第22話
翌日も夜にワガルトさんが部屋に入ってきた。ちなみにまだリフェシェート様にお会いできないようだ。体調を崩しているということだから、それが治らないと会うのは難しいのだろうか……。
「さて、手紙は読めていないだろうから、王都で何があったのか少し説明しようか。
まず、リフェシェート様の件だが、王都ではそこまで騒がれていなかったんだ。
もちろん俺たち騎士にはリフェシェート様が倒れられたという話はあったが、犯人は時期に見つかる、と。
だから王城内は次の日にはもう通常通りの運営だった。
それなのに、犯人がいないだろう地方でそんなことが起きていたなんて、と手紙を受け取って驚いたよ」
「だとしたら、やっぱり」
「ああ、これは初めからお前を目的にした何か、だったのだろう。
だが、別に犯人だと糾弾されたわけではなのだろう?」
「はい。
ここに着いた途端犯人は捕まった。
俺については誤解だった、と」
「ああ、確かに。
ミルフェが来る少し前にリフェシェート殿下を、王太子殿下を害した者が見つかったと大々的に発表があった。
王族を害することは極刑だ。
すぐに刑が執行されたらしい。
だが……。
誰も知らないのだ、犯人が誰だったのか。
誰かに対して刑が執行されたのは確かなのにな」
んんーー? それもおかしくないか? だって、いい方を考えないとその場合犯人はさらし者にされるはずだ。それは貴族も変わらない。何なら、場合によっては一族郎党罪に問われる。今回の件はそのレベルのものだ。それなのに、犯人が分からない?
「だから、多くの人が今回の件については首をかしげている」
「そうなんですね。
リフェシェート様はどうされているのですか?」
「殿下は、あの事件からずっと部屋におられる。
まだ体調が戻られていないのだろう、という話になっている。
皆、心配しているよ。
リフェシェート殿下は俺たちのような騎士にまで心を配ってくださる方だから」
リフェシェート様が未だ体調を崩されているのは確か、と言うことか。それはそれで心配なのだが。
「もう一つ。
パルキ、というかロアンさんからお聞きした話なのですが。
王が病に侵されているというのは本当ですか?」
一段と声を潜めて問いかけると、ワガルトさんは目を見開く。そして、小さくうなずいた。この反応、やっぱり王の病については伏せられていることなのだろう。
先日顔を見た感じだと、やつれてはいたが、そこまで深刻ではないのか? それにしても、現王家は王と王妃、そして王太子の3人のみ。王妃は実権を握ることはない。それなのに、現状国を動かせる2人が病に伏しているのだ。
それはまあ、外に知られるわけにはいかないだろう。思わず深いため息をはいてしまった。
「もっと何か力になれたら良かったのだが……。
俺もあまり多くのことを知っているわけではないのだ。
すまない」
「え、いえ!
こうして話ができるだけでも嬉しいです。
そうだ、ひとつ頼みごとをしてもいいですか?」
「頼み事、か?」
「はい。
パルキたちに手紙を出していただきたいのです。
急に連れてこられたので、きっと心配しているかと。
それにシャレットに申し訳ないことをしたんです」
「たぶん俺が書き換えることにはなると思うが、手紙を出すことは可能だと思う」
「ありがとうございます!」
良かった、これで少しでも安心させてやれる。ワガルトさんが扉の前に戻ると、さっそく手紙を書くためにペンを手に取った。
通常王城から出される手紙も、受け取る手紙も検閲が入る。重要な情報の規制をするためだ。それでも俺たちが何とか手紙でやり取りしてもお互いの手に届くのは、あの家で使っていた暗号のおかげだった。
本当は文字自体を特殊にしてしまえば楽なのだが、そうすると逆に怪しい。怪しすぎてきっと届かない。だから、ぱっと見ても普通に読める文章の中に暗号を隠していく必要があった。しかし、これが本当に役立つ日が来るとは……。
手紙の書き始めの文を何パターンか用意して、それに応じて読み方を変える。そしてその読み方をしたときに別の、本当に言いたい文が浮かびかがってくる、という単純なものだ。単純だけど、これが意外と難しい。特に書くのが。読むのはある程度練習すればできるようになるんだがな。
えーっと、まずは伝えたいことを書きだして、と。
一晩かけ、ようやく出来上がった手紙をさっとワガルトさんに渡すと、ベッドへともぐりこむ。言いたいことが多くなって、それの整理から始めたせいでこんなに時間がかかってしまった。まあ、やることもないし、一日ゆっくりしていても誰も何も言わないから明日は思いっきり朝寝坊でもするか。
髪色が理由で捨てられたのでのんびり山奥暮らしをしていたのに mio @mio-12
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