第22話 調査結果

 ドラゴンをパワードスーツ、ガーディアの力で討伐し、私たちはティナムの街へと帰還した。無事ドラゴンを倒し、証拠の爪も持ちかえったのだけど。翌日、森に出かけた部隊の人たちが、なぜか魔物の襲撃を受けないという、事態が発生。結果、私たちが調査に赴く事になった。



 ドラゴンの討伐から2日後。朝。私は朝食を終えると、姫様に呼ばれていたので、すぐさま姫様の部屋に向かった。ドアをコンコンと叩くと、中からリオンさんの声で『入れ』、との言葉が。


「失礼します」

 中へと入ると、軍装姿の姫様。甲冑姿のリオンさんが待っていた。

「お待ちしておりました、ミコトさん。さぁ、どうぞ」

「はいっ」

 姫様に促されるまま、ソファに腰を下ろし姫様と向かい合う形となる。


「それでは、ミコトさんも来ていただいた事ですし、早速ですが本題に入らせていただきます」

「はいっ」

「昨日、ミコトさんの討伐されたドラゴンより素材を回収するための部隊が森へと派遣されました。しかしそこで、彼らはなぜか魔物による襲撃を受けなかった。ミコトさんもこの話は聞いていますね?」

「はい。昨日、リオンさんから」

「通常であれば、部隊が襲撃を受けなかった事は良い事です。しかし今、北の森では原因不明の魔物の増加現象が報告されています。そんな中で血の臭いがすれば、魔物が襲ってきてもおかしくはないはずなのに、それが無かったという、ある意味において異常事態が発生してします」

「それで、その異常事態の調査に私たちが行くんですよね?」

「えぇ。その通りです」


 そう言うと、姫様は一度息をついた。

「ミコトさんのおかげでドラゴンが討伐されたというのに。またしても異常な事が起きるとは。一難去ってまた一難、などという事は無いと良いのですが」

「……」

 不安そうな表情を浮かべる姫様に、何か気の利いた一言でもかけて上げられれば良かったのかもしれないけど、私もまた、『何かが起こっているのかもしれない』という不安で、ただ口を閉じている事しか出来なかった。



その後、私は姫様やリオンさん達と共に再び森へと来ていた。馬車で町を出て、森の入り口までたどり着くと、すぐさま皆整列し、私も姫様の隣に控えていた。

「ミコトさん」

「はいっ。≪チェンジアップ≫ッ!」


 鎧を纏っている姫様の言葉に頷くと、私はコアを握り締めながら叫び、パワードスーツ、CSA-02を纏った。


 今回私たちが森に来た目的は、森の調査。なので展開する事で各地の索敵も行えるトライインターセプターを備えたCSA-02の出番と言う訳。

「殿下、私は準備OKですっ!」

「分かりました」

 姫様は真剣な様子で頷くと、兵士の人たちの方へと振り返る。


「それではこれよりっ、森林内部の調査を開始しますっ!各自気を抜かないようにっ!また、何か奇妙な物を見た、違和感を覚えたなどした場合は、真っ先に私か周囲の仲間へ報告を行うようにっ!」

「「「「「はっ!!!」」」」」

「それでは、出発っ!」

 

 姫様の号令の元、私たちは皆緊張した面持ちで森の中へと進んでいった。



 トライインターセプター3機を展開し、今は私たちの集団の、前と左右に配置。敵を発見する早期警戒機みたいな事をさせつつ、森の中を進んでいた。

「……なんだか、静かですね」

「えぇ」

 傍に居た姫様に、私が小さく声を掛けると、姫様も頷いた。


 今、私たちは周囲を警戒しながら進んでいるんだけど、何て言うか森全体が静かだった。まるで、『魔物が消えてしまったような』。


 その後も私たちは森のあちこちを回って調査を行った。けれど魔物そのものは発見できなかった。痕跡はあった。足跡とか、他の魔物と争った跡とか。でもそれだけ。


 どれだけ探しても、痕跡の主を見つける事は出来なかった。一応、ゴブリンやその上位種であるホブを少しだけ見かけて戦闘になり倒したけど。戦闘らしい戦闘は、それだけだった。


 結局、日も暮れだしたころにティナムの街へと戻り、司令官たちに報告を行った。皆、ゴブリン以外のモンスターを見かけなかったという報告に眉をひそめていた。そして夜になったんだけど、姫様の指示によってまだ会議が行われていた。


 内容は、魔物たちについてだった。

「一体、連中はどこへ消えたのだ?街道などでの目撃証言は?」

「今の所ありません。今日、王都方面より隊商が2つほどやってきましたが、これと言って魔物を見たという報告は上がっていません」

「もっと深い森の奥地へ撤退したのか?」

「撤退したと考えるのは早計だろう。どこかで身をひそめ、襲撃のチャンスをうかがっている可能性もある」

「馬鹿な、魔物にそこまでの知性があるのか?」


 会議において、皆それぞれの意見を出し合っていた。私はそれを壁際の椅子に座りながら見守っていたんだけど。

「ミコトさん」

「あ、はいっ」

 私と同じように静かに会議を見守っていた姫様だけど、その姫様からお声が掛かって私は咄嗟に背筋を伸ばした。


「ミコトさんは何か意見はありませんか?何でも構いません。思った事、気づいた事など」

「う~ん。そうですねぇ」

 質問されても、正直何も分からなかった。なんかあったかなぁ?まぁドラゴンを倒してからこうなったんだから、無関係って訳じゃ……。ん?ドラゴン?


「あっ、そういえば……」

「ミコトさん?何かありましたか?」

 あっ、独り言で呟いたの姫様にも聞こえてたっ!?私の声が聞こえてたみたいで姫様が問いかけてくる。い、一応教えておいた方が良いかな?


「あ、え、え~っと。その、実は、ドラゴンを倒した後なのですが、何と言いますか、倒した後にドラゴンの頭部が、光っていたような気がして……」

 正直、関係あるのか分からない報告だから恥ずかしくて、しどろもどろになりながら報告をしてしまう私。しかし話を聞いた皆は真剣な表情をしていた。

「ドラゴンの頭部が、光っていた?どういう事ですか?ミコトさん」


「えっと、ドラゴンを倒した後、落ちていたビームサーベルの柄を回収した時、ふと、視界の端で何かが光った気がしたんです。それで光った方に目を向けたら、ドラゴンの頭部があった、というか」

「それは、目の錯覚なのでは?」

 うん、わかってた。会議に参加してた部隊長さんらしい人の言葉は至極最もな物だった。

「は、はい。正直私もそう思っているので、言っておいてなんですが、関係あるかは私にも分からないって言うか」

「そうですか。……ですが、もしかしたらミコトさんが見たのは目の錯覚ではないかもしれません」

「え?」


 不意に聞こえてきた姫様の言葉に私は首を傾げた。

「魔物の姿が見られなくなったのは、ドラゴンの討伐後からです。関係性が無い、と判断するのは早計でしょう」

「では、殿下はドラゴンが討伐されたから魔物たちは姿を消した、と?」

「少なくとも、その可能性があると私は考えています」

「……にわかには信じられませんな。それではこの魔物の増加現象はドラゴンが原因という事になりますが」


 話を聞いていた司令官が、僅かに眉をひそめた様子で言葉を漏らす。

「確かに、そう簡単に信じられる物ではありません。が、だからこそ今後も調査を続行しようと考えています。皆、この意見に反対する者はいますか?」

 と、姫様が聞くが、皆周りとひそひそと話し合った後、何も言わない。反対意見は無し、って事かな。


「では、今後は森の調査を重点的に行います。よろしいですね?」

「「「「「はっ!!」」」」」


 こうして、私たちの当面の目的は決まった。


 それから私は、姫様やリオンさん達、兵士の人たちと共に何度も森に足を運んだ。そこでトライインターセプターを起動し、何度も森の中を調査した。


 けれど、どれだけ探しても、何なら夜に調査を行っても、以前から森に生息していたというゴブリンやホブゴブリン、ブラックウルフ以外の魔物は、影も形も発見できないまま日数だけが経過していった。


 そして、ドラゴン討伐から2週間以上が経過したある日の会議にて。


「これまで、森の各地を調査しましたが、ここまでの7回に及ぶ調査でもゴブリン、ホブ、ブラックウルフ以外の魔物は一切発見出来ませんでした。また、街道よりやってきた商人や冒険者などにも話を聞いていますが、街道でこの3種以外の魔物を発見、戦闘になったという報告も上がっていません」

「そうですか」


 司令官の報告を聞いていた姫様は真剣な表情を浮かべていた。

「姫様。差し出がましいかもしれませんが、姫様はこの状況をどう考えておいでなのでしょうか?」

「そうですね。……報告書を見る限りでは、森の生態系は以前の姿に戻ったと判断しても良いかもしれません。とはいえ、魔物の増加現象の原因が分かっていない以上、増加現象問題が解決した、と判断するのも早計です。ですので、当面は引き続き森の監視や定期的な調査を行いつつ、北の森からティナムの街までの間に簡易的なキャンプを設置を提案します」

「キャンプ、ですかな?」

「えぇ。このキャンプは言わば監視所です。森の様子を監視すると共に、異常があれば即座に町の駐屯地へ報告を行うための物です。異常の発見が早ければ、それだけ打てる手も増えますから」

「成程。分かりました。確かに姫様のお言葉も最もです。我々は、姫様の提案に賛同させていただきます」

 

 司令官の言葉に他の人たちが頷く。 こうして、会議は進んでいった。



 ドラゴン討伐から、更に日が流れた。あれから、万が一再び北の森で魔物の増加現象が起こる可能性を想定して、色んな準備が始まった。森を監視するキャンプ地点の整備とキャンプの設営。城門近くやキャンプと森の間にバリケードの設置。キャンプ地に配置される部隊の人選などなど。


 あれから更に1週間以上が経過した。私もパワードスーツのパワーを生かしてキャンプ地の整地や荷物運びなんかを手伝っていた。


 そんなある日。 その日はたまたまお休みで、自分の部屋で休んでいたんだけど、お昼前くらいにリオンさんに呼ばれて姫様のお部屋に。何だろう?と思いつつ話を聞くと。


「え?皆さん、王都に戻るんですか?」

 話というのは、姫様と護衛のリオンさん達が王都に戻る、という物だった。


「えぇ。司令官のご厚意で、我々は王都へと戻る事が決まりました。あれから新たな魔物の出現報告もありませんし、監視所であるキャンプの完成も間近という事で、『後は全て我々にお任せください』、と」

「成程。あっ、出発はいつなんですか?」

「明後日です。今日と明日中に準備を整え、明後日の早朝、王都へ出立します」

「そうですか」


 姫様やリオンさん達、王都に帰っちゃうんだ。………って、あれ?姫様たちが王都に戻るって事は?

「あっ、これ、もしかして私の仕事、というか協力は終わり、ですかね?」

「……そう、ですね」

 ふと、ただ思った事を口にするとなぜか姫様が悲しそうな表情を浮かべている。

「まぁ、そうだな」

 一方でリオンさんは、確かに、と言わんばかりの表情だ。


「姫様からの依頼は魔物討伐の協力や魔物増加の原因究明と原因の排除だった。原因は今も分からず仕舞いではあるが、当初の目的は果たされているからな」

「ですよねぇ。あ~あ、これで私もお役御免か~」


 今にして思えば、激動の数か月だったなぁ。転移してきたばかりの頃は、もう少しお気楽でやりたい仕事とかにも目ぼしをつけてたけど、姫様たちと出会ってティナムの窮状を知って、姫様たちに協力する事になって。ホントマジで激動の数か月だった気がするなぁ。


「あ~~。これからどうしよ~」

 当初の目的は冒険者になってみる事だったし、結果的に遠回りになっちゃったけど、色々実戦も経験出来たしまぁ良かったと言えば良かったかな。

「なんだ。この後の事は考えていなかったのか?」

「あ~えっと。目的が無い訳でもないんですけど、大まかって言うか、大雑把って言うか。目の前の事が色々ありすぎて後の事を考えてる暇も無かったと言うか」

「成程。まぁ、確かに色々あったからな。無理もない」

 私の話を聞いて確かに、と言わんばかりに頷くリオンさん。

 

 なんて話をしていると。

「でしたらミコトさん。もしよければ私たちと一緒に王都へ行きませんか?」

「え?王都にですか?」

 さっきまでの悲しそうな表情は消え、まるで何かを思いついたような表情と共に姫様が提案をしてきた。


「はい。ご存じの通り、ミコトさんは今日まで多くの功績を上げられました。魔物の討伐、ティナムの街の防衛はミコトさん無しでは無しえなかったと言っても良いほどだと私は考えています。そして大変申し訳ないのですが、その功績に見合っただけの謝礼金をこのティナムの街では用意できないのです」

「えっ?いや別に気にしなくて良いですよ?なんだったらちょっと貰う程度でも構わないんで」


「いいえ。それではダメです」

 私としては少しでも貰えれば良かったんだけど、なぜか姫様は首を横に振った。

「ミコトさんの功績は、はっきり言って偉大です。ドラゴンさえも倒し、街を守っているのですから。本来であれば国王陛下、私のお父様より叙勲されても可笑しくはないでしょう」

「そ、そんなにですかっ!?」

 

 叙勲ってアニメとかでしか知らないんだけどっ!?ただ何となく凄いって事は分かるけどっ!

「加えて、労働には正当な対価が支払われるべきです。そしてミコトさんには、その対価。相応の謝礼金が支払われて当然です」

 さも当然、と言わんばかりの表情でお姫様は頷きながら話している。

「それはまぁ分かりますけど」

 姫様の言う事も分かる。でも別にそこまでお金が欲しいって訳でもないしなぁ。


 なんて考えていると……。

「それに……」


 ん?何やら姫様の顔が赤い?何かを恥ずかしがっているような感じかな?

「こうして私の理想のために、共に戦ってくれたミコトさんをお父様たちに紹介したいんです。この人は、私を守り助けてくれた、凄いお方なんだと」

 少し恥ずかしそうに頬を赤らめながら話す姫様っ!何て言うか可愛いなぁっ!私まで顔赤くなってきたよっ!?


「それとも、やっぱりご迷惑、ですか?」

 そして一転して泣きそうな子犬みたいな表情で見つめてくるぅっ!あ~!このダブルパンチはダメェッ!断る事出来なくなる奴ぅっ!あぁそんな目で見ないでぇっ!


「い、いえっ!迷惑だなんて思ってないですっ!」

「ッ!本当ですかっ?そうであれば良かったですっ」

 そしてまたコロコロと変わる表情っ!満面の笑みが眩しいぃっ!


「では明後日、ミコトさんも我々と一緒に王都へ行くという事でよろしいですね?」

「は、はい」

 こうして私は姫様たちと王都へ行く事が決定したのだった。 


 ちなみに姫様の表情に振り回されていた私が面白いのか、姫様の後ろでリオンさんが必死に笑うのを堪えていたのが見えたのだった。


     第22話 END



 

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