第20話 ドラゴン討伐作戦・後編
対ドラゴン用のパワードスーツ、ガーディアのお披露目後、私は姫様やリオンさんらと共にドラゴン討伐を行う事に。少人数で森に潜入した私たちは、餌を用いてドラゴンをおびき出す事に成功。そして私がガーディアを纏って襲い掛かるのだった。
「当たれぇぇぇぇぇっ!」
ドラゴンに向かって、ホワイトフェザーの力で飛翔しながらもビームライフルを構えすぐさま引き金を引いた。狙うは頭っ!初手必殺ッ!当たればそれだけで終わるっ!
しかし、現実は甘くなかった。ドラゴンは咄嗟に頭を下げてビームを回避した。更に屈み、その巨体を支える4本の脚の跳躍力を持って空に飛びあがったっ!あんなことも出来るのっ!?
ドラゴンはそのまま羽を羽ばたかせ、滞空しながらも眼下の私を睨みつけている。けどっ!
「飛べるのは、お前だけじゃないっ!」
ホワイトフェザーの重力制御に加えて、足裏に装備したバーニアスラスターを用いて私も上昇し、ドラゴンと同じ高さで制止する。
『グルルルルルッ!!』
唸り声を上げながら、ドラゴンが私を睨みつける。その殺気と圧迫感に、初戦の恐怖がぶり返しそうになる。でもっ! 今の私は、あの時とは違うっ!
「行くよっ!!」
自らを鼓舞するように叫び、私は前に出るっ。ドラゴンに向かって行くっ!
『グルアァァァァァァァッ!!!』
私の突進に呼応するようにドラゴンも咆哮を上げて突進してくる。そのまま距離をつめ、ぶつかる間際っ!ここだっ!!!
私はぶつかる直前、体を真横に回転するようにして高度を維持したまま、まるで真横にスライドするように移動する。そしてほんのコンマ数秒前まで私の居た位置をドラゴンが通過していく。これは、重力制御技術を持つからこそ出来る芸当。現実ならありえない、ゲームの回避起動のような動き。ただし……。
「うぐぅぅっ!!」
じ、重力制御技術で体にかかるGをある程度軽減しても、完全には殺しきれない。重力を殆ど無視したようなマニューバのGが、私の体を締め上げる。その痛みに思わず、表情が歪み苦悶の声が漏れる。でもっ!
「後ろは、取ったっ!」
私は即座に反転しドラゴンの背後を取ったっ!そのまま飛行するドラゴンの後ろを追いかけるっ! ゲームやアニメ、映画で見た事があるドッグファイトッ!現代の知識が通じるかは分からないけど、こういう空での戦いは、後ろを取った方が圧倒的に有利っ!
「当たれっ!」
ビームライフルを構え放つ。しかしドラゴンはそれを、翼を用いた複雑な機動で回避するっ!加えて高速のドッグファイト中と言う事もあり、風圧で正確に狙いがつけられなかった。追いかけながらの射撃が、こんなに難しいなんてっ!
何とか狙いを定めてビームを放つけど、ドラゴンの縦横無尽な機動と、ドッグファイトによって発生する風圧などで正確な狙いがつけられず、ビームはドラゴンの至近を通過するばかりだ。
『グルアァァァァァッ!!』
その時、ドラゴンが咆哮を上げると首だけを動かし頭をこちらに向けてきたっ!直後に放たれる火球っ!
「やばっ!!?」
まさか逃げながら攻撃してくるなんて思わず、驚きながらも反射的にビームライフルの構えを解いて回避機動に移った。周囲を縦横無尽に飛び回りながらドラゴンの吐き出す火球を避ける。
しかし、ドラゴンは逃げる私を追って無数の火球を放ってくるっ!それを回避しながら距離を取ろうとしたけど、それが間違いだった。
『グルアァァァァッ!!』
追う側と追われる側が逆転した。ドラゴンは咆哮を上げると方向転換して私を追ってきた。
背後から無数の火球が迫るっ!
「くっ!?」
私はそれに歯噛みしながらも、不規則な機動で火球を避けつつドラゴンを振り切ろうとしたけど、あいつは諦めずに追ってくるっ!このままじゃ不味いっ!この状況に対応できる武器はあるにはあるっ!まだ使いたくなかったけど、仕方ないっ!
「ホワイトフェザー展開っ!」
≪了解、ホワイトフェザー各機、射出≫
HUDに浮かぶポップアップ。次の瞬間、背中に接続されていた6機のホワイトフェザーが射出された。
『グルルッ!』
見ると、その行動をいぶかしんだのかドラゴンの速度が僅かに落ちたっ!好都合っ!
「フェザー各機っ!バレル展開っ!」
≪了解、ビームショットバレル、展開≫
指示を出した直後、空中に漂っていたホワイトフェザー6機の、前部パーツが展開された。それは、まるで花弁が開くように。
「攻撃、開始っ!」
矢継ぎ早に放つ指示。次の瞬間、攻撃モードとなったホワイトフェザーのバレルから桃色の光の雨、ビームの散弾が放たれた。ビームの雨が面制圧攻撃としてドラゴンに襲い掛かった。
『ゴルゥアァァァァァッ!?!?』
ビームの散弾がドラゴンの表皮を焼く。更に周囲に展開したホワイトフェザーがドラゴンを包囲し、四方八方からビームの散弾を打ち込んでいく。けど正直、ビーム兵器とは言え出力は低めだから威力は期待できなかった。実際、旋回しながら様子を見るけど、ビームの散弾はドラゴン体表の鱗や皮膚を少し溶かしている程度だ。その強固な鎧である鱗を貫く事までは出来ていない。
それにホワイトフェザーは背面に装着している時は重力制御システムを用いて、ガーディアの飛行補助を担当している。もちろん背面の接続ユニットにも重力制御システムが搭載されているから、飛べなくなるわけじゃないけど機動性が落ちるのは確か。でも、今はそれでいいっ!だって、あいつの注意が私からホワイトフェザーに移っているのならっ!
「今が攻め時ってねぇっ!」
そうだっ!今なら距離を詰められるっ!行けるっ! ホワイトフェザーにドラゴンの注意が向いている隙に、私は大きく円を描くように飛行しドラゴンの背後へと回り込む。とはいえ、何度も後ろを取れるか分からないから、慎重に狙いを定めチャンスをうかがう。そして、ドラゴンがホワイトフェザーに噛みつこうとして完全にこちらへ背を向けたっ!
「そこだっ!」
今が最大のチャンスっ!とばかりにその背中を狙ってビームライフルを放ったっ!
が、寸でのところでこちらに気づいたドラゴンが回避行動に出たっ!けどっ!避けきれずビームがドラゴンの翼の被膜を撃ちぬいたっ!途端にバランスを崩すドラゴンッ!これはチャンスっ!
「今っ!ホワイトフェザー全機っ!被膜を狙ってっ!そいつを、撃ち落とせぇっ!!」
あらんかぎりの声を上げて叫ぶ。直後、四方八方からホワイトフェザーがドラゴンの翼の被膜を狙ってビームの散弾を放った。
バランスを崩していたドラゴンはそれを避けきる事が出来ず、更に被膜をビームで貫かれる結果となった。
『ギャオォォォォォンッ!!??』
するとドラゴンはついに飛ぶことが出来なくなったのか、そのまま眼下へと落下し始めた。
「よしっ!フェザー各機再合体っ!」
指示を飛ばし、フェザー6機が戻ってきて背部に接続され、同時に消費したエネルギーをスーツ本体から補給していく。 6機の接続を確認すると、落ちるドラゴンを追って、私も降下を開始した。
バタバタと手足を振りながら落ちていくドラゴン。そしてその巨体が、森の中へと落下した。盛大な爆音を響かせ、その巨体を落下した時に発生した砂煙が隠してしまう。
「今の落下で死んだ、と思いたいけど……」
私は落下したドラゴンの傍に着地し、左手の盾を構えつつジリジリとすり足で落下地点に近づいていく。
と、その時。砂煙を割って中から飛び出してきた物があったっ!?
「っ!?」
咄嗟にヘッドスライディングで真横に飛ぶ。直後、私の頭上を通り過ぎたそれは、ドラゴンの尻尾だった。
あ、危なかったっ!前にやられた事があったから、今日は即座に対応できたっ!でも、攻撃してきたって事はまだ生きてるって事だよねっ!
ヘッドスライディングのように地面に飛び込んだ態勢からすぐさま起き上がり、すぐさま右手のビームライフルを腰部背面のマウントラッチに固定。そして、右手で左腰に接続されていたビームサーベルを引き抜いた。直後、柄の部分から音を立てて起立するビームの刃。
『グルアァァァァァァッ!!!!』
直後、砂煙を突き破ってドラゴンが姿を現した。怒りの咆哮を上げながらドラゴンは私を憎たらし気な表情で睨みつけてくる。でもその背中を見ると、右翼が先ほどまでと違って中ほどから変な方向に折れ曲がっていた。もしかして、さっきの落下の衝撃で翼内部の骨か何かが折れたんだとしたらっ!
これはチャンスっ!多分奴はもう飛行できないっ!となれば、逃げられる心配はないっ!だからっ!
「ここで、決着をつけてやるっ!!」
ドラゴンに挑めるチャンスはこの1回きりっ!それがダメなら、街を放棄して撤退するしかないっ!そんなのはダメだっ!
誰も悲しまなくていい結末をっ!そんな未来をっ!私たちは掴み取るんだっ!!
「うぉぉぉぉぉっ!!!」
ビームサーベルを手にドラゴンに向かって突撃するっ!パワードスーツの脚力も合わさって、飛ぶような勢いで向かって行く。
『グルアァァァァァァァッ!!!』
怒り狂ったドラゴンの咆哮。ドラゴンは咆哮と共に振り上げた右腕を私目がけて振り下ろしてきたけどっ!遅いっ!
「はぁぁっ!!」
さらに加速し、腕が叩きつけられるよりも先にその手首辺りをビームサーベルで切りつけながら走り抜ける。ビームの刃がドラゴンの堅い鱗と、その下にある肉を焼き切る。肩越しに振り返りつつ様子を伺う。
『ゴアァァァァッ!??!?』
悲鳴を上げるドラゴンッ!でもダメだっ!片腕っ、手首から先を切り落とせなかったっ!本当はそのつもりで切りかかったのにっ!それに、素人が感触から判断しただけだけど、多分骨まで行ってないっ!踏み込みが甘かったっ!?でもそれならっ!
「もう一刀で、切り落とすっ!!」
着地、反転しもう一度切りかかるっ!がっ。
『ゴルゥアァァァァァッ!!!』
「ッ!?」
咆哮を上げながら眼前に迫る後ろ足っ!?馬の後ろ脚を用いた背後への蹴り攻撃のような、その攻撃を予測しきれていなかったっ!? カメラいっぱいに迫るドラゴンの後ろ脚。直後、衝撃が体に襲い掛かったっ。
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
シールドを構える事も出来ず、吹き飛ばされたっ。
「じ、重力制御最大っ!!」
それでも飛ばされながらなんとか叫んでAIに指示を出す。物に激突する前に、何とかホワイトフェザーとスーツ本体の重力制御システムを使って、空中で体勢を立て直して着地。しかし突然の攻撃に驚き、地面に片膝をついてしまう。
「くっ、うっ」
しかも吹っ飛ばされた運動エネルギーを無理やり重力制御システムで相殺した負荷は大きい。強いGが体に襲い掛かる。まるで岩に体全体を圧迫されているような感覚っ。胃の中の物、押し出されそうっ。
「うぷっ」
吐きそうになるのを必死にこらえ、喉元まで出かかったそれを何とか飲み込む。
「はぁ、はぁ、はぁっ」
何とか息を整えつつ、立ち上がる。
『ゴルルルルッ!!』
ドラゴンはこちらを警戒しつつ、ゆっくりと近づいてくる。流石にもう飛べないしビームサーベルの危険性も分かったみたい。でも飛べないのなら、ビームライフルでっ!
右手のビームサーベルを一旦ラックに戻し、腰部背面のビームライフルへと手を伸ばした、その時。
「ミコトさんっ!」
「ッ!?」
後ろから聞こえる声に、思わず反射的に振り返ってしまう。振り返った先にいたのは、姫様とリオンさん達だったっ!? 『なんでっ!?』と思ったのも束の間。視界に入った景色に見覚えがあった。ここはさっきドラゴンと遭遇した場所の近くだっ!まさか私、攻撃で姫様たちの方に飛ばされてたのっ!?
≪警告ッ!目標体内に高エネルギー反応ッ!≫
「ッ!?」
その時視界に移ったポップアップ。それを理解した直後、反射的に私はドラゴンの方へと目を向けた。
見るとドラゴンはその口いっぱいに炎を貯めていたっ!?間違いなくブレスの予備動作だっ!咄嗟に回避しようとしたけど、そうだよっ!私の真後ろには姫様たちが居るじゃんっ!逃げるように叫ぶっ?ダメ、今からじゃ間に合わないっ!ここは、一か八かの賭けに出るしかない、のかなっ?
≪危険ッ!目標のエネルギー量更に増大ッ!≫
AIが教えてくれるドラゴンの状況。もう、くっ、こうなったら迷ってる暇はないっ!
「姫様っ!皆さんっ!急いで私の後ろへっ!」
「な、何っ!?それはどういう」
「早くっ!!!」
戸惑うリオンさんを遮るように私が叫ぶ。正直、もう時間が無いっ!ドラゴンが今にもブレスを吐き出しそうなんだっ!
「ホワイトフェザー全機展開っ!防御態勢っ!『フルシールドモード』ッ!」
音声コマンドによる指示を飛ばす。すると背面に接続されていたホワイトフェザー6機がすべて分離し、私の前面に展開。更に6機すべてが6枚の花弁の花を描くように連結、合体したフルシールドモードッ!ホワイトフェザーはこんな風に合体させて盾としても使えるように設計してたんだっ!とはいえ、フルシールドモードでドラゴンの最大ブレスを受け止めきれる確証なんて無いけどっ、今はとにかく防御を固めるっ!
「ッ、皆ミコトさんの後ろへっ!」
「姫様っ!?しかし今はここから離れるべきではっ!?」
「ドラゴンは既に前方に居て、ブレスを放つ用意をしているのですっ!今更私たちが走った所で、ブレスから逃げられる訳がありませんっ!さぁ早くっ!」
「わ、分かりましたっ!」
よかった、姫様は私を信じてくれたみたいで、リオンさん達にも私の後ろに来るように促してくれてるっ! まぁその分、期待には答えたないとヤバいんだけどっ!
そう思った直後。
≪攻撃、来ますッ!≫
「ッ!!」
AIからの報告が飛んでくるっ。視線を前に戻せば、ドラゴンが今まさにブレスを吐き出す瞬間だったっ!
「ホワイトフェザー全機ッ!重力制御システムフルパワーッ!干渉フィールド展開ッ!!」
音声コマンドで指示を出す。更に思念操作で腕部シールドに搭載されている重力制御システムも起動。私の前面に、攻撃を反らして流す重力フィールドを形成する。『受け止める』のではなく、『受け流す』。それが、重力制御システムの応用で私が生み出した防御システム。
ホワイトフェザー6機とシールドに搭載されているシステムが全力で動き出した。それを表すようにシステムが唸り声にも似た駆動音を響かせる。
『グルゥアァァァァァァァァッ!!!!』
次の瞬間、ドラゴンがブレスを放ってきたっ!それは今まで見てきたブレスとは異なっていたっ。まるで、炎の鉄砲水ッ!視界を埋め尽くすほどの炎の濁流が向かってくるっ!
「負けるかぁぁぁぁっ!!!」
その炎の濁流に、私は抗うっ!!シールドとホワイトフェザーの重力制御システムによって炎が左右に分かれ流れていくっ!けれどっ!
「うっ!ぐぅぅぅぅぅぅっ!!!」
ブレスの圧力は、私の想像を超える物だったっ!何とか干渉フィールドで炎と、人間すら簡単に焼き殺す圧倒的な熱量を左右に流しているけどっ、必死に踏ん張っていないとブレスの威力で飛ばされそうだったっ!
そうなったら、フルシールドモードのホワイトフェザー6機だけじゃ姫様たちを守り切れないかもしれないっ!そうしたら、姫様たちは死ぬかもしれないっ!
そう思った瞬間、『ドクンっ』と心臓が大きく跳ねる。嫌な汗が吹きだすっ!そんな未来、絶対に認めないっ!だから退けないっ!
「まだ、まだぁぁぁぁっ!!!」
自分自身を鼓舞するように大声で叫ぶ。吹き飛ばされそうになるのを必死に踏ん張り耐える。シールドを構え続ける。
「姫、様ッ!」
何とか踏ん張りながら、肩越しに振り返り後ろを見る。後ろでは、騎士の人たちが地面に伏せるなり屈むなりして、必死に身を守っていた。そしてリオンさんは、私の方に背中を向けた姿勢のまま姫様を抱き寄せ、彼女を守っていた。
「り、リオンッ!」
「姫様は私が必ず守りますっ!必ずっ!」
ブレスの爆音の中で聞こえる、姫様とリオンさんの声。そうだ、今の私には、人がいるっ!守るべき命がそこにあるっ!ほんの数メートル後ろにっ!
≪警告ッ!敵ブレスの威力更に増大っ!≫
「ぐぅぅっ!!?」
AIによる警告が確かである証明として、腕に、体全体にかかる圧力と風圧が更に増す。パワードスーツの脚力を持ってしても耐える事の難しいブレスの圧力と風圧。一歩、その威力に負けて後ろに下がってしまう。
「くぅっ!?このままではっ!」
「な、何か手は無いのかっ!」
聞こえてくるそれは、騎士の人たちの弱音だった。
「あきらめるなっ!まだ、まだミコトは負けていないっ!」
弱音を吐く騎士の人たちを、リオンさんが叱咤している。
そうだ。こんな所で、死ねないっ! そう思い必死に踏ん張る。けれど……。
「ぐっ!?」
そんな覚悟や想いをあざ笑うかのように、ドラゴンのブレスは私たちを薙ぎ払おうとしている。ドラゴンは、この一撃で確実に私たちを殺すつもりだっ。 私の、今用意できる最強のパワードスーツをもってしても圧倒出来ない程ドラゴンは強い。 このままじゃ負けるかもしれない。そんな不安が脳裏をよぎった。
「ミコト、さん」
その時、後ろから聞こえてきたか細い声は、姫様のだ。けれど今は振り向けない。耐えているのが、精一杯だったから。圧力に負けて膝から崩れそうになるのを必死に堪える。弾かれそうになる腕を必死に維持し、盾を構え続ける。
「お願い、負けないで」
それは、祈りの言葉だった。ブレスの爆音にかき消されそうな程の、か細い声をスーツの収音装置が僅かに拾ったほどの、小さな祈りの言葉だった。
「ぐっ!うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
そして、姫様の祈りの言葉が私を奮い立たせた。そうだっ!負けられないっ!こんなところで負けてなんかいられないっ!
約束したんだっ!あの星空の下でっ!姫様を、絶対に守るってっ!
「絶対ッ!絶対っ!絶対絶対絶対っ!私が守るんだぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
思いを声にして叫ぶ。絶対に守り抜くという意思を不屈の闘志に変えて、体に力を籠める。砕く勢いで歯を食いしばり、前を見据えるっ。この炎の先にいるドラゴンを、今日ここで、必ず倒すっ!!!
覚悟と共に、私は炎の先にいるであろうドラゴンを睨みつける。と、その時不意にブレスの勢いが弱まったっ!更に数秒もすれば、炎の濁流と言っても良いブレスが途切れ、視界が晴れた。
見ると、前方でドラゴンが苦しそうに荒い呼吸を繰り返していたっ!そっかっ!あいつだって無限にブレスを吐き続けられる訳じゃないって事かっ!そして私はそれを耐えきったっ!つまり、今がチャンスッ!!!
「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
雄叫びを上げ、全力で走り出すっ。狙うはドラゴンッ!私は両腰のビームサーベルの絵を掴み、抜刀。二刀流でドラゴンに向かって行くっ!!!
「ミコトさんっ!」
「ミコトォッ!」
後ろから聞こえる姫様とリオンさんの叫び声。それでも振り返る事なく、前へっ、前へっ!!
大地を蹴って走るっ!ドラゴンを、ここでっ!倒すっ!!
『ゴルルッ!ゴアァァァァ……ッ!!』
私を睨みつけ咆哮を上げるドラゴンッ!でも、今までの咆哮より覇気が無いっ!あの極大ブレスが奥の手だったのかなっ!?見た感じ体力の消耗が激しいみたいだけど、こっちには好都合っ!!
「弱ってるのなら、一気呵成に叩くっ!!!」
ビームサーベルの切れ味なら奴の装甲である鱗の防御力だって突破できるっ!倒すっ!倒すっ!絶対ここで、倒すっ!!!
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
雄叫びを上げ突進していく。けれどドラゴンだって素直にやられる気は無いだろう。
『ゴルアァァァァァァァァッ!!!』
疲弊した自らの肉体を奮い立たせるように、ドラゴンは雄叫びを上げ突進する私目がけて、右腕を振り下ろしてきたっ!でもっ!
「遅いっ!!」
スタンプ攻撃をステップで横に回避するっ!
「はっ!」
着地、と同時に振り下ろされたドラゴンの右腕にビームサーベルを振るう。ビームの刃がドラゴンの鱗とその下にある筋肉を切り裂くっ!
『ギャオォォォォォンッ!!!』
痛みで悲鳴を上げるドラゴンッ!でもまだっ!!
「今度こそ、その腕貰うよっ!!!」
悲鳴を上げるドラゴンの右腕っ、それも今まさに傷をつけた部分を狙ってX字を描くように2本のビームサーベルで切りつけたっ!
「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
2本の刃がドラゴンの右腕を瞬く間に溶断していき、そしてその右腕を切り飛ばした。
『ギャオォォォォォォォォォンッ!!?!?!?』
切り裂かれたドラゴンの右前腕が地面に落ち、ドラゴンは激痛に表情を歪めながら悲鳴を上げているっ!!そこを、追撃するっ!!
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
がら空きの腹部を何度もビームサーベルで切りつけるっ。鱗に覆われていない腹部は、ビームの熱に耐えきれず瞬く間に傷が増えていくっ。
『ギャォォォンッ!!!』
身の危険を感じたのか、ドラゴンは雄叫びを上げると攻撃ではなく、退避を選んだ。後ろ両足を使って、後ろへと跳躍したドラゴンッ!
「逃がすかぁっ!!」
ここで絶対に倒すって決めてるんだっ!私は、左手のビームサーベルをドラゴン目がけて投げたっ。
縦方向に回転しながらビームサーベルがドラゴンへと向かって行き、そしてその折れた右翼を切り裂いた。
『ギャオォォォォンッ!??!』
悲鳴を上げるドラゴンッ!チャンスッ!
「食らえぇぇぇぇぇっ!!」
残ったサーベルを左手に持ち替え、右手でビームライフルを抜き、発砲。放たれたビームは疲労と痛みで動けないドラゴンの腹部を貫いたっ!
腹部を貫かれたドラゴンの頭が下がり、口から大量の血を吐いたっ!
「ミコトッ!チャンスだっ!とどめを刺せっ!」
「言われずともぉっ!!」
後ろから聞こえるリオンさんの怒声に近い声に、私も怒鳴るように返事を返す。ビームライフルを投げ捨て、再びサーベルを右手に持ち替えて駆け出すっ。
『ゴルルルゥゥ………ッ!!』
ドラゴンは唸り声をあげるばかりだっ。あれだけ攻撃を受けて血を流したんだっ!きっと相当なダメージのはずっ!でも動けないのならっ!!!
「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
全速力で疾走し、跳躍。狙うはドラゴンの、頭っ!!!
重力制御システムの力も使って、ドラゴンの頭へと向かって飛び込む。が、その時ドラゴンが口を開けたっ!?次の瞬間、放たれるブレスッ!!
「ッ!!」
一瞬凍える背筋。咄嗟に左腕のシールドでガードするッ!干渉フィールドを展開し、ブレスを受け流すっ。が、至近距離からのブレスは予想外で、スーツが耐えられるか分からなかった。その不安が冷や汗となって背筋を伝う。
「ミコトさんッ!!」
後ろから聞こえる姫様の悲鳴にも似た叫び声。
「ぐ、うぅぅぅぅぅっ!」
あと、あと1歩なんだっ!ここまで来てっ!
「負けられるかぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
雄叫びを上げ、そしてビームサーベルを振るう。振るわれた刃が、ドラゴンのブレスを切り裂いたっ!これに驚いたのか、或いは打ち止めだったのか、ドラゴンからのブレスがピタリと止まるっ!でもそれならっ!
「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
ここが、最大のチャンスッ!! ビームサーベルを手元でクルリと回転させ、逆手持ちにするとそれをドラゴンの頭に、突き立てたっ!!!
「これで、終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
振り下ろしたビームサーベルの刃がドラゴンの脳天へと突き刺さる。肉の焼ける嫌な音と感触に嫌悪感を覚えながら、それでも私はサーベルを押し込んだっ!
「ゴアァ、ア、ァァ………ッ!」
しかしそれも数秒。ドラゴンの幕切れは、存外呆気ない物だった。
ドラゴンは最後の弱々しい咆哮を上げると、やがて力なくその場に倒れた。
「うわっ!」
突然倒れたドラゴンに驚いてビームサーベルの柄を離してしまい、そのまま大地の上に投げ出された。
「くっ!」
突然の事と疲労でまともに受け身も取れず、泥の上に落ちた。幸いスーツのおかげで落ちたダメージは無いけど……。
「ど、ドラゴンは?」
何とか体を起こし、ドラゴンの方へと目を向ける。ドラゴンは地面に横たわったままぐったりとしている。けど念のため、私はシールドと腰から取り出したビームライフルを構える。
そして、確認のためのビームを1発。ドラゴンの腹部に打ち込んだ。柔らかい腹をビームが撃ちぬくけど、ドラゴンはピクリとも反応しない。やった、のかな?
静かにドラゴンを観察していると……。
「ミコトさんっ!」
声がして振り返った。見ると姫様やリオンさん達が息を切らしながらもこちらに駆け寄ってくる所だった。
「ミコトさんっ、ドラゴンはっ?」
「あ、え、えと。た、倒した、と思います」
正直、その時はまだドラゴン討伐の実感がわかなかったから、少しばかり疑問形で答えてしまった。
「ほ、本当に、死んでるのか?」
騎士の人たちが数人、ドラゴンに近づく。ゆっくりと剣を抜き、おっかなびっくり、と言った様子で手足や腹部の辺りを刺したり切りつけたりするが、やっぱりドラゴンは動かない。
「これは、間違いないな」
「あ、あぁ」
騎士の人たちは、数分ほどして確認をすると、念のためにと距離を取っていた私たちの所へと戻って来た。
「姫様、ドラゴンの死亡を、確認しました。ドラゴン討伐、成功ですっ!」
やがて、状況に感情が追い付いたのか次第に皆笑みを浮かべ始める。そして、私も。
今になって、ようやくドラゴンを倒したという実感がわいてきたっ!こ、これなら街を放棄する必要はなくなったって事だからっ!だからっ!!
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
犠牲も0のまま、ドラゴンを討伐できた事と、街を放棄しなくて済んだ事に対する喜びが爆発し私は大声で叫んだ。
「姫様っ!私やりましたっ!ドラゴンを倒しましたよっ!」
「えぇ。見事です、ミコトさんっ」
湧き上がる喜びを笑みとして浮かべたまま姫様の方を向くと、彼女も嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「まさか本当に、ドラゴンを倒してしまうなんて。これで、街の放棄も必要なくなりました。ミコトさんの尽力のおかげで、人々の生活と、平和を守る事が出来ました。本当に、何とお礼を申し上げれば良いのか分かりません」
姫様は笑みを浮かべながらも、目じりにうっすらと嬉し涙を浮かべている。お礼、かぁ。
「いりませんよ、そんなの」
「え?い、要らない、と?」
「はい。だって、私は私の意思で戦った。それだけですから」
私が戦おうって思った理由。それは……。
「『あなたの力になりたい』、そんな思いを自分なりに貫いた。ただそれだけですよ」
「ッ。えぇ。そうでしたね」
マスクの下で私は笑みを浮かべながら言葉を漏らす。その言葉に、姫様もなぜか一瞬顔を赤らめながらも笑みを浮かべている。
「ともあれ、これでドラゴンの討伐は完了した訳だな」
リオンさんも、やり遂げたな、と言わんばかりに満ち足りた表情を浮かべている。もちろん他の護衛騎士さん達もだ。
「が、念のために証拠になりそうな物を持ち帰るべきだろう。ミコト。2つか3つ程、ドラゴンの爪か何かを持ち帰りたい。切断できるか?」
「あぁそれなら大丈夫ですよ。多分ビームサーベルで切り取って……」
腰部ラックに手を伸ばした、が気づいた。あぁ、そういえばビームサーベル2本とも投げたり頭に突き刺したまんまだったっ!
「あっ!ちょっと待っててくださいねっ!今1本回収してきますんでっ!」
私はすぐさまドラゴンの頭の方へ向かい、内部エネルギーが切れて柄だけになっていたビームサーベルを回収。柄を握ると即座にエネルギーチャージが開始される。数秒も握っていればすぐに使えるはず。
HUDに映し出されたビームサーベルのゲージがみるみる回復していくのを確認していた、その時。
「ん?」
不意に、視界の隅で何か光った気がした。即座に目を向けた先にあったのは、ドラゴンの頭部。しかし振り向いた時には、特に変わった所は無かった。気のせい?目の錯覚?
なんだったんだろ?と思っていると……。
「ミコトさん?大丈夫ですか?」
「あぁはいっ!大丈夫ですっ!」
姫様の声が聞こえて、意識をそちらに向けた私は深く考えずに姫様たちの方へと戻った。そして無事だったドラゴンの左腕の爪数本をビームサーベルで溶断して回収。姫様たちと一緒に意気揚々と、街への帰路に就いた。
その時の私はまだ、知らなかった。この世界各地で起きている魔物の増加事件が、『人為的な物』である事を。
第20話 END
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