第51話 兄弟2
優斗は秘密の隠し場所から父親のビデオカメラを取り出した。防水加工された手のひらに収まるサイズの小型カメラだ。
「僕、父さんの部屋からこっそり持ち出しちゃったんだ」陸斗は助けを求めるように兄の顔を見た。
「でも壊したりしてないんだろ? また元の場所に戻しておけばバレないって」
優斗は弟を安心させるように軽い調子で言ってみたが、陸斗はまだ不安そうにして黙っている。
「じゃあ俺が戻しておいてやるから心配するなって」
「ううん、それじゃダメだよ」
「どうして?」
「そのぅ・・それは」
なかなか話し出そうとしない陸斗に兄は少しイライラしてビデオカメラのスイッチを入れた。
「あっ」途端に陸斗が声を上げた。
ビデオカメラには何か映っている。うちの近所の景色に間違いないが画面が揺れて見にくい。
「これそこの窓から撮ったんだろ?」
「うん。試しに・・」
1分くらいでその映像は途切れ、今度はまた別の角度から同じ景色が映った。だが今度は様子が違う、かなり上空から映した映像だ。
「ああ~俺のドローンを使ったなぁ」
「ごめん! 兄ちゃん、黙って使ってごめんなさい!」
陸斗がなかなか言い出さなかったのはこういうことか。
「父さんと俺と両方から叱られると思って言いださなかったんだな」
「う、うん」
優斗がバイトを始めた理由のひとつがこれだった。ドローンを買いたかったのだ。
頑張ってバイトしたお金と今年貰ったお年玉を合わせて買ったドローンを陸斗はとても羨ましがっていた。だが優斗が触らせなかった為こっそり使ってみたようだ。
今度の映像も1、2分ですぐ終わった。優斗はスイッチを切った。
「ま、ビデオもドローンも壊れてないからいいさ。だけど今度使う時は俺と一緒の時にしろよ。貸してくれって言ったら貸してやるからさ」
「兄ちゃん、待って。続きがあるんだ・・」
「ん?」
優斗はもう一度スイッチを入れた。今度は川沿いの上空から映した映像に変わった。土手をランニングする人や犬を散歩させている人が映っている。そして夕方で辺りは薄暗くなってきていたが二人の女性が話をしているのがはっきりと映っていた。
片方の女性はよくテレビで見かける人だ。その人が背の高い女性と立ち話していたが、その人が落としたバッグを拾おうと屈んた時、後ろからテレビの女性が背中を押した。
押された人は土手から下に転がり落ち橋の土台あたりにぶつかって動かなくなった。
テレビの女性は降りて行って様子を見ていたがまた土手の上に登って来てそのままいなくなってしまった。
「これって俺が発見した女の人じゃないか!」
「やっぱり・・そうなの?」
「間違いないよ。これ、あの日だろう?」
「うん。僕遠くからドローンを飛ばしてたから女の人は気づかなかったみたい。テレビでよく見かける人だって思ってずっと撮ってたんだ」
「これ・・警察に持っていかなきゃ」
「えええ、やだよ。僕逮捕されちゃうよ」
「なんでお前が逮捕されるんだよ。大丈夫、そんな事にはならないから。まずは母さんの所へ行って訳を話そう」
兄に促されて陸斗はビデオカメラを持って母の所へ行った。
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