第12話
シャレットが目を覚ましたのは次の日だった。まるで何もなかったかのように、いつも通りの時間に目を覚ましたシャレットに少しだけ泣きそうになった。良かった。自分の判断ミスでこの子を死なせずに済んだ、と。
「シャレット、これ飲んでおけ」
体を動かすと少し傷を受けた部分が痛むらしく、眉根を寄せたシャレットに薬を渡す。だが、シャレットはそれを見てもっと眉根を寄せた。
「え、大丈夫。
そんなに痛くない」
「シャレット」
「えぇ、でもさぁ……」
シャレットは昔からこの味が苦手だった。だからそんな顔をするのもわかる。わかるが、じゃあいいよとは言えない。
「シャルにぃ、飲んで」
結局、目を潤ませたチビたちに耐えかねて薬を手にとった。よし、この手使えるな。ちなみに、わーシャルにぃかっこいいーと俺が言ったらめちゃくちゃ冷たい目でこっちを見てきた。なんでだ、ひどい。一度、チビたちが外に出ると、俺はシャレットに向きあった。
「シャレット、すまなかった。
大けがを負わせて」
朝食後、一息ついたときにそう伝えると、ぱちぱちと瞬きをする。
「え、これは俺のせいだよ⁉
俺が油断したから。
それ以上に助けてくれてありがとう。
その、ミルにぃ、何か力を使った、よね?」
恐る恐る、と言った様子でこちらを見るシャレット。ほとんど意識を飛ばしていたから覚えていないと思ったのにな……。いや、それ自体を覚えていなかったとしても、大けがかふさがっていたら何かあったと思うか。
「シャレット。
俺はそんな力持ってないよ」
「え、でも……」
「持ってない」
そういうことにしてもらわないと困る。そんな気持ちで押し切ると、何かを感じ取ってくれたのだろう。わかった、とうなずいてくれた。
「ありがとう。
……朝食にしようか。
食べれそうか?」
「うん、大丈夫!」
よし、と頭を撫でてやると、少し恥ずかしそうにしながら手を払われてしまった。ま、それだけ大きくなったということだろう。いつもと変わり映えしないものではあるが、手早く朝食を用意して皆で仲良く食べた。
「ああ、せっかくなら解体の仕方も聞きたかったな」
解体して干されているボアの肉を見た第一声がそれか……。勉強熱心なのはいいことだが。まあ、それに怖がっている様子はなさそうだ。一応注意深く見てみても、特に無理をしている様子はない。それには本当に安心した。
「ま、次の機会にな。
今日は一日ゆっくりしろよ」
「ええ、だからもう元気なのに」
「それでも、だ」
不満そうにはしているが一応うなずいてくれた。ま、うなずかなかったらチビたち導入しただけだけどな。
***
パルキが街へと降りて行って3日目。さすがに帰りが遅すぎないかと心配になってきた。心配だったシャレットは特にあの後体調を崩すこともないまま、回復してくれて安心してくると頭の片隅に追いやっていたパルキのことが一気に気になったのだ。
迎えに行こうか。そんな考えも頭によぎる。でも、それで何かあったらそれこそ意味がない。そわそわとした気持ちを抱えたまま、ただパルキの帰りを待ち続けた。
夕飯も食べ終わり、テントに入って寝ようかという頃。外でがさがさと音が聞こえてきた。明らかに自然に発生したものではない音。動物が近づいてきている? いや、だが……。
警戒しながらもそっとテントの外に顔を出す。中ではチビたちがすやすやとよく眠っている。こいつらを起こすわけにはいかない。どうやら音はテントの後ろからなっているようで、顔だけを出してみても、何も見えない。
心臓が騒がしいがやめるわけにはいかなくて、体ごとテントの外に出した。そして音の方へとゆっくり向かっていく。そこにいたのは予想していたものではなく、人だった。
「ミルフェ、ですか?」
ランタンを手に持ったその人は、ランタンを目線の高さへと上げる。すると、先ほどまで暗闇に沈んでいた顔がよく見えた。それに、この声は。
「パ、パル、キ……?」
「ああ、やはり。
良かった、無事でしたね」
「っ、パルキ!
それは俺のセリフだろ!」
思わず駆け寄って抱きしめる。ああ、本当にパルキだ。特に歩きかたが変だとか、おかしなところはない。それに心から安心した。
「お前、本当に、無事で良かった……」
「心配かけてしまいましたね。
すみません。
やっぱりと言うか……、厄介なことになっていまして。
それに巻き込まれないように情報や食料を集めていたら、思っていたよりも時間がかかってしまいました」
「まあ、なんでもいいよ。
お前が無事なら」
「ええ、無事ですよ。
いろいろと話したいところですが……、今日はひとまず休んでも?」
「ああ、もちろんだ。
夕飯は?」
「大丈夫です。
もう、眠い……」
言いながら本当に寝そうに目をゆっくりと閉じていく。その様子に慌ててパルキから荷物を受け取った。って、重いな⁉
「ああ、ロアンさんがいろいろ持って行けと持たせてくれまして。
結果として本当に重くなってしまいました……」
「お、お疲れ様。
でも助かるよ」
「それなら良かったです」
それじゃあ、と言って、すぐにテントに入ろうとするパルキを苦笑しながら見送る。パルキが帰ってきたら、今度はテント分けてもいいかなと思っていたが、まあ今日はそのままでいいか。手狭だが、その方が皆無事だと感じられるしな。
軽くパルキが持って帰ってきてくれたものを確認して、処理が必要なものはないとわかると、俺もさっさと寝ることにした。後は明日だ。
***
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