第9話

「俺にはよく、わからないけどさ……。

 つまり、やってもいないのにミルにぃが犯人にされるかもってこと?」


「ええ、そう言うことです」


「どうして……⁉

 だって、ミルにぃはずっとここにいた!

 そんなことできるはずがない」


「できる、できないの問題ではないのですよ。

 それにミルフェに近すぎる私たちが何を言っても聞き届けてもらえません。

 間が悪いことに、昨日は一日私の手伝いをしてもらいましたから、街にはおりていませんし……」


「ほんと……、タイミング悪いよな」


「ひとまず、ロアンさんもこのことを聞いて私と同じ意見でした。

 それで、急遽お金を受け取って戻ってきたわけです。

 様子見もかねて、私は数日に一度は街におります。

 それで様子を見て判断していくしかありませんね」


「なんか……、ごめんな。 

 俺のせいでみんなにこんな、迷惑を……」


 上げられた特徴に当てはまるのは俺だけ。それなのに今、全員を巻き込んでここにいる。冷静に考えられる今、それで正しいのかはわからない。でも、正直こんなわけのわからない状況に巻き込まれて多少なりとも動揺している今、皆が傍に居てくれることは安心につながっていた。


「ミルフェ。

 私たちは家族なのです。

 家族は、一緒にいるものでしょう?」


「パルキ……」


 膝の上に置かれた手に温かい手が重なる。それに誘われて視線を上げると、真剣な眼をしたパルキがそこにはいた。


「そうだよ、ミルにぃ。

 どこにも行く当てがなかった、親にだって見捨てられた俺たちに声をかけてくれたのはミルにぃたちだから。

 だから、一緒に居させてよ。

 ね?」


「シャレット……」


「俺だけじゃないよ。

 みんな、そう思っている」


「うん、ありがとう……」


 いつの間にかシャレットもずいぶんと頼もしい目をするようになった。きっともうこの家を出て行ってもやっていける。それでも、まだ道に迷っているうちはここが帰る家になってくれればいい。そんな思いを抱きながら、シャレットを見つめた。


「ひとまず今日は寝ましょう。

 大きめのテント、持ち出せて良かったですね」


「うん……」


 小さいものも一応二個持ち出してきた。それでも今日はチビたちがさっさと寝てしまったこともあり、大きいものを使っていた。それでよかったかもしれない、なんて。一緒のテントで、近くにみんながいる。それにとても安心する。こんなの情けなくて言葉にはできないけれど、さすがと言うべきかパルキは理解してくれていた。


「寝よ、寝よ。

 全部明日考えればいいよ~」


 狭いテントの中、隣に横になったシャレットがそう言う。不安は尽きないけれど、今日はよく眠れる気がした。


***

「ミルにぃ、おきてー」


「朝だよー」


「んん……、あさ……?」


 朝⁉ 双子たちの声⁉ 飛び起きると、そこはいつもとは違う景色。……そうだ、昨日はテントに泊ったんだ。隙間から漏れ出る光が、もう日が高いことを知らせている。朝に弱いパルキはわかるとして、俺もシャレットも全然起きれないなんて。昨日かなり疲れたのだろう。


「ごめん、チビたち。

 今なんか用意するよ」


「ミルにぃ、大丈夫?

疲れた顔してる」


「うん、大丈夫だ。

 ああ、そうだせっかく森の中にいるんだ。

 狩りの仕方でも教えようか?」


「狩り……?」


「殺すの?」


 思い付きを口にしただけなのに、妙に怖がらせてしまったみたいだ、双子たちはわかりやすく震えてしまった。お肉は大好きでも殺生はまだまだ怖いらしい。少し笑ってしまう。


「無理にとは言わないよ」


 少し強引に頭を撫でてやると、やめて―と高い声で拒否される。それでも楽しそうな笑顔を見せてくれてほっとした。でも、本はろくに持ち出せなかったし、この様子ではしばらく街に降りることもできない。どうにか暇つぶしを考えないとな。


「さて、じゃあシャレットとパルキを起こしてもらっていいか?」


「うん」


「できるよ」


「ん、じゃあよろしくな」


 ひとまずご飯どうにかしないとな。もそもそと起きだしてテントから出る。思っていた通り日はもうかなり高い。まあ、たまにはこういう日があってもいいだろう。えーっと、と持ち出した食べ物を漁って、朝ご飯をつくることにする。たまには豪華にしてもいいだろう。


 鍋に水を汲んで、棒を通してつるす。その下に木を重ねて火をつける。肉と野菜を適当に切ってそこに入れて、味を調える。パンも切って、後は煮えたら完成。うん、なかなかおいしそうだ。時間的に昼も一緒でいいか。


「あ、いい匂いがします……」


「おはよぉ、ミルにぃ」


「ミルにぃ、起こしてきたよー」


「パルにぃ全然起きなかった……」


「ミルにぃ、ごはんありがとう」


 ちょうど出来上がったスープをよそっていると、皆がテントから出てくる。パルキはまだ目がほとんど開いていないな。くすくすと笑いをこぼしながら、食べろ、と器を渡す。いつもみたいな机はないけれど、皆器用に食べてくれた。


「わぁ、今日はなんだか豪華だね」


「ま、たまにはな」


 昨日はかなり不安そうにしていたけれど、今日は楽しそうな笑顔を見せてくれている。きっと俺たちがひとまず状況を把握して、少し落ち着いたこともあるのだけれど。この生活がいつまで続くのか、いつまで巻き込むのか。この先のことはわからない。わからないからこそ、今はまだかりそめの安心に浸っていたかった。


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