第24話 謁見

 ティナムの街の問題を解決した私は、姫様たちと共にリルクート王国王都へとやってきた。初めての王都に戸惑う中で、私は王城に滞在する事となった。



 王城で滞在する事になった私は、一度応接間のような部屋に通された。それから少しして、客間の準備が出来ました、とさっきのメイドさんが呼びに来た。メイドさんについて行くとその客間に通されたんだけど。


「や、やっば~~っ」

 思わずそんな声が出てしまう程に、客間というにはしかし豪華な部屋だった。調度品も、どれも高そうな物ばかり。駐屯地で使わせてもらった部屋も凄かったけど、この客間はそれ以上。いかにも国の重鎮の人とかが滞在する時に使うような、そんな部屋だった。


「それでは、しばらくの間はこの部屋をお使い下さい。姫様はこれから国王陛下や大臣の方々との会議があるため、明日までこちらでおくつろぎになりながらお待ちください、との事でした」

「あ、は、はいっ、分かりましたっ!」


 部屋に見とれていた時、メイドさんに声を掛けられ私は驚きつつ答えた。うぅ、田舎娘感丸出しで部屋見回してたの見られたかなぁ。恥ずかしいっ。

「では、何かご用の際には、あちらのベルをお使い下さい」

「ベル?」

 と、その時聞こえてきた単語に首を傾げつつ、メイドさんの視線を追いベッドの傍のテーブルの上に置かれていたベルへと目を向けた。


「そのベルは特殊な魔法が掛けられておりまして、鳴らしていただければメイドたちが待機している部屋の、別のベルが鳴る仕組みとなっております。ですので、ご用がある場合は、そちらを鳴らしていただけばすぐに手空きのメイドがやってきますので」

「わ、分かりましたっ」

 へ~~。魔法が付与されたベルかぁ。凄いもんもあるんだなぁ。


 なんて感心しつつ、メイドさんの説明を聞いていた私。その後、メイドさんは『ご用があればお呼びください』と言って部屋を出て行った。


 さ~て、これで本格的にやる事無くなったぞ私。姫様が来るのは明日って話だったし。町の防衛にドラゴン討伐の報奨金とかもらうのも明日だろうし、明日は王様とも会うのかなぁ?やっぱそう思うと不安だなぁ。


「ハァ」

 分かっていた事だけど、王様と会う、と思うとやっぱり緊張してしまう。なので私はそれからしばらく、今後の事を考えながらベッドでゴロゴロしているのだった。



 一方、そのころ。マリーショアたちは……。


~~~~

 ミコトさんを連れて王城へと戻った後、私はすぐにお父様の元へと向かい、私の無事を喜ぶお父様を制して、『重要な報告があります』とだけ告げた。


 お父様は私の雰囲気を見て、ただ事ではないと察したのかすぐに、娘の生還を喜ぶ父の表情から、王として真剣な表情へと変わり、私の言葉通りすぐに大臣や騎士団長を招集するように指示を出した。


 それからしばらくすると、招集に応じる事が出来た大臣数人と騎士団長が私とお父様の待つ会議室へとやってきた。皆が席に着いたのを確認した所で、私は席よりたちがる。


「皆、それぞれの仕事があるなか良く集まってくださいました」

「重要な報告、とは聞いていますが、一体どういう事なのですか?姫様」

 私の言葉に、真っ先に騎士団長『ガリウス』が反応する。今の彼の表情は、速く話を聞きたいと言っているようで、他の面々もすぐに話を聞きたいと言わんばかりの表情だ。ならば、素直に話してしまおう。


「……ティナムの町近郊の森での魔物の増加現象についてですが、これに関しては私が道中で出会った協力者のおかげでどうにか解決する事が出来ました。しかし、1番重要な事は、ドラゴンが出現した事です」

「「「「「ッ!??!」」」」」

 ドラゴン出現、という単語に歴戦の騎士でもあるガリウスを始め、大臣たちの表情が強張った。


 しかし彼らが何かを言うよりも先に、私の方が口を開いた。

「ですが問題はありません。ドラゴンは既に討伐されています」

「ッ!?なんですとっ!?ティナムの町の兵力で、ドラゴンを討伐したのですか?」

「いえ。あの町の兵力で、という訳ではありません。詳細は追々話していきますが、リオン」

「はっ」

「ミコトさんからお預かりしているあれを」

「かしこまりました」

 壁際に控えていたリオンに声を掛ける。リオンは、ずっと懐に抱えていた、布に包まれたドラゴンの爪を、布を解いてテーブルの上に置いた。


「「「「おぉっ!?」」」」

 それだけで、大臣たちだけではなくお父様も驚いたように声を上げる。部屋の壁際に居る、各大臣の従者たちもだ。普段の会議中であれば、皆静かに待機しているのが常だけれど、ドラゴンの爪とあっては皆冷静ではいられなかったようですね。


 やがて、ガリウスが徐にドラゴンの爪を手に取った。

「た、確かにっ。この、鋼鉄すら容易く切り裂くであろう爪の持ち主など、ドラゴン以外には……」

「いきなりドラゴンを討伐した、と聞いても信用は出来ないでしょう。もし少しでもこの話を疑う者がいれば、今すぐティナムの町の駐屯地を訪れるなり、使者を送って確認をしてください。討伐に成功した後、ドラゴンの素材などを回収していますので」

「……いえ、姫様のお言葉を信じます」


 念のために皆を見回しながら話すと、ガリウスがそう言って爪をテーブルの上に置いた。他の大臣たちも、驚きながらも静かに頷いている。

「マリーよ」

 その時、お父様が声を上げた。

「お前がティナムの町で見てきたことを教えてくれ。一体、あの町で何があったのだ?」

「はい、お父様。全て、お話しします」


 それから私は、お父様やガリウス、大臣たちに王都出立後の私が経験した事を全て伝えた。


 ティナムの町へ向かう道中、ワイバーン数匹に襲われた事。その際、特殊な鎧を纏って戦う力を持ったミコトさんによってワイバーンから助けられた事。ティナムの町へミコトさんと共に到着し、彼女の圧倒的な力を目にしていた事から、協力を仰いだ事。無事に協力してもらう事が出来、ミコトさんの持つパワードスーツの力で魔物の討伐を行い、当初こそ順調だったこと。しかし、ある時ドラゴンと遭遇し、私たちは街を放棄しての撤退か、ドラゴンとの戦闘かの、どちらかの選択を迫られた事。当初、駐屯地の司令官たちは放棄と撤退を支持し、私もそれに賛成していた事。けれど人々の生活を捨てさせる選択に納得できなかった私の力となり、ミコトさんは私の理想のために、持ち得る最高の力でドラゴンと戦い、討伐した事。そして、なぜかドラゴン討伐後、魔物の増加現象が落ち着いた為に、こうして戻って来た事。



「むぅ、そうでしたか。しかし、話を聞けば聞くほど、そのミコトという少女の事が気になりますな。確か今はこの王城に?」

「えぇ。ティナムの町ではミコトさんの働きぶりに見合った額の報奨金を用意出来なかったので、こちらへご同行願いました。今は客間でお休みになっているかと」

 ガリウスは興味深そうにミコトさんの事を質問してきた。ただ興味があるだけなら良いのですが?と考えつつ、なるべく普通に答える。


「そうですか。……陛下、私から一つ進言したい事が」

「なんだガリウス?申してみよ」

「姫様がお連れしたミコトなる少女、何とかわが国の戦力として懐柔する事は出来ませんか?」

「ッ」

 ガリウスの言葉に私は息を飲み、一瞬だけ表情を歪め、しかしすぐに平静を装った。 ガリウスの発言の意味も分かる。


 ドラゴンさえも単独で渡り合い、討伐するミコトさんの力は国防を担う者からすれば、絶対に欲しいでしょう。まして今、世界各地で魔物の増加現象が確認されている以上、ミコトさんの力はますます欲しい所。ガリウスの考えはある意味正しいのかもしれない。けれど……。


「懐柔など、あまり人聞きの良い話ではありませんよガリウス。それに、私としてはそれが上策とは思えません」

「姫様」

 私が声を上げれば、皆がこちらを向く。

「ミコトさんの力は、単独でドラゴンを圧倒する程ですよ?下手に懐柔しようとして、怒らせてしまえば、こちらが手痛い被害を被る恐れもあります。それにミコトさんは以前、冒険者登録をすると話していましたし、いざとなれば冒険者となったミコトさんと専属契約を結ぶ事なども可能でしょう」


 冒険者とは本来国に属さず、自由に依頼を受ける。しかし高ランク冒険者の中には、ギルドを通して高い報酬と引き換えに国と専属契約、もしくは優先契約を結ぶ者も居ると聞く。

「専属契約、ですか。確かにそれも悪くはありませんが、冒険者の中には密かに二重契約などをして利益を上げようとする輩も居ると聞いた事があります。彼女は、大丈夫なのですか?」

「ミコトさんの人柄を疑っているのであれば、その点は私が問題ない、と保証しましょう。数か月とは言え、私はミコトさんと共に過ごしてきましたから。少なくとも、金に目が眩むような人ではありません」

 私は真っすぐガリウスを見つめながら話す。

「分かりました。聡明な姫様がそうおっしゃられるのであれば、信じましょう。しかし、ドラゴンと渡り合うというミコトなる少女の力は、魔物の脅威に晒されているわが国には必要な物。……いざとなれば、懐柔してでも協力していただくべきかと」

「……えぇ、そうですね」

 ガリウスは私の話を聞いても、いざとなれば懐柔するべき、という意見を捨てはしなかった。そして今の私には、それを否定しきるだけの言葉を持ち合わせていなかった。

 魔物の脅威に対抗するために、ミコトさんの力が欲しいと思ってしまうのは、私も同じなのだから。



「ふむ。ともあれ、これでティナムの町に関する脅威は取り除かれた。だがこれで問題が解決した訳ではない」

 お父様はそう言ってティナムの町関係の話題を一度区切った。そう、問題はまだある。まだ我がリルクート王国には、ティナムの町以外の二つの魔物の増加現象があるのだから。


 それから会議は、その二つの対策案やそれに関係する事を協議する物へと移って行った。そしてその会議は、数時間に及んだ。



 戻ってミコトの方はと言うと……。


~~~~

 はぁ~~。やっば。王城の暮らしヤバ。うん、はっきり言って凄い。飲み物とかが欲しいと思って、あのベル鳴らしたらすぐメイドさんが来て、要件を伝えるとすぐにお茶とか用意してくれた。暇つぶしに本が読みたい、と言ったらこの世界の童話の本とかを持ってきてくれた。


 おかげで無事時間を潰し、昼食、夕食も部屋まで持ってきてくれるほど。う~ん、このままここに居たらダメ人間になりそうだなぁ。


 なんて思いながら、その日はフカフカのベッドで眠った。そして翌日。朝。


 朝食を食べた後、今日くらいには殿下来るかなぁ?なんて思いつつ、用意してもらっていたお茶を飲んでいた時。


 コンコン、と部屋のドアがノックされた。

「は~い。どうぞ~」

「失礼します、ミコト様」

 私が答えると、メイドさんが入って来た。

「国王陛下、並びに姫様がミコトさんと話がしたい、との事でお呼びにあがりました。準備をお願いします」

「えっ!?は、はいっ!」


 何だろう?と思っていると伝えられた要件っ!まさかいきなり王様と会う事になるのっ!?私はすぐに、こっちの世界の服から転生した時に来ていた制服に着替えたっ。い、一応制服だからね。私服、よりは恰好着くかなぁ。


 その後、私は制服に着替えて、別室に案内された。そこで待っているようにメイドさんに言われ、とりあえず、上座ではないだろうソファの傍で立ったまま待っていた。緊張しつつ、周囲を見回す。


 案内された部屋は、王城に来た時、客間の準備が出来るまで待たされていた応接間みたいな所だった。ここで王様と謁見するのかな?アニメとかだと玉座の間みたいな広い所で、玉座に座る王様の前で膝をついて、なんてイメージだったけど。


 けどやっぱり緊張するなぁ。と考えながら気分転換に周囲を見回していた時。コンコンッ、とドアがノックされた。

「ッ!?は、はいっ!!」

 って思わず上ずった声で返事しちゃったっ!?


「ミコトさん、いらっしゃいますか?」

「はいっ!」

 聞こえてきた声は姫様の物だけど、って事は姫様のお父さん、つまり国王陛下も居るのかなっ!?

「失礼します」

 ドアを、メイドさんが開けて下がった。その後ろから、まずは姫様が。次いで40代と見られる茶髪の男性だった。けれど、問題はその服装っ!いかにも王族らしい荘厳な衣装に身を包んでいる事も相まって、纏ってるオーラが明らかに一般人じゃないっ!や、やっぱりこの人が、国王陛下っ!?王様に続いてなんか袋持ってる執事さんらしい人が入って来たけど、気にしてる暇はないっ!


「おぉ、君がミコト・ハガネヅカだね?話は娘より聞いているよ」

 王様は私を見つめながら人の良い笑みを浮かべている。けどやっぱり本物の王様前にしたら緊張して心臓がうるさいっ!


「は、はは、はいっ!わ、私が鋼塚尊でひゅっ!」

「ん?」

 あぁぁぁぁぁぁぁっ!めっちゃ噛んだぁぁぁっ!!恥ずかしいぃっ!!顔が熱いっ!自然と体が震えちゃうぅっ!


「ミコトさん、どうやらお父様を前にして緊張しているようですね」

「あぁ、成程。そういうことか」

 私の反応が面白いのか、笑みを浮かべている姫様っ!でもそんなことどうでも良いくらい恥ずかしいぃっ!


「どうか緊張しないでくれ、と言っても無理かもしれないが。まぁ楽にしてくれて構わないよ。ここは公式の場ではないからね。さぁどうぞ」

「し、失礼しますっ!」

 柔らかな笑みを浮かべる王様に促されるまま、私はソファに腰を下ろし、王様と姫様も、向かい側のソファに並んで腰を下ろした。


「さて、では君は異邦人という事らしいし、改めて名乗らせてもらうとしよう。現リルクート王国国王、『アルバート・ヴィ・リルクート』だ」

「は、はじめまして。鋼塚尊、と申します。よろしくお願いします」

 お互いに名を名乗り、私の方は追加で頭を下げた。正直、気分は面接に来た就活生って感じ。それくらい緊張していた。


「君の事は娘から聞いているよ。不思議な鎧を生み出す力を持ち、その力はワイバーンやゴブリンの群れ、果てはドラゴンまで討伐する程の物らしいね。おかげで娘も、ティナムの町も助かったと聞いている。王として、お礼を言いたい。ありがとう」

「い、いえっ!私は、私にできる最善をしたまでですっ!」

 小さく頭を下げる王様に、私は緊張しつつも思った事を口にした。

「そう言ってもらえると助かる。とはいえ、貴殿のおかげで多くの民と王女である娘が助かったのも事実。どうかこれを受け取ってほしい」

 そう言って王様は、先ほど一緒に入って来た執事の人に目くばせをした。


 すると執事さんが、私の前に『失礼します』と言って手にしていた袋を置いた。

「これって……」

「君の仕事に対する謝礼金だ。どうか受け取ってほしい」

 そう言われ、私は恐る恐る袋を手にして持ち上げてみたけど、お、重いっ。


「あの、これ中にいくら入ってるんですか?その、結構重いんですけど……」

「金貨が10枚。それと銀貨15枚。銅貨50枚だ。最初は全て金貨で支払うべきか迷ったのだが、流石に金貨ばかりでは目立つ上に重いだろう、と娘が言うのでな。少ないかもしれないが、受け取って頂けると助かる」

「い、いやいやいやっ!少なくないですっ!十分ですっ!」

 正直金貨10枚でも凄いと思うけどっ!?まだこの世界の金銭感覚が分からないけど、それにしても凄い額だとは思うよっ!?


「こ、こんなに貰ってしまって良いんですか?正直、貰いすぎな気もするんですが……」

「いいえ。ドラゴンを討伐したとあっては、むしろこの程度で済ませる方が可笑しいかもしれません」

「え、えぇ?」

 まだ足りないって事っ!?いやにしても結構多い気がするけどっ!


「すまないな」

「え?」

 不意に、王様は申し訳なさそうに目を伏せながら私にそう言った。な、何で?と思い思わず声が漏れてしまう。


「本当ならもっと多額のお礼をするべきなのだろうが、生憎今の我が国ですぐに用意できるのは、これくらいなのだ。まだ解決するべき問題もあってな」

「ッ」


 そうだ。今言われて思い出した。確か魔物の増加現象が確認されてるのは、この国だけで3か所。ティナムの町近くの森は、その1つに過ぎないんだ。


「っと、失礼。ティナムの町を救った英雄にこのような愚痴じみた言葉を聞かせるのは、失礼だったかな」

「い、いえっ、そんなことは……」

 ハッとした様子の王様の言葉を私は咄嗟に否定する。すると、王様は少し深呼吸をしてから、真剣な表情で私を真っすぐ見つめてきたっ。


「ッ」

 その姿に思わず息を飲んでしまう。


「ミコト・ハガネヅカ殿。貴殿にはティナムの町を救ってもらった恩義がある。しかしそれを承知の上で、私のお話をお聞きください」

「は、はいっ!」

 王様のどこか鬼気迫った態度に私もすぐさま袋を脇に置いて背筋を伸ばす。


「貴殿がもし冒険者になった暁には、優先的に我が国からの依頼を受ける契約、優先契約。もしくは国家レベルの依頼受注を我が国に限定する専属契約を結んでは貰えないだろうかっ!」

「え?……えっ!?えぇっ!?」


 鬼気迫った様子の王様から聞こえてきた話が予想外過ぎて、私はただ驚きの声を上げる事しか出来なかった。


     第24話 END

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