第12話 不幸の受け皿。
高尾一は今にも倒れてしまいそうだったが、それを山田満は支えていた。
「中には不貞を働く夫婦もいた。子供はそれに気付いて、公になったら問題だと思った。自分以外の者もそうなって欲しいと…」
「その不幸の願いを受け取って具現化したのが…」
「そう、君だよ。君が不幸を受け取って形にした。その結果、ありもしない夫の不貞を思い込んだ君の母上は心を病んでしまい、最後には君の父上を殺してしまった」
高尾一は震えていた。
それを支える山田満は「
山奈円は遠慮なく圧を放って「まだ12歳の君の話だ。先は長いよ」と言ったところで駅に着いていた。
切符を買いながら「今日はここまでにするかい?」と聞く山奈円に、「全部聞きます」と返す高尾一。
「なら嫌でなければ君の家にしようか?不幸の観点から見ておきたい」
「わかりました」
高尾一の家は隣町にあった。駅は一駅離れている。
歩こうとするのを止めた山奈円は、タクシーを捕まえると高尾一の家まで行く。
「山奈さん?歩ける距離…」
「人目につくからダメだ」
人目を避けるように高尾邸に入った山奈円は、玄関の中で「美女2人を連れて歩く姿なんて見られたら不幸を願われてしまうよ?」と言って笑った。
美女?
目鼻立ちは整っているが、そんな事を考えたことのなかった高尾一は照れながら呆れてしまった。
「そんなものですかね?」
「そのおおらかさが不幸を招くのさ」
家の中は綺麗にされていて逆に生活感がなかった。
料理は自炊、掃除や洗濯もされている。
山田満の「お茶の支度をするから、一は山奈さんの話を聞いて」と言ってキッチンに立つ姿は、妻のそれにしか見えない。
「さて、続けよう。中学はその後の中から比べれば比較的に安定してないかい?」
「ええ、まあ…」
「満ちゃんのご家族や他の人も助けてくれた。受験もキチンと志望校に合格」
「はい」
「まあそれは、ご両親の事で周りが「やり過ぎた」と恐れをなしたんだ。だから君の不幸を願わなかった」
「そうなんですね」
「ああ、だが高校からは違う。目に見えて不幸が増えた。恋愛もうまくいかなかったはずだね」
「…はい」
高尾一は話を聞きながら人生の初彼女の事を思い出していた。
満の一家も引っ越してしまい、父の事があった高尾一は、心機一転と越境して知り合いのいない高校を目指した。
誰も自分の母親が精神を病んで父を殺した事を知らない。
皆普通に話しかけてくれる。
身上書を読んでいる教師は同情的な目を向けてきたが特に何もなかった。
そうしたら3日目にクラスメイトの女の子に告白をされた。
嬉しかった高尾一は、その晩は色々夢想をして過ごした。
彼女や友達と過ごす明るい高校生活を意識して夢見た。
だが翌朝にはフラれた。
クーリングオフをするかのように、「まだノーカンだよね?」と聞かれた。
自身の落ち度を疑ったが連絡先の交換すらしていない。
そんな高尾一の耳に飛び込んできたのは、「高尾君と同中の子が友達の行った高校に居て…聞いちゃったんだよね。うん。高尾君が普通の子なのはわかるの。でも私にも友達付き合いがあるからさ。ごめんね」と言う言葉だった。
要するまでもない。
母の犯した事件を知ったこの女は、自身といる事で学校から浮く事を恐れた。
ただそれだけだった。
その後はあっという間だった。
透明な水面に黒いインクを落とすよりも早く染み渡り、黒く染まるように噂が噂を呼び浮いた。
友達は最低限できた。
だがそれだけだった。
高尾一は「その顔を見れば大体わかる。言わなくていいし、私は言わないよ」と言う山奈円を見て、「何がわかるんだ!」と言いたい気持ちを飲み込むと、山奈円は「続けるよ」と言った。
「学校では何もしていないのに悪いと誤認されて、何故か首謀者より怒られる。そして大学受験。皆「自分より不幸な人が欲しい」と言う願いを放ち、君がその受け皿になった」
もう自分の横にいて全て見てきたのではないかと言う確度で話す山奈円に、高尾一は驚いていた。
「もう言うまでもないね?君が就職活動に失敗したのも不幸の願いからだよ」
山奈円の言葉に高尾一は深く頷いていた。
ここまで聞けばもうわかる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます