第13話 束の間の休日・前編

 ゴブリンの群れを相手にした殲滅戦。私は新装備であるSDMやトライインターセプター、ビームシールド兼ビームジャマダハルの力もあって、ゴブリンやホブゴブリン。更には洞窟の奥に潜んでいるゴブリンキングをも殲滅する事が出来たのだった。



ゴブリンの群れの掃討作戦から、2週間以上が経過した。あの作戦の後も、私は王女様やリオンさん達と共に定期的に森を訪れては魔物の討伐を行っていた。


数が多い、とは聞いていたけどついこの間殲滅したのとは別のゴブリンの群れや、赤い火を吐くトカゲの魔物、サラマンダーと戦った。


 サラマンダーを簡単に表現するなら、『赤くて人の2倍はある大きなコモドオオトカゲ』って感じ。火を吐いてくる事、思いのほか俊敏な事、更には鱗が堅いので簡単にスタンダーツを弾いてしまう事などもあって、1体だけだったのにまぁまぁ苦戦を強いられた。 最終的にはトライインターセプター3機が組み付いて、同時に電流を流して動きを止めた所を、私のビームジャマダハルで首を切り落とした。


 何とか勝つ事は出来たけど、再び浮き彫りになる問題。それは『貫通力が低いため、防御力の高い相手に有効な中距離攻撃手段が無い事』。


 元々SDMは乱戦での誤射による被害を最小限にするために、貫通力とかを後回しにしちゃったからなぁ。追々、新しい武器の設計を始めないとなぁ。


 なんて、私は考えながら日々を過ごしていた。 まぁとは言え、戦うのは私一人じゃないし、優秀なアタッカーでありサポーターのトライインターセプターたちが居てくれるおかげで、苦戦こそするけど危うい状況になる程じゃない。とりあえず森での掃討作戦はCSA-02をメインにしながら、新型の開発を、って感じかなぁ。


 そんな事を考えながら、私は町中を散歩していた。 今日はお休みの日。討伐などは無く、兵士の人たちも体を休めたりしている。


 もうこの世界に来て、もうすぐ一か月が過ぎようとしていた。流石に駐屯地やこの世界での生活に慣れてきた物。とはいえ駐屯地の中じゃ出来る事とかも限られてくるので、私は気分転換に街中を散歩していた。


 散歩しながら町の様子を見るけど、はっきり言って私が来たばかりの頃より少しは活気がよくなっていた。買い物をして回る人。談笑する人。道端で遊ぶ子供たち。それに外から来た商人さんなのか、数台の馬車が時折通り過ぎていく。


 ここ数日は、町の外から来る商人さんも増加傾向にある。その理由は王女様曰く、『森の魔物の数が減った事で、街道の安全性が向上したから』、だそうだ。


王女様の話だと、魔物が減った事で街道の安全性が確保された事と、今のこの町は色んな物が不足気味で、需要が高まっている事が重なったから、らしい。経済学に詳しくない私に王女様が優しく説明してくれたけど、『需要が高ければ物は高額で売れるから、商人にとっては稼ぎ時』って事らしい。

 

 話を聞いた時には、『商人ってあくどいなぁ』、なんて思ったけど。まぁ、商人が来なければその不足した物すら買えないんだから仕方ないんだろうけどさ。


 まぁとにもかくにも、最近は町にも少し活気が戻って来たみたいで、戦ってそれを掴み取ろうと頑張ってる私からすれば、皆が少しでも幸せそうな姿を見ているとこれからのやる気とかが溢れてきた。 『また次の戦いも頑張ろう』って思えたんだ。


 少しでも町の平和な様子が見れた事もあって、私は気分よく駐屯地へ戻って来た。そして入り口の門をくぐった時。ちょうど中からリオンさん達の乗った馬と1台の馬車が出てきた。


「あっ、リオンさん」

「ん?あぁミコトか。戻ったのか」

「はい、今。所でリオンさん達はこれからどこへ?はっ!?も、もしかして何かありましたっ!?」

「あぁいや。そう身構える必要はないぞ?」

「ふぇ?」

 リオンさん達が帯剣していた事もあって、もしかして何かあったのかなっ!?と考え慌てだす私にリオンさんは落ち着いた様子で声をかけてくれた。


「これから姫様は公務で町の代表や町に来ている商人と会合がある。そのために町にある町長の屋敷へ向かうだけの事だ。何も問題は無い」

「あ、あぁ。そうなんですか?」

「そうだ。お前は休んでいろ。また戦いで力を借りるだろうからな。では後でな」

「は、は~~い」


 私は門から出ていくリオンさん達の馬と王女様が乗った馬車を見送ったんだけど……。

「ん?」


 王女様を乗せた馬車が通り過ぎる時、窓ガラスから一瞬だけ見えた王女様は、どこか疲れた様子で息をついていた。

「マリーショア王女様、大丈夫かな?」

 そう言えば王女様って戦闘の時とか以外も色々忙しそうだったし。ちゃんと休めてるのかな? 遠ざかって行く馬車を見送りながら、私はそんな事を考えていたのだった。



 数時間後。夜。私は夕食も取り終え、水を借りて濡らしたタオルで体を拭いて終わった所だった。 ハァ、お風呂入りたいなぁ。なんて思いながら借りた水桶を返すために駐屯地の廊下を歩いていた時だった。


「ん?」

 たまたま窓から正門が見えていたんだけど、その時正門が開いて馬車と騎馬が入ってくるのが見えた。


「え?リオンさん達?」

 しかし、入って来た馬車と騎馬は、王女様やリオンさん達のだった。え?今帰って来たの?と思った私は、なんでこんなに遅くに?と言う興味もあって手早く水桶を返すと、馬車の方へと向かった。


「リオンさんっ」

「ん?なんだミコトか。どうした?」

 外に出て、馬より降りていたリオンさんの元に、足早に駆け寄って声を掛けるとリオンさんも私に気づいて振り返った。


「ちょっと、帰りがずいぶん遅かったみたいだったので少し心配になったんですが、何かありましたか?」

「……ない、訳ではない。と言うべきかな」

 私が心配そうな表情で問いかけると、リオンさんは少しだけ息をつくと疲れたような表情を浮かべながらそう漏らした。


「確か会合がどうの、ってさっき言ってましたよね?そこで何かあったんですか?」

「……まぁ、な」

 リオンさんは再びため息交じりに頷いた。と、その時私はリオンさんの後ろ。王女様が乗っていた馬車の扉が開いて王女様が中から姿を見せ、降りて来た。


「ふぅ」

 しかしその表情は暗く、疲労の色もありありと浮かんでいた。とても疲れているように見えるその姿が心配で、私は王女様の元へと歩みを進めた。


「マリーショア王女殿下?」

「え?あぁ、ミコトさん、ですか」

 王女様は私に気づいてこちらを向き、微笑んでくれたけど。でもその笑みに力はなく、まるで無理やり笑みを浮かべて、精一杯の虚勢を張っているようにしか見えなかった。


「だ、大丈夫ですか?なんかかなりお疲れのようですけど?」

「えぇ。平気です。これくらい。実戦で戦う兵やミコトさん達に、比べれ、ば……」

「ッ!?危ないっ!!!」


 話をしていたその時、王女様は不意に前のめりに倒れそうになった。そして誰よりも王女様の傍にいた私が、咄嗟に王女様を正面から抱き留めたっ!

「姫様っ!?」

 次いでリオンさんが血相を変えた様子で駆け寄ってきて、王女様を抱く私の前に回り込み膝をついた。


「姫様っ!姫様っ!」

「うぅ、ん」

 リオンさんの呼びかけに王女様は唸るばかりだっ!ま、まさか何かの病気とかじゃないよねっ!?周囲では護衛の騎士さん達も慌てているっ!こ、こういう時はっ!え~っとえ~っとっ!?あっ!そうだっ!


「お、お医者さんっ!先生っ!ドクターッ!メディィィィックっ!!!」

「お、おい慌てるなミコトっ!とりあえず医務室だっ!姫様を運ぶっ!手伝えっ!」


 突然の事で混乱し、パニックになった私を宥めつつも自分だって混乱気味のリオンさん。しかしリオンさんの言っている事は最もなので……。


「わ、分かりましたっ!≪チェンジアップ≫ッ!」


 人を運ぶなら力が居るからこれっ!って事でパワードスーツ、CSA-01を纏った私は、マリーショア王女をお姫様抱っこで抱き上げ、リオンさん達の後について走った。


 その後、私たちはマリーショア王女を医務室へと運び、そこに居たお医者さんに王女様の容態を見てもらったけど……。


「脈や呼吸も安定していますし、体温も平熱程度ですね」

「つ、つまり?」

 緊張した様子のリオンさんに対してお医者さんは優しく笑みを浮かべる。


「恐らく、ただの貧血ですね。重病の予兆などではないので、どうかご安心を」

「そ、そうですか。ハァ~~」

 リオンさんは安堵したように大きく息をつくと、壁に力なく寄り掛かった。

「だ、大丈夫ですか?」

「あぁ。問題ない。安心したら、少し力がな」

 私が声を掛けると、リオンさんはそう言って頷くが、さっきまでの王女様と同じで些か疲れがたまっているようにも見える。


「マリーショア王女はどうします?」

「……そうだな。とりあえず姫様の部屋に運ぼう。可能であれば着替えも必要だな」

「それなら私、手伝いますよっ。こういう時こそパワードスーツの出番ですし、ここには女性もそう居ませんから。着替えとかもリオンさん一人だけじゃ大変じゃないですか?」


「あぁ。そうだな。手伝ってくれるのならありがたい。頼むよ」

「分かりました」

 私の言葉にリオンさんは安心したように息をついて頷いた。



 その後、再びCSA-01を纏ったままお姫様抱っこで王女様を部屋に運ぶと、リオンさんに手伝ってもらいながらマリーショア王女を着替えさせた。着替えも終わり、王女様が眠っているのを確認すると、私はリオンさんと共に王女様の部屋を出た。


「ふぅ。ありがとうミコト。手伝ってくれた事、助かった。私だけでは色々大変だっただろう」

「いえ。気にしないでください。これくらいの事ならいくらでも手伝いますよ」

「そうか。そう言ってもらえると助かる」

 リオンさんは小さな笑みを浮かべる。が、次の瞬間には疲れた様子のまま息を付いた


「ハァ」

「あの。私なんかが心配するのもあれですが、大丈夫ですか?」

「ん?あぁ。すまない。少し気弱な所を見せてしまったな。気にしないでくれ。一晩寝れば少しは回復する」

「そ、そうなんですか?」

 一晩寝ればそれは確かに少しは回復するかもしれないけど、大丈夫なのかなぁ、と言う不安が私の中にあった。私から見れば、一晩休んでどうこうって言うレベルの疲労感じゃない気がしたからね。

「あぁ。私は騎士だ。この程度で音を上げる訳には行かないさ。それに……」

「それに?」

「姫様の疲労は私以上だ。なのに護衛の私が、弱音を吐くわけにはいかんだろう?」

「それは、まぁそうなのかもしれませんが」


 リオンさんの言ってる事も分かる。けれど……。

「でも、だからって無茶をして体を壊したら元も子もありませんよ?リオンさんも、マリーショア王女だってそうです。二人とも、明日からしばらく休むべきですよ」

「むぅ。そ、それはそうだが……」


「医学に精通してない素人の私だって目に見えて不調なのが分かるくらい疲労がたまってるんですっ!四の五の言わずに休んでくださいっ!」

 歯切れの悪い言葉を並べるリオンさんに、失礼だとは思ったけどこうでも言わないと休んでもらえそうになかったから、語気を強めに、注意するような口調で語りかけた。


「それは、確かにミコトの言う通りなのだが。私はともかく、姫様の方はあの方自身が何と言うか……」

 うん?何やらリオンさんが不安そうな表情を浮かべてる。なんで?

「マリーショア王女殿下が、どうかしたんですか?」

「その、だな。ミコトの言う事は最もなのは私にも分かるんだが、姫様は知っての通り一国の姫君であり騎士である私たちにとっては主だ。もちろん私たちにも主である姫様に進言する事は出来る。が、姫様ご自身が『大丈夫』と言ってしまえば、私たちにはそれ以上何かを言う事は出来ないんだ」

「あぁ、成程」

 そりゃ確かに厄介だよねぇ。王女様が大丈夫だって言えば、後は何も出来ないみたいだし。と言うか……。


「にしても王女様のお仕事って、そんなに大変なんですか?疲労も相当たまってるみたいでしたし」

「……まぁな。今の姫様の仕事と言えば、町中に出向いて民と語り合い、彼らの精神的支柱になる事。あるいは彼らの要望を聞いて、町長など町の重役らと会合し要望に応えられるかどうか議論する事。森を偵察してきた兵士たちの情報を聞き、次の討伐作戦について色々作戦を考える事。それらに加えて、今は町に商人たちが来ているから、それらとの会合もある」

「………」


 うん、何その激務。あまりの仕事量の多さに開いた口がふさがらなかったよ私。えっ!?何っ!?一国のお姫様ってそんなに忙しいのっ!?私の中にあったお姫様のイメージが音を立てて崩れていった気がする。

「一言で言って良いのか分かりませんが、多忙過ぎません?」

「まぁな。状況が状況だから仕方ないのかもしれんが、やはり一番の問題は商人どもだ」

「と、言うと?」

「先日、姫様からこの町に商人が集まっている事については聞いただろう?」


「えぇ。街道が少しは安全になって、今このティナムの町に商人が、って話ですよね?それが何か?」

「うむ。そして更に言えば、今この町では色んな物が不足気味だ。しかしだからこそ商人連中にとっては絶好の商売時、と言う訳だ」

「確かにその話も王女様から聞きましたけど、それに理由が?」

「そうだ。姫様は、ティナムの町を訪れる商人たちと話をし、可能な限り商品を安く卸すように説得を続けているんだ」


「えっ?そうだったんですかっ?」

 それは聞いたこと無かった話だったので驚いて声を上げてしまった。

「あぁ。何しろこのティナムの町は決して裕福な街ではない。そこで商品が通常よりも高値で販売されていれば、必要なものを購入できない家庭も出てくる。そうならないように、姫様は説得をしていたのだが、中にはそれに応じない、禄でも無い商人連中がいてなっ」


 最後、リオンさんは忌々しそうに、吐き捨てるようにつぶやいた。

「じゃあもしかして今日帰りが遅かったのって?」

「あぁ。連中との会合が長引いたせいだ」

「………大変なんですね。王女様も」

「あぁ」


 語彙力のない感想だけど、今の私にはそれくらいしか分からなかった。私に何かできる事は無いかな?何か、何か。


 その時ふと、ある事を思い出した。

「あの、リオンさん」

「ん?なんだ?」

「リオンさん達がマリーショア王女殿下に色々言えないのは、主従関係とかのせい、ですよね?」

「まぁそうだな」

「じゃあ、主従関係にもなくて、リルクート王国の国民でもない私なら、どうですかね?」

「ッ。ミコト、まさかお前っ」

「ふふっ。私、良い事思いついちゃいましたっ♪」

 私が何をしたいのか察したのか、驚いた様子のリオンさんに、私は笑みを浮かべながらピースサインを向けるのだった。



~~~~

「ん。……あれ?私、は?」


 その日私、マリーショア・ヴィオレ・リルクートは駐屯地で宛がわれている部屋のベッドで目覚め、同時に困惑した。 昨日、駐屯地に戻ってきてからの記憶が無かったから。『どうして?』と考えながら記憶を必死に掘り起こしていくと、思い出す光景。


 同時に『あぁ、そう言えば』と言う言葉が浮かんでくる。

「私、あの時気絶してしまったのですね」

 疲れが溜まっていたからか、私はあの時気絶してしまった、と言う事ですね。 あぁも簡単に気絶してしまったのだから、それほどまでに疲れが溜まっていた証なのでしょうね。


 とはいえ、これくらいで仕事を休む訳には行かないのも事実。このティナムの町にはいくつも問題があって、それを解決しなければならない。私は公務でここにいるのだから。 


私にはミコトさんや兵たちのように戦う力もないのだから。このくらいで、弱音なんて吐いていられない。もっと、私にできる事で頑張らないと。


 その後、私は自分の体を確認して傷や怪我、体調不良の兆しなどが無い事を確認すると、ベッドから起き上がり着替えるために部屋のクローゼットの元へと向かった。


 と、その時。

『コンコンッ』

「っ、はいっ」

「あっ、マリーショア王女?起きてらっしゃいますか?」

 この声は、ミコトさん?

「えぇ、おはようございます。あぁどうぞ中に」

「ではでは、失礼しま~すっ!」


 元気のよい挨拶と共に開かれたドア。

「………え?」

 そしてドアから現れたミコトさんの姿に私は驚き、呆けた声を漏らしてしまった。なぜなら、現れたミコトさんの恰好が普段と違っていたからです。


 白と黒のツートンカラーに頭にのせられたカチューシャ。そう。それはまさしく。

「ミコトさん?なぜ、『メイド』の恰好を?」

「ふふふっ!そりゃもう決まってるじゃないですかっ!今日は私が、マリーショア王女の専属メイドだからですっ!」

「………え?」


 その時私は、ミコトさんの言葉の意味が分からず、ただただ茫然とする事しか出来ませんでした。


     第13話 END

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