第9話 北の森討伐作戦・後編

 魔物を間引く討伐作戦のために北の森を訪れた私たち。マリーショア王女が指揮する部隊に私も組み込まれ、森の中へと足を踏み入れた。私の森での初陣の相手となったのは、人型のトカゲ型モンスター、リザードマンだった。数匹を撃破しつつも左腕のマシンガンが破損してしまうが、まだまだ魔物の存在はあるため、私たちは王女様に指揮されながら更に森の奥へと足を踏み入れるのだった。


 

 今私たちは森の中を奥へ奥へと進んでいた。先頭を私が歩いて、後ろに兵士の人たちが続く。さっきと違うのは、王女様が部隊のど真ん中にいる事。さっきは安全のために後方に居たけど、リザードマンが後列を襲撃しようとしていた事から危険だと考えたみたいで今は真ん中にいる。もちろん周囲はリオンさん達が固めている。


 そして、皆が周囲を警戒しながら歩いていると。

≪警告、前方に無数の生体反応を検知しました。反応数、現在の所10体≫

 支援AIからの警告のポップアップがスクリーン脇に表示される。

「ッ」

 私はすぐさま息を飲み、足を止めて振り返った。 


「スーツのレーダーに反応がありました。この先に、何かいます。数は10体」

「「「「ッ!」」」」

 スーツとか、レーダーとか。兵士の人たちには分からない単語だろうけど。でも、何かが10体も居ると聞いて兵士の人たちはすぐさま息を飲み、次いで険しい表情を浮かべた。一人が中央に居る王女様の元に近づき、私の言葉を伝える。


「前方のミコト様より連絡がっ。前方に10体ほど何かが居ると」

「ッ、そうですか。分かりました」

 王女様と兵士さんの会話をスーツの聴覚システムが捉え、人の合間から見える王女様の表情は少し険しい物だった。


「確か、魔物増加現象の前に記された地図ではこの辺りに湖があったはず。ミコトさんをここへ」

「はいっ」

 王女様は私に用があるみたいで、すぐさま兵士の人が駆け寄ってくる。


「ミコト様、こちらへ。王女殿下がお呼びです」

「はいっ」

 話は聞こえていたけど、私は頷きマリーショア王女の元へ向かう。


「ミコトさん。可能であれば、前方の偵察をお願いします」

「偵察、ですか?」

「はい。ミコトさんが見つけたという反応を確認していただければ構いません。確認が出来次第、無理に戦わずにここへ戻ってきてください。我々はここで待機していますが、何人か護衛の兵をつけましょうか?」

「いいえ。大勢で行くと目立っちゃうかもしれませんし。ここは私一人で」

「分かりました。どうか、お気をつけて」

「はいっ、行ってきます」


 私は少し心配そうな表情を浮かべる王女様に力強く頷き返すと、一人歩き出した。向かうのは反応があった方角。慎重にそちらへと歩みを進めていく。


 しばらく歩いていると、前方に開けた場所が見えてきた。レーダーに目をやると、反応は近い。 緊張感から、私は固唾を飲み込み冷や汗を浮かべながら、その開けた場所へと足を進める。 静かに、森と開けた場所の堺である木陰に忍び寄り、そこで屈みこんだ。


 ゆっくりと木陰から顔だけを出して、開けた場所の様子を伺う。 視界に映ったそれは、湖だった。ただし大きさは学校の体育館くらい。池と言うには大きく、湖と言うのは小さい。そんな場所だった。 ただ、問題なのは、その湖の水辺で横になっている無数のリザードマン達だった。 さっき戦った奴らは戻ってきてるはずだけど、特にリザードマン達が警戒している様子はない。追ってこないと思っているのか、来ても勝てると油断しているのか。まぁ、どっちにしろ警戒されてないのなら奇襲のチャンスがあるって事だし。


 さて、と。リザードマンの数はざっと見回しただけでも30匹くらいは居る。これは多いなぁ。念のために……。

『ねぇAI、ここにいるリザードマンの総数は数えられる?』

≪可能です。少々お待ちください≫


 スーツに搭載されている支援AIに思念操作で指示を出し、リザードマンの数を数えさせる。数秒もすれば、支援AIが数を数え終えた。

≪報告、レーダー索敵及びカメラアイより習得したデータを照らし合わせた結果、リザードマンの総数は34体≫

 34体かぁ。結構いるなぁ。後ろに居る兵士の人たちとほぼ同数だよ。


≪また、一点報告が≫

『ん?何?』

≪スキャンした個体の中に他のリザードマンより二回り大柄、且つ異なった身体的特徴を持つ個体を1体確認しました≫

『マジで?そいつを強調表示できる?』

≪可能です。当該個体を強調表示します≫


 支援AIが強調表示した個体は、私から見て湖を挟んだ反対側にある岩の上で横になっていたリザードマンだった。そいつの様子を伺うけど、確かに普通のリザードマンより二回りは大きい上に、他のリザードマンには無い黄色のとさかを備えていた。

 確かに、あれは普通の個体じゃなさそうだなぁ。まぁ、とにかく数の把握と一匹変なのが居るのは分かったし、私は静かにその場を離れて王女様たちの所へと戻った。


「そうですか。リザードマンの総数は30匹にも及ぶ程ですか」

 戻った私からの報告を受けて、王女様は些か険しい表情を浮かべている。やっぱり相手の数の多さが原因かな、と思いつつ私は報告を続けた。

「はい。それと、普通の奴より二回りは大きくて、頭に黄色いとさかがある奴が一匹いたんですが、何か分かります?」

「……おそらくそれはリザードマンの上位個体、リザードマンキングですね」

 王女様は、僅かに眉をひそめてからその名を教えてくれた。

「リザードマン、キング?」

「そうです。その名の通り、キングはリザードマンと言う種の王。つまりこの森に生息するリザードマンの王、司令塔だと考えていただければ大丈夫です」

「そのキングって、強いんですか?」

「………えぇ」


 私の問いかけに、お姫様は静かに頷いた。その表情は今も険しい。

「リザードマンそのものも、体を覆う鱗が天然の鎧となっており生半可な武器では鱗の鎧を貫く事は出来ず、その場合は比較的柔らかい腹部を攻撃するのが基本ですが。キングの場合、その柔らかい腹部も分厚い筋肉で出来ているため貫くのは容易ではありません」

「じゃあ、そのキングってどうやって倒すんですか?」


「本来であれば、大人数の部隊でキングの注意を引きつつ取り巻きであるリザードマンを殲滅。その後、キングに対して戦力を一極集中させて攻撃。魔物とは言え生物ですから、防御を確実に突破出来なくとも血を流し続ければいずれ失血死します。しかし、見ての通り今の私たちではその戦法を取る事は出来ません。兵の数も足りませんし」

「それじゃあ、後日出直す、って事ですか?」

「普通に考えればそうですが、我々にはそう悠長に事を構えている余裕はありません。ですのでミコトさんに問います」

「えっ?は、はいっ!」


 突然問いかけられ、私は反射的に気を付けの姿勢を取った。

「キングやリザードマンはこちらを警戒していないとの事でしたが、ならば奇襲で、一撃で、キングを倒せますか?」

「ッ。……正直、分かりません」


 私は少しだけ迷ってから正直に思っている事を口にした。


「今の私の武器の中で一番威力と射程があるのは、このビームピストルです」

 そう言って私は腰部のビームピストルを手に持つ。

「これはビーム兵器だから、弓なんかよりも遠距離を正確に狙えます。でも、リザードマンキングとは戦った事が無いので、分かりません。ワイバーンの鱗なら貫通してましたけど……」

「であれば、おそらく問題はないでしょう。ワイバーンの鱗は堅い事で有名です。上位種であるドラゴンより強度的には劣りますが、リザードマンやキングがワイバーン以上に堅い鱗を持っているという話は聞いたことがありません」

「そう、ですか。だったら行ける、かもしれません」


 まだ、確証はないから、どうしても私の言葉は疑問形になってしまう。すると……。


「大丈夫です」

「マリーショア王女?」

 不意に、王女様は確信を持ったような笑みを浮かべながら頷き、私の持つビームピストルへと目を向けた。


「ミコトさんの持つ武具の力は私が保証します。だから、自信を持ってください」

「ッ、あ、ありがとう、ございます」

 王女様の肯定の言葉に、私は一瞬ドキリッとなりながらもお礼を返す。


「では姫様。これからの目的は?」

「この先にいるリザードマンの巣を殲滅します。まず、ミコトさんの武装を用いてキングを遠距離から奇襲で仕留めます。その後、残っているリザードマンが混乱している間に叩きます」

 リオンさんの質問に今後の作戦を伝えた王女様は、兵士の方へと向き直る。


「聞いていた通りです。我々はこのまま進み、リザードマンの群れを殲滅します。数はこちらと同等ですが、こちらには特別な力を持ったミコトさんの存在があります。彼女の力があれば、私たちの勝利は約束されたような物ですっ。皆の力を私に貸してください。リザードマンの群れを、今日ここで殲滅します……っ!」

「「「「はっ!!」」」」


 王女様の指示を受け、兵士の人たちはやる気に満ちた表情を浮かべている。にしても、私の方は色々責任重大だなぁ、これ。私プレッシャーにはあんまり強くないんだけど。……まぁ、うだうだ考えても仕方ない。やれるだけの事は、やらないとねっ。


 

 その後、私たちは慎重にリザードマン達の巣がある湖へと移動していった。そして湖の近くまで行くと、一旦王女様の指示でみんな足を止めた。


「皆さんはここで待機を。大勢で近づくと気づかれる恐れがあります。ここから先へは、私とミコトさん。護衛である騎士リオン達の少数で進みます。ミコトさんがキングを狙撃に成功した場合、突撃の合図を放ちます。それを合図として皆さんは前進してください」

「はい……っ!」


 王女様の指示に兵士の一人が小さな声で頷く。

「では、ミコトさん」

「はいっ」


 私はリオンさん達と王女様と共に、更に奥へと進んでいき、さっきと同じように森と湖の境目までやってくる。木陰から湖の方を覗くと、さっきと同じように無数のリザードマンが水辺で腹ばいの姿勢のまま休んでいる。キングもさっきと同じだ。湖を挟んだ反対側の岩の上で腹ばいのまま眠っている。


 今なら、狙撃のチャンス。私はビームピストルを取り出し、狙いを定める。が、相手はここからじゃそこそこ距離がある。更に初弾を外したら周囲のリザードマン達も攻撃に気づくかもしれない。『当てられるか?』と言う不安が顔をのぞかせ、手が僅かに震える。もし外したら、作戦はどうなるの? 言いようのない緊張感が襲ってくる。


 その時。

「大丈夫です」

「ッ、マリーショア王女?」

 不意に、小さく震える私の右手に王女様が手を重ねた。彼女はきっと、恐れ不安を覚える私の事を見抜いたんだ。だからこうして手を。

「根拠のない信頼と思われるかもしれませんが、ミコトさんならきっと大丈夫です。それに、もし何かあったとしても、全ての責任は指揮官である私にあります。だから、ミコトさんは何も悩む事なく、目の前の事にだけ集中してください」

「マリーショア、王女」


 彼女は私に優しく微笑んでいる。……けれど、直後に私も感じた。彼女の手もまた、私と同じように小さく震えていた。 あぁ、そうだ。彼女だって私とそう歳は変わらない女の子なんだ。すべての責任を背負いこむなんて、簡単じゃない。なのにそう言って私を励まそうとしてくれている。……なら、私だって弱気になってる場合じゃない。


「ありがとうございますっ。おかげでやれる気がしてきましたっ。確実に、当てます……っ!」

「はい。あっ、いえっ、分かりました。お願いします」

 王女様は私の小声の答えに一瞬だけ笑みを浮かべるが、すぐに表情を引き締めた。

 

「っしっ」

 改めて気持ちを引き締め、私はビームピストルを右手に握る。照準を安定させるために、ピストルを握った右手を左手首に乗せる。


 HUDにクロスヘアが展開される。カメラアイのズーム機能もフル活用して出来る限り相手の姿を強調表示してるけど、今のCSA-01は狙撃仕様じゃないから、遠距離狙撃には適さない。 だけど、それでも当てるんだっ。


「すぅ、はぁ」

 僅かに手首を動かし、照準を微調整しながら深呼吸を繰り返す。やがてクロスヘアが、HUDに映る小さなキングの頭部と重なる。そして……。


「はぁ~~」

 息を静かに吐き出しながらも、その引き金を引いた。 銃口から桃色のビームが放たれ、真っすぐ飛んでいく。そして、キングの頭を正確に貫いたっ! よしっ!!

 

 私は思わずガッツポーズをしてしまったっ! 頭を撃ちぬかれたキングは、腹ばいで眠っていた姿勢のまま二度と起き上がる事は無かったっ。

『グッ?』

『グルゥッ?』


 と、その時、突然のビームの光に気づいたのか休んでいたリザードマン達が起き上がり始めた。が、キングの傍にいた個体が、キングが死んでいるのを確認すると……。


『ガァッ!ゴァッ!!??』

 奴らの独特の声で盛大に叫び始めた。瞬く間にそれが周囲に広がっていき、休んでいたり眠っていたリザードマン達が慌てて起き上がり傍にあった槍や剣を手にする。が、傍から見ても分かるくらい連中は混乱していた。現に半数近いリザードマン達が混乱した様子でその場を右往左往するばかりだっ!よしっ!!


「王女様っ!」

「はいっ!総員っ!突撃せよっ!繰り返すっ!突撃せよっ!!前へと進めっ!悪しき魔物を討伐せよっ!!」


 王女様は後方の森に向かって叫ぶ。

「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」

 するとすぐさま兵士の人たちの雄叫びが響き渡り、森の奥から兵士の人たちが現れた。みんな私たちの横を通り過ぎ、混乱していたリザードマン達に襲い掛かった。


「ミコトさんっ!ミコトさんは彼らの支援をっ!特に危険な状態の兵を優先して助けつつ、腕の武器などで後方からの支援をお願いしますっ!」

「分かりましたっ!おっしゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 気合を入れる意味で、雄叫びを上げながら私も兵士の人たちの後に続いたっ。真っ先に向かったのは、1体のリザードマンとつばぜり合いをしている人の所っ!

「うっ!?くっ!?」


 なんか押されてるっ!?だったらっ!

「どりゃぁぁぁぁっ!」

 助走を付けた飛び蹴りでリザードマンを真横から蹴っ飛ばすっ!パワードスーツの人間離れした脚力なら人間よりも大きなリザードマンを吹き飛ばすのだって訳ないっ!そして倒れた所をすかさず右腕のマシンガンから4、5発弾を撃ちこむっ!


「た、助かりましたっ!」

「どういたしましてっ!それじゃっ!」


 挨拶もそこそこに私は次の敵を探して駆け出す。その後も、あちこちで戦うリザードマンと兵士の人たちに加勢する。けどっ、もう乱戦状況になってて下手にマシンガンやビームピストルを使えなかったっ。下手したら貫通して兵士の人たちに当たっちゃうしっ!


「こんにゃろっ!!」

 つばぜり合いをしていたリザードマンと横合いから殴り飛ばし、倒れた所に手にしているヒートナイフを突き立てるっ。

『ゲゲェェェェェェッ!!??』


 ヒートナイフの熱量で焼ける肉の音に交じって聞こえるリザードマンの悲鳴。

「うっ、くっ!!」

 リザードマンとは言え、生き物の悲鳴が脳に、鼓膜にこびりつく。ヘルメットの下で表情を歪めながらも、私は必至に戦っていた。


 リザードマンをただ殴り、蹴っ飛ばし、頭や喉、腹に正面から、時には背後からヒートナイフを突き立てた。肉と骨を裂き砕く感触がナイフを通して伝わる。そのたびに言いようのない気持ちの悪さを覚えるが、自分に『今はそんなときじゃない』と言い聞かせながら、戦っていた。


 その時。

「ぐあぁっ!?」

「うっ!?」


 近くにいた兵士の人たちが、ほぼ同時にリザードマンの攻撃を食らって倒れたっ!?しかも運がいいのか悪いのは、二人ともちょうど私を挟んで方向が正反対っ!?近くにいる他の人たちも助けに行く余裕なんて無さそうっ!

 ど、どっちを助ければっ! そんな一瞬の迷いが不味かった。


「ぐあぁぁぁぁぁっ!?」

 ッ!?倒れていた片方の肩に、リザードマンがかみついたっ!?

「ッ!やめろぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 咄嗟に駆け出し、リザードマンの頭にヒートナイフを突き立てる。リザードマンはその一撃で息絶え、私はすぐさま動かなくなったリザードマンの骸を嚙まれていた人の上から退かし、傍に膝を付いた。すぐさま彼の様子を確認する。

「う、うぅっ!」

 肩を抑えて唸ってこそ居るが、生きていた。それにほっとした。がそれもつかの間だ。


「う、うわぁぁぁぁぁぁっ!」

 悲鳴が聞こえ、そちらに視線を向けると、先ほど体勢を崩され倒れていた兵士の人の頭目がけて、リザードマンが今まさに槍を振り下ろそうとしていたっ!?


「あっ!!」

 咄嗟に足腰に力を入れようとしたが、とても間に合いそうになかったっ!やめろ、と叫ぶ声が喉まで出かかった時。


「はぁぁぁぁぁっ!!!」

 雄叫びを上げながら、槍を振り下ろす寸前のリザードマンへ刺突を放つリオンさんっ!間一髪でリオンさんの刺突の方が先に、リザードマンの喉元を貫いたっ!痛みで兵士の人から離れのたうち回るリザードマンッ。そこを更に別の兵士の人たちが追撃して倒す。


 よ、良かった。あの人は大丈夫そうだ。これもリオンさんのおかげだね。

「んっ?」

 と、その時私とリオンさんの目線があった。


「何をしているミコトッ!まだ戦いは終わっていないぞっ!」

「あっ!?は、はいっ!!」

 リオンさんからの怒声で我に返った私は、慌てて立ち上がり戦いを再開した。


 しかし、あれだけ居たリザードマンも混乱していた最初の奇襲で大多数を撃破。更に向こうの数が減れば、こっちが1体に複数で挑んでいけるから、そのおかげでリザードマンの群れの殲滅はスムーズに行う事が出来た。


「これで、最後っ!!」


 そして森に逃げようと私たちに背を向けた最後の一匹を、私の腕部マシンガンが撃ちぬく。


「……ふぅ」

  最後の一匹を倒した私は息を付き、周囲を見回す。視界の中に怪しい影などは無し。レーダーにも反応は無し。それを確認した私は王女様の元へと歩み寄る。


「マリーショア王女。リザードマンの群れの討伐は完了です。周囲にも怪しい反応は無し。湖の周囲を制圧しました」

「そうですか」

 私の報告に、王女様は一瞬だけ安堵したように表情を緩めるも、再びそれを引き締め傍にいたリオンさんの方へと振り返る。

「リオン、皆に報告を」

「はっ」

 リオンさんは敬礼をし、周囲を警戒していた兵士の人たちの方へと向き直る。


「聞けっ!勇敢なるリルクート王国の兵士たちよっ!この湖に居座っていたリザードマン達は我々の前に敗れ去ったっ!我々の、完全勝利であるっ!!」

「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」


 リオンさんの言葉に触発され、大勢の兵士が歓声を上げる。勝って喜びの声を上げるみんなの姿に、私も安堵の息を付いた。


 その後は、怪我をした人に応急処置を施し、私たちは町へ戻る事に。王女様曰く、『リザードマンの群れを殲滅出来ただけでも十分価値のある事です』との事。それに戦いで負傷した人もいるから、これ以上下手に戦って、万が一にも死人は出したくない、との事だった。


 そのため、私たちは森の外に止めていた馬車に乗り町へと戻って行った。 私が乗る馬車の中でも、皆勝利を喜んでいた。 


 とは言え、傷を負った人も少なくない。死者が居ないだけでも御の字なのかもしれないけど。今回は正直、いろんな問題が浮き彫りになったと私は思っていた。武器の強度や貫通の問題、乱戦になった時の手数の足りなさ。


『戦うのは、楽じゃないなぁ』

 分かっていたつもりだったけど、まだまだパワードスーツの運用には課題は多い事を、その日私は身をもって実感した。と、同時に……。


『戻ったら新装備の試案、始めよ』

 まだまだ戦いは続くのだから、と。新たな装備の創造に取り掛かる事を決めていたのだった。


     第9話 END

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