第2話
次の部屋に入るとふわりと紙が香ってくる。この部屋はこの家のどこよりも本が置いている。この部屋の主は決して本が好きというわけではない、と思う。それにここに置かれているのはどれもただ楽しむためのものではない。状態がいいものもほとんどなく、どれもが文字がかろうじて読めるほどまで擦り切れている。そんな本が積み重なった先に目的の人物は眠っていた。
「パルキ、起きろー!
朝だぞ」
「んんん……。
っるさいですね。
まだ寝かせてください……」
「おーおー、今日も機嫌悪いな。
でも、ほら起きろ。
これからみんなで朝飯なんだから」
「いい」
「いい、じゃない。
ほら」
チビたちみたいに言葉だけで起きてくれるのなら苦労はない。ばさっとくるまっている毛布をはがすと、猛抗議が耳に届いた。目が覚めたようで何よりだ。はいはい、と適当に返事をしながらキッチンへと入っていく。そこではちゃんとシャレットが人数分のスープをよそってくれていた。
「あ、今日はパルキにぃ早かったね」
「まだ全然目開いてないけどな」
「それでも歩いているだけいいでしょ。
今日は薬草を取りに行くの?」
「んー、そうですね」
適当な返事をしながら、パルキがスープを口にする。すると、待ってましたとばかりにチビたちも次々朝食をとり始めた。それをみて、俺もようやく朝食を口にした。
「ほんと、朝からすごいですよね、ミルフェは」
「ん?
何がだ?」
「こんな手の込んだもの作る時間あるくらいなら、僕だったら寝ます」
「まあ、お前は夜が遅いからな」
「そうですよ。
だからもっと朝は優しくして」
「おい」
「シャレット~、ミルフェが怖いです」
「これはパルキにぃが悪いと思う」
「え、シャレットも冷たい……」
どうでもいい会話をしながらスープを口に運んでいると、鐘が鳴る。まずい、そろそろ行かせないと。
「ほら、今日はロアンさんのところだろ!
シャレット、皆を連れて行ってやってくれ」
「ん、わかってる。
パルキにぃ、ミルにぃに迷惑かけちゃだめだよ」
「はいはい、ほら、行ってらっしゃい」
「あ、皿は俺が片付けておくからそのままでいいぞ。
それとこれ昼に食べろ。
気をつけてな」
「はーい!
行ってきます」
ほらほら、とチビたちを急かしてシャレットたちが家を出る。俺たちの次に年長だからと何かと頼り切りで申し訳ないがシャレットもだいぶ頼もしくなった。そろそろ街で仕事を探してやった方がいいのかもしれない。そんなことを考えながら俺たちはシャレットたちを見送った。
***
パルキの仕事場として使っている部屋で一つ一つ、パルキが読み上げたものをメモしていく。ここにいる奴らは俺たちで文字を教えているから、一応読み書きはできるけれど、なにせスピードがない。すっかり目が覚めたパルキは早く終わらせたいとばかりに素早く薬草と数値を読み上げていくものだから、この役割を任せられる人は早々いなかった。
「と、これで最後。
リスト見せてください」
「はいよ」
「んー、やっぱり今日森に入った方がいいですかね。
ちょっと在庫が心もとないし、これからこの辺りの薬草は取れづらくなりますから」
「わかった、じゃあ行こうか」
パルキがつくる薬はこの家の大切な収入源だ。主に俺とパルキで集めてきた薬草でパルキが薬をつくる。それを下街で売ると、なかなか売れるのだ。ここ数年で状態がいいものを探すのもかなり上達した。少しずつパルキに教えてもらっているから、薬も作れるものが増えてきた。それでもまだまだパルキの腕には敵わないから、売り物の担当はもっぱらパルキだった。
メモを確認しながら家を出る。家、と呼ぶにはかなり心もとないもの。今にも崩れそう、というほどではないが、この大自然にかなり馴染んでしまう見た目をしている。立派な大豪邸ではなく、この家に安心感を覚えるようになったのは一体いつからだったろうか。
「ほら、行きますよ。
チビたちが帰ってくる前には戻らないと」
「はいはい、わかっているよ」
森に入ると、さっそく二手に分かれる。今日はなかなか必要なものが多い。しかも、それぞれ生えている場所が違う。そのうえで動物から採取しなくてはいけないものもある。ほんと、急がないとチビたちが帰ってくる時間に間に合わない。
薄い髪色は能力が低い証。それでも、俺はまだ魔力が扱える方だった。だから、もっぱら荒事は俺の担当。今日も俺が担当するほうのメモにばかりツノだのひげだの目だの内臓だの書かれている。仕留めるまではいいとしても目はあいつにやらせよう。どうせきれいじゃないとか文句言われるしな。
自分の庭のように勝手知ったる森の中。特に迷うこともなく順調に進んでいく。途中遭遇した薬草の群生地を見つけて自然と口角が上がった。だいぶ元気な薬草だ。すべて摘むわけにはいかないから、ある程度拝借する。そのまま進んでいくと、果物がなっている木も見つけた。今日のおやつにちょうどいい。
そのまま順調に採取を続けていく中で、ちょうどラビットを遠くに見つけた。確かこれの素材も必要だったような……。うわ、内臓かよ。こうなるとかなり倒すの難しいんだが。あいつさらっと難題押し付けてきやがる。
「恨まないでくれよ~」
そっと、気配を消して近づく。ツノとかだったら良かったのに。しっかりとラビットを視界にとらえ、気がつかれる前に水の輪をその首周りに展開する。そして、それと同時に土を使って薄く壁をつくる。ラビットがびくりと体を揺らしたころには水の輪を一気に絞った。ただの水だとそのまま首を通過するだけだろう。ただ、そこに質量を加えてやれば、水の輪は途端に武器となる。
そのまま動かなくなったラビットの死体を手早く回収すると、血を土へと埋めた。これで変なものが寄ってくることもないだろう。
いい練習にもなるし、と適度に魔力を使いながら歩を進めていると、ようやくメモに書かれたものをすべて揃えることができた。陽はもう傾きかけている。途中実っていた果実を口にすることで何とか空腹を凌ぎ、ここまで止まることなく採取したいたがさすがにもう戻らないといけない時間になっていた。本当に間に合ってよかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます