第6話 不幸の種達。
佐川花子が来たのは20日後の事だった。
その顔に余裕はなく憔悴しきっていた。
泣きながらこの20日間の話をして、山奈円に「言い付けを守ったのに夫が緑の紙を持ってきた!」と食ってかかってきた。
緑の紙というのは離婚届の事を指している。
高尾一は佐川花子の剣幕にドン引きしたが、山奈円は無表情で「離婚届を突きつけられてからでは手遅れなのですよ?病気と一緒で予防が肝心なんです。私は予防を勧めていたのに、それをやらずにいざ病気になってから予防を始めて、健康体に戻してくれなんて虫が良すぎます」と言って一蹴する。
「お金なら払うから何とかしてください!」
夫が稼いだ金なのに、そう怒鳴る佐川花子に「私は提案をするだけで、それを実践するのは佐川さん、あなたです」と言った山奈円はある提案をした。
それは横で聞いている高尾一には実現不可能な話でしかなかった。
「仕方ない、お金の分だけはやるしかない」と言った山奈円は佐川の夫、佐川鶴太郎を呼んで自己紹介をする。
「私は山奈相談所の所長をしています山奈円です。本日は御足労いただきありがとうございます」
「あの、妻からこちらにお邪魔するように言われてきましたが…」
「はい。有り体に言えば私はカウンセラーのような者でして、福岡様からのご紹介で佐川様のお話を伺っています。あ、福岡様からはご主人様へお名前を出す事の御許可は頂いております」
佐川鶴太郎は事のあらましを聞くと、「ウチはもう終わりです。私は5年間耐えました」と言った。
山奈円は「わかります」と返すと、佐川鶴太郎は「わかっているのなら何故?」と聞いてくる。
「私共も手遅れだと申し上げたのですが、奥様はあの性格でお話を聞いてくれませんので、最後の機会としてご提案をさせていただきました」
佐川鶴太郎は花子の性格を知っているので、「それは申し訳ない」と謝ってくる。
「私としましては、手遅れになる前に止める方法をお勧めしております。今の状況に陥ったのは、奥様が直接的な原因と間接的な原因の2つがあります」
山奈円は不幸の願いについては多くを語らずに、「多少オカルトじみていますが、この業界では大なり小なり他人から恨みを買うと悪い流れに巻き込まれます。それが今回の間接的な原因になります」と言うと、「深く聞きませんが奥様は不貞を疑われています。その遠因にはこの恨みを買うという事が含まれます」と言って圧を放った。
「不貞?馬鹿馬鹿しい」
そう言った佐川鶴太郎の顔には焦りが見えた。
「それは私にはあまり関係ない事ですが、その方との出会いは奥様が恨みを買った影響でもあります。自業自得と言った言葉、奥様が買った恨み、それが不貞の相手との縁を作ったのです」
高尾一からすれば確かにそう思えたのは右道一家を見ていたからだった。
「それで?私にどうしろと?」
「決めるのはご主人のあなたですが、最後のチャンスとして1ヶ月の猶予を奥様に差し上げてください」
「…何故ですか?」
「口だけかも知れませんが、奥様は私がした提案を受け入れると言いました。だからです」
「仮に1ヶ月後、私が離婚を取りやめたとして、花子がまた元に戻れば私は離婚しますよ?」
「それで結構です」
話は以上だと山奈円が言うと、佐川鶴太郎は帰って行った。
向かうのは妻の元か、浮気相手の元かはわからない。
だが山奈円は仕事として、キチンと佐川花子に「ご主人様にはキチンと伝えました。後は佐川様の頑張り次第です。1ヶ月後にまた」と言って電話を切った。
「山奈さん、あの人やれると思いませんけど?」
「でしょうね。でも仕事だから仕方ないわよ。まあ忙しいから1ヶ月後を忘れないようにしないと…」
山奈円の言葉通り不幸の種はコレでもかとやってくる。
山奈円は話を聞いて提案をして相談料を貰う。
同じ相談内容なのに、相手の目と顔と態度で金額を設定する。
高尾一は更に段々とわかってきて、途中から筋肉探偵五里裏凱よりも「んー…三万」とか予想を楽しむようになっていた。
中には五万の相談者が本格的に山奈円を頼り解決する事で分厚い茶封筒を受け取るケースもあった。
高尾一は五万円相談者のお茶を片付けながら、「山奈さん、最近相談者が多いですよね?それと気をつけるように伝えているソーシャルネットとかってなんですか?」と聞く。
「不幸の種を撒き散らす大樹かしらね」
「はあ…」
「あなたは勧められてもやってはダメよ」
「なんだかわからないとやれないですよ」
山奈円は「それもそうね」と言うと、ノートパソコンを取り出してインターネットに繋ぐと「chowder」と入力をした。
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