第28話 初めての依頼
冒険者になったのも束の間、明らかに熟練の冒険者らしいお姉さんに絡まれてしまった私。幸い事なきを得たものの、翌日再び別の冒険者にイチャモンを付けられる始末。こうして私の前途多難な冒険者ライフが始まったのだった。
ギルドで依頼を受けた私は、王都郊外にある森へとやってきた。冒険者風仕様のチェンジングスーツ、CSC-00。見た目は普通の冒険者って感じだけで中身は全くの別物。おかげで長距離のダッシュとかも何ら苦じゃない。おかげで物の10分程度で森の入り口までやってきた。さて、依頼は郊外の森でのゴブリン討伐。ゴブリンを倒して耳を切り落とし持ち帰れ、って事だけど、とりあえず10匹くらいは倒したいなぁ。
「よっしっ!行きますかっ!」
初めての依頼、緊張はしているけど実戦にはもう慣れたもの。とはいえ慢心はダメ。どこに危険が潜んでいるか分からない。私は両手で自分の頬を軽く叩きながら気合を入れると、森の中へと向かって歩き出した。
幸い、森の中を歩くのはもう慣れたもの。CSC-00のブーツの性能もあるし、ティナムの町郊外の、魔物の討伐作戦で散々森の中を歩き回ったから、もう慣れた。
そして、歩き回る事、10分くらい。
「んっと?」
森の中を歩いていると、視界の端に動く何かを見つけて、咄嗟に木陰に隠れた。そして木陰からこっそり顔を出し、動いた何かが居る方に目を向ける。
視線の先に居たのは、ゴブリンだったっ。その数5匹っ。あれくらいなら、このCSC-00でもやれるはずっ!早速この形態のチェンジングスーツの力、試させてもらうよっ!
私は一度深呼吸をしてから、飛び出した。特殊シューズの力もあって、文字通り飛ぶような勢いで駆ける。通常のパワードスーツ形態とは違うから若干加減が分からないけど、でももう戦闘には慣れてるっ!
そして、大きく一歩を踏み込んで、跳躍っ!シューズで脚力を強化しているから、アニメの忍者みたいに木の枝に飛び上がって乗る事も出来るっ!そして、鞘からヒートマチェットを逆手で抜くと、枝の上からゴブリンたち目がけて、飛ぶっ!
『ギッ!!?』
ゴブリン目がけて飛ぶ中で、私の影に気づいたのかゴブリンが1匹っ!向かってくる私を見上げるっ!でも驚いて武器を構える事までは出来てないっ!
「そこだぁっ!!」
逆手持ちのマチェットを飛び掛かるのと同時に、振り下ろした。繰り出したマチェットの一撃は、発熱していない状態でも一撃でゴブリンの胸を貫いた。血が飛び散るけど、鎧と肘や膝のパッドから発生する力場が、飛び散った血を周囲に散らしてくれるおかげで私の体には一滴も血が掛からない。
私は即座にマチェットを抜いて後ろに飛んだ。
『ギギャァァッ!!』
『ギャァギャァッ!』
すると襲撃に気づいた他の4匹のゴブリンが騒ぎ出すっ。今のゴブリンたちの配置は、右前方、1時から2時の方向に3匹。左前方、11時の方向に1匹。となると、まずは左から潰すっ!!
「おぉぉぉぉぉっ!」
雄叫びを上げながら駆け出す。
『ギギャッ!!』
すると破れかぶれなのか、ゴブリンが手にしていたこん棒を投げつけてきたっ!でもそんなのっ!
「おりゃっ!」
パワーアシスト付きの手甲で難なくはじけるっ!
『ギギッ!?』
それにゴブリンが驚いてる今がチャンスっ!
「食らえぇぇぇぇっ!!」
更に接近し、肩口目がけてマチェットを振り下ろしたっ!刃はいともたやすくゴブリンの体を切り裂いたっ!傷口から血を吹き出し倒れるゴブリンッ!次っ!見ると残りの3匹は私に恐れおののいているようにも見えたっ!それならチャンスっ!
「まだまだぁぁぁぁぁっ!おぉぉぉぉぉっ!」
威嚇の意味でも、声を張り上げながらゴブリンどもに向かって行く。私がマチェットを振り上げれば、粗雑な槍を持っていたゴブリンがそれを横に掲げ、受け止めようとしているっ!
でも、それがどうしたっていうのっ!私はマチェットの柄の部分にあるスイッチを押し込んだ。すると刃の淵の部分が仄かに赤熱化し赤みを帯びるっ!そしてその赤みを帯びた刀身を叩きつけたっ!
案の定、赤熱化した刃を細い槍で受け止める事なんて出来ず、槍ごと一刀両断っ!残り2匹っ!
『ギ、ギギィッ!』
残り2匹とも及び腰になってて戦意喪失は目前っ!だったら畳みかけるっ!
「そこっ!」
ぶった切ったゴブリンの槍の後半、柄だけを掴んで投げつけたっ!パワーアシスト付きだからただ投げただけでも結構速度が乗るっ!
『ギギャァッ!?』
しかもそれがゴブリンの顔面にクリーンヒットっ!一瞬よろけるゴブリンっ!チャンスっ!
「おんどりゃぁぁぁぁぁぁっ!」
シューズによる脚力強化もあって瞬く間に距離を詰め、赤熱化したヒートマチェットを脳天目がけて振り下ろすっ!一瞬よろけていたゴブリンには防御も回避も出来ず、これまた頭にクリーンヒットっ!
「っ」
正直頭蓋骨を叩き割って脳みそも壊した感触は滅茶苦茶気持ち悪いっ!でも今はそうも言ってられないっ!
「次っ!ラストォッ!」
最後の1匹っ!とそちらに目を向けた、んだけど……。
『ギギィッ!』
その最後の1匹はこちらに背を向けて逃げ出したっ!
「あっ!ちょっ!」
あまりに突然だったので、私は思わず驚き追いかける事が出来なかった。ゴブリンはこちらに一切振り返らず、森の奥へと逃げて行ってしまった。
「え~~」
まさか逃げるなんて思ってなかったから、思わず落胆の声を漏らしてしまう。まぁ、追いかける事も出来なくはないけど。この森に入ったのは今日が初めてだし。深追いは、やめておこうかな。
仕方ない。とりあえず、倒したゴブリンの耳を回収して、っと。
「四つかぁ。もうちょっと取って帰りたいなぁ」
このCSC-00にも早いうちから慣れておきたい。流石に人前で何度もCSAシリーズやガーディアを纏うとなると変に注目されるし、それが原因でマリーや国王陛下に迷惑かけたくないし。これからは基本的にCSC-00で仕事する事になるだろうなぁ。
まぁ、実際CSC-00はCSAシリーズと比較しても装備が少ない分消費エネルギー量は少ない。数日は纏っていられる。この燃費の良さなら、普段使いには十分でしょうし。まぁ今はとにかくっ!
「もっともっと、ゴブリン狩りますかっ!」
マリー達の援助に頼りっぱなしって訳にも行かないしっ!さて、もっとゴブリンを狩りますかっ!って事で、私はとりあえずゴブリンを探すために歩き出した。
それから、私はゴブリンの群れを発見し、討伐した。群れ、と言っても見つけたのは3匹の群れ。数も少なかったから、奇襲で1匹を倒し、残りの2匹を呆けている間に首を飛ばし、肩口から切り裂いて倒した。もちろん耳の回収も忘れない。これで合計7匹。まぁ初日にしては上出来かな。って事で私は森を出て町へと戻って行った。
町へ戻った私はそのままギルドへ行き、報酬を貰った。報酬は銅貨14枚。これだとゴブリン1匹に付き銅貨2枚って事みたい。とはいえ、まだ自分のお金で生活した事無いから、これって稼いでる方なのか全く分からないんだよねぇ。
とりあえずギルドを出た後、宿までの道のりにあった適当な飯屋で食事を取ってから帰った。そこそこ食事をして代金は銅貨4枚。うぅむ、一食これくらいお金がかかるとなると、これだけじゃ1日の食事代だけで報酬が飛ぶなぁ。明日からはもっと数を狩るべきだなぁ。
何てことを考えながら宿へと戻った。ちなみに、戻ったら戻ったで出ていった時と装備がまるっきり違うから、フロントの人が少し驚いてて、慌てて誤魔化すのに苦労したりした。
それから、数日が経過した。私は日々ギルドでゴブリン討伐の依頼を受け続け、CSC-00を使っての実戦経験と、冒険者としての実績を地道に積み重ねながらお金を稼いでいた。 そんなある日の事だった。
「はぁっ!」
『グギャァッ!!』
今日も今日とて、私は王都郊外の森でゴブリン討伐に精を出していた。今も遭遇した5匹の群れをヒートマチェットで退けた所。
「ふぅ」
5匹全てを倒すと、私は息をつきながらマチェットを腰の鞘に戻した。そんでもって、マチェットとは別に町の武器屋で買っていたナイフを取り出して、ゴブリンの耳をそぎ落とす。んで、それを背中に背負っていたリュックから取り出した布に包んでリュックに戻す。
CSC-00のおかげで、リュックを背負っていても超人的な動きは出来たし、万が一のためにとリュックには革の水筒とか非常食の干し肉とか、その他もろもろ冒険者稼業の役に立ちそうな物を入れてある。
さて、これで今日のスコアは19匹。これくらい狩れば大丈夫かな。今の所、ゴブリンを1日20匹前後狩ってる。まぁこれだけ狩っても、報酬の大半は私の食費とかに消える。貯まったお金も殆ど必需品の購入やら宿の宿泊代金で消える。まぁ陛下から貰ったお金は、今の所手を付けずにある。なんて言うか、いざって時のために残しておきたいし。……そもそも使うのがなんか憚られる、というか。
ま、まぁとにかくっ!今日は目標達成っ!
「さて、帰りま……」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「っ!?」
帰ろうとした矢先、突如として聞こえて来た悲鳴に私は息を飲みながらも、即座にマチェットを抜いて構え、周囲を見回す。今の悲鳴っ、一体どこからっ?
周囲を見回すけど、ぱっと見ただけでは周囲に異常は無いし、人影も見えない。どこっ? と、その時。
「だ、誰かぁぁっ!」
「っ!こっちかっ!」
再び聞こえた悲鳴っ!でもおかげで大まかな方角が分かったっ!私は即座にその方角目がけて駆け出したっ!
シューズの力で飛ぶような勢いのまま森を駆け抜けるっ!数秒も走れば、見つけたっ!前方の少し開けた場所でゴブリンに襲われてる人影っ!ゴブリンの数は4匹っ!これならいけるっ!!
「うぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁっ!」
走っていた速度のままに、シューズの力を活かして大きく跳躍っ!そして人影に一番近いゴブリン目がけて、飛び蹴りを放つっ!
『ギギッ!?』
「食らえぇぇぇぇっ!!」
ゴブリンが私に気づいたけどもう遅いっ!某仮面のヒーローばりの飛び蹴りっ!それが防御も回避も出来ないゴブリンの顔面を捉えたっ!グシャッ、という何かがつぶれる嫌な音と共に吹き飛ぶゴブリンッ!
そんでもって人影の前に着地する私っ!
「え、えっ?」
後ろから聞こえる助けた人の混乱したような声、でも今は気にしてる場合じゃないっ!
「そこで伏せててっ!ゴブリンどもは私に任せてっ!」
「っ!は、はいっ!」
「っしっ!」
残るゴブリンは3匹っ!でも最初の1匹が、顔面陥没するくらいの勢いで蹴り飛ばされたからか、明らかに動揺し、攻めあぐねている様子っ!だったらその隙に、一気に畳みかけるっ!
「どりゃぁぁぁぁっ!!」
威嚇の意味も込めて、大声を張り上げながらマチェットを抜き切りかかるっ!
『ギギィッ!』
2匹目のゴブリンは手にしていたこん棒でマチェットを防ごうとしたけどっ!ヒートマチェットの発熱状態の熱量なら、簡単に切り落とせるっ!
「はぁっ!!」
ゴブリンの胴体をこん棒ごと斜めに切り裂くっ!次っ!
倒れる2匹目を後目に、3匹目に目を向けるっ!
『ギィッ!』
手にしている粗雑な弓を撃って来ようとしてるけど、遅いっ!
「そこっ!!」
投げつけたマチェットが回転しながらゴブリンの脳天に刺さったっ!
『ギィィィィィッ!!!』
そこに最後の4匹目が粗雑な剣を手に斬りかかって来たっ!でも恐れないっ!もう怖くないっ!接近戦だって、何度も経験してきたんだからっ!
『ギィッ!ギィッ!』
仲間がやられて半狂乱の状態なのか、むやみやたらに剣を振り回しながら襲ってくるっ。けどそれを冷静にステップで避けながら、チャンスを探すっ!
『ギィッ!?』
しめたっ!大振りの連続でバランスを崩したっ!
「そこぉっ!!」
ボールを思いきり蹴るように、強化された脚力でゴブリンの脇腹を強く蹴り上げた。蹴った時、肋骨を粉砕したような音と感触が伝わって来た。蹴られたゴブリンはゴム鞠のようにバウンドしながら転がり、最後は血を吐き出した後、動かなくなった。
そこから、とりあえずマチェットを回収せず周囲を警戒する。……周囲に敵影は無し、か。そこでようやく私はゴブリンの死骸に突き刺さっていたマチェットを引き抜き、軽く振って血を払うと鞘に戻した。
「ふぅ」
そこまでして、ようやく息をついた。
「あ、あの」
その時、後ろから声が聞こえたので振り返るとさっき襲われた人が立ち上がる所だった。
「た、助けて頂いて、ありがとうございました」
「いいえ。どういたしまして」
謝意の言葉に私は返事を返しつつ、相手の様子を伺った。
私が助けたのは、私と同い年くらいの女の子だった。黒髪のショートヘアに、未だに怯えた表情が印象的な女の子。まぁ襲われたんだし怯えるのも仕方ないか。
「あ、お怪我はありませんか?どこか怪我をしたとか?」
「い、いえっ、大丈夫です、ホントにっ」
私が声を掛けながら一歩を踏み出すと、何故か彼女は緊張し、少し怯えた様子で後ろに下がった。……あれ?私なんか怯えさせるような事しちゃったかな?
そんな事を考えつつ、とりあえず彼女を刺激したり、不安にしないよう言葉を慎重に選ぶ事にした。
「えと、私は冒険者のミコトと言います。その、ホントに大丈夫ですか?どこか怪我をしたとか?」
「あ、う、は、はい。怪我は、ありません。薬草の採取に来ていたのですが、ゴブリンが突然現れて、それで、ッ!?」
話しながらも、彼女が一歩下がったその時、彼女は痛そうに表情を歪めながらバランスを崩したっ!?
「危ないっ!」
咄嗟に駆け出し、声を上げながら後ろに倒れそうになっていた彼女の腰に手を回し、抱き留めた。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
「あ、う、ご、ごめんなさ、いっ!?」
彼女は謝ろうとしたけど、再び顔をしかめた。なぜ?と考えながら彼女の体の様子を探りつつ、とりあえず適当な木陰に、木にもたれかかるように座らせた。
「ちょっとごめんなさい。体の方、確認させてもらいますね?」
「は、はい」
とにかく確認を取ると、私は彼女の体などを確認し始めた。幸い、痛みの原因はすぐに見つかった。
「これですね。足首をひねってるみたいです。ちょっと触りますね?」
「は、はい」
彼女の左足首が赤くなっていた。十中八九、足首をひねったみたい。念のため軽く触ったのだけど……。
「いっ!?」
彼女は痛みに体を震わせ表情を歪めたっ。
「ご、ごめんっ!大丈夫っ!?」
「は、はい。なんと、か」
彼女はそう言っているけど、額に浮かんだ脂汗からして、とても大丈夫には見えなかった。
「その様子じゃ、多分歩けないだろうし。ねぇ、あなたの名前は?」
「え?……り、リリカ、と言います」
なぜ名前を聞くんだろう?と言わんばかりに訝しんだ様子ながらも答えてくれた。まぁ突然だから色々考えちゃうのも仕方ないけど。何事もまずは自己紹介から、ね。
「リリカちゃん、ね。改めて私は冒険者のミコトです。早速だけど、これから私がリリカちゃんを町まで送っていくから」
「えっ!?そ、そんな迷惑をかけるような事は……っ!」
「でもその足じゃ自力で歩けないでしょ?」
「ッ!……は、はい」
図星だったんだろうね。彼女は息を飲み目を見開き、しばしして俯きながら頷いた。
「それに、こんな所で1人残していったら、それこそ後味最悪だしさ。ほら」
私は俯く彼女に手を差し伸べた。
「み、ミコト、さん」
「困ってる子を見捨てられないお人よしなのよ、私は。さぁ」
「……は、はい」
やがて、彼女はおずおずと私の手を取った。私は彼女の足を気遣いながら、ゆっくりと立ち上がらせた。
とはいえ、ここからこの子を連れて、森を抜けるとなるとなぁ。仮に、肩を貸したとしたら片手は塞がるしそんな状況じゃきっとまともに戦えない。おんぶしたり、お姫様抱っこも両手が塞がるから論外。
となると……。使うしかないか。パワードスーツを。正直、人前で使うとまた変な話がギルド周りで流行りそうでちょっとげんなりするけど、まぁ背に腹は代えられない、って所かな。仕方ない。まずは周囲を見回し、怪しい影や敵が居ない事を確認して、と。
「ごめん、数秒だけ待ってもらえるかな?」
「え?は、はい」
私はそう言ってリリカちゃんから数歩ほど離れた。よし、それじゃあ行きますか。
「≪チェンジアップ≫ッ!」
いつも通りの合言葉を叫ぶと、冒険者装備風パワードスーツだったCSC-00が液体金属へと変化し、更に胸元で一度圧縮され、数秒間をおいて膨張。再び私の体を包み込んだ。私の体を包んだ液体金属が変化し、スタンダードなパワードスーツであるCSA-01に変化した。
「えっ!?えっ?!」
これにリリカちゃんが驚き、目を見開きながら口をあんぐりと開けていた。うんうん、いかにもな反応だねぇ。
っと、それは今は置いておいて。
「さぁリリカちゃん。行こう。ここを離れないと」
「え?あ、え、えっと。み、ミコトさん、なんですか?」
「そうだよ」
「で、でも、その鎧はどこから?それに、今さっき来てた服が……」
混乱し、訳が分からない、と言わんばかりの表情を浮かべているリリカちゃん。うん、その反応は分かる。分かるけどぉ。
「ごめん、詳しい話はとりあえず後で。それよりも先にまず森を抜けないと」
「ッ。そう、ですね」
現状を思い出したのかリリカちゃんはハッとした表情と共に息を飲むと、静かに頷いた。
「ってなわけで、ちょっと失礼するね~」
「え?」
私はリリカちゃんに歩み寄ると、彼女の前で屈み、そして膝と腰のあたりに手を回して彼女を抱き上げた。そう、お姫様抱っこだ。
「ふぇっ!?あ、あのこれはっ!?」
「ちょ~~っとだけ我慢してね?森を抜けるまでの辛抱だから」
突然のお姫差抱っこにリリカちゃんは驚き顔を赤くしていたけど、ここは魔物の居る森の中。早くここから離れないと。
「それじゃリリカちゃん。私の首の辺りに手を回せる?」
「え?は、はい」
驚き、まだ戸惑いから抜け切れてない中でもリリカちゃんはゆっくりと私の首元に手を回した。
「うん。それじゃあ移動するから、落ちないようにしっかり捕まっててね」
私はそれだけ言うと、思念操作で足裏のローラーダッシュを作動させた。甲高い走行音を響かせながら、CSA-01が走り出す。
「わ、わわっ!」
リリカちゃんは驚いた様子で私の首元にギュッと抱き着いている。私はそんな彼女を一瞥しつつ、森の中を駆け抜けた。
それからしばらく、私は森の中をリリカちゃんを抱えながらローラーダッシュで駆け抜けていた。そんな中で、ゆっくりと私の腕の中にいるリリカちゃんが私を見上げている事に気づいていた。
気づいていたけど、いつどこで敵と遭遇するか分からないから、私は気づかないふりをしつつ周囲を警戒していた。
そしてこれが、私の新たな出会い。その1ページだった。
第28話 END
転生した私は、パワードスーツを纏い異世界で百合ハーレム、作っちゃったっ!? @yuuki009
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