」
「・・兄ちゃんが見つけた女の人って、橋の下で倒れてたの?」
「そうだよ、病院に運ばれたんだって。でも死んでないぞ」
「死んでたら、兄ちゃんは『死体』を発見した事になるの?」
「そうだけど、死んでないから死体じゃないかな」
「お前、怖いのか?」
「こ、怖くないよ」
「でも僕、怒られるかな?」
「誰に?」
「父さんに」
「何やったんだよ?」
「・・・・」
「俺が一緒に謝ってやるから言ってみろよ」
「僕、父さんのビデオカメラをこっそりいじっちゃったんだ」
「壊したのか?」
「壊してないよ、まだ・・ここにある・・」
陸斗は俺たち二人の秘密の隠し場所にしてある、押し入れの仕切りの裏から小型のビデオカメラを取り出した・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます