第10話 高尾一と山田満。
暫く食べてから「触りは聞いてるわ。どんな状況?」と聞くと、山田満は少し申し訳なさそうに話し始める。
社会人2年目で去年はそこそこ順調に来ていた仕事だったが、ここ1ヶ月はトラブル続きで一向に運気が上向く気配がない事、夏に少し配置換えが起きて、その際に反りの合わない同僚と組む事になってからは仕事もうまく行かないと言う事だった。
山田満は「それで、良くはないんですけど、
「ええ、間違ってないわね。とりあえずchowderはどうしたの?」
「一に言われてすぐに退会しました」
「そう、chowダチは?何人居たの?」
「36人です」
山奈円は驚いた顔で「あら、1ヶ月でそんなに?」と聞くと、山田満が「山奈さんもchowderやってるんですか?」と聞く。
山奈円は懲り懲りという顔で、「仕事柄登録だけして見れるようにしてるのよ。開店休業状態ね」と言って笑った。
「そのchowダチはどんな比率?言える?」
「中学校までの友達が15人、高校が6人、大学が10人で職場が5人です」
「なるほど、高尾君とはどこの繋がり?」
「小学校と中学校です」
再度、「なるほど…」と言った山奈円は、「今も招待メールが来る」、「中学校は雑談の中で何故か高尾君のことをよく聞かれた」、「職場は仕事の不満を聞かれたりした」と立て続けに言うと、山田満は「当たってます。全部です」と言った。
話を聞いてニコリと微笑んだ山奈円が、「あらあら、ギリギリね。今日会えて良かったわ」と言って高尾一を見ると、高尾一は「え?山奈さん?ギリギリだったんですか?」と聞き返して驚いていた。
「ええ、満ちゃんは後少しで不幸が定着してしまっていた。提案はまあ出来るけど…、どうしよう?」
山奈円は少し困った顔で中空を眺める。
「とりあえず今日はもう遅いから明日また会うのはどう?お家は近いのかしら?」
「いえ、家は高校の時にお父さんが家を買ったから、もうこっちじゃなくて…、でも今日は一の所に泊まろうと思っていたので遅くても平気です」
「あら、高尾君の家に泊まれる仲なの?」
「昔は良く行き来してましたから、お母さん達も一ならって許してくれます」
「んー…、今は良くないわね」と言った山奈円は、「満ちゃん、うちに泊まりなさい。下着は夜中もやってるお店で買いましょう。寝間着は私のを貸してあげる」と言った。
山田満は断りにくい圧に負けて山奈円の所でお世話になる事になる。
この日は〆のラーメンを食べてから駅で別れて解散となる。
高尾一は何が良くないのか聞けなかったので、悶々とした夜を明かす事になった。
翌日、昼に顔を出すと相談所ではなく五階の住居に通された。
理由を聞くと、「仕事は仕事、休みは休み。キチンと分けるんだよ」と高尾一は言われてしまう。
「ふむ。とりあえず昼を食べてからこの先の提案をしよう」
そう言って山奈円は商店街へと出掛けた。
昼は商店街にある蕎麦屋の長寿庵で天ぷら蕎麦を食べる。
食後のお茶が出てきた所で、山奈円が「おやじさん。少しだべってもいいかい?」と聞くと、蕎麦屋の店主は「円ちゃん達なら大歓迎だよ」と言って座敷席に引っ込むと、寝転がって新聞を読み始めてしまった。
「さて満ちゃん、昨日少しだけ私の仕事について話をしたよね?」
「はい。不幸の願望が芽吹いて定着する前に、不幸から外れる為の提案をする」
「そう。今のあなたはギリギリのところに居る。その理由も昨晩話した。その上で複数個の提案をした。それもいいね?」
「はい。一晩考えました」
「私からの提案は、仕事を辞め親元を離れてこの街に住む事」
これには高尾一が「山奈さん!?」と言って止めに入る。
「なんだい?」
「今って就職難で、それでも満はようやく職を手に入れて、まだ一年と少ししか働いてないのに…」
「だからって、それにしがみついて不幸になる彼女を見たいかい?」
山奈円の言葉に何も言い返せない高尾一に、山田満が「ありがとう」と言う。
「普段ならそこまでの提案はしないが…」と言うと、「この街に住むのなら住まいと仕事の提案はしよう。昨日聞いたが、今の営業補佐的な事務職には向いていないと思っているのだよね?なら別業種でも構わないよね?」と言った。
「山奈さん?住まいって?」
「君の所には住まわせられない。だから提案と同時に用意するさ」
山奈円は山田満を見て「職場はここに来る最中にあった弁当屋さんだ。仕出しメインだから朝は早いが、夕方は早く終わる。土日も休みなレアな職場だよ。お給料は私が口を聞くから、前職になるべく近づけてもらえる。どうかな?」と聞く。
「良いんですか?」
「ああ、構わないよ。君がいてくれれば、高尾君もウチを辞めようなんて思わないだろうしね」
話が進んで行く中、山田満が申し訳なさそうに「…ただ…一人暮らしのハードルが…」と言うと、山奈円は「ああ、昨日も言っていたね。ご両親の説得だね。今からお邪魔して、手遅れになる前に早く説得をしよう。高尾君、行くよ」と言った。
「え!?今から満の家に行くんですか!?」
「善は急げさ」
山奈円はお会計を済ませると駅へと歩きはじめてしまった。
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