高柳始と山奈円。
誘い手・山奈円。
第15話 山奈円からの誘い。
早いもので、もう年末になった。
山田満の方は仕出し弁当屋の取引先が冬休みに入ると合わせて休みになる。
大掃除は大変だったが、想像より問題がなかったのは、山奈円の勧めで弁当屋は商店街の清掃会社に依頼をしてくれていて、清掃会社がキッチンの大掃除をしてくれる。
山田満が笑えてしまったのは、引き出したフライヤーの裏からカチカチに乾燥したコロッケが出てきた事で、笑う姿に「初めては皆驚くよね」と言って貰える。
3ヶ月しか経っていないが、山田満はもう商店街にいなくてはならない存在になっていた。
本来なら厳しい生活のはずなのに、家賃も安く、仕出し弁当の余り食材なんかを持たせてくれるので食費はかなり浮く。
多過ぎて高尾一に渡してしまう程だった。
そんなに貰っていいのかと心配で聞いてしまう山田満に、「何若い子がバカみたいな心配してんの!いいんだよ!アンタもオバさんになったら、若い子に沢山食べさせてやんな!」と言われた後で、「円ちゃんのおかげだから、出来るならこの街で生きて行きなって」と言われると、仕事仲間のおばさま達が「結婚するって言っても円ちゃんとこの坊やだろ?あの子とならここで住めば良いんだよ。頑張って仕事覚えてこの家と仕事を貰っちまいな!」と盛り上がる。
「こら、円ちゃんからも冷やかすなって言われてるんだから、放っておけば良いんだよ」と言って止める女将さんに、山田満が「山奈さんが言ってくれるんですか?」と聞くと、女将さんは「冷やかすと辞めちゃうから、この商店街に若い子を入れて、皆で切り盛りするから、辞めないように協力してねって言われてんだよ」と教えられた。
変わって高尾一はもうかなり忙しい。
この不況も相まって、不幸の願いは尽きないどころか増え続けていて、申し訳ないが断るケースも出てきている。
山奈円は毎日ヘトヘトになりながら「ははは、もう一生分稼げそうだね」と半笑いで、冬のボーナスはかなりの金額が出て高尾一は驚いてしまっていた。
「君がいて、仕事が増えて収入が増えたら、還元するのは当たり前のことだよ」
そう言われたら素直に貰うしかなくなる。
だが4月から比べたら、有り得ない忙しさに微妙な顔をする高尾一だったが、山奈円からは「まあ不幸の願いも使いようなのさ。不幸の筋道を弄ってやれば、不況の最中でもこうして仕事に恵まれる。君と満ちゃんが人に仕事内容を漏らさない事が功を奏しているんだ。私もお金が必要だから助かっているよ」と言われると、何も返せずに「はい」としか言えなかった。
「さて、山奈相談所は例年通りなら十連休をしていたのだが、今年は少し短かそうだ。満ちゃんと休みは合わせたから納会をしようじゃないか」
山奈は納会なんかを大事にする。
先週はクリスマスと忘年会を併せて、派手な事はしないが食事に誘ってくれて、商店街に新しく出来た小洒落たレストラン・バーでコース料理を食べさせてくれた。
「まあ、年の瀬で皆が忙しい時に無理を言ってしまったが」と言って、案内してくれたのは中華料理店で、街中華がコース料理のように出てきて、〆は半炒飯と半ラーメンを更に少なくした子供用のようなラーメンと炒飯で作る手間に申し訳なさを覚えた。
山奈円の「さて、一応聞くが、来年も続きそうかい?」と言ったこの言葉に高尾一は驚く。
アルバイトをしても数日で居場所がなくなり、自ら辞めていたのに、山奈円は「続きそうかい?」と聞いてくれる。
高尾一が答える前に山田満は「はい!」と答えて、「ほら一も言いなよ」と言う。
「来年もよろしくお願いします」
「うむ。こちらこそよろしく頼むよ」
その後で山奈円は少し申し訳なさそうに「もし良ければ」と言った。
「山奈さん?」
「どうしたんです?」
「不幸の使い手の話を聞く気があれば、明日時間をくれないかな?だが今が充実していればまだ備える必要はないんだ。だから断ってくれても構わない」
珍しく申し訳なさそうな顔をする山奈円を見て、アイコンタクトだけで通じた高尾一と山田満は声を合わせて「こちらこそよろしくお願いします」と言った。
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