第8話 不幸の結末。
それから佐川花子が佐川鶴太郎と浮気相手の山戸月子を包丁で刺したのはすぐの事だった。
新聞記事になって知った高尾一が山奈円に記事を見せると、山奈円は「やっぱり」と言った。
やっぱりという言葉が気になった高尾一が「やっぱり?」と聞き返すと、山奈円が「もう不幸の願いが成就してしまって、あの奥さんは不幸に囚われていた。簡単よ?私の言った提案は、全て【chowderを捨てて旦那さんとの生活に注力しなさい】に帰結するもの。でも捨てられなかった。だから旦那からは捨てられて、chowderの中で働かないで旦那の稼ぎで好き勝手振る舞う姿を、見た人達から渡された不幸を願う種の山が芽吹いたのよ」と説明をする。
高尾一はその場に居ないのに、「でも、ドラマの感想は書き始めているし、皆楽しみにしてくれてるからやめられない」、「でも、あのアーティストはデビューから追いかけていたし、朝一番に情報を知りたいし、皆にも教えてあげたい」、「でも、結果は同じだよね?出かけて楽しむ。え?chowderが無くても付き合ってた時は一緒に出掛けて写真を撮っていたよね?」と言っている佐川花子の姿が見えた気がした。
「そして捨てられた佐川花子は何を心配するのかしら?コレからの生活?ロクに働いた事のない自身を嘆くかしら?私は何より最初にchowderに書く内容を心配すると思うわ。自慢ができない。旦那に捨てられたなんて書けない。その一心で復縁を迫る。そして他責思考の佐川花子は浮気相手が居なければと思って始末に出たのよ」
それはまさしくその通りだった。
週刊誌はすぐにchowderの日記なんかを引用して、[キラキラ生活の専業主婦が大手商社マンの夫を殺そうとするまで]という記事を書いた。
chowderに傾倒した佐川花子は、chowderに書く為に旦那と出かけて写真だけ撮ると、さっさと書き込む為にあれこれ理由を付けて帰ろうと言う。
子無しの専業主婦にも関わらず、朝も旦那を見送らず、夜もドラマを見てすぐに感想を書く為に旦那を蔑ろにする。
その結果、旦那が浮気をしても仕方がない。
chowderで繋がる元同級生なんかのインタビューにも、「旦那さんの事を心配してたらこれですよね。本当にあの子は昔から一つの事に傾倒するとそれしか見えなくて」とか書かれている。
だが不倫には、否定的なコメントも見受けられていて、夫・鶴太郎も世間からパッシングを受けることとなった。
「刺された女の人も災難でしたね」
週刊誌を読みながらそう言った高尾一は山奈円から鼻で笑われる。
想像と違う反応に、高尾一が「山奈さん?」と聞くと。
山奈円が「まだまだ甘いわね」と言って笑い、「不幸に巻き込まれる人も居るけど、相手も不幸を願われていたのよ。右道雪子さんがそうでしょ?潔白なあの子でも疑われた。始まりは佐川花子さんを不幸にしたくて始まった事だけど、相手も不幸を願われて許されない恋に身を落とした。刺された日に偶然遭遇なんてあり得ないわ。佐川花子さんと不倫相手を会わせたい不幸が2人を導いたのよ。そして不幸の願いは刺されると言う形で成就されたの。週刊誌に名前まで出たんですもの。コレから大変よ。まあ旦那さんも仕事でそこそこ成功していたみたいだから、不幸を願われていたのかもしれないわね」と答えた。
確かにそうだと思った高尾一は「あ…」と言ってから、山奈円に「chowderってなくならないんですかね?」とぼやいた後で携帯を取り出して、「あの…昨日、chowderの招待メールが来たんですけど…」と申し訳なさそうに言う。
山奈円からやれやれという顔で、「その携帯、もう不幸の気が出てるわ」と言われると、高尾一は慌てて「やりません!絶対です!」と言う。
山奈円は「それがいいわ」と言って気だるげに頬杖をついた。
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