第13話 不幸の具現化。
山奈円の話は続く。
お茶を淹れた山田満が山奈円の向かい、高尾一の横に座る。
夫婦茶碗に見える湯呑みは、おそらく山田満が選んだものだろう。
山奈円はそう思いながら茶を飲んで、喉を潤してから「続きを話そう」と言った。
「君の不幸の受け皿はわかったね?」
「はい」
「では具現化について話そう。君の不幸は形になる。それは他の人を遥かに凌駕する。私は君にこの数ヶ月の間、仕事内容を聞かれても「頑張っている」のみで、はぐらかすように言ってきた。それは何故か?簡単だよ。山名相談所は個人経営の、如何わしいと思われてしまう会社だから、不幸を望む声はそう出ない。仮に残業代が出る会社だと知られれば、不幸を望まれてしまうし、出ない会社だと知られれば、長時間のサービス残業で心身を病んでしまえと不幸を願われる。君は具体性のない不幸の願いすら具現化してしまう。だから人に仕事内容を言わないように注意させたんだ」
「それが具現化…」
「そうさ。君はchowderが出来て仕事が舞い込むようになったと思っているが、君が知る前前からchowderはあったんだよ?」
「え?それって…」
「chowderを知った君のところに、更なる不幸が舞い込むように不幸の具現化が働いている。まあ言い換えれば、忙殺されるように不幸の受け皿と不幸の具現化が動いているんだよ」
ここまで聞いて高尾一は崩れ落ちていた。
必死に山田満がそれを支える。
高尾一は震える声で「俺は…生きていてはいけない人間?」と呟き、山奈円を見て「山奈さんは、俺に不幸を伝える為に不幸の願いが用意した…?」と言うと、山奈円は呆れ顔で、「バカを言うな。私は君に不幸から救わせてくれと言っただろう?だから救ってみせる」と言った。
それでも項垂れる高尾一に山田満が、「一、大丈夫だよ。私も居る。大丈夫だよ」と言って肩をゆする。
申し訳なさそうに高尾一が山田満を見て、山田満が微笑み帰したところで山奈円は「さて、今度は満ちゃんの話をしよう」と言った。
「まず彼女は不幸を産まないタイプの人間だ。まあ君もだが、満ちゃんのご両親も同じだ。だから君を案じて君と今も交流がある。君はそう言う人との交流を大事にすればいい」
高尾一はまた山田満を見ると山田満は微笑んで頷く。
「今回、満ちゃんが受けた不幸の願いは二つだ。話を聞いてアタリをつけるまでもないが、職場にいる反りの合わない同僚は、多分満ちゃんの不幸を願っている。まあそれは簡単に職を変えて交流を止めれば容易に解消が出来る」
高尾一が顔を見る前に「うん。山奈さんに教えてもらえたからピンと来てる。辞めたらなくなるんじゃないかな?」と山田満が言う。
山奈円が「もう一つは少し厄介だが、私といれば問題ではない」と言ってから「満ちゃん」と声をかけると、山田満は「はい」と言って携帯電話を出してくる。
「もう一つはchowderだが、問題は中学校の繋がりだね。この大半は満ちゃんの不幸を望んでいるのではなく、満ちゃんを介して君のことを知りたがっている。だから今までもこれからも招待メールが止まらない。再開したとして、私のように書き込まなければ延々と近況を書けと突き上げを喰らうし、当たり障りない内容なら不幸を書け、君の事を書けと言われる」
「俺のせい?」
「君のせいではない。君を付け狙う連中のせいだ。間違えてはいけない。言ったよね?chowderは簡易的な同窓会。中には自分が最低だと認めたくない連中が居る。自分より不幸な者を作りたいだけ。君と満ちゃんはそれに巻き込まれた被害者だよ」
「被害者」
その言葉が高尾一に重くのしかかっていた。
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