第8話 北の森討伐作戦・前編

 改めてマリーショア王女より話を聞き、私は騎士団の人たちに交じって魔物の討伐を行う事になった。しかしそれにはお姫様であるマリーショア王女も参加するという。早速明日から討伐をっ! となったんだけど緊張で眠れなかった私は、偶然にも星空の下でマリーショア王女と遭遇。彼女もまた緊張している事を聞いた事で私は彼女を守る約束をするのだった。



 城壁を出てしばらくすると、馬車が北の森の手前に到着した。そして馬車はそのまま森には入らず、手前で停車する。

「総員降車っ!整列しろっ!」

 すると騎士団の人の指示が聞こえてきて、同じ馬車に乗っていた人たちが次々と馬車を降りていく。最後に残った私も、慣れないながらも馬車を降りる。


「ミコト」

「あっ、リオンさん」

「こっちだ。来てくれ」

「はいっ」

 待っていたリオンさんに連れられ、案内されたのはマリーショア王女の傍だった。そこに護衛であるリオンさんや他の騎士さん達と並ぶ私。そして、マリーショア王女の前には数十人の騎士さん達が整列している。 みんな、剣や盾、槍に弓などで武装し、その表情からは緊張の色が伺い知れた。


「それでは、これより北の森における魔物の討伐作戦を開始しますっ!」

「「「「「はっ!!」」」」」

 その時、響いた王女の声に彼らが反応する。


「なお、今日より討伐作戦には協力者である彼女、ミコト・ハガネヅカが同行する事となるっ!彼女には特別な力があり、必ず我々の力となってくれる事でしょうっ!」

 と、王女の言葉が響くと、皆私の方に視線を向けてくるっ!うぅ、無数の兵士の人たちの視線が集まって圧を感じるぅ。

というか、視線に交じって感じるのは、『困惑』や『疑惑』の感情だった。みんな私を疑い、怪しんでいるみたい。ま、まぁ私みたいなのが特別な力を持ってる、って聞いたってそう簡単には信じられないよねぇ。ここにいる人の殆どは私がチェンジングスーツで戦ったりしてる所を見たこと無い訳だし。


と、思っていると……。

「ミコトさん」

「は、はいっ」

 その時マリーショア王女に声をかけられ、私はそちらに意識を向けた。


「皆の疑惑を晴らすために、あの姿を彼らに披露してあげてください。あの姿を見れば彼らも分かってくれるでしょう」

「わ、分かりました」


 お姫様の言う通りだし、論より証拠、って事で私は一歩前に踏み出し、深呼吸をする。よしっ。

「≪チェンジアップ≫ッ!」


 起動ワードを叫ぶと、コアから流体金属があふれ出し、いつも通り私の体を包み込む。そしてパワードスーツ、CSA-01となる。とりあえず、森の探索は初めてだったから基本的なCSA-01を選んだ。 昨日使ったのは狙撃戦仕様だから、近距離戦の可能性がある森の中じゃ力を発揮できないだろうし。


「「「「おぉぉっ!?」」」」

 それだけで騎士の人たちがザワザワとざわめく。


「これが、ミコトさんの持つ力。我々の常識を超えた力であり、鎧です。が、その姿を見ただけでは彼女の力を疑う者もまだいるでしょう。その疑問を、この森の中で払拭します。ミコトさん、よろしいですね?」

「はいっ!!」


 もうここまで来たら引き返せないんだっ!私はお腹の中から精一杯の声を張り上げ答える。


「では、各自準備をっ!これより討伐作戦を開始しますっ!」

「「「「「了解っ!!!」」」」」


 こうして、マリーショア王女率いる部隊の魔物討伐作戦が開始された。全員の準備が整うと、私たちはすぐさま森の中へと足を踏み入れた。 そんな中で私は部隊の最前列にいた。


 今回の部隊の人数は私やマリーショア王女、その護衛のリオンさん達を含めて40人程度。そんな人数で今は陣形を作っていた。


 最前列にはCSA-01を纏った私と、大型の盾と槍を装備した、ゲームで言うタンク役みたいな装備の人たち。そのすぐ後ろには、槍や剣で武装した、いわゆる前衛とか中衛に当たる人たち。更にその後ろに弓で武装した後衛、支援を行う人たち。その更に後ろに、マリーショア王女と護衛のリオンさん。更に後方を警戒している人が数人。


 そしてその数十人が固まって移動していた。流石に大人数で固まってるから、これじゃあ目立つよね?と内心思っていた時だった。


≪接近警報っ!前方1時の方角より接近する物体ありっ!生体反応も確認っ!≫

 ポップアップが立ち上がり、私はそれに素早く目を通す。って、接近っ!?もしかして魔物っ!?


「レーダーに機影ありっ!1時の方向っ!何か来ますっ!!」

「えっ!?なんだってっ!?」

「い、いちじ?!どっちだっ!?」


 って、しまったぁっ!こっちの人にレーダーとか方角を時間で伝えても分からないかっ!

「あぁえぇっとっ!方角はあっちっ!前方ですっ!とにかく何か来ますっ!!」

 とにかく、私は『何か』が来る方角を指さすっ!


「ほ、ホントに何か来るのかっ!?」

「知るかよっ!?」

 しかし兵士の人たちは私の言葉を訝しみ、戸惑っていた。その時。


「落ち着きなさいっ!全軍停止っ!応戦体制っ!全周囲を警戒しつつ戦闘準備っ!」

「「「「「ッ!はいっ!」」」」」

 それはまさしく、鶴の一声だった。マリーショア王女の指示が飛ぶと、兵士の人たちが盾や槍、剣や弓を構える。


 流石はお姫様の指示っ。じゃあ、私もっ! 私もパワードスーツを思念操作で操り、両腕のマシンガンを展開。右手を敵が来る方に。左手も、いつでも反応出来るように力を込めておく。


 チラリとレーダーに視線をやれば、赤い光点がレーダーの中心、つまり私の方へと近づいてきている。


「もう間もなく来ますっ!」

 私の言葉を聞き、皆剣や弓を構え、緊張した表情で冷や汗を流している。まぁ、かく言う私も、初めての森での戦いで結構緊張してるんだけどね。 緊張感を紛らわすように、私は乾いた唇を舐める。


 と、その時。 草木をかき分けて影が飛び出してきたっ!その数3ッ!

「ッ!?リザードマンだっ!」

 その影を見て兵士の誰かが叫んだ。


 現れたそれを簡単に表現するのなら、粗雑な槍を持った人型のトカゲだった。ただしその大きさは成人男性と比較しても一回り以上巨大で、草木から姿を現した時、そのトカゲは二足歩行で立っていた。


 リザードマン。ファンタジーゲームなどではまぁまぁポピュラーな敵だけどっ!

『『『ガァッ!ガァッ!』』』

 

 私たちを見つけるなり、リザードマン達はその口元を膨らませ威嚇の声を上げてきた。そして手にした槍を構え、ジリジリと近づいてくるっ!


「総員迎撃態勢っ!ミコトさんっ!」

「はいっ!!」

 森の中、あいつらとの距離はせいぜい5、6メートルっ!この距離ならぁっ!

「当たれぇぇぇぇぇっ!」


 私は叫びながら思念操作で右手のマシンガンの引き金を引いた。連続した銃声を伴って放たれる無数の銃弾。それがリザードマン2匹の体を引き裂いたっ!


 よしっ!鱗の強度とか分からなかったから弾かれたらどうしようっ!?とか思ってたけどっ、いけるっ!!


『ガァッ!』

 が、最後の一匹が槍を手にしたまま四足歩行で茂みの中に逃げ込んだっ!

「こいつっ!」

 銃弾を放ちながら最後の一匹を追うっ!けど木が乱立する方向に逃げられ、木が盾になって当たらないっ!仕方ないからレーダーの方に目を向ける私。最後の1匹は、私たちを迂回するように森の外へと向かっていく。逃げてる、の?と一瞬思ったけど違ったっ!


「ッ!?」

 次の瞬間、逃げたと思ったリザードマンが急に進路を変えて向かったのは、部隊の後列っ!王女様の居る方だっ!!


「気を付けてっ!最後の一匹は後ろの人たちを狙ってるっ!」

「ッ!?」

「総員迎撃態勢っ!姫様を守れっ!」

 私が思いっきり叫ぶと、王女様の息を飲む音とリオンさんの指示を、聴覚センサーが拾う。


 と、その時。

『ゲゲゲェェェェェッ!』

 リザードマンが飛び出してきて、後列の盾を構えていた人に槍を構えたまま飛び掛かった。

「うわぁっ!?」

 襲われた人は、何とか盾でリザードマンの攻撃を防いだけど、体格差からか踏ん張る事が出来ずに押し倒されてしまった。

「ぐっ!」


 すぐさまマシンガンで狙おうとしたけど、ダメだっ!間に人がいて撃てないっ!こうなったらっ!

「はぁっ!」

 私は思いっきり足腰に力を入れて、近くの木の枝目がけて飛び上がった。そして、そこに着地し、狙うは兵士の人に覆いかぶさっているリザードマンッ!幸いリザードマンは押し倒した兵士の人の盾を貫こうと何度も槍を突き立てるばかりで、こっちに気づいてないっ!だったらチャンスッ!


「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 私は雄叫びを上げながらリザードマン目がけ、木の枝を蹴って突撃した。それに気づいたリザードマンがこっちを向くけど、遅いっ!!


 パワードスーツを纏った私とリザードマンが激突し、盛大な音を立てる。リザードマンは大きく弾き飛ばされ、私も激突した衝撃で地に落ちる。

 早くとどめを刺さなきゃっ!と思っていたのだけど……。

「おぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 剣を抜いて転がったリザードマンに突撃していくリオンさん。そしてリザードマンが起き上がるよりも先に、鱗に覆われていない喉元に剣を突き立てた。 次の瞬間、リオンさんが剣を抜いて下がると首元から大量の血が溢れ飛び出す。


 リザードマンは数秒手足をばたつかせたけど、すぐに動かなくなった。

「ふぅ、姫様。お怪我はありませんか?」

「えぇ。何とか。ですが私よりも彼の方を」

「かしこまりました。おいっ、大丈夫かっ」

 お姫様の安否を確認すると、リオンさんは先ほどリザードマンに突撃された兵士の人の方へと駆け寄る。


「は、はいっ、何とか大丈夫です。怪我なども特には。少し、背中を打った程度です」

「分かった。ミコト、お前は大丈夫か?」

「あ、はいっ!大丈夫ですっ!」

 と、ここで私の方にも声をかけてくれたリオンさん。 倒れた状態から起き上がる所だった私は、慌てて立ち上がる。


「よし。では隊の前衛に戻ってくれ」

「分かりまっ」


『『『『ガァガァガァ……っ!』』』』

「「「「ッ!?」」」」

 その時、私の声を遮るように森の中に響いたそれはリザードマンの咆哮だった。その咆哮に、皆咄嗟に武器を構えている。

 

 私も両腕のマシンガンを構えながらレーダーに目をやる。見ると、さっきの3匹が来た方角から更に無数のリザードマンが来てるっ!咄嗟に跳躍し、前列へと戻る私。


「リザードマンっ、さっきと同じ方角からまた来ますっ!数はえぇっと、6匹っ!」

「ッ、数が多いですねっ!ミコトさんっ!迎撃できますかっ!?最悪、半数を接近される前に迎撃出来れば構いませんっ!」

 そこに飛んでくる王女様の指示。まぁ、やるしかないんだろうけどさっ!!


「やってやりますよっ!パワードスーツの力は、伊達じゃないんでっ!」

 自分を鼓舞するように私は叫ぶ。そして、有効射程まで近づいてくるリザードマン達っ!

「食ぅらぁえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

 私は威嚇するように雄叫びを上げながら両腕のマシンガンを撃ちまくった。放たれた銃弾が前方を扇状に薙ぎ払う。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、ってねぇっ!


 レーダーを見ると殆どのリザードマンの足が止まったっ!やったのか、攻撃を恐れて動きを止めたのかっ!どっちにしろ足は止めたっ!


 が、6匹の内の一匹が、隙を付いて木々を盾にしながら接近してきたっ!

『ガァァァァァッ!!』

 そして近づいてくるなり、手にした槍を私の頭目がけて振り下ろしてくるっ!?

「ッ!?」

 咄嗟に左腕を掲げ、盾とする。盛大な音と共に槍と左腕のマシンガンがぶつかり合う。


≪警告っ!左腕マシンガン破損っ!緊急安全装置作動っ!≫

 やばっ!?咄嗟に盾にしたけどマシンガンがっ!くっ!

「このぉぉぉぉぉっ!!!」

 すぐさま右腿のスロットを展開っ。そこから引き抜いたヒートナイフをリザードマンの脇腹に突き立てたっ!


『ゲゲェェェェェェっ!!』

 悲鳴を上げて数歩後ろに下がるリザードマンっ!今っ!

「おぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 ヒートナイフを握ったまま右腕を向け、マシンガンを斉射っ!リザードマンは腹部を無数に穿たれ倒れたっ。


 でもまだ敵は居るっ!とりあえず右腕の残ったマシンガンで牽制しつつ左腕のマシンガンの様子を見る。 左腕マシンガンの一部は槍の攻撃を受けて破損していた。立ち上がった小さなポップアップを見ると。


『左腕マシンガン破損に付き安全装置作動中。現時点での使用は暴発の危険があり使用を非推奨』との事。要は『下手に使ったら爆発するから使わないで』って事。壊れちゃったのは仕方ないっ! 


 私は左腕マシンガンを格納し、腰部からビームピストルを抜き左手で持つ。が……。

「ッ」

 レーダーを見ると、残っていたリザードマン達は後退していった。


「残りのリザードマン、下がって行きました」

 私は息を付き、ナイフとマシンガン、ビームピストルを戻しながら報告する。


「そうですか。各自、一度この場に留まりつつ周囲を警戒」

「「「「了解ですっ」」」」


 王女様の指示を受け、皆周囲の様子を警戒している。

「ミコトさん。大丈夫ですか?」

 そこにリオンさん達を連れて近づいてくる王女様。

「はい、大丈夫です。ただ、リザードマンの攻撃を受けた時、左腕のマシンガンが破損してしまって」

「えっ?大丈夫なのですか?」

 破損、と聞いて王女様は心配そうに私を見つめている。


「マシンガンが片方壊れただけなので、私自身には問題ないし戦闘も出来るんですが。これじゃ弾幕を張るのが難しくなりましたね。幸い、右腕のマシンガンとヒートナイフ2本、それにビームピストルはあるんで戦闘は出来ますが。ちょっと全体的な火力が下がったって所ですかね」

「そうですか。分かりました。ではこのまま間引きを続けても大丈夫、と捉えてよろしいですか?」

「はい。そう考えてもらって大丈夫です」


 私の言葉を聞き、王女様はしばし思案をした後。

「では、今後も間引きを続けます。が、ミコトさんはこの討伐隊の要です。戦闘の続行が不可能だと少しでも思ったら進言して下さい。すぐに撤退します」

「分かりました」


 その後も、討伐をつづける事になった私たちは、王女様の提案で逃げたリザードマンを追うことに。王女様曰く、『もし巣かそれに近い物があるのなら徹底的に叩きたい』との事だった。


 私たちは警戒心を強めながら森の奥へと進んでいく。まだまだ、討伐作戦は始まったばかりなのだから。


     第8話 END

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