第26話 冒険者登録

 リルクート王国国王、アルバート国王陛下や姫様と話をして、私は冒険者として王国と契約を結ぶ事になった。その報酬として、また姫様と会う事が出来るよう許可を貰ったんだけど、何の因果か姫様の事を、マリーという愛称で呼んで良い、って事になるのだった。



 姫様、じゃないマリーの呼び方について話をした後。

「それでは。これでミコトさんは我が国と契約を結ぶ事になりましたが、ミコトさんはそれ以外の時。つまり平時は何を成さるおつもりですか?」

「そうですねぇ。とりあえず、王国と契約する事になりますし。普段は王都の宿を拠点に生活しつつ、適当に冒険者の仕事をこなしていく予定です。幸い、チェンジングスーツの力があれば大抵の依頼はこなせるでしょうから。……って、そういえば私って、下手に国外に出ない方が良いですかね?」


 今思うと、王国と契約するのなら不用意に外国とかに行っちゃ不味いかな?不味いかも。

「そうですね。もし何らかの理由で出国されるのでしたら、念のため王国側に事前に相談しておいて欲しいのは確かですね。出国の理由や、どれくらいで戻って来る予定なのか。万が一緊急の要件が発生した場合即座に連絡を取りたいので、どこに行くのか、大まかには知らせておいて頂いた方が良いですね」

「ですよねぇ」


 そうなると、外国に行くのもそう易々と、って訳には行かないだろうなぁ。まぁ私の場合このリルクート王国の地理だってままならないんだけど。まぁしばらくは冒険者の生活に慣れる所から始めるかなぁ。


 って、そうだ。念のため聞いておこう

「あの、姫様。一つお聞きしたいのですが……」

「………」


 あ、あっれぇっ!?なんか声を掛けたら姫様が無言+ジト目で私を見つめてくるっ!?な、何か怒らせるようなことしたかな?!……って、あれかっ!

「え、えぇと、ま、マリー?」

「はいっ、何でしょうか?」

 うんっ!マリーって呼んだら笑みを浮かべながら答えてくれたっ!成程名前で呼べとっ!二人きりなんだからとっ!


 ホント、こういうノリは年相応というか、お年頃の女の子らしいというか。まぁ下手に壁作られてるよりは良いけどさ。

「ミコトさん?」

「あ、は、はいっ。え~っとですね」

 っと、いかんいかん。お話中だった。


「んんっ。今後、マリーがまた前線に立つ可能性は、あるんですか?」

「……無くはない、としか言えませんね」

 私がまじめな態度で問いかければ、マリーも流石に笑みを消し、真剣な表情でそう答えた。


「私がティナムの町を訪れたのは、王族が戦場に立つことで兵士たちの士気高揚を狙っての事なのは、ミコトさんもご存じですよね?」

「はい。覚えています」

「結果としてミコトさんの力もあってティナムの町の安全は確保されましたが、まだ2つ。我が国の領土内では魔物の増加現象が確認されています。そして、そちらもまたギリギリの状態が続いているとの事です。……お父様は執務がありますから安易に王都を離れる訳にも行きませんし、お母様は、正直体が強い方ではないので私と同じような激務には耐えられないでしょう」

「つまり、もし前線で王族が士気高揚をするとなると、マリー以外に適役は居ない、って考えていいんですか?」

「えぇ。そう考えて頂いて構わないでしょう。……そして、時がくれば私はまた、その2か所のどちらかへリオンらと共に向かう事になるでしょう」

「……そうですか」


 問題はまだあって、マリーはまた、戦地に行こうとしている。なら……。

「じゃあ、もしマリーが戦地に行く事があったら、依頼を出してください」

「依頼、ですか?」

「はいっ。内容はマリーの護衛と身の回りの世話、で良いですかね?あっ、報酬は銀貨1枚でどうです?」

「なっ!?い、いくらなんでもそれは安すぎますっ!王女の護衛に銀貨1枚なんてっ!もし仮に高ランク冒険者が似たような依頼を受けたとしたら、普通金貨10枚以上はしますっ!相場の100分の1以下ですよっ!?」

「別に構いませんよ。って言うか、何なら報酬もいりませんし」

「えぇ?どうして、そのような事を?報酬が無ければ仕事にならないのでは……」


 私の言葉に、マリーは『なんでそんな?』と言わんばかりの表情だ。まぁでも理由なんて決まってる。

「そりゃぁ、仕事じゃありませんから」

「え?」


「マリーを守るのは、仕事なんかじゃない。約束ですから」

 そう言って私は隣に座っていたマリーの手を取り、真っすぐ彼女を見つめた。

「ッ、み、ミコトさんっ」

 彼女は顔を真っ赤にして、戸惑っているのか視線が泳いでいる。

「約束を守るのに、報酬は必要ないでしょ?」

「そ、それはそうですけど……」

 顔を赤くしつつ、頷くマリーはやっぱり可愛い。


 と、その時。

「失礼します。ミコト様、宿の手配が……」

 ドアがノックされ、入って来たのはメイドさん。……が、しかしメイドさんは私とマリーを見て、なぜか固まってしまう。なぜ?と思い周囲を見回すと、私がマリーの手を両手で包み込んでいる所に目が、行って……。っ!!!


 やばいっ!と思って私はすぐに両手を離して立ち上がったっ!そうだよねっ!部屋で女の子同士で手を取り合ってたら驚くよねっ!

「あ、あぁどうもっ!えっと宿の手配でしたっけっ!どうなりましたぁっ!?」


 ここはごり押しで行こうっ!今考えると私も私で結構恥ずかしい事してたぁっ!

「あ、は、はい。王都の宿について空き状況を調べた所、王城からも近い位置にある宿にちょうど空き部屋があるそうです。部屋も既に確保してあるとの事でしたので、もしミコト様がその宿で良いとの事でしたら、馬車を出してお送りせよ、との事ですが。如何いたしますか?」

「え~っと」


 王城に近いなら、マリーや陛下たちとも連絡のやり取りがしやすいかもしれないし、断る理由は特にないかな。

「じゃあそこで良いです」

「かしこまりました。では馬車の用意をしますので、ミコト様は一旦お部屋にお戻りになり準備をお願いします。馬車の用意が出来次第、そちらにお迎えに上がりますので」

「分かりました」


 私が頷くと、メイドさんは『では、失礼します』と言って部屋を後にした。さて、と私は私で部屋にある服とかをまとめに戻らないと。あ、でもその前に。


 私はマリーの方に目を向けた。

「そう言うわけで、マリー。私はそろそろ行きます」

「えぇ。分かりました」

 マリーは私の言葉に、優しい笑みを浮かべながら頷いた。


「もし、困った事があったらいつでも呼んでくださいっ。何だったらパワードスーツを纏って飛んできますからっ!」

「ふふっ、とても頼もしいですね。ですが、それはこちらも同じ。もし私に出来る事があれば遠慮なく私を訪ねてきてください」

「分かりました。それじゃあ、『またね』、マリー」

 私は笑みを浮かべながら右手を差し出す。

「えぇ、また。ミコトさん」

 マリーもまた、笑みを浮かべながら手を取り私たちは握手を交わした。


 その後、私はマリーと別れてさっきまで居た部屋に戻り、荷物をまとめるとお迎えを待っていた。しばらくして。


「ミコト様、馬車の用意が出来ましたのでお迎えに上がりました」

「はいっ」

 さっきと同じメイドさんがやってきた。

「宿に関しては、既に陛下の名前で部屋を確保してあるとの事ですので、宿に着き次第フロントの者にミコト様の名前をお伝え頂ければ良いそうです。それと、国王陛下よりこちらをミコト様にお渡しするようにと言われ、お預かりしています」

 そう言ってメイドさんが差し出したのは……。

「これは?手紙、ですか?」

「いえ。正確に申すのであれば陛下曰く、紹介状のような物との事です。もしリルクート王国内部で何か困った事があった場合は、それを相手に見せてよい。そう仰せつかっています」

「へ、へ~~。そ、そんな貴重な物。頂いてしまって良いんですか?」

「はい。ミコト様のご活躍は聞き及んでいますので、その活躍に対する褒美の一部とお考えになればよろしいかと」

 メイドさんは頷きそう言ってくれる。


 でもこれってドラマの水〇黄門で言う印籠みたいな物だよねっ!?なんかまた凄いモン渡されちゃったなぁ。とはいえ、陛下が用意してくれた物を恐れ多いとか言って返却するのも失礼にあたるよねぇ。ここは受け取っておくしかないか。


「あ、ありがたく頂戴いたします。それと陛下に、大変な物を頂き、ありがとうございます、とお伝えください」

「かしこまりました。確かにお伝えします。それでは、馬車の用意が出来ていますので。準備の方は、よろしいですか?」

「は、はいっ、大丈夫です」


 凄い物を渡されて少しテンパっちゃったけど、受け取った紹介状はとりあえずカバンの中に放り込み、私はメイドさんに続いて歩き出した。


 その後、王城の外、入って来たのと同じ正面玄関に止まっていた馬車に乗りこみ、メイドさん1人に見送られながら私は王城を後にした。


 王城を出た馬車は、そのまま城下町をゆっくりと進んでいく。……そう言えば王様が宿の手配してくれた訳だけど、どんな宿なんだろう。……って言うか一国の王様に宿の世話をしてもらうって、今考えたら凄い事してるな私。


 と、馬車に揺られながらそんなことを考えていると、目的地に着いた。んだけど……。

「ミコト様、到着いたしましたよ」

「え?ここ?」


 馬車が止まったので降りてみたけど、目の前にあるのは立派な建物っ!前世のテレビで見た老舗の洋風旅館とか、そんな感じのメッチャ高級ホテル感溢れる見た目の建物だった。

「あ、あのっ!すみませんっ!」

 私は思わず御者をしていた人に声を掛けた。

「も、もしかしなくても、この宿って高級な所なんじゃっ!?」

「はい、そうですよ。この宿は王都では1、2を争う程の高級宿です」

「えぇっ!?そんな所紹介してもらって良いんですかっ!?」

 って言うか、それ以前に高級宿に泊まるってっ!そんなことしてたら私のお財布が瞬く間にピンチになりそうなんですけどっ!?


 と、とは言えここまで来て今更『チェンジでッ!』なんて言える訳ないよなぁ。うぅ、こうなったら明日にでもマリーに相談に行こうかなぁ。


「ミコト様?どうされました?」

「あっ!な、何でもないですよぉっ!ただ立派な建物だったので見とれちゃってっ!」

 中に入らない私を訝しむ御者さん。高級すぎて入りずらい、とも言えず私はそう言って誤魔化しつつ、深呼吸をしてからとりあえず決意を固めた。


 とにかく、お金も貰ってるから数日滞在する分には問題ないでしょ。マジで高かったらマリーに頼んで別の宿を探してもらおう。うん。


 御者さんとは入り口で別れた。運んでもらうような荷物も無かったし、別に良いかな、と思って。


 離れていく馬車を見送った後、私は意を決して宿の入り口から中へと入った。ドアマンが丁寧にドアを開けてくれたけど、うん。分かってた。


『なんで子供が1人で?』みたいな表情を一瞬だけどされたもん。すぐに平静を装ったのはこういう仕事のプロらしいけど。でもやっぱり私も見逃さなかった。


 まぁでも仕方ないよ。こんな高級宿に女の子1人とか。普通ならありえないだろうし。と、とりあえずフロントに行ってみよう。名前を言えば良い、ってメイドさんが言ってたけど。


「あ、あの。すいません」

「はいっ、如何なさいました?」

 フロントに居た若い男性のスタッフさんが笑顔で応対してくれた。

「その、部屋を取りたいんですが、良いですか?」

「お部屋ですか?申し訳ありません。現在すべてのお部屋が埋まっている状況でして、ご新規のお客様はお断りさせていただいているのです」

「えっ!?」


 へ、部屋が全部埋まってるのっ!?空いてるんじゃないのっ!?ど、どうしようっ! 思わぬ言葉に戸惑い、頭の中が真っ白になりかけた時。


「もしや、ミコト・ハガネヅカ様ですか?」

「え?」

 目の前の若いスタッフさんじゃない、別の人の声が聞こえてきて、私は疑問符を浮かべながらそちらに目を向けた。見ると、初老の男性がそこに立っていた。若いスタッフさんとも違う制服に身を包んだ初老の男性。もしかして、この人の上司とか?あぁでもまずはっ!


「は、はいっ、そうです」

 名前を聞かれたし、とにかく頷いた。

「あぁあなた様でしたか。私は当宿の支配人をしている者でございます。君、このお客様は私が直々にご案内するから」

「えっ?よろしいのですか?部屋はもう……」

「あぁそれなら大丈夫だ。先ほど王城から使者が来て部屋を取って行っただろう?あれはこちらのお客様用だ」

「そうでしたか。分かりました」

「さぁではお客様、どうぞこちらへ」


「は、はいっ」

 な、何だか良く分からないけどとにかく部屋の事は大丈夫みたい。これでとりあえず一安心。私は支配人の人に続いて部屋へと向かった。


 あ、でもそうだ。少し聞いておかないといけない事があった。……主に宿泊の値段とか。

「あの~」

「はい、何でしょうか?」

「陛下のお名前でお部屋を取って頂いたのですが、正直どういった部屋なのか魔では聞いて無くて。あと、宿泊にかかる値段とかも、全然」

「成程。お部屋に関しましては、空きもあった事と陛下から『最上級のもてなしを』との事でしたので、スイートルームを一つお取りしてあります」

「え?スイー、ト、って。……えぇっ!?」

 うそでしょっ!?思わず声が出たけどしたかないじゃんっ!ただでさえ高級な宿のスイートってっ!?い、いくら何でもそんなのお金払えないんじゃっ!?


「そ、それホントですかっ!?って言うかスイートっていくら何でも宿泊費がっ!?」

「おや?お客様、ご存じなかったのですか?」

「え?」

 思いがけない事に私が1人で慌てていると、支配人の人が小首をかしげている。何を?と思い私は疑問符を浮かべた。


「王城からのご指示により、お客様にお支払いいただく宿泊費は通常の値段の4分の1でございます。残りの4分の3は王国側が負担する、との事でしたよ」

「えっ!?」

 マジでっ!?いや大変ありがたいんだけどもっ!スイートの部屋取ってもらった挙句費用の大半を負担してもらうとかっ!扱いが凄すぎて色々怖いんですけどっ!


 こ、これはマジで今度陛下に会ったら土下座してお礼した方が良いかも。と、私は冷や汗を流しながらそんなことを考えていた。



 その後、案内された部屋はスイートの名にふさわしい豪華な物だった。豪華さで言えば、王城で一泊させてもらった客間といい勝負が出来るレベル。ベッドは大きい、内装は豪華。原理は不明だけど、前世の一般家庭のお風呂みたいに、どっかからお湯を引っ張ってきてお湯をためられるお風呂。同じく原理不明の水洗式の洋式お手洗い。ま、マジで凄すぎるっ!


 その後、支配人さんから話を聞いたけど、お食事は毎日決まった時間に部屋まで運んできてもらえるとの事。用意されるのは朝食と夕食。注文があれば昼食の用意も可能、って事だった。


 うん、至れり尽くせりとは正にこのこと、ってくらいの好待遇に驚いてます。ヤバいです。ヤバすぎてプレッシャー感じてお腹痛くなってきました。


 説明を終えた支配人さんは、最後に私に部屋の鍵を渡すと『失礼します』と言って部屋を後にした。


 豪華な部屋に一人残された私。しかし前世で普通の一般家庭に生まれた私が、こんな高級な宿の、それもスイートルームなんかじゃ落ち着ける訳も無かった。


 なので……。

「よしっ!今日中に冒険者ギルド行って登録してこようっ!」


 現実逃避的な意味でも、私はギルドに向かう事にした。


 幸いまだお昼時だったので、時間的には余裕があった。私は宿の人にギルドの大まかな位置を聞くと、宿を出て歩き始めた。


 王都はティナムの町とは大違い、とは行かなかった。


 基本的な建物の作りはどれもファンタジーゲームに出てくる中世ヨーロッパに近いかな。さっきのスイートルームはお風呂とかお手洗いとか、前世の現代に近い所があったけど、一般的な町中はやっぱり中世の街並みって感じ。


 そんな風景の中を学生服で歩くのは、やっぱりちょっと浮いてて恥ずかしい。実際、すれ違う人たちの何人かが足を止めて振り返りこっちを見てる。うぅ、かといって私服じゃあの宿に出入りするのが憚られる気がするというか、それもそれで恥ずかしいというか。


 うぅ、こういう恥ずかしさにも今後慣れていくしかないのかなぁ?なんて思いつつ歩いていると……。

「あっ」


 不意に、前方に他の物より大きな建物が見えて来た。そして建物の上に書かれた、冒険者ギルドの文字ッ!間違いないっ!ここが冒険者ギルドだっ!


 ギルドの周りに目を向ければ、武器を装備し鎧に身を包んだ様々な年齢の人たちが忙しなくギルドに出入りしていた。おぉ、これこそまさに冒険者ギルドって感じっ!やばい楽しくなってきたっ!

 

 ……ってそうだっ!ギルドを眺めに来たんじゃないんだったっ!登録してこないとっ!でもやっぱり学生服でギルドって、変な意味で目立ちそうで怖いんだよなぁ。まぁ行くしかないけどっ!


 って事で、私は意を決して冒険者ギルドの中へ。そして中は、半ば予想していたような光景が広がっていた。


 冒険者の人たちは、依頼の書類が張り出された大きな掲示板の前にたむろし依頼を吟味していたり、入り口近くのテーブルの上で報酬を分けたり、或いはこれから依頼に行くのか作戦会議をしているようだった。


 っと、そうだ登録登録っと。人に見とれてる場合じゃなかった。え~っと。改めて周囲を見回してみると。おっ!冒険者登録受付窓口って所があったっ!そこには私と同い年くらいの男の子や、あっ、女の子も並んでるっ!よしっ!私も並ぼうっ!


 と、意気込んで並んだのは良いんだけど……。

「おい、何だあのガキ?」

「随分上等な服着てるな。貴族か?」

 うんっ!学生服がメッチャ目立ってるっ!周りからすんごい見られてるっ!正しく穴が開くんじゃないかってくらいっ!


 うぅ、速く登録済ませたいぃ。 と、周囲の視線に委縮しつつも順番を待っていると、ついに私の番になった。『次の人~』と呼ばれ、窓口で冒険者登録と説明がされた。



 まず、冒険者という職業について。冒険者はギルドが斡旋する依頼を達成する事で報酬を貰う、言わば便利屋だという事。


 冒険者には最高のSから始まって、A、B、C、D、E、F、Gの8つにランクが分けられている事。また依頼にも同じランクの割り振りがされており、基本的に自分のランク以上の依頼は受けられない事。


 冒険者ランクは、依頼をこなしてギルド側が上のランクに上げてもいいと判断した場合のみランクアップが冒険者側に打診される事。


 逆に、依頼に何度も失敗するようだとギルド側が強制的にランクを下げる事もあるという事。


 そう言った説明を聞いた。う~ん、依頼に失敗し過ぎると降格もあり得るって事だよね。まぁ私の『チェンジングスーツ』の力があれば早々失敗する事も無い、と思うけど。まぁその辺は油断しない方が良いよね。


 で、一通り説明を受けた後、私には『ギルドプレート』という1枚の小さな金属製プレートが手渡された。そこには私の名前と性別、現在のランク、年齢が記載されていた。パッと見た感じだと、軍隊で言うドッグタグみたいな感じのそれは、お姉さん曰く『冒険者の身分証明書』らしく、絶対に無くさないように、と念押しされた。


「説明は以上で終わりますが、何かご質問は?」

「い、いえっ。大丈夫ですっ」


 正直に言うと、今すぐこの場を離れたかった。周囲から見られすぎてて滅茶苦茶辛い。早く宿に戻りたい。


 なので手短に、『ありがとうございました』とお姉さんに行って、窓口を離れた。んだけど……。


「そこのアンタ。ちょっと待ちなよ」

 出ていこうとした私の前に突如として現れた人影。それは私よりも高身長の女性だった。


 でも、ただの女性じゃないのは分かった。防具を纏い、背中には矢筒と弓。武装しているしこんなところに居るから冒険者なんだろうけど、僅かに見える腕や顔には小さいながらも無数の傷があった。うん、まさしく『歴戦の冒険者』、『女傑』って感じの、お姉さん、いや姐さんって呼ばれても可笑しくないくらいの人が私の目の前に居て……。


「……」

 あ、明らかに不機嫌そうな表情で私を見下ろしてるんですよねぇっ!!


 あぁ。王都に来て二日目。冒険者登録をした矢先、トラブル発生、かも。


     第26話 END

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