転生した私は、パワードスーツを纏い異世界で百合ハーレム、作っちゃったっ!?

@yuuki009

第1章 始まりの出会い編

第1話 望まぬ転生

『パワードスーツ』。


 この単語を聞いて、思い浮かぶのはいろいろあると思う。例えばアニメや映画で活躍する道具。人に、人以上のパワーを与える道具としてパワードスーツは描かれている。 他にも介護の現場で使われたり、軍用の物も開発が進んでいるって聞いたことがある。


 でもなぜそんな話をするのか、と聞かれたら、まずは私に起こった出来事を話さないといけない。 


 これは、私が『異世界に転生し、パワードスーツと呼ばれる装備で無双する』、そんな物語。


 私の名前は『鋼塚 みこと』。とある地方都市の高校に通う、高校2年生。つまりバリバリのJKだよ。いやまぁ、正確には『だった』って言った方が良いんだけど。


 プロのモデラーとして仕事をしているお父さんと、そんなお父さんと仕事で出会い結婚した写真家のお母さんの間に生まれた私は、お父さんの影響もあってプラモデルやロボットと言った、男の子が好きそうな物を見て育った。そのためか、いつしか『かっこいい物』が好きになっていった。 


『女の子らしくない』と周囲から言われる事もあった。でもお父さんたちの『好きな物を好きでいて、悪い事なんて一つもない』って言って私の背中を押してくれたから、私は『かっこいい物』が好きなままで居られた。


そんなお父さんとお母さんを見て育った私は、二人のようになりたいと願っていた。いつかお父さんとお母さんと、一緒に仕事がしてみたい。それが私の願いだった。



『あの日』、その願いが断ち切られるまでは。



~~~~~~

 その日、私は学校帰りに友達と一緒にモールへと遊びに来ていた。一緒にカラオケしたり、プリクラ取ったり、ゲームセンターとかで遊んで、今は夕日で町全体がオレンジ色に染まってる中、駅に向かって友達と談笑しながら歩いていた。


「いや~。にしても尊って『そういうの』好きだよね~」

「ん~~?」

 友達が面白半分に指さすそれは、私の持つ紙袋の中にあった『プラモデル』だった。 

「まぁ~ね~。これでもプロのモデラーの娘ですからっ」

 友達の言葉に私は笑みを浮かべながらそう返した。


「プロのモデラーとかってあれでしょ?ジオラマとかも作るんでしょ?」

「うん。まぁでも、お父さんの場合は雑誌に載せるプラモを作ったり、プラモデルを作る入門書って奴の監修とか、メインはそっちだけどね」

「えっ!?じゃあ尊のお父さんとかって結構有名人なのっ!?」

「まぁそっちの界隈ではねぇ。流石に芸能人ほど有名じゃぁ無いけど」

 

 そんな談笑をしながら歩いていた時だった。

「ん?」

 何やら前方で、人の波が何かを避けるように左右に分かれていくのが見えた。今はもう夕暮れ時で、私達みたいな学生やスーツ姿の男性に買い物帰りのおばちゃんらしき人もいる。なので駅まで続く道には結構な人が居たんだけど。


 皆、何かを避けているようだった。何だろう?と思っていると、私達の前の人が動いて、その意味が分かった。


 人込みの中、何をするでもなく道のど真ん中に立って、駅に向かう人たちの流れに乗るでもなく、ただ突っ立っている。

『………』

 しかも、ただ立ってるだけじゃなくて、ぶつぶつと一人で何か言ってる。 うん、はっきり言って薄気味悪い。 周りの人が避けて通るのも分かる。 あぁいうのを『触らぬ神に祟りなし』って言うんだろうなぁ。


 幸い私は、この辺りにはよく来てるので、近くの裏路地に入って駅の方に迂回する道を知ってる。『皆こっちに来て』、って言いかけた時。


「何あれ、やばっ。不審者?」

 友達の一人が、不用意な事を言ってしまった。 そして、更に運が悪いのか、どうやらその言葉が、男に聞こえていたようで、不審者らしき男が体を震わせるのが分かった。


「誰だ、俺を嗤いやがったのはぁっ!」

 突如として奇声にも似た怒鳴り声をあげる男。その声に周囲にいた人たちはビクリと体を震わせながらも身構えている。当然、私と友達もだ。 だが、次の瞬間男は私の友達を、ギラつき、濁った瞳でにらみつける。 それはまるで、猛禽類が獲物を見つけたような、獰猛な瞳だった。


「お前かぁっ!」

 男は叫び、突進してくる。更に、懐から取り出したのは、ナイフッ!?


「きゃぁぁぁぁぁっ!!」

 絹を裂いたような友達の悲鳴が聞こえる。男はわき目も降らず、友達に向かっていく。誰も、怖くて、突然の事で動けない。 でも、このままじゃ友達が死ぬっ!


「うわぁぁぁぁぁぁっ!」

 次の瞬間には体が勝手に動いていた。 あと少しで友達にナイフが突き立てられる、と言う所で私が彼女の前に飛び出した。 でも、『それだけ』だった。


『ドッ!!!』

「ッ!?!?!?!?!?」


 格闘技なんて知らない。護身術なんて知らない。出来たのは、自分自身を友達の『盾』にすることくらいだった。


 お腹にナイフが突き立てられ、全身を痛みが駆け巡るっ!叫びたいほどの痛みなのに、痛みで声が出ない。涙があふれ、表情が歪む。 と、その時。


「何をしている貴様ぁっ!」

 怒号が聞こえた。目の前の男のじゃない。 直後、青い制服の人が男に体当たりするのが見えた。その衝撃でナイフが抜け、私は倒れる。


「尊、尊ぉっ!!」

 友達が駆け寄ってくる。でも、痛くて、痛くて、動けない。近くから聞こえるはずの怒号が、友達の声が、なぜか遠く聞こえる。 もしかして、私、死ぬの?


「尊ッ!しっかりして尊ぉっ!」

「だ、誰か救急車っ!急いでっ!」

 嫌だ。死にたくないっ。まだ、まだやりたい事、いっぱいあるのにっ!


 でも、そんな私の思いは、届かなかった。意識は遠のき、体が冷たくなっていくのを感じる。視界がぼやけていく。 眠ったらダメだ。そう思いながら、必死に開けていた瞳も、ついには、閉じてしまった。


 そして、私は通り魔から友達を守って、死んでしまった。









『まことに、申し訳ありません』

「え?」


 死んだ、と思った次の瞬間、私は気づくと真っ白な世界にいた。ここはどこ?と思うより先に、目の前に光を放ちながら現れたどこか神々しい女性。そして、女性の開口一番のセリフが、それだった。


「ちょ、ちょっと待ってっ!?こ、ここはどこっ!?それに私はっ!?私、刺されたはずなのにっ!?」

 突然の事過ぎて、私の頭はオーバーヒート寸前だ。それでも刺されていた事は、確かに覚えていた。だからすぐさまお腹の辺りを触って確認するけど、傷跡や出血した様子はない。

「傷は、な、無いっ」

 どれだけ触っても痛くないし、傷跡も無い。で、でもここって、それにこの人は?


『ごめんなさい。突然の事で驚いているでしょう。でも、どうか私の話を、落ち着いて聞いてください』

「………わ、分かりました」

 状況はよく分からない。納得なんて出来てないけど、今は聞くしかないかも。そう思って私は静かに頷いた。


『まず。あなたは確かに、通り魔からご友人をかばい、刺されてしまいました。そしてその尊い命を散らしてしまったのです』

「ッ!!」

 じ、じゃあやっぱり、私は、『死んだ』の? 次の瞬間恐怖で体が震える。さっきの事が現実で、私は死んだ。 それを思い出すだけで、体がブルブルと震える。


『自身の死を、受け入れるのは辛いでしょう。でも、どうかお聞きください。あなたは本来、死ぬはずではなかったのです』

「………え?」

 恐怖でパニックを起こしかけていた頭は、女の人の言葉を理解するのに時間を要した。待って?今、なんて言ったの? 私は『死ぬはずではなかった』?そう言ったの?


「し、死ぬはずじゃなかったって、じ、じゃあ私はどうして死んだのっ!?どうしてよっ!ねぇっ!」

『それについては、まず、この世界の事をお話ししなければなりません』

「えっ?」


『本来、この世界は私達『神』が生み出したシステムによって運行されています』

「神、様?」

『そうです。本来人には知覚する事の出来ない力でもって、この世界は動いているのです。人はそれを『運命』と言います。ですが、先ほどもお話した通り、鋼塚尊さん。あなたはあの事件で死ぬはずではなかったのです』

「そ、それならどうして私は死んだのっ!?」


 人の生が神様によって決められて、それで私はさっき死ぬはずじゃなかったのなら、どうして私は死んだのっ!?

 尽きない疑問があふれ出してくる。その答えを聞かずにはいられなかった。


『実は、神による世界を動かすシステムも、決して万能ではないのです。極稀に。具体的には数百年に1度の周期で、運命の歯車が狂ってしまう事があるのです。あなたのような現代人に分かりやすく言うのなら、『システムのバグ』、と言えばよろしいでしょうか?』

 システムの、バグ?エラーって事っ!?じ、じゃあまさかっ!


「まさか、私はそのバグのせいで、死ぬはずじゃなかった私が死んだって、そう言いたいんですかっ!?」

『……まことに申し訳ないとは思っております。ですが、『その通り』なのです』

「ッ!?そ、そんなっ」


 受け入れきれない現実に、私はその場に膝をついた。 世界のシステムなんて知らない。そんな『理不尽』な内容で殺されたなんて、納得できない。


「そ、蘇生は出来ないんですかっ!?あなたは、あなた達は神様なんでしょっ!?だったら私をよみがえらせる事くらい、簡単ですよねっ!ねっ!?」

 こんな理不尽な理由で殺されるなんて、冗談じゃないっ!私には、家族も、友達もいるんだっ!夢だって、まだ何も叶ってないっ!戻りたいっ!私が居た、あの場所にっ!


『……残念ながら、それは不可能なのです』

「え?」

 でも、女神のような彼女の、沈んだ表情から語られた言葉は私の望みを打ち砕いた。


『神々の世界にもルールがあり、一度死亡した人間を、元居た世界に全くの同一人物として生き返らせる事は、出来ないのです。例えこちら側に非があったとしても』

「ッ!!そ、そんなの、そっちの勝手な都合じゃないっ!」

 理解できなかった。いや、理解したくなかった。だから私は怒りのままに女神様に掴みかかった。


『ガッ!』

 でも、私と女神の間には見えない壁があって、彼女まで私の手は届かなかった。

「うっ!くっ!このっ!このぉっ!」

 怒りで我を忘れ、私はガンガンと透明な壁を殴りつけるが、壁は壊れなかった。


「う、うぅっ!帰して、帰してよぉっ!帰りたい、帰りたいよぉっ!」

 やがて怒りは悲しみへと変わる。止めどない涙が頬を伝い落ち、ズルズルと私は壁に手をついたまま、その場にへたり込んでしまった。


『ごめんなさい。あなたの私達神に対する罵詈雑言は、甘んじて受け入れましょう。それを叫びたいあなたの心は分かります。……でも、どうか聞いてください。あなたがこうなってしまった責任は私達にあります。だからこそ、私達に責任を取らせてください』


「う、うっ。……責、任?」

『はい。これから、あなたへの罪滅ぼしとしてあなたを異世界へと転生、いえ、転移させます。その際、あなたには力を与えます。どのような力でも構いません。どのような力でも、私達神はあなたに与えましょう』

 急にそんなことを言われても、悲しみと怒りでぐちゃぐちゃな私には、理想の力なんて、思い浮かばなかった。


「少し、ぐすっ。……少し、時間を、ください」

『分かりました』

 未だ涙を流す私の言葉に、女神様は静かに頷くと『決まりましたら、お呼びください』と言い残して、どこかへと陽炎のように揺らめきながら消えていった。



 それから数分、数十分かけて、私は考えた。私が望む力を。


「女神様」

『はい。お呼びですか?』

 私が何もない虚空に向かって声をかけると、再び女神様が現れた。


「決めました。私の欲しい『力』が、どんな物か」

『分かりました。では、あなたはどのような力を求めますか?』

「……『パワードスーツ』です」

『パワードスーツ?と言うと、あなた方の世界の物語の中に出てくる?』


「そうですっ!神様が私に与える能力、それは『頭の中に思い描いたパワードスーツを自由自在に実体化させ使用する能力』ですっ!」

 あの時、私はただ自分を盾にすることしか出来なかった。 私は非力なJKだ。例え銃とかを生み出せる能力を貰ったって碌に使えるかどうか。


 だからこそ、パワードスーツの力を欲した。鉄壁の防御力と圧倒的な攻撃力。空さえも飛べる機動性。それらを兼ね備えた、SF世界のパワードスーツを自由自在に生み出せる能力があればっ! それが、私の考えだった。


『分かりました。ならばあなたの思う通りの力を、授けましょう』


 女神はそういうと、虚空から杖を取り出しそれを振るった。すると私の周囲に無数の光球が現れた。かと思ったら、それが私の中へとしみ込んできた。 

そして最後に、光の球1つが私の首元へと飛んできて、ネックレスのように変化した。 ネックレスの先には、赤く光る、ガラス玉のような物が下がっていた。


『これで、あなたへの力の譲渡は完了しました』

 そう言って杖を下ろす女神。


「これって、ネックレス?」

『いいえ。ただのネックレスではありません。それは、あなたの力の核となる存在です。そしてあなただけの装備です。それをあなた以外が身に着ける事は出来ません』

「そっか」


 私はガラス玉のような物へと視線を落とし、再び女神を見上げる。


「それで、私は転生、っていうか転移?するんですよね」

『そうです。あなたはこれから、異世界で生活する事になります』

「異世界、か」

 私もラノベを読んでたからその単語は聞きなれ、読み慣れた物。でも、自分がそこに行くなんて、まだ実感はわかない。


『もし、問題が無いのであれば、早速転移を開始したいのですが、何かありますか?』

「何か?えっと」

 急に言われてもなぁ。能力は貰ったし、後は……。 そう思っていた時、ふと脳裏に浮かんだのは、家族や友人の事だった。 みんなの事を思い出し、怒りと悲しみがぶり返してくる。 『ギュッ』と拳を握り締め震わせながらも、私は深呼吸をして怒りを落ち着かせる。


「じゃあ、最後に一つだけ。出来る事ならしてほしい事があります」

『なんでしょう?』

「それは、私の家族や友人を幸せにする事っ!私が死んだ悲しみを忘れるくらい、世界で1、2を争うくらい幸せにする事っ!神様なんだからそれくらい出来るでしょっ!出来ないって言うのならっ!今まさに貰った力で、神様だろうが何だろうが、一発ぶん殴ってやるんだからねっ!」

『分かりました』

 こちらの鬼気迫る表情に、女神は驚くでもなく、さも同然と言わんばかりの表情で頷いた。


「え?い、良いの?」

『元はと言えばこちらに全ての非があります。この程度の事は、失礼ですがあなたからの指摘が無くとも、そうなるように因果律を調整する予定でした』

「そ、そうなんだ」

 な、何だ。もしダメって言われたら、本気でぶっ飛ばせるかやってみようとか思ってたのに。ちょっと拍子抜けって感じ。 


 でも、それでみんなの悲しみが和らぐのなら、良いな。 そう思って私は小さく笑みを浮かべた。


『さて、ではそろそろよろしいですか』

「あっ。はいっ」

『では、転移の門を開きます』


女神様がパンパンッ、と手を叩くと、私の傍に真っ白な地面から純白の光り輝く門がせり上がってきた。 開かれた門の先に広がるのは、極彩色のトンネル。


『そのトンネルを超えた先に、異世界があります』

「……」

 無言で極彩色のトンネルを見つめる。ここを抜けた先が、異世界。私の新しい居場所。


もう、後戻りはできない。私に与えられた選択は、進む以外にないのだから。それが分かっていても、後悔が私の足を重くする。戻りたいという思いが足かせとなる。


 それでも、踏み出すしかないんだっ!私はっ!どれだけ理不尽な理由で死んだとしても、どれだけ納得できないとしてもっ!私はっ!もうっ!だからぁっ!動けぇっ!私ぃっ!


「っ!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 お腹の底から、あらん限りの叫びを上げながら私は走り出した。躓きそうになりながらも、トンネルめがけて突進していった。 門を超えて、トンネルに突入した瞬間、前方、トンネルの奥から強烈な光が迫ってくる。


「うっ!?うっ、くっ!あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 眩しさに目がくらみながら、それでも引き返せないのだから、雄たけびを上げながら私は突き進んだ。 そして、光にぶつかる刹那。


『あなたは神々を許さないでしょう。それでもどうか、この言葉を送らせてください。あなたの旅が、『幸せ』に満ちた物になる事を、祈っています』

 女神様の優しい声が聞こえてきた。 そして、次の瞬間私の意識は、暗転した。




~~~~~

「はっ!?」

 それは突然だった。ほんの1秒前までトンネルを走っていたはずの私は、気づいた時には、どこかの木陰に横たわっていた。 

「ここ、は?」

 突然の事に戸惑いながら体を起こして周囲を見回す。 眼前に広がるのは、どこまでも続く草原。振り返れば、鬱蒼とした森林が背後に広がっている。


 遠くに目を向けても、見えるのは大きな山々ばかり。まるで、大自然あふれる異国にでも迷い込んだかのような錯覚を覚える。


「ここ、異世界?」

 目に映るのは、大自然あふれる景色だけど、だからと言って異世界だって確証は無かった。だから立ち上がって周囲を見回していた時。

『コツンっ』

「ん?」

 靴の踵に何か当たった。振り返って地面を見てみると、そこにリュックサックらしき物が転がっていた。

「何これ?」

 誰かの落とし物?でも、そんなのが運よく転移してきた私の足元に転がってるかなぁ?ちょっと怪しいなぁ。中に何かあるかな?

 

 そう思った私はその場に屈みこみ、リュックの中を探った。中に入っていたのは、地図とお金。それに……。

「これ、手紙?」

 真っ白な封筒だった。宛名はあるかな?と思いつつひっくり返すと。

「あっ」

 そこに書かれていたのは、『鋼塚 尊様へ  女神より』との文字だった。これ、女神様からの手紙だったんだ。 道理でこんなところにあるわけだ。


 私はその場に腰を下ろし、早速手紙の中身を取り出して内容を確認し始めた。


『 鋼塚尊様へ。 このお手紙を異世界到着後、すぐに読んでいる事を願います。この手紙には、あなたに与えた能力の説明やこの世界の簡単な説明を書き記しておきます。ぜひ、今後のためにお役立てください。また、この手紙が入っていたリュックには、少ないですが当面の生活費となるお金と周辺地域の地図を入れておきました。どうか、こちらもお役立てください』

 

 『なんと素晴らしいアフターフォローなんだろう』、と思いながら私はしばし手紙を読み進めた。


~~~数十分後~~~

 ふ~~。とりあえず手紙を熟読して、この世界の知識も簡単な物だけど手に入れた。お金の単位や、私には特別に異世界言語の翻訳スキルが与えられてる事なども分かったし、私人に与えられた力、『チェンジングスーツ』の内容も分かってきた。


 ……とは言え。

「まずは人里を探すところから、かなぁ」

 周囲に広がるのは草原と森林。しかも周囲に人影は全く無しと来てる。とりま、今必要なのは宿の確保に食料や水の調達。それに今後、仕事をしてお金を稼がないと。仕事に関しては『アタリ』を付けてあるから良いとして。


「え~っと、確か地図によると……」


 私はリュックの中から地図を取り出して周辺の地理を確認する。現在地は地図の真ん中に描かれている草原と森林の境目辺り。


 地図によると、西の草原方向に進んでいくと中規模の町が。東の森林を進んでいくと、距離はあるけど『王都』って所に辿り着くみたい。王都って言うんだから国の首都なんだろうけど、距離が結構あるんだよあんぁ。チート級の力があるとは言え、いきなり森林越えは無謀過ぎる気がする。 水や食料も持ってないし。


 って事で私は、草原を超えた先の町を目指してみる事にしたっ。ただ、そこに辿り着くにしても徒歩じゃ時間がかかる。


 となると、早速使ってみるっきゃないよねっ!私のチートスキルをっ!


「すぅ、はぁ、すぅ」

 小さく深呼吸をし、目を閉じる。 ネックレスにあるガラス玉改め、チェンジングスーツの核たる『コア』を握り締める。


 コアを握りしめたまま、脳裏に私の考えるパワードスーツをイメージする。


 とりあえず、イメージモデルはアイ〇ンマンみたいなので。流線形の装甲に、足底にはローラーダッシュを装備。背中にはリュックをしまう格納用のパックパックを。武装は、とりあえず両腕部に展開式のマシンガンと、両腿に格納式のナイフ。それと、腰部ジョイントにビームピストル。あっ、後はそうだな。私戦闘とかからっきしだし、支援AIみたいなのも搭載しておこうかな。


 頭の中で、いろいろな物を付けたし、形が出来上がっていく。そしてそれが完成した、その時。


「≪チェンジアップッ≫!」

 

私は大声で、力の開放の合図、いわば起動キーたる言葉を叫んだ。


『ドパッ!』

 次の瞬間、握りしめていたコアから大量の液体、ううん。『流体金属』があふれ出し、私の体へと纏わりついてくる。

「ッ!」

 最初はそれが怖くて思わず目をつむってしまったけど、その間にも流体金属は私の体を覆い、やがて形態を変化させ、そして『私を覆うパワードスーツ』へと変化していく。


 足先から、指先から。次々と流体金属が形を成し、固体化していく。それがやがて胴体を経て、最後に私の頭を覆うヘルメットとなる。体が鉄に包まれるのを、目を閉じながらも肌で感じ取っていた。


「う、うぅ、ど、どう、なった?」

 流体金属の動きが止まると、ようやく私は恐る恐る目を開いた。


「ッ!お、おぉっ!おぉぉぉぉぉぉっ!」

 そして目を開けるなり、戸惑いは驚嘆へと変わった。思わず声が出てしまうほど、私は興奮していた。


 目の前にあるそれは、ゲームなどで見ていたモニター画面そのものだったっ!中央にはツインカメラアイから送られてくる映像データが表示され、四隅には現在私が纏っているパワードスーツの状況やミニレーダー、武装の残弾数などが表示されている。


 これこそまさにゲームで言うHMDを装備したような状況だったっ!これには正直、かっこいいが好きなJKとしては興奮を隠せなかったっ!

「は、ははっ!凄い凄いっ!わた、私っ、パワードスーツを装備してるっ!」


 今私の体は、本当に本物のパワードスーツに包まれていたっ!外装は、金属の地の色が出たような鈍い銀色だけどそれも良いっ!興奮から私は金属に包まれている自分の手足を見つめていた。


「本当に、本当にパワードスーツを着ちゃってるよ、私っ!」

 いつまで経っても興奮は冷めなかった。それからしばらく私は、パワードスーツを着たまま走ったり、ジャンプしたり、試しに木の幹を殴って大きく凹ませるなどして大はしゃぎしていた。 んだけど……。


「あ~やばっ。喉乾いてきちゃった」

 スーツの中は快適な温度に保たれているけど、動けばやっぱり汗もかくし喉も乾く。

「かといって周囲に川は無し。ってか生の水って飲むと危ないんだっけ?まぁしょうがない。今は水を求めて町へ行きますか」


 独り言をこぼしながらも、私はリュックを背中のバックパックに格納すると、レーダーで町の方向を確認してから、ローラーダッシュで移動を始めた。



 『キュィィィィィィンッ』と甲高い音を響かせながら緑の草原の上を高速で駆け抜けていくのは気持ちよかった。でも……。


「やっぱ家族とか友人にもう二度と会えないのは、辛いなぁ」

 その現実だけはどうしても割り切れなかった。今にも泣きそうなのを、ぐっと堪えているのがやっとだった。うじうじ考えたって仕方ないって事はもう分かってるけど、そう簡単に飲み込めるような真実でも無かったのだから。


「とにかく今は、町に向かう事だけを考えよう。うん」

 泣きたいのを我慢しながら、私はスーツを走らせ、他の事を考えるようにしていた。


 私に与えられたのは、どんなパワードスーツでも生み出す力。けど、だからって何でもかんでもって訳には行かない。重装甲、高機動、高火力の全部乗せ、ってのは無理だ。だってバランスが滅茶苦茶悪いし、重すぎる中を機動力で飛ばそうとしたらパイロット、この場合私にかかるGが尋常じゃなくなる。 当然、そんなの普通のJKな肉体の私には耐えられない。

 

 その辺は『創意工夫で何とかしてください』って女神様の手紙にも書いてあったし。まぁ、これだけ車並の速度で移動出来て、装甲強度も高めに設定してるし、武装は恐らくファンタジー世界にないであろうマシンガン。これでも十分チートなんだよねぇ、などと思いながら草原を走っていた、その時だった。


『ビーッ!ビーッ!』

「ちょわっ!?何事っ!?」

 いきなりヘルメット内に鳴り響くアラートに、私は慌てて足を止めて周囲を見回した。


≪警告!3時の方角で戦闘と思わしき行動を確認っ!≫

 その時ディスプレイ上部にポップアップしたウィンドウ。これは支援AIの物なんだけど、って、えっ!?戦闘っ!

「3時の方向って、こっちかっ!」

 訳も分からないまま、私は3時の方向に目を向け、すぐさま目を疑ったっ。


「なっ!?あ、あれってっ!?ワイバーンッ!?」


 私が見つけたそれは、ファンタジー世界の定番と言っても過言ではない存在。両腕が翼となったドラゴンの親戚みたいな怪物、『ワイバーン』の群れだった。 その数4匹。


 そしてそのワイバーンが今まさに、全速力で逃げる馬車と騎馬を追跡している姿を、私のスーツのカメラアイが捉えていた。


「やっぱりここは、本当に異世界なんだっ!」


 転移して1時間と経たないうちに、私はここが異世界であると強制的に理解させられた。


 突然のワイバーンに戸惑い、ここが異世界なんだと痛感した事で驚き、色んな感情が押し寄せる中で、私はただ、遠巻きに逃げる馬車を見つめている事しか出来なかった。


 と、その時。

『ドウッ!』

 ワイバーンの1匹が口から火球を放ったっ!それが、逃げる豪華な馬車へと向かっていくっ!


「危ないっ!!」


 それを見ていた私は、叫ぶと同時に無意識のままローラーダッシュで駆け出した。理由なんて無い。ただ、見捨ててはおけなかったからこそ、私は馬車の元へと急いだ。



 かっこいいが大好きなJKこと、私、鋼塚尊。 どうやら転生初日から、トラブルの予感です。


     第1話 END

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