第18話 対ドラゴン用パワードスーツ

 王女様たちは、被害を軽くするために街からの撤退を考えていたけれど、王女様は、本心では町を見捨てることなく、被害も出さずにドラゴンを倒し町の平和を守る事を望んでいた。私もまた、誰かの悲しい顔を見たくないという想いから、王女様の理想を叶えるためにドラゴンと戦う事を決意した。



 さて、王女様からのお願いは聞いたんだけど。

「リオンさんは、良いんですか?」

「ん?何がだ?」

 ず~っと会話に入ってなかったリオンさんの事が気になって私が問いかけた。


「殆ど私と王女様で、勝手にドラゴン討伐の話進めちゃいましたけど。リオンさんから何か言う事とかないのかな~って思いまして」

「あぁ、そのことか」

 小さく頷くリオンさん。


「私の、騎士としての立場から言わせてもらうのなら確かに被害の少ない撤退案を支持したい。その方が姫様も安全だろう」

 真剣な表情で語るリオンさんの言葉に、私と王女様は表情を曇らせる。あ~、やっぱそうですよねぇ。ってかこれ、もしかして反対される流れだったりするのかなぁ? 


「だが、そうだな。願う事なら誰も命を落とさず、街を見捨てる事無くドラゴンを倒せればと思う自分が居るのも事実だ」

「「え?」」

 思いがけない発言に私と王女様は揃って疑問符を漏らした。


 すると、リオンさんが私に頭を下げた。

「ミコト、私からも頼む。どうかこの街を守ってくれ」

 この行動の意味はつまり、私たちの突拍子もない理想に賛成してくれてるって事なんだろうけど……。

「ほ、本当に良いんですか?いや、私が言うのもあれですけど、リオンさん達の仕事って殿下の護衛なんじゃ?」

「確かにな。護衛としては姫様の安全を最優先するべきなのだろう。……だが、だからと言って姫様の決めた道に口出しするのは護衛の仕事ではないだろう?」

 リオンさんはそう言ってフッと笑みを浮かべる。


「姫様が戦いの道を選ぶのなら、その戦い中で姫様を守るだけだ」

「リオン。……ありがとう」

 騎士として、自分に付いて来てくれるリオンさんに王女様は嬉しそうに笑みを浮かべている。


 さて、これでリオンさんも私たちの考えに賛同してくれる事になった訳だけど。とりあえず私はさっきまで座っていた場所に戻って座りなおす。 ここからは、対ドラゴンについての話し合いになりそうだからね。


「マリーショア王女殿下、リオンさん。良ければ私にお二人が知っている限りのドラゴンの情報を教えてくれませんか?」

「構わないが、ドラゴンについて聞いてどうするんだ?」

「作戦を立てたり、パワードスーツを作るために情報が欲しいんです。少しでも弱点とかが分かれば、そこを突くようにパワードスーツを設計するので」

「成程な。とは言え私はあまり詳しくはない。過去に数度ドラゴンが目撃された事や、一度だけとある国の軍が兵力を総動員して討伐した事がある、と聞いたことがあるくらいだ」

「そう、ですか。王女殿下はいかがでしょうか?」

「私も大した事は知りません。リオンの知識量と大差ないでしょう。何せ、ドラゴンと言う存在自体がこれまで数えるほどしか目撃されておりませんから」

「そうですか。……あっ、じゃあリオンさんの言ってた一度だけ討伐したって話、詳しく分かりますか?」


「えぇ。そちらであれば以前、詳細な内容を本で読んだ事があります。お聞きになりますか?」

「はいっ、少しでも情報が欲しいのでっ」

「分かりました」


 王女様は一度息をついてから話し始めた。

「今よりも100年ほど前の事ですが、この世界には『グラド帝国』なる国家がありました。グラド帝国は優れた武力を有しており、軍事力で国家の優位を推し量った場合、トップに君臨するだろうと言われているほどの国家でした。ですが、100年ほど前。グラド帝国の大規模都市の近くでドラゴンが目撃されました。都市に駐留していた軍は、援軍を要請。周辺の都市や帝国の首都、帝都より数多の兵や騎馬兵、弓兵などが都市に配置され、ドラゴンの襲来に備えました」

「そこに、ドラゴンが?」


「はい。ドラゴンは予想通りその都市へと飛来。都市部への被害を抑える為に、軍は城壁の上と外に兵を展開。弓兵や壁上に設置されている大型の弓、バリスタによって飛行するドラゴンを打ち落とし、落下してきた所を歩兵で囲み、一気呵成に攻撃して討伐する、と言う作戦だったようです。しかしドラゴンの表皮は厚く、文献にあった記述の通りなら、バリスタのみがドラゴンに有効だったそうです」

「他の武器は、通じなかったんですか?」

「えぇ。本の記述通りなら、矢は愚か、剣や投げやりなども防がれたと。最終的には幸運にもバリスタの一撃がドラゴンの翼を撃ちぬき、地に落ちた所を残っていたバリスタの一斉射撃で何とか討ち取った、とありました。こうして何とかドラゴンを討伐したのですが、被害は甚大でした」

「具体的には、どれくらいの被害が出たんですか?」


「確か、戦闘に参加した兵力は2万以上と言われています。そのうち、死傷者は3分の2と書かれていました」

 2万人の3分の2って言ったら、14000人くらいっ!?

「ドラゴンとの戦いが過酷なのは分かってましたけど、多い、ですね」

「えぇ。更に言えば、戦場となった都市もかなりの被害を受けたそうです。この戦いで討伐されたドラゴンは、我々が遭遇した物と似て口から炎を放ってきたと記述にありました。更にその巨体も武器となるため、城壁付近での攻防戦で城壁そのものが壊されたほか、火球の流れ弾が市街地に落ち、民間人にも死傷者が出たとありました」


「屈強な国の軍隊が、束になって掛かってもそれだけの被害を出しながら倒すのがやっと、なんですね」

「えぇ。本の記述によれば、かなりギリギリの勝利だったようです」

「……ギリギリかぁ」


 聞けば聞くほど、ドラゴンと言う存在は強大なんだなぁと思い知らされる。それにこれから挑むって言うんだからやっぱり怖い。けど私にはチェンジングスーツの力があるんだ。それに……。


「バリスタの攻撃は、少なくともドラゴンに有効だったんですよね?」

「えぇ」

「となると、武器は最低でもバリスタ並の速度と質量が無いとドラゴンを撃ちぬく事は無理、かぁ」

 バリスタ以上の威力となれば、現代の戦車の砲弾でもあるAPFSDS、つまり貫通力に特化した装弾筒付翼安定徹甲弾みたいなのがあればいけるかな?あとは内部から敵を破壊する徹甲榴弾とか。 でも、そうなると最低でもキャノン砲が必要になる。仮に1対1で戦うとなると、そんな取り回しの悪い武器を使いながら上手く立ち回れるかなぁ。それが無理となると、やっぱりビーム兵器をメインに考えた方が良いかなぁ。


「う~ん」

 でもビーム兵器メインだと、稼働時間の問題がなぁ。


 実は、私の持つチェンジングスーツのエネルギーは無限にある訳じゃない。一度の装着で使えるエネルギーは基本的に有限。特にビーム兵器なんかは実弾系の武装と比べて燃費が悪い。仮にビーム兵器でドラゴンと戦うとなると、稼働時間は他のスーツと比べるとかなり低下する事になる。更に言えば……。


「ミコトさん」

「あ、はいっ。何でしょう?」

 考えていた所に声を掛けられ、意識を王女様の方へと向ける。


「一つ気になったのですが、ミコトさんは先ほど、対ドラゴン用の戦法として狙撃を提案されていましたが、あの戦法をそのまま使うのですか?」

「あ~~。いえ、正直使えないと思います」

「その理由をお聞きしても?」

「え~っと、私があの時考えた装備だと、威力を最優先して、機動性が劣悪なんです。しかもあの装備だと、ドラゴンが森の外に出てくるとかが前提なんです。でも機動性が悪いと私が囮になる事も出来ませんし」

「では当初のプランは使えない、と?」

「はい。仮にこの狙撃プランを使うとしたら、森からドラゴンが出てくる『出待ち戦法』になっちゃいますし。狙撃ポイントに城壁を使った場合、下手すると接近されて町に被害が出る恐れもあるので、正直使えないかな~と」

「確かに、そうですね」


 私の話を聞き王女様は浮かない顔をしている。

「そうならないよう、街の周囲での戦闘は避けるべきですね」

「はい。そうなると必然的に、戦場になるのはあの北の森です。加えて鬱蒼とした森のあそこじゃ、取り回しも悪く機動性が低い狙撃型のパワードスーツじゃまともに戦えません」

「ならばミコト、お前に何か、狙撃プラン以外に代替案はあるのか?」

「そうですねぇ」


 顎に指先を当て、考える。 当初の狙撃プランは使えない。戦闘はおそらく、森で行う近距離戦。しかも被害を抑えるとなると、周囲の援護は期待できない。でも、それは逆に言えば、『周囲への被害を一切気にしなくても良い』、と言う事。だったら答えは決まっている。


「一応、案があるにはあるんです」

「その内容は?どんなものなんだ?」

「1対1なら周囲への被害も大して考える必要がありません。そこで、誤射を気にしない大火力のビーム兵器をメインに機動性や防御力を向上させた短期決戦用のパワードスーツを作るつもりです」

「成程。しかし短期決戦用、というのは?」

「実は、パワードスーツも稼働するには相応のエネルギーが必要なんです。特にビーム兵器を運用するとなると、エネルギーの消費量は大きくなります。これまでの武器は実弾とビームの両方をバランスよく装備して消費量を抑えていたんですが。ドラゴン相手だと実弾兵器、私がワイバーン戦で使った腕のマシンガンみたいなのが通用するか分からないので、ビーム兵器を使うつもりです」

「しかし、そうなるとエネルギーの消費量が増加するので、長時間は戦えない、と?」

「はい。そういうことです」

 王女様の言葉に頷く。


「ビーム兵器をメインに据えた、『対ドラゴン用短期決戦型パワードスーツ』。それが今の私に用意できる力です」

「その決戦型パワードスーツならば、ドラゴンに勝てる可能性がある。そう考えてよろしいのですね?」

「……はいっ」

 下手な事を言って不安にさせたくなかった。だから、『恐らく』と言う言葉を飲み込み、ただ頷く。王女様はしばし目をつむり、何かを考えている様子。


「ミコトさん。その決戦型スーツを兵士や指揮官たちに明日の朝、お披露目できますか?」

「明日の朝、ですか?ある程度構想はまとまっているので、可能ですが?」

「では、明日の朝皆の前でその決戦型スーツを見せてほしいのです。彼らの多くは既に撤退を支持しています。それを覆すにしろ、ドラゴン討伐に関して許可を得るにしろ、如何に私の指示であろうと現場を無視して無断では動けませんから」

「分かりました。今日中に展開できるようにしておきます」

「お願いします」


 その後、話し合いは終わり王女様とリオンさんは『指揮官たちに事情を説明してくる』と言う事で部屋を出て行った。


「ふぅ~~」

 二人が出ていくと、私はソファにもたれかかりながら息をついた。……ついさっきまで考えていた狙撃プランは使えない。戦闘は多分1対1になる。燃費、稼働時間の低さを犠牲にした短期決戦用スーツを使っての戦い。


 それでも勝てる確証はないけど、それでももう後には退けない。ドラゴンの事を思い出すと未だに背筋が震える思いだけど。絶対に、勝って見せる。勝って、この街を守って見せる。


 私は決意と共に、一度窓から見える町の様子を目にしてから深呼吸をする。

「ぃよしっ!考えるかっ!」

 気合を入れる意味でも、声を上げてから私は対ドラゴンスーツの創造を始めた。



 翌日。朝。私たちは駐屯地内部の訓練に使われる広場に集まっていた。私の傍には王女様とリオンさん、他の護衛騎士さん達。そんな私たちと対面するように駐屯地の司令官や指揮官さんらが立っている。 その後ろ、少し離れた所にも何人もの兵士の人たちが集まり、私たちの様子を伺っていた。


「殿下。皆集まりましたが。……昨日の話、本当なのですか?ミコト殿を頼ってドラゴンを討伐するなど」

「えぇ」

「……理解に苦しみます。兵や市民への被害を抑えるのなら、撤退するべきです」

 司令官は眉を顰め、苦言を漏らしている。そばに居る指揮官たちも、それに同調するようにうなずいている。


「司令官の仰ることも分かります。確かに今後を考えれば、被害を最小限に収めるべく動くべきでしょう。ミコトさんの力も、ドラゴンの力も未知数である以上、彼女が勝利する可能性は未知数。誰も予測できません。……ですが、あのドラゴンを放置し撤退したとして。あのドラゴンが先々の脅威にならないと断言できますか?」

「………」

 王女様の言葉に司令官は無言で視線を反らした。確かに、ここで町を放棄して、誰の被害もなく王都まで撤退出来たとして。あのドラゴンが生きている以上今後の脅威にならない、なんて保証はない。


「とはいえ、戦うなどと言っても納得できない者もいるでしょう。ミコトさん」

「はいっ」

「あなたの考え出した、ドラゴンを打ち倒す力を皆に見せてあげてください」

「分かりましたっ」


 私は力強くなずくと、首元から下げたスーツのコアを右手で握り締め、叫んだ。

「≪チェンジアップ≫ッ!!」


 いつものようにあふれ出した流体金属が私の体を包み込み、形を変える。そして、その下から現れたパワードスーツはCSA-01と似ていながらも、非なる物だった。


「これ、は……」

「まるで、天使」


 変化した私を見ながら誰かが呟いている。 今の私が纏うパワードスーツは、私の装備の中でも基本でもあるCSA-01をベースに対ドラゴン用に改造と改良を施した物になる。


 装甲には耐熱、耐火性に優れた装甲版や、防御力に優れた物をミルフィーユのように重ねた積層装甲版を採用。バイタルパートである胸や腿、肩などは特に重点的に防御を固めた。


 武装は右手に持つビームライフル。これはビームピストルに威力・射程を強化する強化パーツを装着した物で、仮に装着パーツが破壊されてもビームピストルが無事なら、使用可能な物になっている。もちろん威力や射程の低下は否めないけど。

 

 更に両腰部には某ロボットアニメでは定番だった『ビームサーベル』を一本ずつ装備。使用の際には手に握った時に接触している掌からエネルギーが供給される仕組みになっている。


 左腕にも楕円形のシールドを装備。スーツの積層装甲と同じく、無数の装甲を重ねた積層装甲シールドで、AIによる計算上はドラゴンのブレスにも耐えられるようになっている。


 そして、最も目を引くのが背中のジョイント部分から六方にそれぞれ伸びる板のような形の兵装、『ホワイトフェザー』。 このスーツの背中の中央にあるリングには、6つの接続口がありそこにホワイトフェザー6機がそれぞれ接続されていた。 円を描くように配されているそれは、見方によっては6枚の羽根のようにも見えるはず。


 誰かが天使、とつぶやいたようにそう見える人もいるだろう。


「これが、ミコトさんの用意した対ドラゴン用のパワードスーツ、なのですね?」

「はいっ。これが、今の私に出せる切り札。対ドラゴン用パワードスーツ、『CSSP-00』、機体コード、『ガーディア』ですっ!」


 それは、これまでの型式番号だけだった機体とは違う。言うなれば、燃費を犠牲に他機種よりも戦闘力を底上げした『ハイエンドモデル』。型式のSPも、スペシャルと言う意味だ。だからこそ名前を考えた。


『ガーディア』。守護者と言う意味の単語から作り出した名前。


「私はこのガーディアで、あのドラゴンをぶっ飛ばしますっ!!」


 皆を安心させるために。希望を与えるために。鋼鉄の天使、或いは鋼鉄の守護者としてふさわしく振舞おう。そう考えていた私は、宣言するように高らかに叫ぶのだった。


     第18話 END

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