第13話
「それで、街はどうなっていたんだ?」
翌朝、昨日までは居なかったパルキが急に現れたものだからチビたちは盛大に驚いていた。それはもう、こっちが笑いたくなるほどに。そして久しぶりに会えたパルキに嬉しくなったのか、もう離さないとばかりに引っ付いている。
パルキは重そうにしているが、無下にもできないようで先ほどからずっとこちらに何か言いたげな視線を送ってきていた。ま、今日くらいはこのまま我慢してもらおうか。チビたちが寂しく不安な思いをしていたのは確かだし。
「ああ、もう……。
ではこのまま話始めてしまいますね」
こほん、と一つ咳払いをするとようやく本題へと入っていった。
「おおむねいつも通りになっていますが、いまだにピリピリとしていますね。
王太子はまだ目が覚めていないようです。
それもあって、引き続き犯人と思われる人物を探しているようなのですが……」
「ですが?」
眉根を寄せているパルキに嫌な予感しかしない。言おうか迷っている様子のパルキの言葉の続きをじっと待っていると、ようやく再び口を位田。
「これはあくまで私が感じたことです。
なので、本当に正しいかはわかりませんが……。
まるで特定の人物を、探しているようだったのです。
私があなたのことを知っているからかもしれませんが、あなたのことを、探しているように感じてしまって」
「俺を……?
どうしてそう思ったんだ?」
「だって、おかしくないですか?
初めはたまたまいた街で特徴にあう人物を探すのはわかります。
でも、数日見つからないのにまだこの街にとどまって探す意味が分かりません。
それに、たとえミルフェの情報を得ていたとしても、この街から王太子様を害しに行くのは距離的に難しい。
それなのに、どうしてあの高位貴族はまだこの街にとどまっているのか」
だんだんと自分の思考に入り込んでいるように口調が早くなっていく。でもパルキの疑問ももっともだった。高位貴族があの街にとどまるような理由はない。初めはただ視察に来ただけだと思っていたが、それだけではない? あの人が街にやってきたのは王太子が襲われるよりも前。わからないことが多すぎる。
「相手は俺の情報を得ていると思うか?」
「おそらくは。
ですが、正確な情報は得ていないと思います。
この街であなたのことを軽率に漏らす人もいないでしょうし、漏れていたらあの家はもっと荒れているはず」
パルキの言葉にうなずく。街の人だって俺がそんなことを起こすとは思っていないだろう。そのうえで俺の情報を売ると、下手をすると俺のことをかってくれているロアンさんを敵に回すことになる。ロアンさんににらまれるとあの街でやっていくのは難しいだろう。こんなところでもロアンさんに助けられるとは。
「ん……?
家は無事だったのか?」
「ああ、はい。
一応見てきたのですが、特に荒れている様子はありませんでした」
「そうか……」
それなら家に戻るのもありか? チビたちもいつまでもテント暮らしをしていたら消耗していくだろうし。それに何より。俺の事情にこれ以上皆を巻き込むのが申し訳なかった。街の人たちが情報をもらしていないのであれば、俺が街に降りなければ大丈夫、と言うことでもある。
「なあ、家に戻ろうか」
「ですが……」
「家に、戻れるの?」
急に声をあげたのは、それまでじっと黙って話を聞いていたリリだった。その横でランも期待を込めた目でこちらを見ている。ポールも。俺は想像以上にこいつらに我慢を強いていたのだろう。シャレットが慌ててリリをたしなめるが、こいつらは何も悪いことは言っていない。
「うん、帰ろうか」
もう一度しっかりとそう言うと、今度はパルキも何も言わなかった。やった、と喜びの声を上げるチビたちの頭を撫でてやると、嬉しそうな笑みをこぼす。本当にごめんな。そうしていると、パルキがなら、と下げていた視線を上げる。
「それなら、ワガルトさんに手紙を送りましょう。
少しでも王都の情報を得なければ」
「ワガルトさんに?」
久しぶりに耳にした懐かしい名に、瞬きを繰り返す。ワガルトさんは俺たちの3つ上で、一時期共に生活をしていた兄のような人だった。ワガルトさんも親に捨てられたものの、その後才能で騎士団に入団し、今は王都で働いている。確かにワガルトさんなら信頼できるし、頼りにもなる。
そうしてそのあとの行動を決めると、俺たちはテントを片付けて久しぶりの家に帰ることになった。
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