第3話 不幸の願い。
流れで着いて来た高尾一は家に帰っていいのか、どうしていいのか悩みながらも山奈円の後を追う。
相談所に帰ると夕方になっていて、「今日はお疲れ様。この手の依頼は当分ないから、明日からは通常業務ね」と言われて終わる。
履歴書を買って帰って記入して、翌日顔を出すと山奈円は普通に高尾一を出迎えて、ビル清掃やメンテナンスの仕事をさせる。
聞けばこのビルは山奈円の持ち物で、五階に住んでいるらしい。
なので昼は山奈円が何もなければ用意すると言ってくれて、ごく普通の家庭料理が出て来て高尾一はそれを食べる。
食事中に気になって右道親子の話をすると、山奈円は「本当は1ヶ月黙っているのがいいんだけど、まあいいわ」と言って箸を置くと、「あなたの不幸体質よりだいぶマシだけど、不幸に取り憑かれ始めてるのよ。今止めないと手遅れになるわ」と言った。
「手遅れ?山奈さんの所で働けば治るとか?」
「それは人それぞれ、貴方はそれが最適解だっただけ、彼女の最適解はどこにあるやら…。ケータイなら良いんだけど」
山奈円はそう言うと、それ以上は何も言わなくなる。
高尾一の仕事はビルの清掃、山奈相談所の書類整理等に商店街のお付き合いもある。
だが商店街の仕事に関しては、山奈円が帯同して指示を出されてその通りに動くだけだった。
その意味はわからないが、月末にお給料の明細を貰う時に山奈円が「よし、明日行動するかな?」と言って、パソコンを起動して何かの確認を始める。高尾は「何やってんですか?」と覗き込むと、「見てはダメだ」と怒られてしまった。
翌日、山奈円は右道家に連絡をすると「次の週末に結果を伺いに行きます。出来ればその日は雪子さんの彼氏の方にいて貰いたいんです」と言う。
彼氏はまだキチンと右道家に来たこともなかったのに、突然くる羽目になり目を白黒させていると、夕方に晴子から電話が来たがどうにか確保することができた。
週末、高尾一が右道家に雪子と彼氏の正男と共に待機して、山奈円は母の晴子と話をする為に出かけてしまう。
出がけに山奈円は「誰が来ても扉を開けないこと、インターフォンも取らないこと、後、何が起きるかを助手に聞いても助手は何も知りません」と右道雪子に言い、高尾一には「何もわからないのだから、君は持ち込んだ小説を読みながら私達が戻るのを待って、2人の時間を邪魔しないんだよ?」と言って出かけてしまった。
高尾一は驚いた。
右道雪子は先日とは別人の様に健康的で、肌艶もいいし髪もボサボサではない。
彼氏が来るからキチンとしたのかも知れないが、ここまでキチンとできるものではない。
彼氏も久し振りの右道雪子に「元気そうで良かったよ。うちの家族も雪ちゃんの事を心配していたよ」と話すと2人の世界に没入されてしまう。
高尾一は右道家に違和感を覚えていた。
空気感がまず違うのだが、それ以上に窓と言う窓を閉めてカーテンも閉じている。
外が何時なのかもわからないのだ。彼氏の正男は「雪ちゃん息苦しいね。窓はダメでもカーテンは開けないかい?」と聞いたが、山奈円から言われて開けられない、後数日我慢して欲しいと懇願されていて、これが山奈円の指示だと高尾一は知った。
山奈円が右道晴子を連れて行き、3時間が過ぎた頃にインターフォンが鳴る。
リビングには緊張が走るが、山奈円からは決して相手をするなと言われている。
ピンポーン… ピンポーン… ピンポーン… ピンポーン…… ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン…ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピンポーン!
コレでもかと鳴らされるインターフォン。
その後、一瞬静かになると、ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンと激しく扉を叩く音がする。
高尾一は必死に声を抑えて山奈円に[何が来ました!なんですかアレ!ピンポーンってドンドンって!]とメールを送ると、[やはり来たか、もう着くわ。耐えて]と返事がある。
右道雪子は真っ青な顔で彼氏に抱き付き、彼氏は頼もしさ溢れる顔で雪子を抱きしめて安心させている。
その状況に高尾一は「場違い!怖いし!なんなのコレ!」と言いたいかわりに全て山奈円にメールを送ると山奈円はマメな女なのだろう[そういうな][怖いものは怖いのだ、素直に怖がりなさい][笑えるわね]と返事をくれた。
五分してインターフォンやドアを鳴らす音が止む。
少しして玄関が開く音がすると、リビングには山奈円と真っ青な顔の右道晴子が入ってきた。そして山奈円は「右道雪子さん。説明の時です」と言った。
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