第4話 私、結婚します!
私の聞き間違いだろうか。いや絶対聞き間違いだーそう沙耶は思った。
「すみません、よく聞こえなかったみたいで・・」
「俺と結婚してほしい」
隣に座っている涼も目を丸くして馨を唖然と眺めている。
「か、かおる君。どうしたの?」
「どうもしないさ、結婚しろと言ったのはお前だぞ」
涼はあっ、と何か思い出したように「それは・・言ったけど」と口ごもった。
「ここベガスで結婚式を一緒に挙げて欲しいんだ。この後、結婚許可証を申請して早ければ今日、間に合わなければ明日結婚式を挙げて結婚証明書を発行してもらう。日本で籍を入れなければ日本では結婚した事にならないから心配しないでくれ」
「えーと、つまり結婚証明書を貰う為だけにという事でしょうか?」
(何か事情があって書類だけが欲しいのかもしれない。でも私の名前が記載されてしまうと思うけど・・)
「厳密にはそれだけではないな。日本に帰ってから俺の親族に妻として紹介する。だが俺の父が存命中だけでいいんだ。頼み事というには事が大きい。君の時間を割いて貰う事にもなる。だからきちんと報酬も用意する」
涼が「あー!」と納得した声を上げた。「それは契約結婚ってことか?!」
「そんなような物だな。親父も結婚証明書を見れば俺が結婚したと思うだろう」
沙耶は内心戸惑っていた。(契約結婚・・わたし、何か・・詐欺とかに遭おうとしてるのかな? でも私は財産なんて持ってないし、景子みたいに有名でもない、美人でもない)
『20代女性が外国で詐欺にあった手口!』週刊誌の見出しが頭に浮かんできた・・。
「あの、もしかして何かの犯罪に巻き込まれるとか・・詐欺とかではないですよね?」
馨と涼は顔を見合わせた。涼はププッと可笑しそうに笑うと言った。
「馨君は怖そうな外見だけど怪しい人物ではないよ。身元を明かしてもいいかな?」涼は馨に許可を求めた。
「ああ、すぐに分かる事だ」馨は頷いた。
「えーと、僕のスマホで五瀬馨って検索してみて。このスマホはここでも使えるから」
言われた通り検索すると沢山の会社の名前と一緒に馨の名前が出てきた。
『新しく五瀬グループの社長に就任した五瀬馨氏。その素顔に迫る!』『大和テレビの新社長・五瀬馨、新ドラマの主演に無名の若手を起用!』『大和ホテルグループ・サンフランシスコに新ホテル建設! 新社長の意気込み!』・・・・まだまだ続々と出てくる。
「はい、これ馨君のパスポート。顔写真で確認して」
沙耶は手渡されるままに見比べる。確かに本人に間違いないようだ。記者会見の写真の奥には小さいが涼も映っている。
「あの・・ますます分からなくなってしまったんですが」
「えっ、これでもダメ?」
「いえ、その・・五瀬グループの社長さんという事は分かりました。でもそんな方がなぜ私と、しかもこんな急に」
「それは追々話すとしよう。少し事情が複雑なんでな。他に質問はないか?」
「・・日本に戻ったら一緒に住むことになるんでしょうか?」
「そうだな・・こちらの希望としては同居して貰いたい。家には父と妹と使用人が何人かいるだけだし、そこそこの広さがあるから顔を合わせる事は少ないだろう」
実のところ、沙耶は高野の家を出たかった。だからその条件だけでも承諾してしまいそうになっていた。
「同居は私としてもありがたいのですが・・期間はどれくらいになるんでしょうか? それと報酬はどのようなもので?」
「父が存命中と言ったが、父は余命宣告を受けていて長くても1、2年と言われている。だから2年。父が頑張ったとしても3年だろう。報酬については・・金銭を想定しているが、同金額程度の品物でも構わない。1年で500万を考えている。父が2年生きれば1000万。500万の車と500万の現金でもいい」
「お父様の事はお気の毒です・・それにしても、500万ですか?!」
沙耶は希望が湧きあがるのを感じた・・それだけあればハリウッドでヘアメイクの修行が出来るわ。私の夢は景子のマネージャーじゃなく、グローバルなメイクアップアーティストになる事なんだもの。
「少なかったか?」
「えっ、いえ、十分です!」
「石井さんは欲がないねえ~。馨君はお金持ちなんだからもっとぼったくったっていいんだよ」
ぼったくるなんて人聞きの悪いことを涼はつらっと笑顔で言っている。
「君の協力がどうしても必要なんだ。承諾してもらえないだろうか?!」
馨はテーブルに身を乗り出して真剣な表情をしている。
いつもの沙耶のお人好しが顔を覗かせた。あああ、そんな風に頼まれるとイヤですなんて言えない。でも私が損することは無いように思うわ。長くても3年後には解放されて好きな事ができるんだから。
このまま高野の家にいても景子のマネージャーを続けさせられるだけだろう。そして今の収入を考えるとどんなに倹約して頑張っても1年に500万なんてお金は貯められそうにない。
人生、時には思い切った決断が必要よね!
「はい。私、五瀬さんと結婚します!」
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