第11話 高尾一の秘密。

電車で7駅ほど離れた所にあった山田満の家。

土曜日という事で父母は家に居たので山奈円は自己紹介を済ませる。


山田夫婦は高尾一の事を家族のように思っていて、「久しぶりじゃないか!照れずにもっと来てくれよ!」と言う父親と、「本当よ。あなたもウチの子なんですからね?」と言う母親に出迎えられて高尾一は照れていた。


話し合いは驚く程順調で高尾一は驚いていたが、山奈円からすれば納得のスムーズさだった。


「では職の面倒まで?」

「住まいもですか?」

「はい。決して裕福ではありませんが、可能な限りサポートさせて貰います」


不幸の願いに関しても驚く事はあっても疑う事はない。

「そんな目に遭っていたなんて…」と言って高尾一に感謝を告げるくらいだった。


山奈円は少し込み入った話をしたいと言って、山田満と高尾一に席を外させると、詳しく今の状況を説明する。


一般的な親なら怒ってしまい、娘を手放さないと言うのだが、山田夫婦はそんな事もなく「息子同様に思っているはじめの事をよろしくお願いします」と言って頭まで下げてくれた。


その後、山奈円は山田満に聞いていた高尾一の環境について確認を済ませると、話は終わりだといって帰路に着く事になった。



帰りは山奈円と高尾一の2人だと思ったのに山田満もいる。

高尾一の疑問を聞く前に、山奈円が「すまないが満ちゃんはもう一晩泊まって貰うよ」と言い、山田満は「はい」と返事をした。


「山奈さん?なんでです?」

「満ちゃんの不幸は危ない所なんだ。もう少し処理しないと危険なんだよ」


不幸の話をされれば従うしかない高尾一は「ごめんな満」と言うと、山田満は「なんで一が謝るの?」と言って笑っていた。


帰り道、7駅進まずに電車は5駅で降りる。

訝しむ高尾一は「これも満の為に?」と初めは聞いていたが、ドンドンと顔が険しくなる。

高尾一が山田満を見ようとすると、ブラインドのように山奈円が間に立って「こっちだ」と言って歩く。


20分程歩いて着いたのは、まだ綺麗な箇所が残る出来て数年の霊園だった。


山奈円は「さあ高尾君、君が仕切って紹介してくれ」と言うと、高尾一は怖い顔で奥に進み「高尾家之墓」の前で止まると、「ここに眠るのは父、悠太郎です」と言った。


「すまないね。何も話してくれない君のことが、気にならなかったと言えば嘘になるが、それは不幸の観点からだ。それはどうしても満ちゃんを不幸から守る為に必要だからだ」

「山奈さん、山奈さんこそ俺の不幸については話してくれませんよね?今までの相談者とは違うと言っていた。そして満も皆と違うように感じた。教えてくれますか?」


山奈円は「お墓参りを済ませたら話そう。だが一つ約束して欲しい。話を聞いて私の元を去らない事。今君たちはギリギリに居る。それを私に救わせて欲しい」と言った。


墓参り中、高尾一は「久しぶりに来た。3年ぶりくらいだ」と言いながら申し訳なさそうに手を合わせていた。



墓参りが終わり、駅までの間に「高尾君、君のは不幸の願いではない。不幸の受け皿、不幸の具現化、不幸の使い手だ」と言った。


「不幸の使い手?」

「それが1番問題で、そうしない為にもウチに来てもらったよ。まあ今はその部分は話す必要がないね。段階があるからね。今は不幸の受け皿と具現化だね」


「満は聞いても平気なんですか?聞いたせいで不幸になるとか…」

「無いよ。むしろ昨日説明済みだよ」


「なんで俺より先に…」と言って山田満を見る高尾一。

山田満は「言うと思った」と言って困り顔になっていた。


「君の人生は正に具現化した不幸だ。お父様のことは中学入学前だったね」

「はい。それは誰かの願いだったのですか?」


山奈円は無表情で「そうだよ」と言う。


高尾一は怖い顔で「俺が誰かのやっかみを買ったんですか?父さんが?母がですか?でもウチはごく一般的な家庭でした」と聞くと、山奈円は首を横に振って「違うよ。特定の誰かではない。満ちゃんに聞いたが、君のいた小学校からは中学受験を目指す子ども達が多かったそうだね。理由は知っているかい?」と聞き返した。


「あまり治安が良くなくて、中学校には不良が沢山いたから…」

「満ちゃんも同じ事を教えてくれたよ。だが何もしなければ中学校に上がれるはずなのに受験勉強を求められる。それは私立中学に行きたい子でも相当なストレスだよね?だが子供は不良だらけの中学校でも構わなかったが、親のエゴで受験を強要された子達は相当なストレスだったはずだ」


「それとなんの関係が?」

「だから娯楽を求めた。人の不幸と言う娯楽。受験のストレスが吹き飛ぶような過激なものを求めた。それは学校中に渦巻いた。それを受け皿の君が受け止めて具現化してしまった。誰かは母親に対して不満があった。母なんていらない。受験を強要してくる母なんていらないとね。父親に対して不満を持つ子供も居ただろう」


高尾一は聞いていて真っ青な顔になっていた。

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