第15話
翌日、シャレットとパルキは無事に街に降りてその日に戻ってきた。今回は情報収集とかなしにただ手紙を出してくるだけだから、当然と言えば当然なのだけど。
「そう言えば、今日もロアンさんに会ってきましたよ。
あちらもあちらで動いていてくださったようでして。
もしかしたらワガルトさんに手紙を送るまでもなかったかもしれません」
「ロアンさんが何か?」
「ええ、まあ」
歯切れの悪いパルキの様子に首をかしげる。その顔には困惑が浮かんでいて、ロアンさんがもたらした情報に納得がいっていないことがよく分かった。口を開こうとしたとき、不安そうに見上げるチビたちに気がついたのだろう。続きはまた夜に、と言って自室へと戻っていってしまった。
「シャルにぃ、街はどうだった?」
「んー?
まあおおむねいつも通りだよ。
そうだ、パルにぃが明日にはお前らも街に行けるかもって」
「え、本当に!?」
「僕たちも行けるの!?」
え、ちょっと待て。それ俺は聞いていないんだが。
「え、本当にパルキがそう言ったのか?」
「うん、そうだよ。
あ、パルにぃなんだか動揺していたから、さっき言っていなかったね」
う、うーん。まあ、パルキがそう言うなら大丈夫なのだろう。それにチビたちももうすっかり行く気になっているし、ここから止める方が難しい。諦めはしたが、さすがに何か一言言わないと気が済まない。
いつもより少し大きめの歩幅でパルキの部屋へと向かう。扉を開けた先はいつものように紙の匂いに包まれている。それに少し荒れたか? って、パルキはどこにいる。確かに部屋に戻っていったはずなんだが。
ふと、布団の方に目を向けると、パルキはそこに横たわっていた。こんな時間に? そう思いながら近づくと、静かに寝ている。今まで部屋にこもり切りだったのに、連日街に降りて疲れたのか?
「パルキ……?」
「……、ん……。
ミル、フェ?」
「ああ、そうだ。
大丈夫か?」
「え、ああ、ええ。
大丈夫です。
眠っていたようですね」
「疲れているのか?」
「ええ、まあ。
すみません、何か用でしたか?」
「あ、そうだ。
なあ、明日にもチビたちも連れて街に降りるって本気か?」
「シャレットに聞きましたか?」
その言葉にうなずくと、はぁ、とため息が聞こえてきた。
「もしかしたら、くらいの話だったのです。
それをもう決まった話のように話してしまったのですね。
それではもう、連れていくしかないでしょう」
パルキもチビたちがどれほど鬱憤がたまっているかは察しているのだろう。これでまたしばらく我慢しろ、と言うときっといままで大人しくしてくれていた分爆発しそうだ。そうなるとかなり厄介だろう。だから、俺としても街に連れて行ってくれると助かるが……。
「大丈夫か?
顔色が悪い」
「そうですねぇ。
今日はもう休んでいていいですか?
そうしたらきっと明日には起きれるようになっていますから」
「それは構わないが……。
晩飯はどうする?」
「私は大丈夫です」
それよりも寝たい、そう言うパルキはかなり消耗しているのだろう。ごめんな、と言って頭を撫でようとすると手を払われてしまった。しまった、チビたち相手にしすぎた。
「ああ、でも。
あなたに話さなくては、いけないことが、ありましたね……。
うーん……、皆が寝静まったらまた起こしてください」
「休んでいていいんだぞ?
その話はまた今度でも」
「いいえ、大丈夫です。
起こしてくださいね」
「まあ、そこまで言うなら……」
そう答えると、安心したかのように目をつむった。これで夜起こすとか大丈夫か? でも、約束したからには起こすしかないか。ひとまずなるべく休んでもらおう。再び起こすことがないように、そっと部屋を出て扉を閉めた。
***
久しぶりのお出かけが楽しみなのだろう。それを口にすると、いつも以上にチビたちは大人しく眠ってくれた。そこからやることを終わらせて、お茶を淹れて今に至る、と。さてさて、パルキを起こしに行かねば。
今日、家事をしながらずっと考えていた。俺の事情をパルキには話すべきではないか、と。きっと今起きている問題はそれ関連。俺の出生に関する話だ。自分自身、幼い時に親からは捨てられているし、そこからずっと暮らしてきたこの家の方がよっぽど本当の家で家族だ。その気持ちは変わらない。
今更何を、という気持ちが一番大きいが、俺の気持ちなどかけらも考えない奴らだから考えるだけ無駄だろう。ま、そんなに重く考えるものでもないだろう。もう捨てた過去なら、それなりに軽く話せばいい。俺が国に狙われる理由なんて出生しか考えられないから、絶対に話しておいた方がいいだろうし。
それでも緊張はしているのだろう。いつもよりも心臓の拍動が早い。一度深呼吸すると、今度こそ俺はパルキの部屋へと向かった。
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