第7話

 翌日はパルキにこき使われたものの、何とか満足いくようにできたらしい。いや、本当に大変だった。そんなに魔法得意じゃないって知っているはずなのに、急にお湯を求められたかと思うと、温度に文句を言われ。薬草をすっていると雑だと怒られ。確実に昨日虫の居所悪かったよな……? まあ、それでも薬が完成した後のパルキの満足そうな顔を見たら、まあいいかなんて思ってしまったけれど。結局甘いんだよな、パルキに。そうやってこだわって作るからこそいいものができるのだろうし。


今日はそんなパルキがつくったものをみんなで売りに行く日だった。俺も合間に少しだけ作らせてもらって、それは家の在庫用。でもパルキにもお墨付きをもらったから、きっといい出来だ。


「重いー」


「重いね」


 皆にも少しずつ持ってもらっているけれど、どうやらそれでも重いらしい。リュックの中に数本だけなんだけどなぁ。パルキはそんなチビたちを見て、くすくすと笑いながらごめんね、と言っている。ポールも重そうにしているけれど、比較的我慢して持っている方だ。


 俺とパルキに至っては木箱にそのまま薬を入れている。つまり重い。しかもかなり。少しだけずるをしようと風の力を利用しているけれど、それも補佐程度だ。売りに行く日はこれもいつもの光景だった。いや、まあ今回は特に多いけれど。この集中型め。


 街への入り口が近づくと、パルキは少し待ってください、と声をかけてきた。これもいつものこと。一度荷物を置いて、フードを深くかぶる。髪色から考えるとパルキが一番隠す必要がないけれど、その分トラブルにも巻き込まれやすいらしい。だから本人は嫌がっていつもフードを深くかぶるのだ。


 街に入るとやっぱりにぎわっていたけれど、いつもとなんだか違う気がする。その正体もわからないままいつものようにロアンさんのところを訪ねると、ようやく重い荷物を下ろすことができた。


「おーおー、今日はまた大量だな」


 どさりと置いた木箱をのぞき込んでロアンさんがそう口にする。そんなロアンさんの言葉に苦笑いするしかなかった。本当にここまで運ぶのが大変だった……。


「でも質はそんなに良くないものが多いですよ。

 この辺りはいい出来だと思いますが」


「パルキが言うそんなに良くないはあまり当てにならないんだがな……。

 それにしても久しぶりだな。

 元気か?」


「お久しぶりです。

 元気ですよ」


「良かったよ。

じゃあ、これは預かるな。

 いつものやつに鑑定してもらうよ」


 薬を受け取ってもらったら今日の任務は完了。鑑定結果が出るのは早くて夕方になるだろう。この後はどうするか。悩んでいると、ロアンさんから声がかかった。


「あー、今日はあまり外歩かない方がいいかもしれん。

 何かお偉いところの人が来ているらしくてな」


 言葉を濁したロアンさんにいろいろと察する。きっと現王派の考え方をする人なのだろう。変に目に入って突っかかれても面倒。先日から進めている冬支度をするのに今日も買い出ししたかったが諦めるしかないか。


「じゃあ、今日は仕事なし?」


「ないの?」


「うん、なしだな」


 ランとリリはもしかしたら平気かもしれないが、念には念を入れた方がいい。この双子は出会った時こそ髪色が薄かったが、成長と共にだんだんと髪色が濃くなってきていた。成人になるころにはもっと生きやすくなっているかもしれない。だけど、今日はまだトラブルを回避するために、警戒しておいた方がいいだろう。


「あ、それでしたら一人で少し買い物をしてきても?

 ちょうど調合に使うものが欲しくて」


「パルキが一人でって珍しいな。

 それは構わないが……」


「だったら必要経費として金渡そうか?」


「いえ、個人的にほしいものですので」


「じゃ、先払いにとどめておくか」


「ありがとうございます」


 何か話成立しているし。まあ、パルキが稼いだものだからどう使おうが自由ではある。そしたら俺たちは帰るか。


「じゃあ、俺たち先に帰ってるな」


 報酬は別に次来た時でもいいし。そう思って口にすると、分かった、という返事が来る。たまには早く帰る日があってもいいだろう。最近教えられていなかった文字とか教えてもいいかもしれない。そんなことを考えながらロアンさんのところを後にした。大丈夫だとは思うが、余計なトラブルは避けた方がいい。俺もチビたちもしっかりとフードをかぶって街を歩いたからか、特に絡まれることもなく家に帰ることができた。


 そんないつもの日。立太子ににぎわう街に高位貴族の訪問者。街の様子はいつもと違うけれど、俺たちの間に流れる時間は確かにいつも通りだった。


 それなのに、そんな日常はいとも簡単に崩れ去った。


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