第20話
本の中身は豊かで国民が明日を憂うことがない、幸せな国の賢王が病でその座を降りることから始まる。王は自分の子供の中から、後継者の候補を2名指名した。ここで察せる通り、この2名は髪色の濃い王子と薄い王子だった。
人々、というか甘い蜜を吸いたがった人達の画策によって、王に即位したのは弟である薄い髪の王子だった。賢王が指名したというからにはそれなりには優秀なはずだったのだ。しかし、即位した途端に国は荒れた。王となった王子は愚王だったのだ。自分に都合のよいものばかりを傍に置き、国民には目を向けなかった。
王が人を導けなかったがゆえに人災が増え、なぜか天災も増えていった。異常気温、豪雨、暴風、増税、抑圧。民の生活は脅かされ、食料すら手に入るのに苦労する日々。そんな中、新王は民に目を向けることなく、自分の豊かな生活を守ることを優先させた。
政務を行えば、何もやらない方がまし、とまで言われる始末。民の生活は圧迫される一方だった。
このままでは国が崩壊する。そんなときに正義の味方のごとく現れたのはもう一人の候補だった。その人は王座に就いた弟を断罪し、人々に望まれて新王の座に就いた。そうすることで、ようやく国は安定し、また人々が安心して暮らせるようになりました。
要するにそんな話だ。
この本によって、薄い髪のものは無能、なんなら不幸を呼び込むとまで言われている。蔑みの目で見るだけでなく、親に捨てられることがあるのは主に不幸を呼び込まれたらたまったものではない、そんな思いからくるものらしい。
こんなの、おかしい。普通なら、普通の感性ならあっそ、くらいで終わるものだ。大体にして即位したら天災を呼び込むってどんな才能だよ。そんな才能あったらもっとすごいところに使うだろ。冷静に見れば突っ込みどころは多い。
それなのに、この国のものはこの本がきっかけとなり、身近な人のふるまいを見て『薄い髪の人』を避けるのだ。まあ、一種の洗脳のようなものだよな。
こんな物語一つで、どうしてあんないい子たちがつらい思いをしなくてはいけないのか。俺はずっとそばに俺を肯定してくれる人がいた。もちろんそれよりもはるかに子供に向けるべきではない目を、感情を向けてきた大人たちが圧倒的に多いが。
でも、一番大切な人がずっと大切な人だよ、無能なんかじゃないよ、そうずっと言い続けてくれた。それにどれだけ救われただろう。まあでも、幼かった俺はどうしても親にも愛されたくて辛くなっていたけれど。今思うとなんてもったいないことを、と思うが。ルータさんに声をかけられてパルキたちと共に暮らしてから、傍にある幸せを無視して不幸ばかり拾うのは馬鹿らしいと気がついた。
ぱたり、と本を閉じる。思わず深いため息をついていると扉がノックされる音が響いた。適当にはーい、と返事をすると、扉が開かれた。
「おはようございます。
昼食をお持ちしました」
声の方を見ると昨日の侍従がまたいた。手には確かに食事がある。すたすたと入ってきたかと思うと、机に食事を置いて、では、とか言いやがる。ちょっと待て。
「扉の前の兵にも伝えたのですが、リフェシェート様にお会いしたのです」
「リフェシェート様に……。
聞いてみます」
あ、これ聞いてくれないやつだな。さっきちらっと見えたけど、扉の前の兵もいつの間にか変わっている。なのに聞いていないということは、伝えていないのだ。きっとこいつらもそうするだろう。
「ええ、お願いします。
陛下にもぜひリフェシェート様にお会いするといい、と言ってくださいましたから」
にこり、と笑顔で言い切る。こういう時は権力だ。やっぱり陛下の名を出した瞬間、侍従の顔色変わった。ま、これでひとまず聞いてもらえるだろう。
昼食を食べていると侍従が戻ってきた。うんうん、仕事が早くて何よりだ。
「リフェシェート様は現在体調を崩されております。
お会いできる際に声をかけます」
体調を? 心配だ。見舞いに行きたいところだが、それも望ましくないのだろう。わかりました、と答えると、なので、と言葉が続いた。
「ただここにいるだけもお暇でしょう。
庭園を案内することも可能ですが、いかがいたしましょうか」
庭園を、案内? うーん……。正直嫌な視線にさらされるだけだろうからあまり気乗りしない。だけど、このままここにいるだけなのも暇なのは確か。まあ、そんな視線も慣れたものか。
「それではお願いします」
「かしこまりました。
後程参ります」
ちらり、と視線を食器に向けると、侍従は出ていった。まあ、ひとまずゆっくりと食事するか。たぶん食べ終わるころに侍従も戻ってくるだろうし。
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