第5話 視察、北の城門
ティナムの町へとやってきた私は、マリーショア王女から町のために魔物退治に協力してほしいと言われた。最初は戸惑って、覚悟の一歩を踏み出せなかった。でも、お姫様の話を聞いて、私もやれることをやろうって思えた。だからこそ、私はマリーショア王女に協力することにした。
お姫様と握手をして、お互いもう一度ソファに座りなおす。
「あ、え~っと、それでその、協力するって言った直後なんですが、具体的に私って何をすれば良いんですかね?」
具体的な事はまだ聞いてなかったから。協力する、って言った直後にこれを聞くのは少し恥ずかしいなぁ。私は乾いた笑みを浮かべながらお姫様に問いかけてみた。
「ミコトさんにお願いしたいのは、現時点で3つです。まずはこのティナムに迫る魔物を撃退する事による町の防衛と、二つ目はこの危機の原因である魔物の討伐です。ですが今言った事は殆ど同じこと。ですので極論を言えばミコトさんにお願いしたのは『二つ』。一つはその不思議な力を使っての『魔物の討伐』、或いは『殲滅』です。これらについて、ミコトさんの意見はどうでしょうか?」
「ど、どう、と言うと?」
「魔物の討伐、或いは殲滅をご自身の力で出来ると思うか、否か。その辺りの判断を曖昧でもいいのでお答えください」
「な、成程」
う~ん、魔物の討伐、或いは殲滅を出来るかどうか、かぁ。まぁ私の≪チェンジングスーツ≫の力を生かせば無理ではないかなぁ。
「まぁ、絶対無理、ではありませんね。スーツにはそこそこ火力のある武器も搭載出来ますし。けど、やっぱり戦った相手がワイバーンしかいないので、森にどんな魔物が居るか分からない今の状況じゃ、何とも」
魔物の事とか色々分からない部分もあるし、今は申し訳ないけど曖昧な返事しか出来なかった。
「成程」
って、私の言葉にお姫様は何やら真剣な表情で考え込んでる様子なんだけどっ、ひょ、表情がなんていうか、イケメンなんだよねっ!女の子なのにイケメンってっ何っ!?って思うけど、何ていうか表情が凛々しいのっ!
「時にミコトさん」
「は、はいっ!何でしょうっ!?」
やばいっ、変な事考えてたからか声をかけられて思わずビクッとなって体を震わせちゃったっ。
「ミコトさんが使われる、あのぱわーどすーつ、という物ですが。一番火力の高い武器の威力はいかほどなのでしょうか?」
「え?い、威力ですか?う~ん」
≪チェンジングスーツ≫は、私のイメージしたパワードスーツを具現化させる力だけど、そういえばどこまで具現化できるんだろ?女神様に貰った手紙には『ある程度は具現化可能ですが、流石に限界がありますのでお気を付けください』ってちょっと曖昧な表現しか書かれなかったんだよなぁ。 『う~ん』と唸りながら私は考えた。
……核ミサイル搭載型パワードスーツって、出来るのかな?いやヤバいかっ!それは流石に不味いっ!色々とっ!放射能汚染とかっ!っていうか核兵器とか放射能の知識がないファンタジー世界で放射能汚染は余計ヤバいっ!いやそれ以前にそんなことしたら私が魔王って呼ばれてもしょうがなくなるっ!
うん無しっ!出来てもダメだよねっ!?核兵器は無しっ!となると……。あとは、ビーム砲?大型ミサイル、とか?ビーム兵器は搭載してるジェネレーターとかの出力で威力が決まるから、それ次第?外付けの大型ジェネレーターを作れれば別だけど……。ミサイルについても、弾頭とかサイズでいろいろ威力変わるしなぁ。大陸間弾道弾、みたいなのを生み出せるかどうかも、今は分からないし。まぁでもグレネードランチャーみたいにグレネードを飛ばしたりは出来るでしょ。……わかんないけど。 ま、まぁビームピストルも作れたんだしグレネードランチャーとかバズーカくらいなら出来るよねっ、うんっ!
で、そうなるとぉ~。
「正直、私自身この力の限界を知らないので何とも言えませんが、小さな家屋を一撃で吹き飛ばす、くらいは確実に出来ると思いますよ?」
「そうですか。では、森を焼き払う事は出来ますか?」
「え?」
えっと?い、今お姫様はなんて?森を、焼き払う?そういったのっ?
「そ、それって、どういう?」
聞こえてきた単語が物騒過ぎて驚き、私は思わず聞き返してしまった。
「魔物は、昨日話した通り北部の森で活動しており、そこを寝床としています。そして時折、餌を求めて森の外へと漏れ出る事があります。その漏れ出た魔物が街道へ出現し被害を出すこともあります。だからこそ騎士団も必死に間引きを行っているのですが、結果は昨日見てもらった通りです。皆傷つき、ギリギリの状況が続いています。ですから、この問題の最終手段、いわゆる奥の手として、北部の森を焼き払う事を考えているんです」
「な、成程。あっ、でも待ってくださいっ。確か北部の森って、町の食糧採取や薬草を手に入れたり、木材を調達する場だったんじゃっ!?そんなことをしたらっ!」
話を聞いていたけど、昨日お姫様から説明されたことを思い出して問いかけた。
「はい。町の経済や生活に大きな打撃を与える事になるでしょう。ですので、あくまでも奥の手、万策尽きた場合の最終手段なのです」
「そ、そうですよね」
「そうならないよう、我々も最善を尽くす所存ですが、如何でしょう?ミコトさんのお力で森を焼き払う事は可能ですか?」
「う~ん。焼夷弾とかナパームは作れそうだから、不可能ではないと思いますよ?」
「成程。仰った武器の意味はよく分かりませんが、最低限『不可能ではない』と判断してよろしいですか?」
「はい」
って、ん?そういえば……。
「あの、先ほどの話ですと私へのお願い事は3つ、との事でしたが、あとの一つは何でしょうか?」
「あぁ、そちらですね。3番目のお願い事についてですが、これに関しては『可能であれば』という前提でお話をさせてください」
「可能であればって、もしかしてすごい危険だったり難しい事、なんですか?」
チート能力を持っているとは言え、私自身は普通の人間だし。まだ覚悟も不透明だからあんまり危険なのは、ちょっとなぁ。
「これに関しては、そうですね。危険と言えば危険ですし、難しいと言えば難しいでしょう」
「え?そ、それってどういう?」
なんだろう。なんとなく意味深な言葉が聞こえてきたせいか、私は緊張気味に問い返した。
「ミコトさんにお願いしたい3番目の事。それは魔物増加の原因究明です」
「え?」
緊張していた所に聞こえてきたのは、思ったより簡単そうな内容で、思わず私は呆けた声を漏らしちゃった。いや、何ていうか思ってたのと違うから肩透かしを食らった感じなんだよね。
「それって、つまりは森の調査、って事ですか?」
「えぇ。そうです」
お姫様は静かに頷くと話をつづけた。
「現状、魔物に対して行われている間引きは、言ってしまえば問題の先延ばしです。周辺に被害が出る事を防ぐために魔物の数を減らしていますが、これでは『増えては減らす』を繰り返すだけです。加えて、このティナムの町の騎士団は限界を迎えています。例えミコトさんが彼らの回復のための時間を稼いだとしても、ミコトさんが他へと行ってしまえば、また現状を繰り返すだけとなるでしょう」
「だから、その状況を打開するために調査ですか」
「そうです。とは言え、昨日お話した通り、現状の私たちでは魔物出現の原因の、その一端すら解明していないのです。いわば、0からの調査となるでしょう」
「0から、かぁ」
う~ん、こりゃ忙しいなぁ。
「魔物を討伐して数を減らしながら調査、ですか。正直、自分で言うのも情けないですが、出来る気がしない、ですね」
情けない事を言って、お姫様たちの士気を下げるのもどうかと思ったけど、だからって確証も無いのに『できますっ』って嘘吐いて安請け合いするのもなぁ。 そう考えたからこそ、私は思った事を口にした。
「そうですね。討伐と並行しての調査は、難しいでしょう。ですから当面は魔物の討伐に集中していただければ大丈夫です。その間に駐屯地の兵たちが回復すれば、彼らの方で調査隊を編成し、森の調査を行う予定ですから」
「分かりました。そう言っていただけると、安心します」
よしっ、じゃあ私は魔物を倒すことに集中すれば良いんだねっ。うぅむ、となると≪チェンジングスーツ≫のバリエーションも色々考えておかないとなぁ。
「では改めまして。ミコトさんへのお願い。いえ、ご依頼について再確認させていただきます」
「はいっ」
「我々からの依頼は大きく分けて二つ。一つ目はこのティナムの町の脅威である、北の森で確認されている無数の魔物の討伐。二つ目は魔物増加現状の原因調査と究明。しかしこの調査に関しては『可能であれば』と前置きさせていただきます。優先すべきは町の安全ですので、魔物の討伐を第1にお考え下さい」
「分かりました」
要は魔物討伐が最優先、って事だね。う~ん、どんな装備が役立つかな~?今の内に色々装備を考えて、『クイックバース』で装備したスーツを登録しておかないとね。
「では次に今後についてです」
「っと、はいっ」
お姫様の声で私はそちらに意識を戻した。
「当面の間はこの駐屯地での生活をお願いします。いざという時、私や騎士団と綿密に連携できるための措置ですので、ご了承願います」
「分かりました」
小さく頭を下げるお姫様に私は頷く。
「その代わり、と言っては何ですが、食事の用意などはこちら、正確には駐屯地でさせていただきます。もちろんお金取る事などは一切しません。また、討伐に協力していただくので、きちんとした報酬を支払う予定です」
「えっ!?お金貰えるんですかっ!?」
私としてはてっきり、人助けのたぐいの話だと思ってたから、お金が貰えるって話は予想外だったので驚いた。
「はい。決して高額な報酬をお支払い出来る訳ではありませんが……」
「いやいやいやっ!十分ですっ!貰えるだけありがたいですっ!」
どこか申し訳なさそうな表情を浮かべるお姫様っ!私は慌てて声を上げたっ。
「そう言っていただけると、こちらとしても助かります。では今後や報酬など。何か我々にお聞きしたい事はありますか?」
「う~~んと」
聞きたい事かぁ。え~っと、う~ん。 私はしばし頭を抱え、考えた。
「えっと、じゃあ遠目からでも良いので、森の様子を見たり、あとは今のところどんな魔物が確認されているか、とかを聞いても構いませんか?」
「分かりました。それくらいであれば構いませんよ」
私の問いにお姫様は嫌な顔一つせず、静かに頷いた。
「それでは、これから北の城壁に向かいますが、そちらから森の様子を確認する形でよろしいですか?」
「あっ、はいっ、大丈夫ですっ!」
「分かりました。ではリオン、馬車の用意を。折角ですから私も北の城壁の視察に向かいます」
「はっ!」
お姫様の指示を受け、リオンさんが足早に部屋を後にした。
「では、魔物については馬車で移動する間にご説明しますね」
「はいっ」
こうして、私は北の城壁に行くことに。数十分後、用意された馬車の中で私とお姫様は揺られていた。馬車、と言ってもお姫様たちが町に来る時に乗っていたような豪華な物ではなく、荷台にホロをかけた、庶民的な馬車だった。
「それでは、北の城壁まで少し時間もありますので。今の内に現在確認されている魔物についてお話しておきます。分からない部分がありましたら、適宜お聞きください」
「あ、ありがとうございますっ、お願いしますっ」
今更だけど、お姫様本人から直々に説明してもらえるのなんて、中々ないよなぁ~。なんて頭の片隅で思いながらも私はお姫様の話に集中していた。
「まず、現時点で増加現象の発生前から現在まで確認されている魔物ですが、主な物はゴブリンとその上位種であるホブゴブリンですね。あとは狼型の魔物であるブラックウルフぐらいでした」
「成程」
ゴブリンやホブゴブリンは前世のファンタジーゲームとかで目にしていたから馴染みがあるけど……。
「あの、ちなみにそのブラックウルフって普通の狼とどう違うんですか?」
「特に大きさなどでこれと言った違いはありませんが、ブラックウルフはその名の通り体毛が黒く、夜を中心に活動する魔物です。その黒い体毛を生かした夜襲を得意としているため、夜道を行く時はブラックウルフに気をつけろ、と言われる程です。しかし昼間は基本的に洞窟などで休んでいるため、一般的に昼間遭遇する確率は低い魔物ですね」
「そうですか」
夜はブラックウルフに気をつけろ、か。うん。覚えておこう。
「件の現象が発生する以前において、確認されていたのは今の3種類です。この3種は世界各地で目撃例があり、一般的な魔物として知られています」
「成程」
「そしてお次は、例の増加現象後に確認された魔物です。現在まで確認されている物は、先ほどの3種類に加えて、人型のトカゲである『リザードマン』、火を吐くトカゲの『サラマンダー』。モグラ型の魔物、『ジャイアントモール』。人面鳥とも言われている『ハーピー』。牛の頭を持った筋骨隆々の人型魔物、『ミノタウロス』。あらゆるものにまとわりつき溶かし食らう『イータースライム』。人食い花の異名を持つ『ラフレシア』。熊型の魔物、『ブラッディベア』。あとは先日私たちを襲った『ワイバーン』、と言った所でしょうか」
「な、なる、ほど?」
いやすごいなっ!?嫌な意味でっ!?時折物騒な単語が聞こえてきましたけどっ!?何『溶かし食らう』ってっ!?『人食い花』ってっ!? はっきり言ってめっちゃ怖いんですけどっ!! うぅ、そんなヤバそうなのと私は戦わなきゃいけないのかぁ。 もう協力するって言った手前、『今更怖くなりました』なんて言えないしっ!うぅ、やるっきゃないかぁっ!
話を聞いて、恐怖で震える体を少しでも鼓舞しようと内心自分に言い聞かせていた時だった。
「大丈夫ですよ」
「ふぇっ!?」
そして気づいた時にはお姫様が私の手を取って私に微笑んでいたっ!?な、何でっ!?いや多分怯える私を心配してくれたからなんだろうけどっ!
「あたなは、ワイバーンを倒す程の力を備えています。今名を上げた魔物たちもどのような存在であれ生物です。だからあなたの、ミコトさんの力があれば恐れる必要はありません。だからどうか、心配しないで」
「は、はひっ!」
近い近い近いぃっ!お姫様の顔が近いぃっ!うぅっ、私は至って普通の(元)JKのはずなのに、なんでこんな同性のお姫様にドキドキしてるんだろうっ!?
魔物の説明は聞いていたし、少なからず恐怖を覚えた。でもその直後、もっとドキドキする事になった私はそばにいたお姫様の事に気づかなかった。
「うぅっ、私ったら何を……っ?ミコトさんを安心させるためとは言え、いきなり手を握るなんてぇ……っ」
年相応に恥ずかしそうに顔を赤らめているお姫様の事を、私は気づかなかった。
その後、馬車は北の城壁の前まで到着。馬車を降りた私はお姫様や護衛として一緒に来ていた騎士リオンさんたちと共に城壁の上に上った。螺旋階段を上り、城壁の上に出ると、そこには無数の兵士の人たちの姿があった。
「ッ!?マリーショア王女殿下っ!」
「えっ!?あっ!」
「王女殿下っ!?」
そして兵士さん達はお姫様を見るなりすぐさま敬礼の姿勢を取った。こういうのを見てると、ホント本物のお姫様なんだなぁって実感できる。
「兵士の皆さま、お疲れ様です。申し訳ありません、お忙しい中をお騒がせしてしまって」
「い、いえっ!こちらこそいらっしゃるとはついぞ知らずっ!満足にお出迎えも出来ずっ!」
「どうかお気になさらず。今このティナムの町を守っているのは皆さまなのです。どうか私の事はお気になさらずに、体には気を付けて職務に勤しんでください」
「は、ははぁっ!」
お姫様の言葉に兵士の人はびしっと姿勢を正すと仕事へと戻って行った。
「さて、確か北の城壁にはラリーというなの指揮官が居たはずですが……」
「マリーショア王女殿下っ!」
キョロキョロとお姫様が周囲を見回していると、向こうから明らかに一般の兵士さんとは装備が違う、中年の男性が走ってきた。
「申し訳ありません王女殿下っ!まさかいらっしゃっていたとは気づかずっ!あっ!自分はこの北の城門の防衛を任されておりますっ!『ラリー』と申しますっ!」
「お初にお目にかかります、ラリー隊長。改めまして、リルクート王国第1王女、マリーショア・ヴィオレ・リルクートと申します。こちらこそ申し訳ありません、職務の最中に突然押しかけてしまって」
「い、いえっ!殿下が謝罪する事など何一つありませんっ!むしろこのような最前線で王女殿下のお姿を目にできるなど、光栄の至りでありますっ!」
「そう言っていただけると嬉しいですね」
王族として接するお姫様に対し、ガッチガチに緊張した様子のラリーという隊長さん。見たところ親子ほど歳が離れてそうな二人だけど、明らかにラリーさんの方が緊張してる。まぁ、これって私の前世、日本に当てはめて考えると一般人の前に、それこそ雲の上の存在だった皇族とか総理大臣がいるとか、そんなのと同じような感じなんだろうなぁ。……全然今の私じゃ想像つかないけど。
「所で、なぜ王女殿下がこのような場所に?それに、そちらの異国風の少女は、一体?」
おっと、隊長さんが私の方に視線を向けてきた。ってか異国風って。……いやファンタジー世界に学生服でいたらそりゃ目立つか。それに私は純日本人で黒髪。そりゃ西洋ベースのファンタジー世界なら存在自体が浮いてるよねぇ。
「彼女は私の客人であり、先日ワイバーンの群れに襲われた所を助けていただいた恩人です。そして、今後ティナムの町の防衛のため、魔物の間引きに協力していただく予定の協力者です」
そう言ってお姫様が私をラリーさんや他の兵士さん達に紹介しているけど……。
「ワイバーンを倒したって、あんな子供がか……っ!?」
「何かの間違いじゃないのか?」
「いやでも、王女殿下が嘘を言うとは……」
うん、なんとなく予想付いてたけど、誰も信じてないわこれ。いやまぁ、生身のフィジカルじゃ私なんて無力よ無力。≪チェンジングスーツ≫ありきで考えたら強いだけだもん私。そりゃこんな普通の少女がワイバーンを倒したって聞いても信じられないよねぇ。
「本当、なのですか?このような年端もいかない少女が?」
ラリーさんもどこか疑うような視線で私を見つめている。
「それについての説明を……」
疑うようなラリーさんにお姫様が説明をしようとしていたその時だった。
突如として甲高い、銅鑼を叩いたような音が周囲に鳴り響いた。
「な、なになにっ!?」
突然の事に驚き、私は慌てて周囲を見回していた。
「馬車だっ!北の森に間引きに行っていた班の馬車が戻ってきたぞぉっ!」
そこに響いた男性の怒号。か、帰ってきたって、間引きに行ってた人たちが?でもならなんでこんな、警報みたいな銅鑼を響かせるの?って思った時だった。
「だ、だが『追われてる』っ!『魔物に追われてる』ぞぉっ!!」
「ッ!?なんだとっ!?」
次いで聞こえてきた声に、ラリーさんは表情を青くしながら城壁の淵の方へと駆け出した。それはもう姫様や私なんかに目もくれずに。次いでお姫様と騎士リオンさんたちもそちらへ。って、私も行った方が良いのかなこれっ!? 周りの人たちに数秒遅れながらも、私も城壁の淵へと駆け寄り、北の方へと視線を向けた。
見ると、前方の奥の方に鬱蒼とした森が見える。だがその手前。森と町に挟まれるように広がる草原の上を、数台の馬車が疾走していた。そして……。
『グガァァァァァァァァァッ!!!』
砂塵を巻き上げながら走る馬車の後ろっ、そこを赤黒い毛並みのデッカイ熊みたいなのが追いかけていたっ!?ま、まさかあれってさっきの話に出てた魔物っ!?確かブラッディベアって名前を聞いた気がするけどっ!?
「あれはっ!?ブラッディベアっ!?クソッ!騎馬兵及び弓兵の用意急げっ!開門用意っ!仲間を救助するっ!」
すぐさまラリーさんが声を荒らげ、兵士さんたちが慌ただしく動き出した。
「む、無茶ですっ!あの速度では、あと数分もしない内に追い付かれて……」
「だからって仲間を見捨てていられるかっ!とにかく騎馬と弓兵の用意をしろっ!」
ネガティブな発言をする兵士に、ラリーさんは怒鳴り返す。でも、そんなラリーさんの顔も、悔しそうな表情で歪んでいた。 今からじゃ、騎馬が出ても、弓兵が用意しても間に合わないみたいだ。……でも、私なら? そう思っていた時。
「ミコトさんっ!」
「ッ!?は、はいっ!」
考えていた所をいきなり声をかけられ、私はビクリッと体を震わせながらもそちら、お姫様の方へと視線を向けた。
「ここからあの魔物、ブラッディベアを狙撃できますかっ!?」
「ッ!」
狙撃。ここから、私が?
「なっ!?無茶です姫様っ!ここからあそこまで、どれほどの距離があるとお考えですかっ!?仮に弓の達人だったとしても、ブラッディベアの表皮は厚く、とても弓で貫くなどっ!」
ありえないっ、と言いたげなラリーさんの表情。周りの兵士の人たちも、『無理だ』、『不可能だ』と言わんばかりの表情をしている。……でも、私なら。『チェンジングスーツの力を持つ私なら』っ!!出来るか分からないけどっ!
私は、ギュッと胸元のコアを握り締めながら、大きく息を吸い込み、叫んだ。
「やってみますっ!いえ、やりますっ!!!」
私の叫びにラリーさん達は驚き、お姫様はただ静かに頷いた。それを見た私は静かに目を閉じ、脳裏にスーツの設計図を描き上げる。
今必要なのは狙撃能力。遠距離の敵を正確に撃ちぬく力。なら必要なのは、正確無比な狙撃を可能にする武器。それなら実弾よりビーム兵器の方が実用的。でもビームピストルじゃ威力が足りない。 でも、足りないのなら、『付け足せば良い』。
狙撃の経験はないから、CSA-01でもインストールした支援AIも搭載。各種データを取得するレドーム。更に色々装備もくっつけてっ!よしっ!設計図は出来たっ!あとは叫ぶだけっ!
「≪チェンジアップ≫ッ!」
私の叫びが周囲に響き渡る。それを引き金として、コアから液体金属があふれ出し、私の体を覆っていく。
「な、何だっ!?」
ラリーさんや兵士の人たちの驚く声。お姫様やリオンさんの息を飲む音が聞こえる。彼らの驚愕する様をしり目に、私を包み込んだ液体金属が、パワードスーツとなる。
それは、CSA-01をベースにしながらも、細部が異なっていた。背中には円形のレドームが左側に設置され、バックパックも装備。その右側から伸びるセンサーのアンテナ。両大腿部に接続された長方形の箱型パーツ。銃をより正確に扱うために、01よりも若干マッシブになった腕と、射撃時の反動を軽減するカウンターウェイトとしての役割を持たせて厚みを増した脚部。頭部左側面から後ろに向かって伸びるアンテナ。
これこそが、私が生み出した2番目のスーツ。『CSA-01改 タイプS』。
「な、何だ、これはっ!?」
周囲でラリーさん達が戸惑う中、私は目の前のディスプレイだけを見ていた。レドームが馬車とブラッディベアの速度などを計算していく。
≪警告!馬車及びブラッディベアの速度差を計算した所、あと2分28秒後にブラッディベアが馬車に接触します!≫
支援AIが導き出した時間。それはあまりにも短い時間だった。それじゃあ騎馬兵は間に合わない。なら、『私がやるしかない』っ!
私は腰部背面にあったビームピストルをつかみ取る。
≪ボックス解放。『ライフルパーツ』、展開します≫
直後、ポップアップディスプレイのアナウンスと共に両大腿部に接続されていたボックスが開き、中から無数のパーツが現れた。
それは、ビームピストルを強化するパーツだ。せりあがってきたパーツは3つ。
ビームピストルの上に被せるように装着し、ビームピストルからエネルギーを取り出し増幅させる『増幅器』。
増幅器の前に装着し、射撃の際にビームをより遠くに打ち出し威力を高めるための『銃身』。
増幅器の後ろに装着し、射撃時の安定をより確かな物にするための『銃床』。
それら3つを手早くビームピストルに装着していく。あらかじめ簡単にセット出来るようにイメージしていたので、3つとも装着するのに30秒も掛からなかった。
そうして完成したのは、ビームピストルを強化した、『ビームスナイパーライフル』。私はそれを手に、銃身下部に備えられていたバイポッド、2脚を展開し城壁の、石壁の上に置く。
さぁ、ぶち抜いてやろうじゃないのっ!!
第5話 END
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