目覚め(※オルシウス視点)
「アニー、ルカが目覚めた。あとは頼んだぞ」
部屋を出たオルシウスは廊下で見つけたアニーに声をかけた。
「本当でございますかっ。あぁ、良かった! ルカ様……!!」
アニーは小走りに、ルカの部屋へ駆け込んでいった。
‘あんなにもアニーが喜ぶなんてな’
これまでの聖女の世話もアニーが行っていたが、今みたいに感情を露わにする場面を見るのは初めてだった。
そんなアニーを尻目に、オルシウスは自室に戻る。
部屋に入ると、執務机にギルヴァが座っていた。
「陛下。書類の整理をしていました」
「すまない」
「特に緊急性の高いものはございませんので」
ギルヴァは書類をまとめると立ち上がった。
「戻られたということは、ルカ様がお目覚めになられたのですね」
「……そうだ」
「異常はありそうですか?」
「いや、健康そうに見えた。だが念の為に侍医に診させろ」
「すぐに手配します」
ルカが無事だったことで安心したのか、オルシウスは急に疲れがのしかかってくるのを自覚した。
身体が重たい。
ケガレとどれだけ戦っても今感じているような疲労を覚えたことはなかった。
‘……それだけ気を張っていたのか?’
「今はお休み下さい、陛下。ケガレと戦ってからこの二日間、まともに睡眠を取られていらっしゃらないのですから」
「ルカを危険な目に遭わせてしまったのは、俺の落ち度だ。自分の失敗を他人に拭わせるわけにはいかない」
「ともかく今はお休みください。ルカ様がせっかくお目覚めになられたというのに、あなたまで倒れられては困ります。屋敷のことは私にお任せください」
「……世話をかける。ギルヴァ」
「これが私の仕事でございますので」
「……待て」
「はい?」
「ルカが都でどんな暮らしをしていたのか、知りたい。調べられるか?」
「もちろん可能ではありますが、何故です?」
「……少し気になることがある。とにかくどんな些細なことでも構わない」
ルカの身体に刻まれた傷や痣。
あれがこの森でついたとは思えない。
そんな大それたことをする者も、それほどまでに残忍な者もこの屋敷や領民にもいるはずがない。
ここで負傷すれば、オルシウスが気付かぬはずがない。
となれば、あの傷はここに来る前に出来たものだろう。
頭を過ぎるのは、暴漢に襲われた可能性。
それほどのことがなければ、適齢期を迎えた聖女が、どの竜ともつがいになっていないことは普通考えられない。
「お時間を頂くかも知れません」
「構わん」
「ではすぐに調べさせます」
オルシウスは寝室に入ると着替えることももどかしく、そのままベッドに突っ伏すように倒れこんだ。
朧気になった意識の中で浮かぶのは、目覚めたばかりのルカの表情。
悪い夢でも見たのか、ルカは突然暴れだした。
その腕を包み込むように押さえ、彼女の名前を呼びかけた。
オルシウスだと気付いた時に見せてくれたルカの安堵の表情を思い出すと、鼓動が早くなった。
「……っ」
目を閉じると、意識はすぐに深い眠りの中に沈んでいった。
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