第14話 束の間の休日・後編

 何とか魔物を討伐しながらもこの世界での生活に慣れ始めていたある日。日々の激務で疲労の色が見え始めていた王女様が貧血で倒れてしまう所に遭遇する私。酷く疲れた様子の王女様を目にした私は、王女様に休んでもらおうと考えるのだった。



 今、突然メイド姿で現れた私に王女様は戸惑い目をパチクリとさせている。文字通り、状況が分かってない様子。

「み、ミコトさん?その姿は、一体?」

「ふふふっ!これこそ私が昨日考えたチェンジングスーツを応用した特殊メイド服ッ!その名も『CSM-00』ッ!Mとはつまりメイドの頭文字っ!つまりご奉仕専用の特殊スーツですっ!」

「え、えぇ~~?」

 嬉々とした表情で語る私とは対照的に王女様はどこか困惑した様子。


 ちなみにこのCSM-00は見た目こそごく普通のメイド服だけど、スペックは段違いっ!衣類はすべて強化アラミド繊維を用いており、防弾、防刃、耐熱、耐寒性に優れる言わば服の形をしたボディアーマーッ!更に手にした長手袋には筋力増強の機能を搭載ッ!パワードスーツほどの怪力は出せないけど、それでも常人を上回るパワーを発揮できるし、当然これも強化アラミド繊維で作られているから堅く、いざとなれば盾にもなるっ! 靴も、形こそ靴だけどいざとなれば私の脚力を強化する優れものっ!


 これぞまさに、流体金属からあらゆる姿に変化するチェンジングスーツの有効(?)活用なのよっ!という訳でっ!


 頭にかぶったカチューシャが一瞬だけ光る。これも実は普通のカチューシャではなく、メイドとしての正しい立ち居振る舞いを私に教えてくれる、言わばカチューシャ型ヘッドセット。そして思念操作の応用で、カチューシャ型ヘッドセットから脳裏に送り込まれてくるメイドとしての動きを、私はトレースする。


「マリーショア・ヴィオレ・リルクート王女殿下。本日は私、鋼塚尊が王女殿下専属のメイドとして、ご奉仕させていただきます」

「えっ!?」

 微笑を浮かべつつ、スカートの裾を摘まんで会釈する私に王女様は戸惑ったような声を上げてる。……うん、やってる私もすごい恥ずかしいけどっ!これも王女様に休んでもらうためっ!が、頑張らないとっ!


「ま、待ってくださいっ!ご奉仕ってミコトさんがなんでそんなことをっ!?」

 困惑からか王女様の口調がいつものそれと違い、年相応の少女らしくなる。


「昨日未明、王女殿下は駐屯地にご帰還後、気絶し倒れられました。覚えは、ございますか?」

「ッ。……はい」

「であれば、どうか本日はご療養なさってくださいませ。これは私からのお願いにございます」

「……そう言うわけにはまいりません。私は今、公務でこのティナムの町に来ているのです。公務を疎かにするわけには……」


 王女様は静かに首を左右に振るとそういってクローゼットの方に向かって歩き出す。けどやっぱりその顔色は決して良い、とは言えなかった。

「そうですか。では私も、不敬罪を覚悟の上で失礼いたします」

「えっ?」


 静かに王女様の背後に回り込んだ私は、振り返った直後の王女様の前で屈みこんでその膝裏に手を入れ、更に筋力増強効果のある長手袋の機能もあって、王女様をお姫様抱っこしてしまった。


「あっ!?なっ!?な、何をするのですかミコトさんっ!」

 突然の事に王女殿下は顔を赤らめ困惑した様子で叫んでいる。

「残念ながら、私にも今はメイドとしてマリーショア王女殿下にご療養していただくという使命がありますので」

 王女様をお姫様抱っこで運び、ベッドの上へと寝かせる。


「し、しかし公務がっ!」

「その件でしたら、既に騎士リオン様にお願いして方々に使いの方を出していただきました。今頃、本日会合予定の商人の方の所にも使いの方が到着されている頃かと思われます」

「ッ。そ、そんなっ!?何を勝手にっ!」

「……王女殿下のお怒りは最もです。我々の独断専行について、激昂されるのも分かります。が、どうか私のお話をおきください」


 自分に何の断りもなく何をっ!と言わんばかりに怒りの表情を浮かべる王女様に対して私はAIの指示もあって出来るだけ冷静に務めた。


「今の王女殿下のお体は相当の疲労が蓄積された状態と考えます。そのような状態で公務を続けていれば、またお倒れになるのは目に見えています。そのような状態でお仕事など、とてもさせられません。どうか本日は体をお休め下さい」

「し、しかしっ」

「王女殿下に何かあったとなれば、せっかく良い兆しを見せている中で兵士の方々や町の人々も不安になるでしょう。まして仕事の最中に倒れられたなどと、いたずらに彼らの不安感を煽る結果になりかねません」

「……それは……」


 王女殿下は賢いお人だ。だから私の言ってる言葉が理解できるんだろうね。そしてだからこそ悩んでいる様子。私の言ってる事も分かるけど、仕事を休む訳には行かない。そんあ板挟み状態にも見えた。


「どうかお体をご自愛ください。私の国の言葉に、過労死と言う物があります。それは働き過ぎて死ぬという、酷すぎる死に方でございます。根を詰めては体に毒ですし、王女殿下にそのような事があっては、騎士リオン様達も悲しむどころか、主の過労死を防げなかったとして自らを許せなくなる恐れもあります」

「………」

「どうか本日はお休みください。今後のために、今日お休みください」


 王女様に過労死なんて、絶対にさせられない。こんなに頑張ってる王女様が、そんな結末を迎えるなんて許せない。私以外に止められる人が居ないって言うなら、私が止める。それが今の私にできる事のような気がするから。 やがて……。


「……ハァ。分かりました」

「ッ。王女殿下っ。ではっ?」

「えぇ。今回は私の負けです。ですから、ミコトさんの言う事に従う事にします」

 マリーショア王女殿下は、降参、と言わんばかりにどこか諦めたような笑みを浮かべている。


「……本音を言うと、とても疲れていたんです。でも私は王女ですし、ここには公務で来ています。休みたいなんて、そんな贅沢は言えなくて。言い出せなくて……」

「そうでしたか。……ですがマリーショア王女殿下?休むというのは贅沢ではありません。人が仕事をして生きていく上で必要不可欠な物です」

「ミコトさん?」

「もし今後、誰にも言う事が出来なかったら、私にその言葉を打ち明けてください」


 私は、AIの指示じゃない。私自身の言葉を口にしながらベッドに腰かける王女様の前に膝をついた。


「王女様にこんな事言って良いのか分からないんですけど、疲れたら疲れたって私に言ってください。そしたら今みたいにメイドさんになって、お疲れモードの王女様が休めるよう精一杯ご奉仕しますからっ!」

「ッッ!!」

 王女様を支えたい気持ちが笑みとなってあふれ出す。しかしなぜか王女様は目を見開き、顔を真っ赤にしながら息を飲んでいる。……なんかミスったかな私?


「そ、その、よろしいのですか?ミコトさんは私の従者と言う訳ではないのですよ?それなのに……」

「構いませんよ。それくらい。だって……」


 静かに王女様の手を取り、それを私の両手で包み込む。

「私がそうしたいからするんです。こうやって、誰かのために頑張ってる人の助けになれるのなら、私は本望ですから」

 王女様の前に膝をつき、彼女を安心させたくて、私は微笑んだ。

「ッ!ッッッ~~~~!!!」


 あ、あれ?なんか王女様っ、耳まで真っ赤になってないっ!?

「王女殿下ッ?恐れながら申し上げますが、お顔がその、リンゴのように赤くなっていますが、それは?」

「ふぇっ!?あ、い、いえっ!これはそのっ!」

 彼女の視線はまるで何かを探すように四方八方へと泳ぐ。な、何なんだろう?と思っていると、ある一つの事に思い至った。このところ、かなり疲労がたまってたみたいだし、もしかして風邪ッ!? と、なると熱を測った方が良いんだろうけど、あぁでもこのファンタジー世界じゃ体温計も無いだろうしっ! 仕方ないっ!

 

「し、失礼しますマリーショア王女殿下っ!」

「み、ミコトさんっ!?」

 靴を脱いで私もベッドの上に膝立ちの態勢で乗り、驚いた表情で後ずさるマリーショア王女へと迫る。


「ッ!」

 そして堅く目を閉じた彼女の額に、自分の額をくっ付けた。しかし。う~ん、熱は無い、かな?いやまだ分かんないなぁ。

「……え?」

 すると聞こえてきた王女様の呆けた声。数秒して王女様の瞳がゆっくりと開かれ。

「ッッ!!!」

 目の前に私の顔がある事に気づいてまたしても赤面してしまう王女様。って、少し体温上がった?


「みっ、みこっ、ミコトひゃっ、な、何をっ!?」

「少しお待ちください。今熱を測っていますので」

 う~ん、体温は私とそこまで変わらない、かな?風邪って訳じゃなさそう?王女様の様子はどうかな?

 

 改めて王女様の様子を伺うけど、王女様はギュッと目を閉じたまま、顔を真っ赤にしていた。う~ん、顔は赤いけど熱は無さそう? そうと分かれば大丈夫かな? 私は静かにくっ付けていた額を離した。


「はい、もう大丈夫ですよ」

「そ、そう、ですか?」

 王女様から離れ、ベッドから降りて靴を履く。振り返って王女様の様子を確認するが、王女様は何やら、赤い顔のまま呆れたような表情でため息をついていた。


「王女殿下?如何なさいました?」

「……ミコトさんのせいです」

「えっ?」

「ど、同性とは言え。あ、あんな近くにその、顔があったら緊張してしまいますっ。あ、あんな、あと少しでキ、キス出来るくらいの位置にあったら、誰だって……」


 …………。あ~~~~っ!?!?!?

「ごごごご、ごめんなさいっ!」

 そうだよ何やってるの私ぃっ!?わざわざ額でやる必要ないじゃんっ!手で良かったじゃんっ!相手は一国の王女様なのにっ!やっちゃったぁっ! ここは謝ろうっ!誠心誠意っ!


「申し訳ありませんっ!私とした事が、深く考えもせずっ!大変申し訳ありませんっ!」

「………」

 深く、深くを頭を下げても謝罪に王女様は何も言わない。う~~。この間が辛い~~!


「ハァ。まぁ、何か狼藉をされたわけではありませんし、気にしていませんから。どうか頭を上げてください」

「あ、ありがとうございます」

 うぅ、王女様は許してくれたけど、私も自分がやらかした事を今更理解して恥ずかしいっ!羞恥心で顔を赤く染めつつ、王女様の様子を伺うけど、王女様も恥ずかしそうに未だに頬を赤く染めている。


 と、その時だった。 王女様のお腹から、小さな音がなった。

「ッ」

 あっ、と言いかけた言葉を何とか飲み込みつつ聞こえないふりをしながら王女様の様子を伺うと?


「うぅ」

 王女様はさっきよりも更に恥ずかしそうに顔を赤くしていた。

「王女殿下?如何なさいました?」

「ふぇっ!?な、何でもありませんよっ!?」


 わざとらしく問いかけると、王女様は更に顔を赤く染め、テンパった様子で何事も無かったのように装ってるけど。うん、見事にバレバレだね、これ。まぁとはいえ、ここは聞こえて無かったふりをしてあげた方が良いだろうし。


「分かりました。ではもう起床もされた事ですし、朝食など如何でしょうか?騎士リオン様よりお聞きしましたが、昨夜は何も口にされていないとか?」

「え、えぇ。そうですね。用意をお願いできますか?」

「かしこまりました。用意が出来次第、お部屋までお持ちしますので、このままお待ちください」


 王女様を部屋に残し、私は食堂の方へと向かった。 ちなみに、すれ違う人たちは皆私の姿に驚いて足を止めて振り返ったりしている。……うん、メイドは目立つなやっぱり。


 その後、私は王女様の元に食事を運んだり、お茶の用意をしたりしながら、王女様を見守りつつ、ずっとそばに控えていた。


 しかし午後のある時。

「ミコトさん」

「はい、何でしょうか?」

 お茶をしつつ静かに読書をしていた王女様からお声が掛かり、少し離れた椅子に座っていた私は立ち上がって傍に歩み寄る。


「良かったら、お茶をしながら少しお話をしませんか?読書にも、少し飽きてしまって」

「分かりました。私で良ければ、お相手させていただきます」

 そう語る王女様は、しかし年頃の女の子らしい笑みを浮かべている。その普段とは違う、年頃な女の子の姿に親近感を覚えた私は頷き、自分のお茶を用意するとテーブルを挟んだ彼女の向かいの椅子に腰を下ろした。


「それでは、何をお話ししましょうか?」

 

 こうして私は王女様とお茶をしながら色々と話をした。最初の話題はこの町の様子などから始まって、最近は子供たちが楽しそうに遊んでたりとか、私が見た町の様子を王女様に伝えたりしていた。


 みんなの生活に活気や笑顔が戻って来たと聞けば、王女様は満足そうに何度も頷いた。

「ありがとうございますミコトさん。町の様子を聞けて、少し安心しました」

「それは何よりです」

 ティナムの町に活気が戻ったりするのは、頑張って戦ってる側からしても気分が良い。気分が良いから自然と笑みがこぼれる。


「本当に、ティナムの町がここまで回復できたのも、ミコトさんのおかげです。なんとお礼を言えば良いのか」

「それは、多分違うと思います」

「え?」

「今あるこの町の平和は、私と、マリーショア王女殿下。それに騎士リオン様や兵士の皆さん。全員の力で勝ち取った物です。私個人の力では、到底成しえません。だから、誇っていいと思います。今あるこの平和も、王女様の努力の賜物です」

「ッ。……正直、そう言っていただけると、私としても嬉しい限りです」

 王女様は一瞬、驚いたような表情を浮かべながらも、すぐに笑みを浮かべる。


「正直、私にはミコトさんやリオン達のように戦う力はありません。だからそれ以外で頑張ろう、と思っていたのですが……」

「それを言うのなら、私とて同じことです。戦う事は出来ますが、私では政務に関わる事は素人も同然。おそらく、そちらでは何の役にも立てない事でしょう」

「そうですね。お互い、出来る事に最善を尽くしてきたから今がある、と言えるのでしょうね」

「えぇ。そして付け加えるのならば、私たち二人が居れば無敵です」

「無敵、ですか?」

 唐突な単語に王女様は小首をかしげている。


「王女様が民をまとめ、私が脅威となる敵を打ち払う。お互いの不得意な事、苦手な事をお互いで支えあう。私たち二人なら、そんなことも出来るのではないかと思いまして」

「成程。だから私たちなら、と。でもそうですね。ミコトさんがずっとそばに居てくれるのなら、どんなに心強いか」

「……王女殿下?」


 不意に王女殿下が見せたその表情は、どこか寂しげで、どこか不安そうだった。その様子が気になってしまい問いかけると、王女様は少しだけ微笑を浮かべつつも、小さく口を開いた。


「ねぇ、ミコトさん。一つ、お聞きしても良いですか?」

「なんでしょう?」

「もし、私の護衛としてミコトさんを雇いたいと言ったら、あなたは、私の傍で、私のために戦ってくれますか?」

「ッ」


 今、王女様は微笑みを浮かべていた。でもそれは、怯えを隠すための物だという事はなんとなく分かった。王女様は、怯えていた。それは多分、自分に襲い掛かる脅威から何だと思う。この前だってワイバーンに襲われた。魔物を討伐するために北の森に行っている以上、そこで魔物に襲われる危険性だってあるのだから。


「私は、王族だからとどれだけ気丈に振舞っても所詮は年端も行かない少女です。だから、怖い事もたくさんあります。それに、以前ミコトさんは仰ってくれました。私を守る、と。あの、星空の下で」

「えぇ。覚えています」


 若干恥ずかしくて半分黒歴史なのは、まぁ今は置いといて。

「ミコトさんの力を知っているからこそ、ミコトさんはどんな敵からでも私を守ってくれるのではないか?そう思うと、どうしても私は……」

「だから、私が王女殿下の護衛として?」

「えぇ。でも、こんなのミコトさんに失礼ですよね。守ってほしいからと、その力を当てにして雇いたい、なんて。ごめんなさい、今の言葉は忘れてください」

 

 王女殿下は気まずそうに視線を下げ、お茶を飲む。しかし私は……。


「……確かに、今の私ではそのお話を貰ってもすぐに返事をすることは出来ません」

 私はこの世界の事を殆ど何も知らない。ついこの間まで普通のJKだった私には、礼儀作法とか国の事とか、護衛とか。何も分からない事が多すぎる。だから無責任に受ける気は無かった。

「ッ」

 私の言葉を否定、もっと言えば拒否と取ったのか王女様は息を飲み、ついで意気消沈とした表情を浮かべている。でも、私は拒否したいわけじゃない。


「でも、もし私の力が必要なら、いくらでも頼ってください」

「え?」

「あの夜、私はこうも言いました。もう誰かの悲しむ姿は見たくない、って。だから戦います私。一人でも多くの人に、笑顔で居てほしいから。だから、もしもの時はいくらでも私に頼ってください。私があなたを、マリーショア王女殿下をお守りします」

「ミコトさん。……ありがとう、ございます。でも、良いんでしょうか?今だって十分頼っているのに?」


「大丈夫ですよっ!」

 不安そうな表情を浮かべる王女様。ここは彼女を安心させる意味でも、って事で私は笑みを浮かべる。


「これは私が王女様の手助けをしたいからしてるんですっ!誰かのために頑張れる王女様の助けになれるのならそれは凄い事ですしっ!だから、気にしないでくださいっ!いやむしろっ!頼ってくださいっ!王女様に頼られるのなんて結構すごい事ですからねっ!」

 私は立ち上がりながら笑みを浮かべて力説する。が……。ん?何やら王女様は私を見ながら面白そうにクスクスと笑みを浮かべている。


「ミコトさん?素が出てしまっていますよ?」

「ふぇ?」

 ………。あぁぁぁぁぁっ!?しまったぁっ!

「すっ、すみませんっ!失礼しましたっ!」


 慌ててソファに座りなおし何度も頭を下げるっ!あぁ私何やってるんだろうっ!

「いいえ。気にしていませんから。良ければ、いつも通りのミコトさんで居て下さい。その方が、私も話しやすいですし」

「う、うぅ。分かりましたぁ」

 せっかくサポートのためにAIとかもあったのに、その場の勢いで素に戻っちゃった。


 まぁでも、その後も私は王女様と色々お茶をしながら談笑したりしていた。


 そして翌日。1日しっかり休んだ事もあってか王女様は次の日からまた公務に復帰された。更に数日後には、今まで通り私やリオンさん達、駐屯地の兵士さん達の力も借りて北の森で魔物討伐を行った。



 しかし、ある日、大きな転機が訪れた。


「ん、ん~~~~~」

 その日、私たちは北の森でイータースライムの討伐を行っていた。


 イータースライムは相手を取り込んで、体内で溶かし食らう魔物で体が軟体であるため剣や槍、弓では倒しにくい魔物だったんだけど。私が居れば大丈夫だった。CSA-02のスタンダーツをスライムの体内に打ち込んで、溶かされる前にダーツから電気ショックを放つ。


すると内側から痺れて動けなくなるスライム。その隙をついて弱点である体内にある、コアと呼ばれる角を長い槍や私のビームジャマダハルで貫いて撃破。って感じで何匹かのイータースライムを討伐する事が出来た。


今は討伐も終わり、休憩がてら森にある開けた場所で待機となっていた。

「ミコトさん、お疲れ様でした」

 スーツを纏ったままの私が小さな岩に腰かけていると、鎧姿の王女様がリオンさんを連れて近づいてきた。っと、座ったままじゃ無礼になるかなっ?私は即座に立ち上がった。


「お怪我などはありませんか?」

「はい、大丈夫です。それより、皆さんの方は?」

「いえ。こちらも特に問題は。何人かの装備が戦闘で溶かされ破壊されてしまいましたが、表立った損失はそれくらいですね」

「そうですか。それは何よりです」


 物は替えが効くけど人命はそうも言ってられないからね。ともあれ、これで今回の塔婆任務は終了かなぁ?


 と、その時。


『ゴアァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!』


「「「「「ッ!??!」」」」」


 突如として森に響き渡ったのは、大音量の咆哮だった。私も皆もあまりの音量に耳をふさいだり顔をしかめている。


「な、何だ今の咆哮はっ!誰かっ、どこから聞こえたか分かるかっ!?」

「分かりませんっ!森全体に反響していたようでっ!」

 リオンさんがそばに居た兵士の人に問いかけているが、兵士の人も混乱気味に首を横に振るだけだ。


「総員戦闘態勢っ!全周囲を警戒っ!」

 王女様の対応は素早かった。さっきまでの優しそうだった表情は既に消え、戦場に立つ時の険しい表情で指示を飛ばしている。

「「「「は、はいっ!!」」」」

 王女様の指示を受けて、兵士の人たちが武器を手に周囲を警戒している。私もすぐさまトライインターセプター3機を起動し周囲に配置。


「なんなんですか?今の咆哮?」

「分かりません。これまでこんな咆哮を聞いたと言う報告は受けていませんでしたが……」

 皆、緊張した面持ちで周囲を警戒している。と、その時。


≪警告ッ!レーダーに反応ありっ!羽ばたきと思われる飛行音も検出っ!こちらに接近中っ!≫

「ッ!スーツのレーダーが飛行音を捉えましたっ!こ、こっちに向かってきますっ!」


 AIの報告を、出来るだけ簡潔にまとめて叫ぶ。

「弓兵っ!射撃用意っ!盾兵は弓兵の前に展開っ!」

 私の言葉を聞いて即座に王女様が迎撃のための指示を出す。やがて、こちらに接近してくる羽音が私たちの耳にも聞こえてきた。 


 でもその羽音は大きく、それだけで相手が巨大である事を私たちに知らしめた。そして次の瞬間、巨大な影が私たちの頭上へと姿を現した。


「なっ!?あ、あれはっ!?」

 そばに居たリオンさんの驚愕の満ちた声が聞こえる。他の人たちの声もだ。そのどれもが、『それ』の出現に驚き、恐れ、ありえないと否定の言葉を繰り返した。


『それ』は、私も良く知る存在。ファンタジー世界におけるド定番。勇者と魔法に並ぶ、ファンタジー世界を構成する重要なファクター。そう、それは……。


「ど、『ドラゴン』ッ!?!?」


 大きな羽を広げ、それを羽ばたかせながら滞空する赤い鱗のドラゴン。

『グルルルルッ!!』


 そのドラゴンが唸り声を上げ、殺気に満ちた瞳で眼下の私たちを睥睨していた。


     第14話 END

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