第18話 山奈円の不幸。
山奈相談所に戻ってくる。
公私は分けていると言っていた山奈円らしくなかったが、それも事情があるのだろうと高尾一は黙っていた。
山奈円は高尾一を見て「高尾君が付いてくるのは困ったなぁ」と言って、本当に困った顔をする。
山田満が「一はダメですか?」と聞くと、山奈円は高尾一を見て「んー…、始の話を聞いて、余計な知恵をつけて欲しくないんだ」と説明をすると、山田満は「後で話せる範囲で話してあげるから一は帰って」と言ってさっさと高尾一を追い出すと、「よろしくお願いします」と山奈円に言う。
高尾一はどうする事もできずに、本当に諦めて家に帰り、不幸について考えていた時、山田満はその時山奈円が23歳の時にどんな目に遭ったかを聞くことになる。
「一応聞くが、満ちゃんは高尾君に少しでも特別な気持ちがあるね?」
「…はい。山奈さんもですよね?」
山奈円は「ふふ」と笑ってから、「ああそうだよ」と続けて、「私達は不幸に取り憑かれた男に恋してしまった女達だ。だから私は満ちゃんには何があったかを話せるし、話す義務があると思う」と言った。
「私の家も満ちゃんの家と同じで始の不幸が通じなかった。不幸を見なければ始はごく普通の優しい男で、私はあの穏やかな空気感が好きで、更に不幸に見舞われる始が見ていられなかった」
山奈円は大切な思い出のように話す。
「当時は父母もいて、私は不幸の存在を知らなかったから、始をただ「ついていない男」くらいに思っていた。父母も同じさ、幼くして母を亡くし、高校の時に父を亡くした始を我が子のように扱ってくれたよ」
親を亡くす。
高尾一と同じだと円は聞いている。
あの初めて会った日に「知り合いに同じ体質の人が居てね、だから少しなら不幸について知っているんだ」と言っていたが、同じ人生だと思って山田満は聞く。
「始の不幸のあおりを喰らって、体調を崩して仕事を辞めた私は、無理矢理不幸を使って就職をして心身共に傷付いた始を献身的に癒やそうとした。もう周りの邪推なんて無視をしたよ」
その後で噛み締めるように「若かった」と言う山奈円。
だが今は山奈円に男の気配はなく、高柳始には家政婦のような妻がいる。
「その頃、ようやく不幸の陰が目につくようになってきた。気付くのがもう少し早ければと思ったよ。昔は連絡手段は限られていて、今以上に噂話が賑わっていて、飲み会なんて沢山開かれる。そこで皆が私を呼んで、始の事を聞こうとしていた事に気付くと、会話が気になって仕方なかった…。飲み会で「高柳の奴は不器用だから、ロクでもない会社にしか勤められなそう」、「倒れるまで働いて使い捨てられる」、「使い捨てられて、社会復帰しても障がいが残る」と言っていた連中がいたんだ。私はそこまで話していない。聞かれても「職探しが難航している」、「やっと見つかった職だから頑張っているよ。倒れないか心配だよ」くらいしか話さなかった。始自身は生活費すら厳しいから、飲み会には参加しなかったし、あの激務では参加は不可能だから始経由で知る由もない。ここで初めて気持ち悪さに襲われたよ」
それは山田満も似ていた。chowderでも聞かれて、飲み会に呼ばれても聞かれていた事だった。
「ある日、1人の男が言ったんだ。「やっぱり始の奴は不幸がお似合いだよな」とね。周りも同調した時に、別の男が「アイツ、不幸になれって願うと、本当にその通りになるんだよな。中学の時も備品を壊したのが俺なのに、高柳が疑われますようにって願ったら、高柳が呼び出されて怒られてな。アイツその時委員会で別の場所に居て、どうやっても不可能なんだぜ?それなのに教師は決めつけて怒ってて、笑っちゃったよ」と言ってね。その後は皆口を揃えて似た経験があると言った。
「受験、志望校に落ちそうだから始も落ちろって願った」、「就職活動で願った」、「ひどい会社に決まれって思った」そんな言葉が飛び出してきて私は真っ青になったよ。
その時には何処か確信があったんだ。始はコイツらのせいで不幸になったとね」
聞いていて冷静でいられない山田満が「それでどうしたんですか?」と食い入るように聞くと、山奈円は「私は仮にと言って、不幸というものがあって、それを願われていたとしたらと口にすると始は驚いていたよ。「円もそう思う?」ってね。それからは中学校の…地元の飲み会や同窓会には出席しなかったよ」と説明をした後で、真剣な目で山田満を見て「だがそうしたらわかるよね?」と聞いてきた。
「私のchowderと同じ?」
「そうさ、家に毎日のように飲み会をしよう、同窓会はどうかと電話が来てね…当時は携帯電話やPHSが出始めたが、皆が持つようなものでは無かったから、家の電話がひっきりなしに鳴って、訝しんだ父母に全てを話したよ。父母は満ちゃんのご両親と同じですぐに事態を受け入れてくれて、飲み会や同窓会は父母の体調不良を理由に断る話になった。だが前に言ったよね?不幸の自家発電をして、燃料切れになって暴走した先に待つのは不幸さ、それでも不幸を望んだ連中は、不幸の燃料補給をしたさに飲み会に来れない私の理由を排除する事にしたんだ」
想像にない言葉を聞いた山田満が、「理由の…排除?」と聞き返すと、山奈円は「そうさ、連中は私の父母の不幸…死を願った」と言った。
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