第11話 ゴブリン討伐作戦・前編
戦いを通して今の装備の問題点に直面した私は、今後の戦いのために新たな装備を考える事にした。所々矛盾を抱えながらも、マリーショア王女やリオンさんと話し合いながら、私は新たな装備の案をまとめていくのだった。
北の森でのリザードマン達との戦闘から、数日が経過した。あれからと言う物、私はチェンジングスーツの新しいバリエーションの開発に取り組んでいた。テーザー銃をベースにした新型武器の威力調整とか、色々ね。 その辺りはマリーショア王女やリオンさん、更に駐屯地の人たちにも協力してもらいながら、開発と改良を重ねた。
そんなある日。
「え?明日、また森に?」
私は王女様の部屋に呼ばれていた。出されたお茶に口をつけた後、その話題が王女様の口から語られ、私は思わず問い返した。
「はい。既に新たな討伐隊の編成は完了しています。再び私が指揮を執り、森における魔物の討伐作戦を行う予定ですが、ミコトさんの方はいかがですか?ここ数日、新しい鎧の開発に取り組んでおられたようですが」
「え~っと」
新型の開発にはとりあえず目途がついてる。後は実戦でのテストをして、更なる問題点を洗い出すくらいしかやる事は無いし。つまり……。
「大丈夫ですよ。新型もある程度は完成していますから。いつでも出撃出来ます」
「そうですか。では明日、再び森へ向かいます」
私が自信ありげに頷くと、王女様も笑みを浮かべて頷いた。
「分かりましたっ」
う~~。また実戦かぁ。まだまだ慣れないから緊張するなぁ。しかも新型の初実戦ッ!やばぁ、ちょっと不安が。……いやいやっ!その実戦のために色々テストして改良したんだからっ!頑張るしかないっ!うんっ!
私は自分自身に言い聞かせながら、その日は早めに休んだ。
翌日。私たちはこの前のように馬車で森へと向かった。森の前で止まった馬車から降り、私は森を見つめる。 この奥には、まだ見ぬ魔物が居る。それを相手に新装備で戦う。
まだまだ数えるほどしか戦闘経験のない私は、緊張から固唾を飲んだ。まぁでも、前回ほどは緊張してない。よしっ。
「ミコトさん」
その時、王女様から声を掛けられた。
「兵たちの準備が出来ました。後はミコトさんだけです」
「分かりました」
私は頷き、コアを右手で握り締めながら目を閉じる。 すると脳裏に浮かぶ、私が事前に登録してあったロードアウト。無数のスーツの姿が。 そんな無数のロードアウトの中から、新型のスーツを強く意識し、そして叫ぶ。
「≪チェンジアップ≫ッ!」
いつもの起動ワード。直後、コアからあふれ出した流体金属が私を包み込み、パワードスーツとなる。そして、新たなパワードスーツのお目見えとなった。
従来の金属特有の光沢を放つ鈍い銀色ではなく、今回のそれのカラーは、森林での戦闘を考慮として全体をオリーブドラブ色で統一。基本的な姿形こそCSA-01と大差ないけど、武装は大違い。
まず一番目を引くのが、背中と両肩にセットされている大きな四角い金属パーツ。これはこのスーツの中心的な装備。
次は頭部から伸びる角。これはセンサー系の強化を目的とした、いわゆるブレードアンテナ。気分は某赤〇彗星さんの専用機、ってね。
お次は右腕に装備された、3つの筒、魚雷発射管みたいなの。これはテーザー銃を基本とした新武器。
そして、最後は左腕の前腕部分に装着された楕円形のパーツ。これが、私の新装備。新型チェンジングスーツ、『CSA-02』の武装と装備。
「前と、違う?」
そんな時だった。傍で私の事を見ていた兵士の一人がぽつりとつぶやいた。更に数人、前回のCSA-01と違う事に首をかしげていた。
「えぇ。そうですよ」
そんな彼らの方に振り返りながら私は答える。
「前回の戦闘で判明した問題点などに対して新しい装備などを開発する事で対応してるんです」
「「「へ、へ~~」」」」
私の言葉を聞きながらも、兵士の人たちがそんな声を漏らす。
「ミコトさん。そろそろ」
「あっ、はいっ!」
王女様に声を掛けられ、私は前方を向く。 そして私たちは再び、森へと侵入していった。
まず私たちが向かったのは、数日前リザードマン達の群れが居た所。王女様曰く、『あの湖の周囲は現在、どの魔物の領域でもない空白地帯です。その空白地帯を、新たに自分のテリトリーにしようと魔物が来て居る恐れがある』、って事らしい。
レーダーで警戒しつつ進んでいると……。
「ッ」
先頭を歩いていた私は足を止めて、左手を掲げてぐっと握りこぶしを作った。するとそれを見た兵士の人たちも同じ仕草をする。それが全体に広まり、皆足を止めた。
これは王女様から事前に教えられた合図だ。簡単な物で、この合図の意味は『止まれ』。……メッチャ軍隊のハンドシグナルっぽいんだよなぁ。まぁそういうの、あこがれがあったから良いんだけど。 って、今はそうじゃなくて。
私は周囲を警戒しながら王女様の元へ向かう。
「レーダーに反応がありました。数は6匹ほど」
「分かりました。各自、最低限音を立てないように静かに行動するように。湖に向かいます」
王女様の指示にみんなが無言で頷く。私も最前列へと戻り、歩みを進めた。
やがて、湖に近づくと、兵士の人たちを残して私とマリーショア王女、リオンさん達数名だけで湖へと歩みを進めた。 湖が見える草むらまで進み、レーダーを確認し反応がある方角を確認。おっと。
「王女様、あそこに」
私が指さした先に王女様たちが視線を向ける。
「あれは。ゴブリンの群れですね」
静かにつぶやく王女様の言う通り、私たちが見つけたそれは『ゴブリン』の群れだった。
サイズは人間の子供程度。醜悪な顔立ちに緑色の体色。貧相な腰布とこん棒や粗悪な弓、槍などで武装した魔物。ファンタジーゲームなどでド定番の存在。それが今、川辺で暇そうに寝転んだり、石を水面に投げ込んだりしていた。
「あれは?」
「恐らくこの辺り一帯の警備兵、と言った所でしょうね」
「警備兵?」
首をかしげる私に王女様は答えてくれたけど、なぜ警備兵なの?と言う風に意味が分からず私は更に問いかけた。
「魔物たちのテリトリーはその時々に応じて変動します。群れの総合的な強さや、相手の疲弊具合などで、簡単にです。そのため、数に優れる魔物はあぁしてテリトリーの各地に仲間を配置し、人間の警備兵のような事をさせる事がある、と以前魔物関連の書物で読んだことがあります」
「な、成程」
さっすが博識の王女様。でも警備兵かぁ。
「どうします?ここでやっちゃいます?幸い、数は少ないみたいですけど」
「いえ。それは早計ですね」
「そう、なんですか?理由を聞いても?」
あの程度の数なら、奇襲して余裕で倒せそうなのに。なんて考えながら私は王女様に問いかける。
「ゴブリンとは、本来魔物の中でも底辺の存在です。それが、このハーピーやジャイアントモールがはびこる森でこの湖を確保しているとなると。おそらく上位種が居る可能性があります」
「上位種?」
「はい。ゴブリンより進化し、成人男性を超える巨躯と力を手にした『ホブゴブリン』。他には魔法を扱う『ゴブリンシャーマン』や、弓の扱いに長けた『ゴブリンアーチャー』。あるいは、統率力に優れた『ゴブリンキング』が居る可能性もあります」
「そ、そいつらって、強いんですか?」
「いえ。正直、個々の戦闘力はそれほど高くありません。しかしゴブリンの強さとは数の多さなのです。もしゴブリンキングクラスが居るとなると、群れの数は先日のリザードマンの倍以上、かもしれません」
「ば、倍以上って……っ!?」
あの時のリザードマンだって30匹近く居たんだよっ!?それの倍以上となると……。
「ま、まさか100匹近く居るって事ですか……っ!?」
「その可能性もあるかもしれません。他の魔物との小競り合いで数が減っているとしても、最低でも50匹以上は居ると仮定した方が良いかもしれません」
「……」
王女様の眉をひそめながらの言葉に危うく、マジかぁ、と言う声が漏れそうになるのを防ぐ。しかし、100匹近くかぁ。
「どう、します?一応、このCSA-02は多対多を想定していますけど?」
「とりあえず様子を見ましょう。ゴブリンの巣穴でも分かれば……」
と、話をしていた時だった。
「姫様っ、どうやら連中、移動するようですっ」
リオンさんの声が聞こえ、私と王女様は視線を上げた。
見ると、確かにリオンさんの言葉通り、ゴブリンたちが各々武器などを手に歩き出した。
「巣穴に戻る、んですかね?」
「分かりませんが、その可能性はありますね。ミコトさん、あのゴブリンの群れを尾行できますか?」
「尾行ですね?それなら多分、『この子たち』が出来ると思います」
私はそう言って、笑みを浮かべながら背中と両肩のパーツを指さす。どうやらついに、この子たちの出番のようだっ。
「では、お願いします」
「分かりましたっ」
王女様の指示は貰った。それじゃ、この子たちの初陣と行きましょうっ。
「システムコマンド、音声入力。『トライインターセプター』、起動」
私の音声によるコマンド入力。すると直後、両肩のパーツと背中のパーツのジョイントが外れ、3つが地面に落下するかと思われた。けど……。
直後、音を立てて3つの金属製の箱が『変形』した。両肩パーツの二つは、まるで蜂のように。背中のそれは蜘蛛のように。
「っ、これは?」
王女様は、突如として変形し現れた鋼鉄の蜂と鋼鉄の蜘蛛に驚いた様子だった。当然、リオンさん達も驚いている。
「これが、私が考えた手数不足を解消するための、鋼鉄の仲間。『自動攻撃機』、『ドローン』です」
私は、変形した鉄の蜂と鉄の蜘蛛、ドローンを王女様たちに紹介した。それは、私と同じくオリーブドラブ色で塗られた鋼鉄の昆虫。それが今私たちの前にいる。 背中に装備したエネルギーウィングで滞空する蜂型のドローンと。地面の上から私を見上げる蜘蛛型のドローン。
「どろーん?」
聞きなれない単語に王女様が小首をかしげている。まぁ、こっちの世界の人じゃドローンなんて単語、知らなくて当たり前だよね。
「はい。この子たちは私から大まかな指示を受けると、あとはそれぞれが自分の判断の元に行動します。例えば、特定の人を守れ、と命じればその人の傍で戦いますし、何かを追え、倒せと命じればその通りに動きます」
私が蜂型ドローンの一機の方へ腕を伸ばし、ここへ、と思念操作で指示を出すと蜂型ドローン、『メタルホーネット』の1機がその腕の上に止まる。
ちなみにホーネット、スズメバチなんて名前が付いてるけど。見た目のベースはセイヨウミツバチ。……流石にあんな凶悪フェイスのドローンをパートナーにする勇気は無かったなぁ。まぁ、機械だからそこまで怖くはないんだけどさ。
「その、どろーん達は戦えるのですか?」
「はい。私のスーツ程ではありませんが、それぞれが強固な装甲で覆われているため、体当たりも可能です。加えて3機すべての足の先端に、触れた相手に電流を流す電気ショックを内蔵。この蜂型ドローン、メタルホーネットの下腹部先端には鋼鉄の針の発射装置が。更にこっちの蜘蛛型ドローン、『メタルスパイダー』には、口の中にある針から嚙みついた相手に麻痺毒や普通の毒などを流し込む事が出来ます。更に更にっ、この子たちの目でとらえた映像は私のスーツに送られる仕組みなので、偵察などにももってこいなんですっ!」
「そ、そうなんですか。すごい、ですね」
「それはもうっ!色々考えましたからっ!」
機械で虫の形はしていても、この子たちは私が考え生み出した私の子供みたいな存在っ!王女様は若干引いてるけど、それでも褒められて嬉しいっ!
「あ~~。ミコト?話の腰を負って悪いが、ゴブリンたちの尾行は?」
「はっ!?」
や、やばっ!説明に夢中になっちゃったっ!? 慌ててレーダーを確認するけど、よしっ!まだギリギリレーダー範囲内っ!
「みんなっ、このレーダーに映ってるゴブリンの集団を尾行っ!気づかれないように距離を取りつつ追跡してっ!」
私が音声コマンドで指示を出すと、メタルホーネット2機にメタルスパイダーはコクリと頷き、移動を開始した。ホーネットは背中の羽を羽ばたかせて飛んでいき、スパイダーは手近な木の上に上ると、枝と枝の上を飛び跳ねながらホーネット2機を追っていった。
しばらくすると、3機とも見えなくなってしまう。さて、追い付けたかなぁ?
「え~っと、視覚情報をデータリンクで取得、っと」
音声コマンドを入力すると、ヘルメットのディスプレイの隅に、3機のドローンの視覚映像が映し出された。
「うん。よしっ」
映像を見る限り、3機ともゴブリンの群れと距離を取って追跡している。
「3機ともゴブリンの追跡を開始しました。気づかれてる様子はありません」
「分かりました。では後方の兵たちと合流し、そのドローンの後を我々も追いましょう」
「分かりましたっ」
って事で、私たちは待機していた兵士さん達と合流。再び私が先頭に立ち、ドローン3機を追って森の中を進んでいった。
しばらくして……。
「ッ」
不意に、ドローン3機の動きが止まった。映像を確認すると、ゴブリンたちが大きな洞窟の中へと入っていく姿を捉えていた。
私は再び止まれのハンドシグナルをして、足早に王女様の元へと歩み寄る。
「ゴブリンが巣穴らしき洞窟に入っていくのをドローンが捉えました。ここからそう遠くはない場所です」
「……分かりました」
私の報告に、王女様は一度目を閉じ何かを決意したような表情で頷く。
「リオン、皆に通達を。この先の巣穴に潜んでいる恐れのあるゴブリンを、討伐すると」
「はっ!」
王女様の指示を受け、リオンさん達がすぐさま周囲の兵士たちに小声で指示を伝えていく。
「ミコトさん。戦闘の前にお願いしたい事があるのですが、よろしいですか?」
「はい、何でしょう?」
「今回の戦いは、巣穴、言わば敵の本拠地での戦いとなります。この場合、我々の理想はゴブリンを巣穴からおびき出し、出てきた所を弓矢の一斉射で攻撃し、最初の攻撃でゴブリンの勢いと数を減らす事です。ですがこれは、奴らの巣穴からの出口が一つだけでないと成功しません。出入口が複数あった場合、一つに集中している間に他の出入り口から出てきた別動隊に奇襲されてしまえば、元も子もありません」
「た、確かに」
王女様の言う状況を脳内でイメージすると、確かにヤバそうだ。
「そこで、現在巣穴周辺に居るミコトさんの、ドローン、でしたか?それに巣穴の周囲を索敵、他に出入口が無いか探してほしいのですが、可能でしょうか?」
「えぇ。それなら大丈夫ですよ」
問いかけてくる王女様に私は快く頷いた。
「じゃあメタルスパイダーを、最初に見つけた入り口の監視に残して。他の2機、メタルホーネットに周囲を探索してもらいます。これで良いですか?」
「えぇ。十分です。お願いします」
私の言葉に王女様は安堵したように小さく笑みを浮かべながら頷いた。よし、じゃあ早速っ。
≪トライインターセプターに通達。メタルスパイダーは現在地で待機のまま洞窟の監視を続行。メタルホーネット2機は洞窟の周辺を索敵。他にゴブリンが使用可能な出入口らしき洞窟が無いかを調査≫
思念操作でドローン3機、トライインターセプターに指示を送ると、すぐさまメッセージで『『『了解』』』と言う文字が返ってくる。そして指示を受けたメタルホーネット2機が動き出した。
「メタルホーネット2機に偵察を命じました。今はあの子たちの調査結果待ちですね」
「分かりました。では、すぐに攻撃に移れるように、巣穴の近くまで移動します。ミコトさんはいつも通り前衛として周囲を警戒しつつ巣穴への先導をお願いします。それと、出来るだけゴブリンを刺激したくないので戦闘は可能な限り避けてください」
「分かりましたっ」
と言う事で再び私が先頭となり、私たちはゴブリンの巣穴目指して移動を開始した。途中で、レーダーの範囲に魔物が引っ掛かった事で、それを大きく迂回しながらとりあえずメタルスパイダーの所まで行く。
「あっ」
あと少しでメタルスパイダーと合流出来る、と言う所でふと思った。そういえば兵士の人たちってメタルスパイダーが変形するところ見てないよね?下手したら「あっ!?魔物っ!?」とか言って攻撃しちゃうかもっ!?
「あ、あのぉ」
「はい、何でしょう?」
私は足を止め、近くにいた兵士の人に遠慮がちに声をかけた。
「実はですね、すぐそこに私の部下と言うか、仲間?みたいなのが居るんですが、それが蜘蛛の形をしていまして」
「蜘蛛?虫の蜘蛛ですか?」
「はい。鉄でできた蜘蛛みたいな奴なんですが、それともうすぐ合流しますから、後ろの人たちにですね、その鉄の蜘蛛、メタルスパイダーを見ても驚かないように伝えてほしいんです。お願い、出来ますか?」
「わ、分かりました」
兵士の人は良く分かってないような、少し戸惑った表情のまま周囲にそのことを伝えてくれた。
そして、更に数分歩いていると……。
「あっ、いたっ」
私は足を止め、一本の木を指さす。木の幹の張り付くようにしてメタルスパイダーが居た。
「「「「ッ!?」」」」
そして直後、私の指さす方へと視線を向けた兵士さん達が驚愕の表情のまま息を飲んだ。
「な、何だあれ……っ!?」
「あ、あれがミコト殿の言ってためたるすぱいだー、か……っ!?」
「確かにあれは、鉄の蜘蛛だな……っ!」
ひそひそと小声で話している兵士さん達の声が収音マイク越しに聞こえる。あ~、やっぱビビるよねぇ。人間並みに大きい蜘蛛なんて。 そんな事を考えていると。
「んっと?」
不意にヘルメット内部に響く着信音。それは周囲を偵察していた2機のメタルホーネットからのメッセージの着信音だった。え~っとなになに?
『2機とも≪≪周辺にその他の出口らしき穴は発見できず≫≫、か』
う~ん、この報告を素直に受け取れば他に出口は無し。けど逆に言えば、あの子たちの索敵を欺くほど巧妙に出口が隠されてる可能性もある、って事だよね?……とはいえ、私一人で考えてても始まらない。とりあえず王女様に報告しないと。
って事で私は王女様のところへ行き、この情報を伝えた。
「そうですか。別の出入り口は発見できず、ですか」
「はい。ただ、これを出口が無いって喜ぶべきなのか。ホーネット達に発見できないほど精巧に隠されているかもと怪しむべきなのか。私にはちょっと判断出来なくて……」
「成程」
若干分からずじまいで、マスクの下で困り顔を浮かべながら話す私。王女様は私の話を聞くと、真剣そうな表情を浮かべながらしばし何かを考えていた。
「過去に、ゴブリンが巣穴を掘ったという話は聞いたことがありません。が、統率力に優れているゴブリンキングが居るかもしれない以上、警戒はしておくべきと私は考えます」
「そ、それで?」
どんな作戦があるんだろう?興味を引かれた私は恐る恐る問いかけた。
「作戦自体は先ほどと変わりません。が、周辺を警戒するために後列の一部に背後や左右の警戒をさせます。ただ、こうなると問題が一つ」
「問題、ですか?」
「はい。兵を警戒のために配置する、と言う事はゴブリンと戦う戦力が分散してしまう事になります。相手の数も未知数であり、こちらよりも数が上となると一人当たりの負担がそれだけ増える事になります。そうなると、我々が頼りにならざるを得ないのが……」
「私、もっと言えばこのスーツの戦闘力、ですね?」
「はい。我々は巣穴を包囲して弓兵を配置。その前方に弓兵とゴブリンを隔てる兵士たち。ミコトさんにはその更に前で戦っていただくことになるかもしれません。そうなれば、ミコトさんの負担は皆の中でも特に大きなものとなってしまいますが、お願いできますか?」
申し訳なさそうに目を伏せ、表情を曇らせる王女様。
「そんな顔をしないでください、マリーショア王女」
「え?」
「大丈夫ですよっ!なんてったってっ!このパワードスーツは伊達じゃありませんからっ!」
暗いその表情を何とかしたくて、私はマスクの下で笑みを浮かべながら胸部装甲を軽く叩く。
「活躍して見せますよ。他の人より。何倍も。何十倍でも……っ!」
「ッ。ありがとう、ございます。ミコトさん。そう言っていただけるととても心強いです」
私の言葉に王女様は笑みを浮かべた。 そうだ。やってやるっ。このパワードスーツは、魔物を倒して誰かを守るために私が作ったんだからっ。
さて、その後私は一度ホーネット2機を帰還させてスーツと再合体。一度消費したバッテリーをリチャージしてる。
ホーネット2機は飛行能力もあるし、蜂の針を模したニードルガンを尾の先端に搭載している一方で、欠点があった。それはバッテリーのサイズとそれに伴う活動時間。 メタルスパイダーの方は下腹部の膨らみに大型バッテリーを内蔵している都合でそちらに武器を搭載できなかった。なので稼働時間が長くパワーも優れる反面、遠距離攻撃が出来ないという弱点があった。逆にメタルホーネットは飛べるし中距離攻撃も出来るけど、スパイダー程長時間の運用は不可能なんだよね。
ま、まぁ何物にも欠点とかあった方が可愛げがある~、みたいなのをとあるゲームキャラのオタクさんが言ってたけど。今それは置いといて。
とにかく戦闘に備えて少しでもエネルギーチャージをしておく。その傍で、ゴブリンたちに気づかれないように弓や盾、槍で装備した兵士の人たちがゆっくりと包囲網を展開していく。
「姫様。部隊の配置、完了しました。いつでも始められます」
数分して、リオンさんが準備完了の報告を王女様にしにやってくる。傍にいた私にも聞こえた。いよいよか。
「分かりました。では、ミコトさん。お願いできますか?」
「はいっ」
私は王女様の言葉に力強く頷くと、少しだけ深呼吸をしてから洞窟を見据え、歩き出した。
隠れていた草木から出て、洞窟の前に立つ。
両肩には展開前のメタルホーネット。メタルスパイダーの方は、万が一に備えて王女様の警護として傍で待機させてる。両腕の各種装備も問題なし。
よしっ!そんじゃまぁ、王女様に頼まれた通りやってやりますよっ!私は大きく息を吸い込み……。
「ゴブリン出て来ぉぉぉぉぉいっ!!!出てこないと、洞窟を大きな岩で塞いじゃうからなぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
スーツのスピーカーをONにして、洞窟の目の前で叫んだ。声が洞窟の中で反響し奥へと響いていく。すると……。
「ッ!」
収音スピーカーが拾った、奥から無数の足音とゴブリンの唸り声や叫び声が響いてきたっ!!
「来た来たっ!!メタルホーネットッ!お願いっ!」
私は洞窟の入り口から少し距離を取り、叫んだ。直後指示を受けた両肩のメタルホーネットが分離変形し、私のすぐそばで滞空する。
「っしっ!来いっ!!!」
自分自身に気合を入れる意味でも、やる気を声にして飛ばすっ。
新たなスーツ、CSA-02の初戦の相手は無数のゴブリンの群れ。そしてそのゴブリンたちが、今まさに暗い洞窟の中から、唸り声をあげて現れようとしているのだった。
第11話 END
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