第10話 新兵器開発

 間引きのため、北の森で討伐に励んでいた私たち。初日からリザードマンの群れを討伐する事になり、何とかこれに成功。ただ、私は戦いの中で新たな装備の必要性を感じていたのだった。



 今、私は馬車の荷台で揺られながら町への帰路についていた。ただ、勝利をしたというのに私自身の表情は晴れるどころか曇っていた。


 それもそのはず。勝利こそしたものの、結果的に新たな問題点を見つける結果となってしまったからだ。 大まかに分けて問題点は3つ。


『1、敵味方が入り乱れる乱戦時だと貫通力に優れるビーム兵器やマシンガンなどの大口

径の銃弾は流れ弾や貫通したビームが味方に当たる可能性があって大変危険』。


『2、今の私だと多対多の戦いの場合、同時に相手にできる数が2匹程度なので乱戦になると手数が足りずに、周囲に負担を強いる事になる』。


『3、障害物の多い森林では接近戦に持ち込まれる可能性が高いため、そのための武装や相手からの攻撃を防ぐ防御装備の必要性』。


 以上の3つが今の私の抱えている問題だった。今日戦いで使用した、基本仕様のCSA-01も決して弱い訳じゃない。むしろこの世界基準で言えば滅茶苦茶強い方なのは軍事や戦闘に明るくない私でも分かる。ビーム兵器しかり、大口径マシンガンしかり。 でも、『強い事』が『すべての状況に対応できる事』と=じゃないのは今回の戦いで分かった。


 だからこそ、私はこれからの戦いに適したパワードスーツを考えなければならない。……ならないんだけど……。 あ~~そんな都合よくアイデアは浮かんで来ないかぁ。


「ハァ」

 私は一人馬車の中でため息をついた。と、そうこうしていると、馬車は町の城壁の前までたどり着いた。 まぁ、とにかく今日は勝てた事を喜ぼう。幸い死者も無しなんだし。私が一人悶々としてるせいで折角の勝利の喜びに水を差すのも悪いし。なんて事を考えながら、私はぼうっと馬車の天井であるホロを見上げていた。


 しばらくして、馬車は駐屯地に到着。すると皆それぞれ動き出した。武器を下ろす人、負傷した人を手助けする人、誰かと話をする人、討伐の証として持ち帰ったリザードマンの一部を下ろす人などなど。あれ?私も何か手伝った方が良いのかな?と思いつつ周囲を見回していると……。


「ミコトさん」

「あっ、マリーショア王女っ」


 声を掛けられた。それはリオンさん達を連れたマリーショア王女のだった。

「お疲れ様です、ミコトさん。ミコトさんの活躍のおかげで、負傷者こそ出したものの、皆生きて帰る事が出来ました。本当に、ありがとうございます」

「いえっ。こちらこそお役に立てて良かったですっ」

 王女様に褒められた私は笑みを浮かべながら定例文じみた返事を返す。が、周囲で働いている人の事を思い出してハッとなる私。


「あ、あの。差し出がましいかもしれませんが、私もその、兵士の皆さんの手伝い、とかした方がよろしいでしょうか?」

「そうですね」

 私の質問にマリーショア王女は少し周囲を見回した後、近くに居た兵士の人の所へと歩み寄ると、少し何か話をした後私の方へと戻ってきた。


「どうやら手伝いは大丈夫なようです。今回は以前よりも兵の損耗が軽かった事もあり、問題ないとの事でした」

「そう、ですか」

「はい。ですので、ミコトさんはもうお休みください。私たちは騎士団の方々への報告などをしてまいりますので。何かありましたら、兵に場所をお聞きください。では」

「はい、お疲れ様でした」


 そう言って歩いていく王女様を見送る私。さて、とりあえず休んでいいって言われたし、私は自分に宛がわれている部屋へと戻った。


 スーツの機能のおかげで戦闘中もそれほど汗をかく事は無かったけど、それでも僅かに体を濡らす汗が気持ち悪い。とは言っても、こっちの世界じゃお風呂どころかシャワーだって無い。この駐屯地にお風呂自体はあるんだけど、今はそんな物にお湯を張ったりしてる余裕がないっ、って事らしく使えないみたい。 となると、体を清潔にするのなら桶に水をためて、濡らしたタオルで体を拭くしかない。 うぅ、お風呂に簡単に入れないのは現代JKだった私からすると結構キツイんだよなぁ。


「ハァ、仕方ない。適当に休みながら今後のスーツの事とか、考えるかなぁ」

 お風呂に入れない事を嘆いていても仕方ないし、私はとりあえず別の事を考える事にした。 そう、今日の戦いで露見した、スーツの弱点について。



 さっき確認した三つの弱点。これを克服しないと、今後の戦いに関わる。万が一にも私のせいで騎士や兵士の人たちに被害が出たりしたら……。

「ッ!」

 か、考えるだけで怖くて体が震えるっ!うんっ、この問題は早急に解決しないとねっ!……まぁとは言え。

「どうしようかなぁ?」


 私はベッドの上で横になりながら、静かに目を閉じ自分の記憶の海にある記憶の戸棚を、片っ端から開いていった。


 さて、まず考えるべきは貫徹能力の低い武器について。ただし、一般的な魔物相手には十分に通用する武器じゃないと。う~ん、低い貫徹力とそこそこの威力って、結構矛盾してない?いやしてるよね? さ~って、何か良いのは無いかな~?私がこれまで見てきたアニメや知識を総動員して考えるぞ~~。


 要は貫通して味方に当たらなきゃ良いんだから。となると良いのは、う~ん。ニードルガン?SF漫画かなんかで見たことあったな~。金属の針を撃ちだす奴。あとはゾンビゲームとかクラフトゲームで作る銃の下位互換的な奴。釘打ち機を改造した、銃モドキ。


 う~む。悪くはない。悪くはないと思うんだけど。……乱戦時にそんなのフルオートで撃ちまくったら流れ弾が味方に当たりそうで怖いなぁ。とりあえず保留。


 じゃあ次。え~~っと。蛇腹剣?こう、剣が鞭みたいに変化する奴。あ~~でも、私剣も鞭も扱った経験ないし、何なら竹刀すら握った事が無いド素人。扱いきれるか微妙。うん、とりあえず無し。


 と、何だかんだで色々考えていたけど、貫通力が低くて威力もそこそこ、なんて矛盾してそうな武器は早々思いつかなかった。一応、対応力を強化するって意味での手数の増加については、ある程度アイデアが浮かんでるんだけど。


 問題はまだある。それが3つ目。接近戦に持ち込まれた時のための近接武装と防御兵装なんだよねぇ。けど、さっき蛇腹剣の採用を見送ったように、私には格闘技や武器を使った戦いの経験なんて無い。だから接近戦の駆け引きなんて多分出来ない。そうなると欲しいのは、威力が高くて、素人でも扱いやすい武器と防具。


 う~ん。盾は、左腕に接続する方式だとして、近接装備は右手に持つ?そうなると遠距離武器とかは、今のマシンガンみたいに右腕に接続するしかないなぁ。でもそうなると腕周りの装備がゴテゴテして腕全体が重くなりそうだなぁ。う~~ん。



 それから、私はしばらくベッドの上でゴロゴロしながら、新装備に身を固めたスーツの案を考えていた。 けれど、明確な方向性が固まっていないから、ちゃんとした案が出来上がる訳も無かった。


「あ~~。ダメだ。全然良い案が浮かばない」

 私は気だるげに息を付きながらベッドから起き上がった。しょうがない、少し気分転換に散歩でもしてこよう。状況を変えれば何か違ったひらめきが下りてくるかもしれないし。


 と言う事で、私は部屋を出て駐屯地の中を歩き回り始めた。とにかく、ベッドの上でゴロゴロしてても始まらないっ!どっかに何か、予想外のヒントが転がってるかもしれないしっ!!


 そう考え、私は駐屯地のあちこちを歩いた。……んだけど、その考えが安直だったとすぐに思い知らされた。 


「ハァ」


 あっちこっち歩いてみたけど、良いアイデアは浮かんで来なかった。仕方なく私は兵士の人たちのトレーニングが見える芝生の上に腰を下ろしていた。 ここから聞こえる話し声からして、どうやら新しき騎士団に入った新兵さん達の訓練をしているみたい。皆木剣で模擬戦をしたり、弓を藁人形や的に向かって撃つ練習をしている。

 

 そんな訓練の様子をぼ~~っと眺めていた時だった。

「ミコトさん?」

「ふぇ?」

 不意に声が聞こえ、気のない返事をしながらそちらを向くと、そこに居たのはリオンさん達を連れた、いつものと少し違う、ドレスではなく軍人さんが着る、黒い軍装のような恰好の王女様が立っていた。 ってか、え?嘘?メッチャ似合ってる。王女様は、それはもう美人で美少女だけど、そんな綺麗な人がビシッとした恰好でいるの。なんていうかかっこいいと美しいが混在していると言うか……。


「あ、あの?ミコトさん?」

「はっ!?」

 と、再び声を掛けられて私は自分がマリーショア王女に見とれていた事に気づいて我に返った。


「どうかされましたか?どこか、心ここにあらずと言う様子でしたが?」

「あ、いやっ、えっとそのっ!」

 見惚れていた自分が恥ずかしくて、私の脳内は空回りを続けていた。だから、か。


「そ、そのっ!マリーショア王女の姿が大変凛々しくて、思わず見惚れてしまったと言いますか、そのぉ」

「ッ!そ、そうですかっ」

 って、私は何を口走ってるんだっ!?うぅ、我ながら恥ずかしいセリフを言った気がするぅ。 恥ずかしさで頬から火が出そうになる中、チラリと王女様を見ると、彼女も頬を赤く染めながら、恥ずかしそうに視線を泳がせていた。


「んんっ!」

 その時響いたリオンさんの咳払いに、私も王女様も体を震わせた。


「ミコトはここで何をしているんだ?新兵の教練の様子を見ていたようだが?」

「あ、あ~~え~っと実はその、ちょっと今後の戦いの事で心配事がありまして」

「心配事、ですか?」

 咄嗟に話題を変えてくれたリオンさんに乗っかる形でその話を口にした。すると赤面していた王女様が一転して真剣みのある表情を浮かべた。おぉ、切り替え早いなぁ。まぁその事を口にして蒸し返すのはやめておくとして……。


「はい。今日の戦いで、色々問題点が浮き彫りになったって言うか。単純に強いだけじゃ対応に困る状況もあるんだな~って。実感したんです」

「そうでしたか。それで考え事を?」

「はい。出来れば次の戦いまでに、その問題点に対応したスーツを考えておきたいんです」

 私は首から下がっているコアを見つめながらそうつぶやいた。


 問題点を放置していたら、いつかきっと、取り返しがつかなくなるかもしれない。そうならない前に、何とかしておきたかった。とは言え……。


「まぁ、そんな簡単に解決できればよかったんですけど、今のところまだまだ全然で」

 そう言って私は苦笑を浮かべた。すると……。

「あの、ミコトさん」

「え?はいっ」

 不意に、王女様は真剣な目で私を見つめている。何だろう?と思っていると。

「良ければ私にもミコトさんの問題の解決に、協力させていただけませんか?」

「えっ!?い、良いんですかっ!?でもマリーショア王女様は、忙しいんじゃっ!?」

 まさかの提案に驚いて問いかけると、王女様は笑みを浮かべながら首を横に振った。


「問題ありません。ミコトさんのおかげで、予想以上の戦果を挙げる事が出来ました。おかげで幾ばくか時間が稼げた事もありますし、今はそこまで忙しい訳ではありませんから。よければ、お手伝いさせてください」

「そ、そう言っていただけるのであれば、お願いしますっ」

 確かに人が多ければ違った視点からアドバイスを得られるかもしれない。 そう思った私は王女様に頭を下げて協力してもらう事にした。


 その後は、場所を私の部屋に移すために私と王女様。それとリオンさんが一緒に来ている。


 そして部屋に向かう道中。

「あの、マリーショア王女?一つお聞きしても良いですか?」

「なんでしょう?」

「どうして王女様がそのような、軍人さんが着るような服を纏っているのでしょうか?」

「あぁ、これですか」

 

 マリーショア王女は、一度軍装に目を向けてから私の方へと視線を戻した。

「王国内での立場はどうあれ、今の私は兵士たちを指揮する、指揮官の一人です。ならば通常時も、ドレスなどを着ているよりこちらの方が兵に示しも付くでしょうと言われ、この軍装を貰ったのです」

「そうだったんですか」


 理由を聞き納得しつつ、私は軍装姿のマリーショア王女に目を向ける。いや、ホントに凛々しいわぁ。王族の持つオーラや雰囲気と、軍装が持つ荘厳さがうまく調和している感じ。ホント、綺麗な人は何を着ても似合うなぁ。


 なんて思いながら歩ていると、部屋に到着。早速中に入って、私は王女様とリオンさんに、私が今抱えている3つの問題点について話した。


「成程。つまり現在のミコトさんの問題点を要約すると、『味方への誤射を気にせず、尚且つそこそこ威力のある武器が欲しい』、『手数の少なさをカバーする武器が欲しい』、『接近戦に備えて防御用の装備と、今のミコトさんでも扱える近接戦闘用の武器が欲しい』。と、こんなところでしょうか?」

「はい。おおむねその通りです。一応、2番目の問題、手数の問題についてはある程度私の方でアイデアが浮かんでいるので、後はこれを試して改良と強化を行けるかな~とは思ってるんです。なので今のところの問題は1と3なんです」


「成程。……時にリオン?何か良いアイデアはあるかしら?この中で実戦経験が豊富なのはあなたなのだし」

「残念ながら、ご期待に副えるどうか。そもそもミコトの悩みは、どこか矛盾しています。1番目のそれはまさにそうです。威力がそこそこあって尚且つ貫徹能力が低い武器など、そもそもあるのですか?切れ味の良い剣や鋭い槍は、相応の切れ味や威力を持ちます。更に3つ目のミコトでも扱える近接装備、との事でしたが。剣も槍も弓も、相応の修練を積み重ねて扱いに慣れていく物です。誰しも最初から扱いきれる武具など、果たしてあるのでしょうか?」

「うぅっ」

 

 これ、リオンさんの言う事が最もなんだよなぁ。実際、矛盾してるのは私でも分かる。でも……。


「確かに、矛盾しているのは私でも分かります。でも、今の私にはリオンさん達程の技術はありません。剣も弓も槍も、握ったことはなくて。だからこそ私に出来るのは私自身が持つ知識を生かして強い武器を作る事なんです」


 今の私にはそれしか出来ない。戦闘技術が未熟な私には、前世のアニメや漫画の知識を総動員して、優れた武器をクリエイトしてその未熟な部分をカバーする事しか出来ない。二人とも、真剣な様子で私の言葉に耳を傾けてくれている。


「技術が数日で身に付かないのは私だって分かります。だからこそ、私は私に出来る事で強くなるしかないんです」

 そうだ。私は、強くなるしかない。そうじゃないと、私は誰も守れない。私の目の前で、悲劇なんて絶対に繰り返させないっ! あの日の痛みと絶望を思い出したためか、自然と拳を強く握りしめてしまう。。


「私の前で、誰も死なせない為に。誰も悲しまないように」

「ミコトさん」

 私は真っすぐ王女様を見つめながら、自らの思いを言葉にした。すると……。


「本当に、私は良い人と巡り合う事が出来ました」

「え?」

 不意に、王女様は微笑みを浮かべそう口にした。

「そうやって、誰かのために戦えるミコトさんの姿勢には感服いたします」

え?な、何かいきなり褒められた?ちょっと嬉しいけど、恥ずかしいなぁ。


「あ、ありがとうございますっ」

 突然の誉め言葉に、私は顔を赤く染めながら、真っ赤な顔を見られたくなくて視線を下げた。うぅ、は、恥ずかしいけど今はそんな話は良くてっ!


「そ、それよりマリーショア王女様にお聞きするのもあれなのですがっ、先ほどの問題点について王女様は何かご意見などありますかっ!?」

 恥ずかしさを紛らわせたくて、私は強引に話題を変えた。


「そう、ですね。では例えばの話になりますが、矛盾を解消するためにどちらかを妥協するのはいかがでしょう?」

「妥協、ですか?」

「はい。相反する二つの要素、すなわち矛盾がある以上、こうなればどちらか片方を優先するほかありません。例えば、第1の問題点について。ミコトさんは武器の威力と安全性、どちらを最優先にしますか?」

「う~ん。それについては、やっぱり安全性、ですね。万が一にも誤射なんてして、誰かを殺してしまったらと思うと。ぞっとします」


「そうですね。であれば、安全性を第1にして、この際それ以外の要素を後回しにして考えましょう。安全性を最優先に、ミコトさんが使いやすい武器は何かありませんか?」

「う~~ん」


 私は必死に、頭の中にある知識の中から該当する武器を探していった。やがて、とある一つの武器ジャンルへと行きついた。


「あっ。……非致死性兵器、テーザー銃?」

「ミコトさん?何か?」

 不意に脳裏に浮かんだ単語を呟いていると、王女様が声をかけてきた。

「あっ、え~っとその、一応安全性を最優先にした武器、と言うので一つ当てはまる物を思いつきまして」

「本当ですか?それはいったい?」

「え~~っと」


 その後、私は銃や電気、と言う単語の意味が分からない二人に四苦八苦しながらも、テーザー銃について話した。


「成程。つまり本来は、離れた位置から相手を無力化する武器、と言う事ですね?」

「はい。ただ、私の知る限り、テーザー銃は扱い方を間違うと人の命を奪う危険があります」


 以前、ネットニュースで話題になっていた。テーザー銃を撃ちこみ、電流を流し込まれ続けた結果、心肺停止などに陥り死亡する事件などがあったみたい。でも、言い方は悪いけどそれってつまり……。


「でも、逆に言えばテーザー銃の電圧、つまり電撃の威力を強化する事が出来れば、テーザー銃は立派な殺傷兵器となります」

「成程。しかしそれでは意味がないのではないか?今優先しているのは安全性なんだろう?」


「はい。確かに問題はありますが、普通の銃とテーザー銃では少し行程が異なるんです」

「行程?」

 リオンさんの疑問に私が答えると、更にリオンさんは首を傾げた。


「本来、銃の肯定は、狙う、引き金を引いて撃つ。大きく分けてこの二つです。でもテーザー銃の場合、狙う、引き金を引いて撃つ、相手に電極部分つまり針が刺さったのを確認、電流を流して攻撃、って感じになるんです」

「ふむ。単純に銃とやらよりも行程が多いな」

「はい。でもだからこそ安全なんです。万が一にも味方に電極が刺さってしまっても、電流さえ流さなければちょっと刺された程度で済みますから」

「成程。しかし、行程が多いうえに、話を聞く限りではそのでんきょく?とやらが刺さった後、相手が死ぬまで電撃を流し続ける必要があるのだろう?」


「はい」

 私はリオンさんの言葉に小さくうなずいた。


「テーザー銃を使う場合、電極が刺さってから相手が倒れるまで電流を流し続ける必要があります。まぁ、例え倒せなくても、電流が通れば少なからずダメージを与えて行動不能に出来るとは思いますが。……その辺りは、誤射の危険性の低下と引き換えに、って事ですかね」

「そうですね。しかしこれで、1つ目の問題はとりあえずの解決を見た、と言う事でよろしいですか?」

「はい。一応は。まだまだ改良と強化の余地あり、って感じですけど」


 私は王女様の言葉に頷く。確かにまだまだ改良の余地はあるけど、とりあえずはこれで良しとしよう。ただ、問題はもう一つある。


「それで次は3番目の問題なんですけど……」

「防御のための武器と格闘武器、か」

 私の言葉に、リオンさんは顎に手を当てて、色々考えこんでいる様子だった。


「やはり接近戦となれば基本的な装備は剣と盾だろう。ミコト、この事に関してアイデアはあるか?」

「そうですねぇ」

 私は接近戦で戦う事を想定して、数秒唸りながら考える。


「正直、両手に物を持つのは避けたいですねぇ」

「なぜだ?」

「例えばの話ですけど、左手に盾。右手に剣を持っちゃうと、別の装備と切り替える時に時間が掛かる事。それに、例えば右腕の前腕に武器を内蔵していたとすると、剣を握ったままそれを使う事になるじゃないですか?でも、そんな状態のままだと、握った剣がすっぽ抜けてどっかに飛んでいくかも?って思ったら危ないなぁって」

「成程。確かに、慣れない状態だとそうなる可能性もある、か」


 私の話を聞き、再び顎に手を当て考え込む様子のリオンさん。

「ならばミコト。どの数までだったら、同時に使いこなせると思う?」

「そうですね。やっぱり、今の私じゃ二つ程度、ですかね」

「二つ、か。そのうちの一つを射撃用の武装とすると、残り一枠。となると剣と盾の二つを同時に装備するのは無理そうか」

 リオンさんは腕を組み、難しい顔でう~んとうなっている。すると……。


「あの、ミコトさん」

「はい、何でしょうか?」

「もし仮に、ですが。ミコトさんが3つ以上の装備を扱いきれないというのなら、そのうちの二つを融合させて一つの武器にしてしまうのはいかがでしょうか?」

「えっ?武器を一つにする、ですか?」


「はい。武器が多すぎて扱いきれないのなら、減らせばいい。更にミコトさんの発想力があれば、二つを一つに出来るのでは、と思ったのですが。少し突拍子もない提案、ですね」

 発案しておいて何ですが、と言わんばかりに乾いた笑みを浮かべる王女様。いやでも……。


「剣と盾を、一つに?」

 王女様の発案を聞いた時、私の脳裏に一つの武器の姿が浮かんでいた。『ジャマダハル』。北インドでかつて使われていたという、独特な形をした刀剣。独特な持ち手で保持するジャマダハルは、刀剣の後ろに英語のHやUの文字のような持ち手を持つ刀剣。


 じゃあ、その持ち手の部分に装甲を配置したら?盾として使用できないかな?いや、可能性はあるかもっ!あぁでも、そうなると大きいから装備するとなるとがさばるなぁ。折り畳み式?ううん。強度面で不安が残りそうだからパスかなぁ。せめて刃を展開式とかに出来れば……。 


「ミコト?」

「うぇっ?あ、は、はいっ。何でしょうっ?」

 リオンさんに声を掛けられ、色々考えこんでいた私は我に返った。


「何か考え込んでいたようだが、どうした?」

「え~っと、一応武器を一つにする、っていうアイデアに合致する武器があったんです」

「ほう?ではそれを採用すれば良いのではないか?」

「一応、今のところそれが最適解だとは思うんですが。ただ、それだと大きいので装備する段階でがさばるなぁって思って」

「ふむ?」


「う~~ん、あと一歩、あと一歩アイデアが出ればなぁ」

 あと一つ、最後のピースが出ればいい気がするんだけど、それが浮かばないっ!うわ~めっちゃもどかしいなぁっ!

「何か、小型化に良いアイデアは……」

 そう、呟いた時だった。


「小型、ですか。そう言う意味ではミコトさんの武器、ビームピストルでしたか?あれは凄かったですね?」

「え?」

 不意に王女様から振られた話題は、ビームピストルの事だった。

「小さいながらもワイバーンに致命傷を与えるあの威力は、凄まじいという他ありません。素人考えになってしまいますが、あれは小型で取り回しも楽そうでしたし。あれに接近戦用の刃などを付けるのはいかがですか?」


「え、え~っと。まぁ、確かにそれもありですね。ビームピストルは確かに小さいから接近戦の時にも邪魔にまりませんし。確かに銃の下部に剣を付けるのは不可能ではありまん」

 王女様の話は分かる。でも、それだと盾としての機能がなぁ。ビームピストルに剣なんて……。………ん?


「ミコト、さん?」

 視界に映る、こちらの様子を訝しんでいる王女様。けれど、今の私には、彼女の言葉は聞こえていなかった。 ビーム、剣。ビームの、剣。その言葉を考えた瞬間、最後にピースが揃ったっ!


「ッ!」

 脳裏によぎるそれは、日本でロボットアニメが好きなら絶対に知っている作品に、必ずと言って良いほど登場している武器。その閃きに私は思わず息を飲んだっ。そうだよ、あれがあったっ!


「『ビーム、サーベル』……っ!」


 SF系などのゲームやアニメではお馴染みっ!ビームで出来た武器っ!ビームで出来た近接戦装備っ!そのことを思い出して私は思わずその単語を呟いてしまった。


「び、びーむさーべる、ですか?」

 それはいったい?と言わんばかりに首をかしげている王女様。ってそうだよっ!王女様のおかげで気づけたんだっ!ははっ!


 私は喜びのままに、ソファから立ち上がり、机の上に身を乗り出し、王女様の手を取った。

「ふぇっ!?み、ミコトさんっ!?」

「ありがとうございますマリーショア王女っ!王女様の言葉で最後のピースが揃いましたっ!」

「そ、それは良かった、ですね?……あ、あの、手を」

 なぜか恥ずかしそうに顔を赤く染めている王女様っ!なんでだろ?まいっかっ!


「ホント、ホントにありがとうございますっ!」

 私は喜びの笑みを浮かべながら王女様の手を握っている。

「ど、どういたし、まして?」

 私の喜びように少し戸惑っている王女様。更に視界の端でリオンさんも大量のハテナマークを浮かべていたけど、まぁいいやっ!


 王女様の言葉で最後のピースが揃った。私が直面した今回の問題の、答えとなる新たなスーツの開発。そのために必要な単語は揃った。


『テーザー兵器』、『ビーム兵器』、『ジャマダハル』。そして、『無人機』。


 今まさに、私は頭の中で組み立てていた。チェンジングスーツの、次なる姿を。


     第10話 END

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