救援

‘……今頃、ルカは集落に到着している頃だな’


 オルシウスは馬を進めながら、そんなことを考える。


 領民の男たちはケガレとの戦いで、誰もがひどいケガを負っている。


 これがここでの生き方。


 黒き竜の在り方なのだ。


 それを受け入れられなければ、つがいになることは叶わない。


 これまで妻候補の聖女たちを、領民に引き合わせたことは何度かあった。


 ある聖女は「気持ち悪い! どうしてあんな人たちに会わなければいけなかったのですか!?」と泣いて怒り、ある聖女は「……私はあなたとはつがいになれません」と屋敷に戻ってから沈痛な面持ちのまま、屋敷にいる間、一切口を利かなくなった。


‘俺たちや、俺たちの先祖がどんな想いで、ケガレと戦い続けているのか……都でのうのうと暮らしてこなかった連中に分かるわけがない……’


 なにも全てをすぐに、あるがまま受け入れてくれとは言わない。


 しかし少しも黒き竜の境遇に寄り添おうとしてくれなかったのが、オルシウスには信じられなかった。


 聖女は癒やし手として、竜と共にケガレと立ち向かう存在ではなかったのか。


 かつて先祖がそうであったように、懸命に生きようとしている弱い人々を守ろうという気持ちをなぜ抱けないのか。


 聖女は、無力な人間ではない。


 己の力で、他者を守る力があるはずじゃないのか。


 その聖女の力はただの飾りなのか。


 オルシウスの胸に今もあるのは、聖女への失望。


 今頃ルカも、他の聖女たちと同じように怯えきっているだろう。


‘聖女など、黒き竜には無用だ!’


「よし、全員、散開して巡回範囲をさらに広げるぞ」


 オルシウスが部下たちに散開を命じようとしたその時、「陛下!」という声と共に、竜が羽ばたきながら飛んでくる。


 馬が竜の姿に驚く。


 オルシウスや周囲の兵士たちが手綱を操り、どうにか馬を落ち着かせる。


「なぜ竜の姿になっている! 馬はどうしたっ!」


「申し訳ありません。途中で泡を吹いて潰れたので仕方なく……」


 その竜はギルヴァに従っているはずの兵士だ。


 兵士の焦りように、オルシウスの胸に嫌な予感が芽生えた。


「何かあったのか」


「陛下、すぐに来て下さい! ルカ様が訪ねられた集落に、ケガレ憑きが現れました!」


「何だと!?」


 オルシウスは馬から飛び降りると、その姿を竜へと変え、「先に行く!」と部下たちに言い置いて飛翔した。

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