第14話 山田満の新しい日々。
高尾一が「被害者」の事で山田満に謝ろうとすると、山田満は「違うよ。
「え?満?」
「一といたから山奈さんに会えて助かり方を聞けた。一といたから私に会いたいんじゃなくて、私から一の事を聞き出したり一の不幸を願う人が見つけられた。それだけだよ」
山田満は照れくさそうに「山奈さんの話を聞いて、私達がどうしたら不幸を願われなくなるか聞こうよ」と言う。
山奈円は「満ちゃん。ありがとう」と言ってから、「簡単な事だよ。高尾君は山奈相談所に勤めて、満ちゃんはあの街で過ごせばいいんだ」と言う。
高尾一は神妙な顔をしていたのに、拍子抜けの表情で「は?それだけ?」と聞き返すと、山奈円はヤレヤレと「それだけってねぇ、結構大変なんだよ?」と言ってため息をつく。
「大変?」
「不幸の願いが生まれないように街を綺麗にしているのさ、多少値が張っても地産地消が可能なものは商店街で買う。商店街に人の流れと金の流れを作って風通しを良くして、不幸の願いが生まれないようにする。それをしているから君は不幸の使い手にならないで済んでいるんだ」
「…不幸の使い手…」
「まあそれは満ちゃんの生活が安定した頃に、タイミングを見て教えてあげるよ。君は間違いなく不幸を使って破滅するタイプだからね」
この日の話はここで終わる。
山田満は2日連続で山奈円の所に泊まるのは気が引けると言って、高尾一の家に泊まると言う。
山奈円はヤレヤレと言いながら、「では今日守る事を言うよ。これから満ちゃんが引っ越してきてからの話をしない事、中学校の話を出さない事、それを守れば一晩ならなんとかなるからね」と言ってタクシーで帰って行った。
週明け、山田満は勤め先に退職の意志を伝えて、9月末で仕事を辞める事となった。
職場では山奈円に教わっていた、「自信を失いました。父は仕方ないと言ってくれましたが、母は怒っていました。けど当分は自分探しをしようと思います」と言う設定を話す。
自信を失ったのは、ここ数ヶ月のトラブル続きを見れば明らかで、父は娘に甘いが母親は甘えを許さない態度というのも不幸を願いにくい。
引き継ぎが始まれば組まされた相手は外れるし、山田満に対して興味を失う。
山田満は陰で喜ぶ反りの合わない相方の顔を見て、山奈円の言葉を思い出す。
「人を呪わば穴二つ。呪う人間は失敗して自分も死ぬ覚悟が無いと、本来呪いは使っちゃダメなのよ」
山奈円の家に泊まった晩、高尾一の秘密を聞き、家族に何があったかを伝えた時に山奈円はそう言った。
「理不尽に思えても一つの事は絶対なのよ」
山奈円は優しい微笑みから一転して圧を放つと、「不幸を願った者は、不幸を願われるのよ」と言った。
「きっと満ちゃんの不幸を願って会社から追い出した奴は、それを成功体験にするし、これからも沢山の人に不幸を願う。それこそ初めは仕事で反りの会わない満ちゃんだけだったが、次は何もしていなくても不幸を願うようになる」
山田満は言われていて確かにそんな気がしていた。
「常勝無敗なんて有り得ない。次第に不幸を願われるようになり、戦いになればいつか負ける。その時には今までが嘘のような不幸が襲ってくるのさ」
この言葉に山田満は救われていた。
心穏やかに、これから高尾一と山奈円達と過ごす日々を想って、健やかな気持ちで退職をした。
心労を理由に送別会は遠慮した。
山田満は商店街の端に山奈円の紹介でアパートを借りた。
オーナーも山奈円が紹介者で身元保証人をして、勤め先も商店街の仕出し弁当屋なら安心して貸せると言って礼金をまけてくれて、家賃も少しだけ安くして貰えた。
「ふふ、人に良くして貰えると自分もよくしようと思えるよね?」
「はい!」
山田満は10月からの仕出し弁当屋の日々には苦戦したがやりがいを感じていた。
厳しい言葉も貰ったが、カラッとした気持ちのいい言葉に心が腐る事は無かった。
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